ガキゾミ帝国への懲罰作戦2
広大な宇宙の話をしていると、時間的な矛盾がどんどん出てきます。
何度か途中で書き換えました。
航海に数カ月、場合によって数年も連絡も出来ない、船と本国や植民地の関係として大航海時代を思います。
順平は森下と話している。
「彼らの見出した方法は彼らが将来トラウマを追わないためにもいい方法だと思います。しかし、その分リスクが高くなって偶発的に損傷を得て、たった100人しかいないアーマル人の人命が損なわれる事態も懸念されます」順平が言うのに、森下が返す。
「そう、だいぶ危ないな。5機程度同行させた方がいいだろうね」
「まあ、まだ実はラーナ2102号を情報収集データベースに召し上げなくてはならないし、さらに転送装置にさらに別にラーナ型が必要なのですよ。そのくらいはね」順平が肩をすくめる。
アクラたちアーマル人は、先日の偵察行の結果に合わせて、稼働を始めた情報収集データベースの情報も加味して、ガキゾミ帝国の大型戦闘艦の位置把握に努めている。これがまとまった段階で、その殲滅作戦のその順番およびスケジュールを策定する。
ある意味では、シリンク帝国への作戦のいい予行演習だ。予行演習ということで地球防衛軍のスタッフも援助するが、あくまで主役はアーマル人で防衛軍は援助に徹する。1カ月後、ようやく作戦計画が組みあがった。撃滅対象はガキゾミ帝国の誇りである大型戦闘艦350機である。すでに、すべてタグをつけて超空間から監視しているので見逃すことはない。
しかし、いきなり撃破しても意味がないので、リネン人に依頼してガキゾミ帝国に接触させる。このストーリーは以下の通りである。
『ガキゾミ帝国は、アーマル星を突然滅ぼした結果、アーマル人の別の植民惑星にいる者たちが復讐を誓った。かれらは、まずガキゾミ帝国の誇りである大型戦闘艦350機を殲滅すると言っている。その後、惑星を一つずつ滅ぼすと』
それを告げたところで、リネン人は一旦引き上げる。
どうせ、田舎者のかれらは笑い飛ばすだろうが、実際に戦闘艦が順次破壊されたらおびえるに違いない。
戦闘艦が大部分が破壊されたところで、再度リネン人が訪れる。
今度は、アーマル人としての以下の具体的な要求を以下の内容で掲げる。
i) アーマル人に対して文書にてその惑星破壊の謝罪をし、その対価として戦闘艦が破壊されたことを認めること
ii) 全ての被支配種族を解放すること、ただし援助は続けること
iii) 今後、酸素呼吸生物を襲わないこと
iv) 以上を受け入れない場合、受け入れるまで惑星を順次破壊する。 最初に破壊するのは帝都のある惑星になる
しかし、惑星が破壊されることは信じない可能性も高いので、実際に適当な巨大惑星を破壊して見せてやることが必要だろう。
これは、彼らが居住する惑星と同じ星系で惑星を完全に破壊するレベルの試験をやると、星系全体に与える影響が大きすぎるので、せいぜい使えるのは1ギガトン程度の爆発である。
さらに、また帝都のある惑星については、要塞網による防護に自信を持っているだろうから、それをすり抜けてやって、見せつける必要があるということになった。
単純に報復するのに比べると非常に複雑かつリスクの高いものになり、安全のためには地球側の援助が相当に必要になることになった。
その点をアーマル人は気にしたが、作戦がまとまったところで行った会議で、地球防衛軍司令官アラン・ギルバニー元帥が言った。
「まあ、地球も君たちの技術によって相当に恩恵を被るしね。またいずれにせよ酸素呼吸生物とみれば殲滅にかかるようなガキゾミ帝国はほっておくわけにはいかない。これは、地球とアーマル人の共同作戦と受け取ってもらえればいいよ」
かくして、「ガキゾミ帝国懲罰作戦」に作戦に投入する艦艇は、ソバル、リチリのアーマル人が操縦する戦闘艦を始め、最大で新地球クラスが全部で15隻、補助艦艇50隻となって、人員も地球人が5千人と大作戦になった。
まあ、惑星を30個も支配していて、軍艦艇を800隻以上も運用している帝国を屈服させるのに、この程度というのは、一般に言えば過小もいいところだが、それが技術で隔絶していることの怖さである。
しかしながら、この作戦は大変気が長いものになりかねない。
なぜなら、ガキゾミ帝国のその版図の大きさが25光年程度であるが、彼らの宇宙船の最大速度である光の速さの2倍が最大の情報が伝達できる速さになる。地球、アーマル側は最大で半年もあれば彼らの艦隊を滅ぼせるが、それが首都惑星に伝わるのはいつになるか。
その点が大きな問題になった、ガキゾミ帝国の情報伝達ネットワークに任せると、たぶんすべてがこちらの思うようになったとしても、決着するまで最低で10年を要するであろう。従って決着を早めるためには、情報システムをこちらで整えてやらなくてはならないというおかしなことになる。増して、超空間通信機はまだ地球でも最新の設備である。
これを懲罰対象のガキゾミ帝国に与えるというのは、あまりにも矛盾の大きな話になる。
結局喧々諤々の議論の末、以下の手順を取ることになった。
1) リネン人の超光速宇宙船が、ガキゾミ帝国の極力帝都星系に近い星系にアーマル人の宣言文を届ける
2) その後1カ月ほどをおいて、いずれにせよ実行する予定の宇宙艦の破壊を実施するが、この対象は予定通り彼らの大型戦闘宇宙艦350機である。その期間は3カ月ほどと見込んでいるが、破壊の様子はすべて映像を残す
