シリンク帝国懲罰作戦、地球防衛軍の戦い1
地球防衛軍の活躍です。
まず、ジョゼフ・カーター司令官は標準の手続きにそって、シュミリエ恒星系のシュミリエ惑星近傍にジャンプから現れると、徹底して周辺の探知を行う。
その結果、すぐに3億kmの距離に5機の移動中の艦隊を、シュミリエ星の軌道にさらに10機の艦艇を見つけた。前者は新地球クラスと同じ程度の大きさの巡洋艦が1機、長さ50m程度の小型艦が4機であり、後者は2つの艦隊に分かれ、それぞれ、巡洋艦2機、小型艦3機である。
明らかに、シリンク帝国の艦艇である。シリンク帝国の艦艇が相手の場合には、無警告の攻撃が許されているので、カーターは指揮下の艦隊から、移動中のシリンク帝国5機編隊に10機1編隊を、5機ずつ10機の軌道周りの艦隊には15機ずつ2編隊差し向けた。
「すぐ、ロボットを時間フィールドに入れろ。トップスピード急接近して機の速度を乗せて敵をレールガンで破壊しろ」
カーターが命令する。トップスピードで殺到する倍する数の地球艦にシリンク帝国の艦艇は対応するまもなく、レールガンでズタズタにされて、大爆発を起こしてばらばらになる。
戦闘は30分以内で終了した。
さらに、カーターはこれも標準手続きにそって、20機に地上の索敵に向かわせ、残り60機は軌道上で警戒に当たらせる。
索敵に向かわせた機から続々と連絡が入るが、すでに地上の施設は大部分が破壊され、あちこちで散発的に地上掃討機が動き回って人間狩りをしている状態のようだ。
『これは面倒な状況だな。機数が多くて正解だったな。地上に陸戦隊を下さないとしょうがないか』ひとりごちる。
しかし、まず彼は報告の中の10箇所余りのシリンク帝国の基地を襲撃させることにした。
「こちらカーターだ。索敵に送り出したA1〜A10及び、B1〜B10は直ちに発見した基地を攻撃しろ。もし戦闘艦が離陸したらそっちが優先だ。遠慮はするな。地上のあの破壊をもたらした奴らだ」
ついで彼は特に軌道上の警戒は10機もあれば十分とみて、彼自身の艦である、C1とC2〜C10を残して、ほかの艦は地上のシリンク帝国の機材及び兵士を攻撃させることにした。
「こちらカーターだ。D1〜D10、E1〜E10、F1〜F10、G1〜D10、H1〜H10は地上の掃討に向かえ。地上を活動している地上掃討機、あるいは兵士の集団でも構わん。殲滅しろ」
この種の活動は、新地球クラスの大きい艦には不向きではあるが、しょうがない。
シュミリエ星の朝がたに、地上の掃討の活動を始めたカーターの部隊は、暗くなって一旦活動をやめた。
最初の2〜3時間の間はそれなりに獲物があったが、最後の2時間余りは敵も隠れたのか、全体で獲物は地上掃討機2機のみであった。
夜の間、各編隊の指揮官とテレビ会議を行い、カーターは次の日は危険ではあるが試験的に陸戦隊を下してみることにした。
シュミリエ星のかってのこの地方の主要都市だったタリムスの廃墟のそばで、タリムス連隊の生き残りの将校のラジムを含む5人は焼けただれた巨木のそばに身を潜めていた。
振動音が聞こえる。あれは、憎き地上掃討機だ。しかし、昨日は上空を見慣れないシリンク帝国の巡洋艦クラスの大きさの戦闘艦が飛び回り、遠くで振動と破壊音が聞こえたところをみると、シリンク帝国の10kmくらい離れたところにある、基地がやられたらしい。
しかし、やはりまだ地上掃討機が行動している。これは、シリンク帝国の宇宙艦に比べるとはるかに戦闘力は劣るが、かれら5人からみると無敵の飛行戦闘機であり、しかも高い探知機能を持っているため、あれにどれだけの同胞が殺されたか。
やがて振動音が大きくなり、その姿がくっきりと見え近づいてくる。彼らの胸に絶望感が押し寄せる。
しかし、その時、全長15mほどの地上掃討機は“どん!”という音に。くしゃっと言う感じで変形すると真っ逆さまに墜落した。
そこに音もなく、長大な両端のとがった円筒形の飛行物体が現れ、堂々と放送する。
「シュミリエ星の皆さん、私たちはシリンク帝国に苦しめられている人々を救うために銀河連合から派遣されてきた地球防衛軍の派遣部隊です。
