銀河連合との接触1
銀河連合との接触が始まります。
地球人はどう遇されるのか。
2028年4月、地球防衛軍では対シリンク帝国への対抗作戦である“銀河の平和作戦”の準備が着々と進んでいる。
牧原宇宙軍中央基地では、情報データベースシステムはすでに完成し、導くものラリムによって改良されたラーナに、ラリムによってアシストされた情報探知装置によって集められた大量の情報が絶え間なく流れ込んでくる。
その情報を見ながら、順平が考え込んでいる。横にいた章一が言う。
「すごい情報だな。えらく考え込んでるが、何を考えているんだ?」
「うーーん、そろそろ、銀河連合への働きかけと、シリンク帝国内部の動きをやっておかなくちゃな」順平がぼんやり答える。
それからおもむろに、「ラリム、前に聞いたけど、銀河連合の先進種族にはラリムが導いた種族もいるのだろう?」どこかにいるラリムに向かって言う。
「むろん。5種族はかかわっておるな」
「その中で、ラリムの名前を出して、通じる種族がいるのかな?何が言いたいかというと、有力種族に紹介してもらいたいわけだよ。今回の“銀河の平和作戦”が成功したとして『俺たちがシリンク帝国を滅ばしたぞ、すごいだろう!銀河連合に加盟させろ』と言っても通じないだろう?」順平がいうのに、
ラリムはあっさり「まあ、それはそうだな。無理じゃな。この野蛮人が!となるのがおちだの」言う。
「おい、おい、そういうことは早く言えよ」ぶうたれる順平に、
「最初から気づいてたじゃろう?いずれ言い出すとは思っておった。だから銀河連合の情報を優先して集めておったのじゃろ?」と言い返すラリム。
「うん、当然だからね。それで、ラリムがアポを取れる種族は?」順平の問いに、
「そうじゃな、リリンカム種族かな。かなり連合の中では力を持っている。また、わしが教えたので、ジャンプ飛行、超空間通信の技術は持っている」ラリムが答える。
「リリンカム種族、連合の有力種族の一つで、特に科学技術が発達していることで知られている。80の星系に住み着き人口は850億人か。連合の第3艦隊に、主力艦1万隻を提供・運用している。100以上の種族を開化させて連合に加えさせている。これもすっげー種族だな」章一が、データベースから思念で引き出して述べる。
「うむ、なかなか見どころのある種族であったので、2千年ほど前に10年ほど付き合った。その後、さまざまな種族を導いており、わしも鼻が高いぞ。まだわしの名は不死のものとして残っている」ラリムが嬉しそうに言う。
「うん、同感!立派な種族だね。一切他種族への侵略とかはしていないようだし。ラリムの教育がよかったのかな。ちなみに、ラリムが接触した頃はどの程度の発達具合だったの?」順平が聞く。
「お前たちよりは、文明はずっと古く、3万年くらいの動力を使った歴史を持っており、原子力はすでに実用化していたが、核融合にはいたっておらず、宇宙飛行も恒星系内のみの状態で、エネルギー源にいき詰まっておったな」ラリムが答える。
「ふーん、じゃあ、当然感謝するよね。しかし、どういうふうに接触するのかな?また、距離が地球から1万2千光年もあるけど、結構大変だな」順平が聞くのに、ラリムが答える。
「リリンカム種族のリーダーだと、リリンカム共和国のそう、大統領に念話で連絡する。その点は心配いらん。また、わしのモノレスで行くべきじゃな。早いのもあるが、あれはあきらかに戦闘艦にはみえんからの。お前たちも、順平おまえは当然だが、ほかにしかるべきものがいくべきじゃろう」
「うーん、山戸先生とアラン・ギルバニー司令官に相談してみるよ」順平が考えながら言う。
銀河連合の主導種族のリリンカム共和国に、1万2千光年を越えていくということで、またひとしきり騒ぎになったが、全員で3人というラリムの言葉で、結局国連の代表ジョン・リザートと地球防衛軍司令官のアラン・ギルバニー元帥が一緒にいくことになった。
さすがにモノレスでも、1万2千光年のジャンプは無理で、2千光年ずつ分割してのジャンプになり、3日の行程になる。それでもジャンプは今の地球の船の10倍の距離であり、地球船の場合には60回のジャンプが必要で各2時間の充電時間が必要なので120時間で、最低5日はかかる。実際は大休止もいるので1週間以上は要するであろう。
「ところで、リリンカムでは今の対シリンク帝国“銀河の平和作戦”を説明して、その理解を得るというか、巻き込むのがこの旅の目的ですよね」順平の問いに、「そう、それと銀河連合への加盟の瀬踏みだな。また加盟可能なのか、また加盟のメリット・デメリットを明らかにしておかないと、地球での合意が取れない」国連の代表ジョン・リザートが答える。
かれは、アメリカ合衆国の国務長官も務めた古手の政治家でどちらかというと、リベラルではなく保守派である。実際に触れてみると、気さくで愉快なおっさんだ。
「それはそうですよね。ちなみに、僕は銀河連合側が、この“銀河の平和作戦”をわれわれから召し上げるんじゃないかと思います。どう考えても、彼らからみたってシリンク帝国は彼らにとってさえも脅威ですよ。どういういきさつで今までほおっておいたのかわかりませんが、それをど田舎の辺鄙な星が自分たちで全部解決すると言っていくわけですから。かれらにメンツというものがあれば、丸つぶれですよ」順平がいうのに、リザートは返す。