3) 破壊が終わった段階で、今度は参加艦艇すべてで、ガキゾミ帝国の帝都惑星の軌道要塞を破壊するとともに、リネン人の安全を保障させたうえで、リネン人が上陸して先に決めた要求文を渡す。この際は、軌道上から、破壊する戦闘艦の様子の映像を惑星に流す
今まで調べた、ガキゾミ人のメンタリティだとこれで屈服する見込みである。
なお、破壊する艦船については極力人命を損なわないために、基本的に大型レールガンで船腹と推進器を破壊すると同時に高出力の電磁波を浴びせる。これで、気密が破れ、中の電子機器はずたずたになって、その艦はレールガンおよびミサイルの発射のコントロールができないので結局攻撃が不可能になる。また、ガキゾミ人のみならず、宇宙の戦闘のセオリーとして戦闘が開始されてからは宇宙服をつけることになっているので、乗組員が即死することはない。
人命救助に関しては、リネン人を雇用して、食料や呼吸用のアンモニアを用意し、乗り組員が飢えたり、窒息しないように面倒を見ることと、乗り組員を最寄りの惑星に届けることにしている。
このため、リネン人には、はくうん型の戦闘艦10機、及び標準型旅客船2隻を与えているので、この労働はその対価である。
基本的には、ガキゾミ帝国の戦闘艦は気密が破れても乗り組み員が修理は可能であるし、電磁波によって精密なコントロール機器等は死ぬが、推進器とは別に設置されているバッテリーは使用可能のはずである。1隻で300人程度と予想される乗り組み員は、何も補給が無くても2〜4カ月程度のサバイバルは可能であると見積もられている。
それで、対応出来ない場合にそなえて、リネン人の部隊があるわけだ。
相手の戦闘艦は、全部で350機のことであるので、攻撃することを告げて(宇宙服を着てもらわなくてはならないため)攻撃していくが、2カ月もあれば全部破壊できると踏んでいる。また、乗り組み員の最寄りの惑星への移送はもう少し余分にかかるかもしれない。
単に破壊して放置するのであれば、大変簡単なのであるが、なまじ乗り組み員の命を救おうとするとこのように大変面倒なことになる。
さて、作戦実行のために、いろいろガキゾミ帝国関係の調査を情報データベースで調べているうちに、大変なことがわかった。実はアーマル星を破壊した艦隊はまだ母星に帰還していないのだ。考えてみれば当然であろう。かれらのアーマル星の破壊は2年程度前である。
彼らの移動速度は光速の2倍で、基地からは10光年以上離れている。従って艦隊は当然まだ帰還の最中である。この艦隊は総数が100隻強になるが、作戦のターゲットになる最大級の戦闘艦のスリンラ級は10隻しか加わっていない。この艦隊が、作戦の最初のターゲットになった。
アクラたちアーマル人はこの艦隊に関しては、攻撃に一切の手加減をしないことにした。それでの生き残った乗り組員はリネン人が救出する。なにしろ、彼らの故郷を滅ぼした直接の相手であり、彼らの感情を考えると当然である。
「手加減なしであれば、我々のソバル、リチリの2機で十分です。いえ、この艦隊に関しては我々にやらしてください」アクラが、随行してきた5機の防衛軍枝艦隊の司令官アラン・カーターに通信機を通してい、カーターが答える。
「了解した、油断せずに一気にやりなさい」
アクラは、アーマル星襲撃艦隊に呼びかける。
「こちらは、君たちが滅ぼした惑星のアーマル人の生き残りだ。いまから、君たちを攻撃する。すべての艦を破壊するので、降伏しても無駄だ。艦が破壊されて生き残ったものは救助する。以上」
まず、ソバル、リチリは亜光速で艦隊に迫り、レールガンをどんどん打ち込むが、これは艦自体の速度が加味されているので、泊まって状態から打つのと威力が段違いだ。相手も撃ってくるが重力フィールドに入ったロボット操縦機によって当たる可能性のあるものは迎撃されるかまたは、重力波でそれされる。最初の突進でスリンラ級の10隻はすべて船腹およびエンジンを打ち抜かれて破壊され、他の中小型艦艇も12機が同様に破壊される。
こうして、わずか2時間の戦闘で102機すべての艦隊を構成していていた艦は破壊されスクラップとなった。その後リネン人が近づいていく。
「われわれは、お前たちと同じアンモニアを呼吸するリネン人だ。破壊された艦からお前たちを救出するために雇われている。もし攻撃してきたら救助はせずに見捨てるのでそのつもりで。お前たちは艦隊の本部のある惑星ゾマクリズに届ける」と乗員を回収して回り、そのために準備された旅客船に武装を解除して収容する。
結局、後のヒアリングの結果、全乗り組み員9800人のうち5200人が救助された。容赦ない攻撃の割に生存率が高いが、これは宇宙服を着ていた結果であろう。この数は、かろうじて用意した旅客船に収容できた。その後、リネン人が操縦する旅客船2隻と戦闘艦3隻は、4日かけて惑星ゾマクリズに行き、現地の軍本部と交渉し、これらの捕虜を引き渡した。
現地軍は、呆然とした状態で自軍の敗軍の兵を引き取った。
その後、ある程度の規模の艦隊を破壊したことで、前に決めた手順を前倒しにすることにした。すなわち以下の通りになる。
1)アーマル人の宣言文を届けたのち、
2)宇宙艦の破壊を早急に実施し、
3)参加艦艇すべてで、まずガキゾミ帝国の帝都惑星の軌道要塞を破壊し、
4)先に決めた要求文を通信で送り、
5)先のアーマル襲撃艦隊の全滅の様子、さらにこの後破壊する戦闘艦の様子の映像を惑星に流す
リネン人を上陸させることは危険性が高すぎると判断され、通信で十分とされた。
ガキゾミ帝国の話は残りもう1話です。