この地区はこの宇宙艦のある限り、地上掃討機からは安全です。今から私たちの兵士とロボット兵が降下しますので接触してください。我々の兵士は、このマークをつけ、空中に向けて光を放つのですぐわかると思います。空中にマークが浮かび上がる。水色と緑の惑星のマークだ。まもなく地上から光束が天に向かって伸びるのがわかる。
5人は展開の速さに戸惑っていたが、「おい、行ってみよう。間違いなく、あの艦は憎い地上掃討機を撃墜した。敵ではない」とラジムが言う。
シュミリエ分遣隊、戦闘宇宙艦あさま3号(B-3)の陸戦隊少尉中村慎吾は、彼の分隊10名、ロボット兵20機と共に背負い式の反重力機で、辺りのブッシュの中の開けた場所に降り立った。
まず、彼は輸送機からの荷物を下す場所を作るためロボット兵に指示して、ロボットが装備している斥力装置で100m四方程度の土地を押し広げさせていた。この斥力装置は反重力装置の働きで、力場のように働き、持ち上げ、押しのけ、押しつぶしができるので整地にぴったりだ。またロボットに命じて、信号レーザーを5分間に10秒ずつ空中に放っている。また降下時にロボットが食料と水のコンテナを運んできているが、全体で5トン足らずの量である。
彼の分隊の武器は、各人が携帯するライフル様の電磁パルス銃と昔ながらの火薬式のピストル及び刃渡り20cmのナイフ及び据え置き式の重パルス銃である。服はケプラー繊維より丈夫な繊維で作られているのでライフル銃の弾では貫通せず、衝撃には瞬間的に硬化するのでショックに強いが、強力な銃弾が当たれば衝撃で場合によっては骨折する。ヘルメットは常時着用であるが、必要に応じてフルフェイスのバイザーを取り付ける。
電磁パルス銃は長さ5mm径が2mmの弾を秒速2kmで1秒間に10発を発射できる。直径50cmの大木でもずたずたになるほど強力だ。
基本的に人間の兵一人にロボット兵が一人つく。ロボットは人型で、身長は2m位、表面は柔軟な極めて丈夫な高分子のカバーに覆われているので滑らかである。形は違うが、眼、口、耳、鼻はついてはいるが、眼は少し飛び出している。滑らかに動くので軽そうに見えるが、250kg位の重量がある。彼らの頭脳にとっては言語機能をインプットすることは容易なので、彼についたロボットは日本語をちゃんと喋るが、どういうデータを使ったのかしれないがいろんな方言が混ざる。
艦内で最初に彼につくというとき、寄って来て、「中村はんでんな。ワイはガヤミランと呼んでほしいのじゃが、ガヤでええわ」という。
25歳でまだ若い中村は目を白黒したが、ちょっと威厳を保つ必要を感じてまずいと思い、「私のことは中村少尉と呼べ。おまえはガヤでいいな?」「はいな、中村少尉はん」ロボットのガヤは答える。
いま、地上でガヤは中村のそばに立っている。
皆周囲に気を配っているが、ガヤが言う。「人が近づいているようでんな。だいぶん、多いでんな。とりあえず5グループでっしゃろ」
ガヤのいうとおり、木陰から7人ほどのグループが現れた。あらかじめ映像で見せられていたシュミリエ星人だ。やはり男女があり、この場合女性の方が大きく成人の平均は160cm、男性は155cm程度であるが、体力そのものは男性が上だ。シュミリエ星の重力は地球の1.45倍だからかなり大きいので、体力の消耗を防止するため、中村の分遣隊は背負った反重力装置で調整している。
彼らは、体つきは地球人とほとんど変わらないが、かなりがっちりした体格で、少し長胴短足気味は日本人に近い。顔つきは平べったくてこれも日本人に似ている。
現れた7人の他に、続々とグループがでてきて、油断なくゆっくりと近づいてくる。
「事故があってはいけないので、武器は下げるように言ってくれ」中村がガヤに頼む。
「よっしゃ。ええで」ガイがシュミリエ語で遠くまで通る声で言う。「事故があったらかなわんさかい、もってる武器は下に向けてくれっちゃ」
実際にガイがシュミリエ語でどう言っているがか判らないが、翻訳機から聞こえる言葉はこうだ。
近づく人々は、素直に持っている明らかに銃に見える武器を下に向ける。
中村が近づく人々に向かって呼びかける。
「よく来てくれました。歓迎します。われわれは地球防衛軍のもので、銀河連合の依頼を受けてここに皆さんの救助にきました。私はここの指揮官の中村です。
とりあえず、十分ではありませんが食料と水及び衣類があります。まだまだ集まってきているようですので、ある程度の人数が集まるまで、とりあえずの水と食料を、必要な人は受け取ってください。
