ガキゾミ帝国への懲罰作戦1
忘れていたわけではありません。アーマル人のガキゾミ帝国への懲罰だ。
順平は、アクラ以下アーマル人100人に向き合って話している。
章一も一緒である。順平が話し始める。
「ガキゾミ帝国のことは、すでに知らせましたが、いま建造している新型の戦闘艦が完成して運用できるようになれば、彼らへの報復も可能になります。
彼らの成した、君たちの惑星の破壊は、許しがたい暴挙でいずれにせよ懲罰は必要かと思います。しかし、どういう風にそしてどの程度かは君たちが決めるべきことです。ガキゾミ帝国は23の惑星を支配し、5つのアンモニア呼吸生物を支配していて、かれらは君たちの惑星を除いても4つの酸素呼吸生物を滅ぼしている。しかし、アンモニア呼吸の知的生物に対してはシリンク帝国ほど悪辣な支配はしていません。
また、酸素呼吸生物に対しては彼らの歴史から来たもので、やや本能的と言っていいのかもしれないのかも。
君たちに、新型戦闘艦を2隻譲渡し、きちんと訓練します。そうすれば、その艦で彼らの艦隊全部で主力艦350機、補助艦500機程度だが、戦法を間違えなければこれらを全滅させることも可能だし、惑星を爆撃することも可能です。それだけ、君らに譲渡する艦は彼らの戦闘艦とは隔絶した能力を持っています。
しかし、君たちの100人でその艦2機の運用は出来るけど、そのためにはたぶん6カ月から1年の訓練が必要であり、また、その戦闘艦が試運転を終えて引き渡せるのは2カ月後です。訓練期間は君たちの習熟度がどれだけ急速に上がるかどうかによって変わってきます。従って、その前2カ月で地球防衛軍の基地で実際の艦を受領して、訓練を受ける前に地上で各種訓練を受けてもらう必要があります。
そこで、そもそも君たちはその戦闘艦が必要であるか、またその訓練を受けてそれを自由に使いたいと思うのかどうか、そちらについてはあらかじめ聞いておきましたが、結論は出ましたか?」
リーダーとして、アクラが答える。
「はい、ガキゾミ帝国については、どうするかまだ僕らの間で結論は出ていません。
しかし、僕らの故郷は全く一方的に武力で蹂躙というより破壊されたわけです。これは、いくら悔やんでももとには戻りません。そして僕らはそのことはそのこととは置いておいても、前を向いて、あらたなアーマル人そしてアーマル星を僕らの手で作るつもりです。そのためには、シリンク帝国の例を見ても、一定の武力は絶対に必要ですし、そのためにやれることは僕らがやります。
その戦闘艦を売ってください。そして訓練も受けさせてください。その対価は払います」
順平は、にっこり笑った。
「いい覚悟だと思います。なに、皆さんのさまざまなパテントによる収入は、戦闘艦2隻の対価および訓練費用でも全く問題ないですよ」
なお、アーマル人にとっては、その子孫を増やすことは緊急の、かつ最も重要なテーマであるが、彼らの社会はすでに自然分娩から人工子宮の利用へ転換しており、愛し合った男女が子供を作りたいとなった場合にはその卵子と精子による受精卵子を作り、その後は赤子誕生までは人工子宮で行われる。
彼らの50人ずつの男女は、いかにも遺伝プールとしては小さいが、実際は冷凍保存し受精した卵子が1万個程度貯蔵されており、これはむろん今は新やまとにある。
しかし、子供を作るには現状ではアーマル星から持ってきた人工子宮の数約50が限度なので、いま生活している男女の子供50人を人工子宮で育てている所であり、あと半年後には50人のアーマル人の新生児が生まれる予定になっている。
この組み合わせは、むろん愛し合って互いに納得の上ということが望ましくそのケースも無論多いが、遺伝子上の組み合わせについてラーナの助言に従う必要もあり、必ずしもお互いに熱烈に望んでということにはなっていない。しかし、みなアーマル人の将来ということには大きな義務感と熱意をもっており、そういう義務感もそれぞれの二人で受精卵子を作る助けになっている。そういうことなので、真珠大学の特別な部屋で、いま50台の人工子宮が動いており、ラーナ2106とロボット3台が監視にあたっている。
ちなみに、この人工子宮は極めて優れたもので、人工子宮に入れる前に遺伝子レベルのチェックがあり障害児になりそうな受精卵子は排除されるので、障碍児が生まれる恐れもほとんどないという。これはまた、子供が欲しくてもできない親には最高の福音であろう。
