銀河連合との接触2
順平たちは銀河連合の総会に出席します。
その後、地球人3人の、先進の星界共和国であるリリンカム共和国における滞在中のさまざまな会見や視察は極めて意義深いものとなった。
国連代表で政治家のジョン・リザートは、リリンカム共和国の政体、銀河連合のシステム等を懸命に学んだし、アラン・ギルバニーは銀河連合軍の一部になっているが、リリンカム共和国が供出している艦隊本部を訪問して、そのシステムをヒアリングしてその庁舎や、監視・管理パネルや武器を視察した。
リザートは、政治システムが意外に地球で様々に試され失敗してまた試されたものとさほど進歩していないのに驚いたが、それだけ銀河の先進知的生物といっても、地球の人間とさほどの差はないのだとある意味で安心した。
また、さまざまな行政官、政治家にヒアリングして、地球人から見てリリンカム共和国の人々が基本的に善良で心優しい人々であることに大いに安心した。しかし、その一方で、そのやさしさは自分の民族また同盟を結んだ民族に向けてのことで、その利益を第一として、それを損なうような相手や事態に対しては容赦がない、ということでも別の意味で安心した。
かれは、リリンカム共和国とはぜひ堅い同盟を結びたいと強く思った。そのためには、地球を一つの国に仕上げる必要があるが。
また、とりわけ銀河連合のシステム、法規、諸規則、歴史等については大変貴重なものであるので、すべてメモリーに収め、出来るだけ目を通して不明な点は確認した。なお、リリンカム共和国では教養のある人は銀河中央語の履修が必須であり、銀河中央語に関しては地球人の3人はあらかじめ言葉での翻訳機と、眼鏡として使えば翻訳してくれる翻訳機を持ってきているので、読むにも不自由はない。これもラリムのおかげである。
アラン・ギルバニーは連合軍の第3艦隊本部を訪れ、主力艦1万隻を運用する司令官と面会した。かれ、ギルバニーとて、1000隻の主力艦を運用する地球防衛軍の司令官ではあるが、相手は80の惑星、850億の人々を守る主力艦1万隻の大艦隊の司令官だ。
しかし、かれらは実際のところ同じ立場で、予算、人員、兵員の練度等同じ悩みを抱えていて、ギルバニーは一安心であった。しかし、地球防衛軍はその宇宙軍としての歴史はまだ2年、一方で第3艦隊はリリンカム共和国のころから言うと2000年の歴史があり、そのノウハウの蓄積のレベルが異なる。渡される、さまざまなシステムやノウハウはギルバニーにとって宝石より貴重なものであった。
その後、ギリバニーはまず主力艦の視察を行ったが、これの大きさはガキゾミ帝国の主力艦に相当し、主力兵器はレールガン、ミサイル、熱線ビーム砲であり、防御バリヤーも船体に電磁的に強化するもので、そういう意味では新地球クラスとまったく一緒であった。
そこで、案内の士官に新地球クラスの主要諸元データを見せたところ、レールガン、熱線ビーム砲の基数は3倍、ミサイルの装備数は5倍と量ははるかに凌駕されていたが、威力そのものは差がないようであった。そのことに案内の士官は非常に驚いている。
また、超光速飛行で1日10光年を飛行できる点は同等であったが、彼らの艦が1回のジャンプは500光年である点は大きく新地球クラスが劣っている。そこで、ギリバニーは付け加えて重力エンジンによるレールガンの反発でそらすという手法を紹介すると、それは採用されていないようであった。
「しかし、いくらロボットの反射機能が早いといっても、レールガンの軌跡を見極めて逸らすなどは無理ですよ」案内の士官はいう。
これから、新地球クラスが可能な、ロボット操縦士を時間フィールドに入れて時間を加速するという手法はまだ知られていないことがわかったが、これは当面伏せておくことにした。
しかし、そういう主要武器の威力は劣らないが、艦内の設計は全く洗練の度合いが異なり、すべてがスマートにかつ機能的に配置されている。また、艦内のロボットの機能がとりわけ高く、全長500m最大径50mにおよぶ大型艦の乗組員がわずか50人である。こうした点はまだまだ学ぶべき点が多いと思うギリバニーであったが、実際の戦闘になったら、新地球クラスがかえって強いというのは興奮させられる点であった。
さて、順平はまず大学へ出かけて行った。そこで、科学史の閲覧を申し入れ、他の星からの訪問者も多数訪れるため準備されている思念によるリーダーを選び読み始めたが、途中で要求して4倍速でリーダーを送らせた。少し目が回ったが、4時間のリーダーを1時間で読み終わり、興味を引いた10の技術について詳細リーダーを全部で2時間を要して読み終えた。
印象として、ラーナによってアーマル星の集中的な知識の吸収をしたが、アーマル星が宇宙飛行、武器の面では遅れていたものの、全般的な科学技術については極めて高いレベルに会ったことを確認する結果になった。