「うむ、我々の感覚ではそうだが、どうかな。案外、シリンク帝国のことも知っていてほおっておいたのじゃないかな。銀河中央からするとシリンク帝国は遠いが、それでもあれだけの版図で多数の種族を巻き込んでいれば、気がつかないのは不自然だ。ひとつには銀河というか宇宙にあまりの大きさに、我々のように数日、数カ月の単位では物事を考えないのじゃないかな」リザートは考えながら言い、さらに付け加える。
「しかし、われわれから作戦を召し上げるとはいうことはあるな。その場合、どう思う、アラン、順平?」
「歓迎です。できれば、我々も直接被害を受けたわけでもない相手を、将来間違いなく危険になるという理由で滅ぼしたくはないですから。別段、我々軍人は好戦的ではないのですよ。とりわけ、私のような指揮官になると部下の安全を考えると戦争、戦闘はないに越したことはないのです」アラン・ギルバニーが言う。
「賛成です。人に任せちゃえば僕もゆっくり夜眠れるというものです。向こうが言い出さなかったらそういう風に持っていきましょうよ。ねえ、ラリム?」順平も追随する。
「うむ、実はわしも、お前たち地球人に負わせるにはちと重すぎる荷物かなとは思って居った。実は地球への接近中にすこし詳しく調べてみると、連合はシリンク帝国のことは知っており、議論にもなっておる。しかし、その脅威の防止の対シリンク帝国への作戦の規模が大きすぎ、また今現在は直接の脅威でもないということで、襲い掛かって来るのならともかく監視しつつ静観ということになったわけだ。
ちなみに、リリンカム共和国は即時の対応の要求に賛成している。そこに、お前たちの“銀河の平和作戦”を実施することで相手の大部分を片つけて、残敵掃討というのは銀河連合にとって極めて都合がいい方法だと思うぞ。うむ、たぶん彼らは自分らがやるというな。それと、お前たちがそれほどの武器を持つのは気持ち悪かろう。
お前たちにしてみれば、作戦の後、あんなものを地球に置いておいてもしょうがないが、銀河連合にとっては、敵対的な種族が現れたことを考えると、持っているほうが都合のいいシステムじゃな。せいぜい、恩を売って渡すことじゃな。しかし、それで忘れてはならないのが、お前たちがこのシステムを彼らに渡したとしても、作れるということを恐れられる可能性が大きい。従って、事実ではあるがあれはわしが操作しないと機能しないということはきっちりいう必要があるからな」ラリムの言葉に当然、3人皆同意する。
方向が決まったところで、リリンカム共和国の主星、リリンカムに近づき、ラリムが地上とあれこれ交信のあと地上の宇宙港に降り立った。
リリンカムの大気成分は、ほぼ地球に近いので特にマスク等なくても呼吸可能である。リリンカム人はやはり地球人に似てはいるが、どちらかというとアーマル人に近い。小さな鼻や耳そして口と大きな目があり、眼は知性に輝いている。
宇宙港は10km四方程度か、真珠市宇宙港と似たような広大さであるが、数えられるだけで数百の宇宙船が停泊しており、周囲を巨大な都市が取り巻いている。地球のように高層ビルはなく、せいぜい3階から4階の中層で間に緑がたっぷりとっている。
宇宙港内には明らかにターミナルビルと思われる大きめの中層ビルが10棟以上並んでいる。中には運搬車は走り回っているが、人の姿はほとんど見ない。
順平たち3人が地上に降り立つとき、ラリムは、リリンカム人の老人に姿を変えて一緒に降りてきた。地上はきめの細かい舗装だ。降り立った正面に、コミュータらしきものが止まり数人の人が下りてくる。 また、歩くスペースは開けているものの周囲は人で鈴なりで、多くの人が小さなカメラらしきものを構えているが、ほとんどだれも順平たち3人には注意を払わない。
順平たちはラリムが悠然と歩く後に従う。なにしろ伝説の導くものが2000年ぶりに現れたのだ。
歩く正面に先ほどの5人の男女が待っている。たぶん指導者だろう。
ラリムが近づいて、「サラミニ大統領、歓迎して頂いて感謝する」と言ってたたずむ5人のリリンカム人の前に笑顔で止まる。
その前で、5人はひざまずいて頭を垂れる。「導くもの、ラリム。私どもの生きている間にお会いできるとは、何て光栄な!」サラミニ大統領が頭を下げたまま言う。地球人の3人は少し離れて無言で見守っている。
「まあ、立ちなされ。わしもここリリカムを去って2千年になるが、この宇宙港は見違えるように洗練されてきたの。すでに、伝えているように取り急ぎ協議したいことがあっての」かれらが立ちあがったところで、「この者たちは、わしが今導いている種族、地球人の代表のものたちじゃ」
順平たちは翻訳機を渡されているので言葉を理解するには不自由はない。
リリンカム人と地球の代表の3人はお互いに挨拶しあって、コミュータに乗って移動する。
5人は女性の大統領と共和国議会の議長、軍の司令官に、よくわからない民間団体の長2人である。
着いたところは、緑に囲まれた中規模ビルであり、大統領府である。早速会議室に入って会議が始まる。
地球を代表する立場として、国連代表ジョン・リザートが、主としてラリムから知らされたシリンク帝国のこと、またその危険性を述べ、さらに地球が防衛軍を結成してその殲滅を決意してすでにその準備を進めていることを説明した。
サラミニ大統領が答える。「なんと、地球ではそこまでの準備を進めているとは!