これに、ついては牧村の提言で江南大学技術開発公社を通じて、大手製薬メーカーにノウハウとサンプルを売り、1千億円の権利料を得ているので、当分アーマル人が金に困ることはないのである。さらに、彼らにとって、同朋を増やすことは最大の義務であるが、現状では人工子宮の数で出生が制限されており、この点でも契約を結んだ会社との契約で、最初の生産分の半分は500機に達するまでアーマル人に提供することになっている。
さらに、そのメンテナンスというか管理のために、アーマル星ではアリス型のロボットが必要であり、この点ではアリス型のロボっトがとりわけ人の介護等に最適なものであり、従来型ロボットに比べはるかに勝っている点から製造の権利を日本の四菱重工が500億で買った。これも、最初の10機はアーマル人に提供する契約になっている。
また、アーマル人の100人にとって考えなくてはならないのは、100人が一度に死ぬような戦闘に加わることは出来ないということである。従って、実戦に入るときはどうしても最大でも半数しか同じ艦に乗ることはできない。
そういうことを配慮して、地球側は50人で1艦という配置を進めているが、実際は自動化されていると言っても戦闘艦が戦闘に入るときは新型戦闘艦でも100人強が標準配置である。
アーマル人一行は牧原宇宙センターに行き、2カ月の訓練に入る。これは座学、シミュレーターを使った操作訓練の他、体力をつける訓練もある。
毎朝広大なグラウンドを皆で走り、障害物をよじ登り、くぐりぬけ、飛び降りて抜ける訓練、格闘技もある。
森下の順平への講評である。「かれらは、皆選ばれた者たちだけのことはあって健康についての問題はないので、体力を使う実技には何とかはついてきています。
一方で、みな、知能が非常に高く判断力もある。さらに、使命感が高いのか根性はあります。極めて優秀な兵士になるでしょう。ただ、人を殺せるようになるかどうかそこが最大の難関でしょう」
2027年秋、新型戦闘艦である新地球クラス(英語ではニューアース級)が続々と完成し始めた。
これは、全長200m、最大径20mで満載重量4万トンの葉巻型で、武装は最大速度秒速10kmになるミサイル100発、大口径レールガン4門、迎撃用小口径レールガン20門、レーザーガン6基、船体を強化する電磁バリヤーを備えている。大口径レールガンは10kgの弾を秒速15kmで放つもので、ガキゾミ帝国の大型戦闘艦の船腹を十分撃ち抜ける。これは、ガキゾミ帝国の装備をラリムが調べた結果なので間違いない。
レーザーガンはシリンク帝国のものより威力の高いもので、しらくも級ではひとなめで破壊される。これも、ガキゾミ帝国の場合は大型以外の艦であれば十分通用する。バリヤーは新地球クラスの大口径レールガンでも1発程度だったら防げるこというもので、以前よりはるかに強力である。
航行の速度は重力エンジンで1光速、超光速推進で12光年/日、さらにジャンプで最大200光年飛べる。ジャンプは極めて大電力を消費するため、機に積んでいる50万kWの発電機2台でも超電導機器をつかった大容量蓄電器に充電してからでないとジャンプは出来ないため、2時間の時間をおいてからのジャンプになる。この新地球クラスにかかれば、従来の戦闘艦では全く勝負にならない。当然、艦砲としては過去最大の戦艦大和やまとの砲撃でもバリヤーを張った状態の艦にはまったく衝撃すら与えられないだろう。なお、超空間通信機については、この艦には当然設置されているし、従来型の戦闘宇宙艦にも、新やまと、ニューアメリカをはじめとした植民惑星にも配備されている。
すでに、地球防衛軍では10クルーが新地球クラスの戦闘艦で訓練航海を行っており、その中からアーマル人の教官を務まるものも選抜された。
アーマル人の戦闘艦には、ソバル、リチリと名付けられた。ソバルとはアーマル語で“復讐”または“報復”リチリとは再生という意味である。この名前をつけた、彼らの意気込みが伝わってくる。
彼らは、2隻に分かれて演習航海に出かけた。それぞれ10名の指導員がついている。
演習航海の最後ではガキゾミ帝国のテリトリーを偵察行が含まれている。期間は最大で4カ月で、その習熟度によって最短で2カ月となっている。訓練の様子は、毎日ソバル、リチリから超空間通信機によって送られてくる。訓練の過程で両艦はアーマル星系へも訪れ、その破壊された故郷を見て思いを新たにした。さらにリネン星へ行き、3日ほど滞在して、リネン人の代表と会って巨大惑星人というもの、さらにガキゾミ帝国のこと、ガキゾミ人等について意見を交わしている。
航海にでて、2カ月後彼らはついにガキゾミ帝国のテリトリーに踏み込んだ。
ステルス化は出来ないので、探知されて場合によって追跡を受けるが、所詮は光速の世界だ。相手にしてみれば、あっという間に消え去ってしまう。