さらに、かれはラリムによる集中講義を受けているためか、高等物理学ではむしろ彼の知識の方が進んでいることを意識した。
このようにして1日目を終えたが、夕刻はリザート、ギリバニーと首都サンラーネンの繁華街をぶらぶら歩く。通りは結構混み合っているが、異世界人も多くみられる。ショーウインドーのある商店街というものはどこでもいっしょなんだなと思う。
「たぶん、利便性から言えば、もう実際はこんな商店街は必要ないのだと思いますよ。すべてネットで調べて買えばいいのですから。でも、こういう人々が歩いて、ショーウインドーをみて歩くという空間は必要なんでしょうね。実際に歩いて心地いいですからね」ギリバニーが言う。
「でも、用途のわからないものがいっぱいあるな。お土産を買ってかえらなくちゃ」順平は言って片端から店に入ってあれこれ買っている。
かれらは、リリンカム共和国から全部で100万円位の金をもらっているので、たいていの物は買える。足りなければ借りればいいのだとばかりに、順平は買いまくる。
こうして、彼らはさまざまな調査を行った3日間の内の2日間は、夕方出かけてショッピングに励んだ結果、300万円以上の借金をする羽目になった。
3日目の夕刻、大統領主催の晩さん会が開かれた。
実際の主賓は、伝説の導くものラリムであるが、まあ公的には地球からきた3人ということになっている。
ラリムは最初と最後に姿を現すことになっている。現地側の出席者はリリンカム共和国から20人および大統領の言っていた、有力国の大使7人と配偶者である。
すでに、共和国から残り有力国7国には事情は伝わっており、すでにリリンカム共和国の提案すなわち、シリンク帝国を、地球人が作ったシステムを用いて滅ぼすという件は了解されている。しかし、この提案には当初、地球では考えていなかった条件すなわち、シリンク帝国に対し作戦実行前に、『直ちに現在の蛮行をやめかつ強制産児制限を受け入れろ』という要求をして、受け入れない場合には滅ぼすという宣言をする、という一項が付け加わえられている。
しかし、これは地球人からすれば正面勢力でははるかに劣っているため、危ない橋は渡れないということから無警告でいくという結論になったもので、銀河連合の場合むしろ当然の選択である。
大使たちがいぶかしがるのは、順平の存在である。地球という未開惑星のまあ、国家連合の代表が来るのは判る。またシリンク帝国の存在を知って(実は防衛軍の設立時はまだ知らず、ガキゾミ帝国の対策として設立された)防衛軍を結成し、その司令官が来るのもわかる。しかし、あの少年、肩書は防衛軍の研究所の所長というが、そういう閑職の肩書にしても若すぎる。よほどの有力者の子弟か。
最初のサラミニ大統領のあいさつは、今夜の主賓が導くものラリムに指導されている惑星の代表であり、場合によっては、共和国のみならず銀河全体の危機になりかねなかった問題に対する対策を示してくれた、と正直なところを言う。
事情をわかっているもの(全部の大使を含む)は、それが外交辞令でなく本音と分かっているが、他は理解していない。
国連の代表ジョン・リザートの挨拶が始まった。
「本日のお招きに感謝いたします。わたくしは地球の国際連合という組織の代表であり、国際連合というのは地球という我々の星の100以上に分かれている国のまとめ役であります。私ども地球人がその衛星に降りたったのはまだ60年前です。しかし、いまは7つの植民惑星を有し、鋭意開発を行っておりますし、地球統一政府ができるのもう数年後と見込んでおります。我々は地球防衛軍を持っています。わが地球防衛軍司令官、彼ですが、実際に銀河連合第3艦隊を視察させていただいた結果の報告を受けています」アラン・ギリバニーを指す。
「彼の観察では、我々の防衛軍の艦は大きさで貴艦隊の主力艦の半分ですが、戦闘力は劣らないとのことです。その艦を我々は1000機持っています。かつ、いまわれわれの脅威となりつつあるシリンク帝国を滅ぼすシステムを、導くものラリムの助けを借りてをもうすぐ完成しようとしています。
しかし、これは我々のような若い種族には大変な重荷でした。従って、私どもはその完成したシステムを、喜んで銀河連合に引き渡すつもりでおります。また、そのシリンク帝国を滅ぼすという行為を実行するかどうかも、また実施も銀河連合にお任せします」
リザートは一旦話を切る。話を分かっている人は力強い拍手をし、わかってない人も未開種族にしてはそれなりのこというなと思って拍手する。
「しかし、皆さんはおかしいと思うでしょう。誰かがそういうテクノロジーを伝えたならともかく、60年まえに化学反応のロケットで衛星にようやくたどりついた種族が、いまや皆さんに劣らないレベルの宇宙航行をできるようになり、銀河連合に劣らない能力の戦闘艦を運用するようになったというのは。しかし、これは事実間違いなく我々地球人が成し遂げたことです。