なお、食料と浄水器は貨物機が大量に運んできますから、いま取るものは必要な量だけにしてください。なお、辺りの様子をご存知の方にお聞きしたいのですが、どなたか説明してくれる方はいませんか?」
部下が、食料と水を集まる人に渡し、辺りに敷いたブルーシートに案内すると、人々はそこに腰かけおのおの飲み、食べ始める。我先になりがちだが、皆きちんと自分の順番を待つなどなかなか行儀がいい。現状のところ50人ほど集まっているようだが、まだまだ続々と集まってくる。
中村の呼びかけに誰も申し出ないのを見て、ラジムが中村に申し出る。
「ラジム、ラジム・デン・カンスクだ。タリムス連隊の中尉だ。いや、だっただな。2500人いた連隊もチリジリで、今は7人しか周りにはいない」
中村が早速聞く。「申し出て頂いてありがとうございます。それで、味方または敵が集まっているところはご存じありませんか。味方は早急に救助しますし、敵は殲滅します。我々の地上戦力はあまり強力ではありませんが、あの戦闘艦が80機ありますから、空からだったらどんな敵も叩けます。ですが、まず敵がどんな戦法で攻めてくるか教えてください」
ラジムが答える。「おれも地方の軍の下級将校だから全体的なことは判らない。しかし彼らが攻め込む前、近くの恒星系から知らせがあり、シリンク帝国という残忍かつ凶暴な国がこの周辺の惑星を侵略し始めたということは聞いていて、俺たちの連隊のそれで結成されたものだ。
政府はある程度の備えはしていたようだけど、俺たちにはなにも役に立たなかったな。この地方に限って言えば、最初に大型艦、君たちのあの艦の倍くらいかな、が現れてこの地方の主要都市だったタリムスを徹底的に破壊した。これでたぶん50万人位は殺されただろうな。我々の空軍も抵抗したがまったく歯が立たず、あの艦からのたぶん熱線砲でやられるばかりだった。
そのうちに、さっき君たちが撃墜した地上掃討機が多数現れて、目立つ集団は銃撃かまたは熱線で一掃された。さらに、そこから地上兵が下りてきてチリジリになった兵士や市民を虐殺し始めた。あれは、楽しみでやっているな。かれらの武器は、基本的にはライフル状のものだが、我々のもののように爆発音がしないし、口径も小さいようだ。しかし、その威力は絶大で、当たれば腕なんかは引きちぎられる。
さらに、かれらのスーツは我々の銃が当たっても平気なようで、たまたま顔のバイザーを外しているときに当たると殺せるくらいだ。楽しみでやっているというのは、かれらは棒の先に刃物がついたものを振り回して、我々の首を切り落として回っている奴が多い。さらに、かれらは空中をすごい速度で飛んでくるので、我々が走って逃げてもとても逃げ切れない。銃では倒せないし、相手の方が早いので見つかったら、最後というのが実情だ。」
「銃はこういう感じかな?」中村がパルス銃を一瞬地面に向けて撃って見せる。
「うん!そう、そうだ!こっちの方の威力がありそうだ。これだったら、奴らを倒せるかもしれん」ラジムが叫ぶ。
中村はさらに背負っている重力装置を操作して、飛んで見せる。この装置では時速100km程度出すのが限界である。
「どうだ、飛ぶのはこんな感じか」「うん!うん!飛び方は似ているが、ちょっとあいつらの方が飛ぶのは早いな!」と叫び、周りのシュミリエ人も目を丸くしてみている。
中村が下りてくる。「相手の装備は大体わかった。昨日主だった基地は破壊したから、もう大部隊はいないはずだし、宇宙船もこの惑星に近くにいるものはすべて破壊した。もう地上掃討機のような空を飛ぶものは活動できんよ」それから中村は端末の画面を見せて、「この近くで10km離れたこの位置に彼らの基地があったが完全に破壊した」
ラジムが画面を見て「ふむ、これはラムラ川、でこちらがジアラムリ山でここか。ここには確かに基地があったな。近づけなかったが。そうかもう破壊したのだな」
中村がさらに聞く。「地上掃討機や宇宙艦は近づけば、我が方がすぐ探知してすべて片つけるから心配はいらんが、地上の敵はどうだ?」
「ここらあたりにも、たぶん100人やそこらはいるはずだから、油断はできん」ラジムが言う。
終盤に入りましが、読んでいただける皆さんのおかげでここまで続きました。