実はその件は導くものの連絡を頂いてすぐに連合大使に連絡をとり、その経緯を詳しく聞いています。
実は、この件は、連合に加盟しているある種族に前から交流のあった種族からの訴えがあったのです。彼らの種族が、そのシリンク帝国に征服され、過半数が殺害されたとのことで、援助を求めてきたわけです。聞いてみると、いかにもひどい侵略であり、連合調査局が調査船を出して調べたのです。しかし、結局シリンク帝国の艦船に追い掛け回されてろくに調べられなかったのですが、相当数の種族が征服されて極端な迫害をうけてるという報告です。
そこで、威力偵察も含めて艦隊を送り出して聴聞すべきと、連合議会に我々も提案者になって、提議しました。しかし、ことなかれの種族が多く、連合に加わっている種族は直接の被害を受けていない、かつその結果大規模な艦隊が必要になる可能性もあり、将来の危険性はそれほどないと評価され、それに対して負担が大きすぎるとして否決されました。
われわれも、いまリザート氏の言った、600もの種族がそのような聞いたことのない迫害を受けているなどとは知りませんでしたし、さらにそのような凶暴な種族の人口増加率が年間5%とは! これは、おっしゃる通り、ほおってはおけません。 直ちに、連合の総会の開催を要求します。また同時に、現在の連合のリーダーである他の7種族と連絡をとり、あらかじめ同意を得ておきます」
サラミニ大統領はそう述べ、さらに言う。
「そこで、先ほど言われた、地球においては、情報データベースはすでに、完成し情報を収集しつつあるとか、さらに転送装置も完成に近づいているということですね?」
地球人の3人はうなずく。
「では、その装置類は連合本部のあるキリガセント星に置くべきだと思います。あなた方の判断、シリンク帝国を滅ぼすべしということは正しいと思いますし、私どもも考えつかなかった完ぺきな手法を実行されていることは大きな敬意を表します。しかし、この装置はあまりにも危険です。従って、あなた方の惑星に置くべきものではありません。連合本部のあるキリガセント星に置くべきもので、本来はその製造方法と運用方法を知っていることが問題になりえます」ときっぱり言う大統領にジョン・リザートが言う。
「いえ、ご心配なく、我々は同じ装置は作れますが、情報データベース、転送装置は、ともに導くものラリムがいないとコントロールができません。つまりラリムがこれらの装置の心臓なのです」
「そう、それは良かった。導くものラリム、あなたはそこまでこの件に入っておられるのですね?」大統領の質問に、ラリムが答える。
「そうじゃ、もともとはわしが200年前に手を打っておけばよかったのじゃ。そうすればまだ弱小だったシリンク帝国は貴国の艦隊の1支隊で制圧できたであろう。しかし、いまとなっては艦隊を送ってつぶすのは容易なことではない。それで、地球人を導いくなかで解決を預けた形になったが、その結果としてこのようなシステムを作ることになった。このシステムは、リザートがいう通りで、わしがシステムの心臓として入らないと機能はしない。
当然、キリガセント星に持っていった場合にはわしがコントロールする。300の惑星と6万の艦艇、2000億の人口のシリンク帝国を滅ぼすわけじゃ。地球人は、装置をキリガセント星に持っていくことに否やはない」
大統領が目で聞くのに、地球人の3人はうなずく。
「わかりました。では、我々は連合対策を始めます。たぶんあなた方にも、ここから立体映像で出席ということになるでしょうが、総会に出てもらいます。しばらく、そう7日位滞在願いたいのですがよろしいですか?」地球人の3人はうなずくのに対して、
「では皆さんには秘書官をつけますので、ご希望の場所を見学あるいは人に会って、私どものことを知ってください。これほどの功績を立てたあなた方が連合に加盟できないことはあり得ませんから、有意義な数日になると思いますよ」と大統領はにこりと笑う。
その後、大統領一行はラリムをうやうやしく連行して、一目会いたいと待っている人々の元へ連れて行った。
物語は佳境に入っていきます。