またそれは、最近10年以下で成し遂げられたことであり、これらの多くは今から紹介する、彼、順平の才能、及びそれに触発された数々の人の努力によってこれらは成し遂げられました」と順平に手を差し出す。
順平は起ち上がってぺこりと頭を下げる。そして言う。
「ええ、皆さん。われわれ地球人はまだ若い種族です。今回は、導くものラリムの文字通り導きに従ってきたのですが、近く我々の仲間が堂々とこの星にも、銀河連合のさまざまな星にも出てくると思います。僕と同じで生意気な若造種族ですが、温かい目で見守ってほしいとおもいます」
大きな拍手がわく。拍手という習慣は銀河連合にもあるらしい。
翌日、銀河連合の臨時総会が行われる。時差の関係でリリンカム共和国の主星、リリカムでは早朝になるが、こうしたことはよくあることらしくリリンカム共和国のスタッフは「普通にあることです」という。
大きな会議室で中央に議場の様子が立体で浮かんでいる。まるで、現場にいるような臨場感であるが、みな普通のこととしてみている。昨日の出席者は有力国の大使を含め、皆来て見守っている。言語はむろん連合標準語である。
あらかじめ、大統領から、『有力国はすべて、議題に賛成でありこの提案の趣旨・重要性についてを説明して賛成するように働きかけています。むろんわが共和国内部もね』とのことは伝えられている。
議場では、事務局からの説明として、シリンク帝国に関して、以前に威力偵察が提案され否決されたこと、その後詳細が判明したとして、その国家の概要、600もの種族を支配下においてその残虐な施政、2000億にもおよび膨大な人口と軍事を含む強大な国力、さらにその人口増加率が極端に高いことが説明された。
その反応をみるだけで、大勢は決したと考えられた。
この説明を受けて、リリンカム共和国の連合大使は対案の説明に入る。
「このように、シリンク帝国の膨張はこれ以上看過できませんし、かれらの支配下にある諸種族に対する残虐な支配はすぐにでも是正する必要があります。
これに対しては、我々リリンカムを古い時代に指導してくださった、導くものラリムがある種族を指導して決定的な武器が準備されています。これによれば、大艦隊を送って決戦などということは必要ありません。武器についてはここでは、万が一のシリンク帝国への秘密の漏洩を恐れここでは説明しません。しかし、これは導くものラリムが心臓として機能しないと働かないものでもありますので、その装置のみを製造しても意味のないものであります。
また、これが決定的であるゆえんは彼らの居住惑星300個をすべて滅ぼし、さらに3万隻の主力艦およびさらに3万隻の補助戦闘艦もすべて滅ぼせるものであることです。ちなみに幸いなことに、シリンク帝国人はその偏狭な優越主義から居住惑星に他の種族を住まわせることを嫌っているため、惑星の破壊は他の種族を巻き込みことはないということです。
しかしながら、警告なしにいきなりの攻撃ということは銀河連合の規則からして問題があります。従って、我々が彼らにある要求を突き付けそれに従うか否か、彼らの運命を決める2カ月の期間を与え、それに無回答または拒否の場合にのみ、先ほど言った武器を使い、先ほど説明した破壊を行うことを提案します。その際に、先ほど言った武器はここキリガセント星に設置して、今後同様なことが起きた場合の連合としての備えとします。
なお、要求とは、以下の4項目です。
1)すべての被支配種族を解放すること、さらに彼らへの連合法に反する損害は賠償すること、
2)主力艦はすべて連合に引き渡すこと、
3)銀河連合法の人権を著しく阻害した行為を成したものは犯罪者として引き渡すこと、
4)強制的な人口抑制制度を受け入れることの4項目です。
この場で決議を得たらすぐに、快速船を彼らの首都惑星に送り回答を求めます。
なお、期限は、もし今日賛成が得られれば、今日の日付から連合歴2カ月(地球歴2.5カ月)後とします。
さらに、彼らの被支配種族に対する残虐行為の数々は、明らかに連合の法に反していますので、直ちに迫害されている種族への援助に入ります。
以上の内容で採決を取りたいが、反対意見はありませんか?」
このシリンク帝国の行為は、連合の人権に関する基本的な法に対するあまりにも明らかな違反から、どの種族も提案の内容に反対はできない。また、参加している種族にとっては、通常は艦隊の派遣を求められたり、経費の分担を求められたりということがないこの提案は、極めて都合の良いものである。
結局、反対意見はなく、提案はそのまま採決された。
感想を書いていただいた意見を参考にしています。