最終的に、ガキゾミ帝国の本拠星系に入り、その帝都のある惑星に近づく。ソバル、リチリが超光速飛行に入らない限りはガキゾミ帝国の船の方が早いが、ロボット操縦士の時間フィールドへの出入りを繰り返すことで簡単に振り切る。
本拠惑星周辺はさすがに戦闘艦の密度が高く、近づくのは簡単ではないので2天文単位、3億km付近で引き返した。
しかし、さまざまな分析によって本拠惑星の防御態勢、主として5つの防御要塞によるミサイルとレールガンによる迎撃態勢であることが判明した。
「あれなら、破れますね。教官」アクラが教官を務める、アメリカ人のアラン・カーターに話しかける」
「ほう、どうやって?」アランが聞く。
「まず、防御の密度が低すぎて重なっていませんから、あれらの要塞の死角はいくらでもあります。惑星を破壊するのだったら100ギガトン爆弾を持ってきて、落とせばいいのだから簡単です」アクラの答えに、「まあ、それで正解なんだけどな。あの星は首都惑星だけあって約100億のガキゾミ人がいるわけだ。そこらへんがなかなか割り切れないというか」
とアランが頭をかく。
「おかげさまで、大体ガキゾミ帝国の防御態勢は判りました。われわれにとってはこのテリトリーの調査は終わりました。まだ、訓練は続けますか?」アクラの問いに、「いや君たちがいいなら、これで帰ろう」アランが答える。
2カ月半ぶりに帰ってきたアーマル人は、訓練を始める前と比べると見違えるようであった。
動作はキビキビとして、いかにも自信に満ちている。
指導教官の代表のアラン・カーターの講評である。「君たちは、地上訓練も含め、約5カ月よく厳しい訓練に耐えた。君たちは、十分この2隻の艦を、手足のように使って、目的、その目的が何かは知らんが、立派に果たせると確信する。ご苦労であった」
アランが敬礼すると、アーマル人の100人が見事な答礼をする。
順平が「やあ、頑張ったね、見違えるようだ。それで、どうするかは決めましたか?」
アクラは明るい顔で言う。「はい、最後の意思統一をしますので、2時間ほど時間をください。それと会議室を使わせてください」
「もちろん、Mr.カーターに頼んでください。では2時間後に会議室に行きますよ」順平は答えて去っていく。
2時間後、順平と森下新やまと防衛軍司令官が会議室に入ると、アーマル人の若者は明るい顔でがやがやと話をしているが、順平に気が付くと静かになった。この辺りは軍隊で訓練を受けたおかげであろう。
「それでは、決まったんですね」順平の問いに皆が「はい!」と答える。
「では、聞かせて頂きましょうか」順平と森下が座る。
「では私が代表をしてお答えします」アクラは始める。
「今回偵察行をさせていただいたことは、大変有意機でした。これでいろんなことがわかりました。ガキゾミ帝国は、結局臆病な田舎者なのですね。つまり、相手も爬虫類を祖先とする相当凶暴だった種族だったようですが、自分たちも滅びるかもしれないという恐怖と戦いながら、相手の酸素呼吸生物をやっとの思いで滅ぼしたわけです。
その後からは、酸素呼吸生物はすべて同類と思って、半ば本能的に出会ったものはすべて滅ぼしてきているようです。支配種族に対しては、特にリネン人からのヒアリングですが、調べた限りではそれほど過酷な扱いはしていないようですし、どうもおだてるとすぐいい気になるようですね。
さらに、我々にソバル、リチリという超高性能の戦闘艦を与えてもらいました。これは、実際に運用してわかりましたが、実際にガキゾミ帝国をいかようにも傷つけることができます。それこそ帝都のある惑星を滅ぼすことも必要な爆弾があれば可能です。そこで、このような強者の立場に立って思ったのです。我々はすでに彼らを滅ぼすことが可能ですが、彼らを滅ぼせば同じ程度のものになってしまう。
しかし、彼らの暴挙は許せる程度のものではありません。だから、彼らには悲嘆にくれる状況は与えたいとおもっています。
ではどうするのか。彼らの自慢の宇宙艦隊を滅ぼします。それもできるだけ生命を損なわないように。そして、なぜそういう目に合うかをきっちり伝えます。これはリネン人にお願いしました。それで、今回の活動には彼らリネン人に動いてもらいたいのですが、彼らと生存環境が違いすぎて、同じ艦で同居はむつかしいので、旧型のはくうん型および破損した艦からの救出のため旅客船を与えたいのですが売っていただけませんか」
順平は森下と共にうなずいて、「判りました。いいですよ。売りましょう。また、なかなかいい落としどころだと思います」という。
何とか連日更新が続いています。
これは家にいなくて、単身でいるせいでしょうね。