地球の再編
シリンク帝国対策および将来の銀河連合加盟を見据えて、地球の再編が必要です。
順平は、とりあえずの本拠を牧原宇宙基地の工業団地内とした。
当面、情報データベースシステムの基本設計は終わったので、集まってきたエンジニアによる製作設計に入っている。あちこちでセミナーが開かれて1級以上のカタリシストが5人集まって各メンバーの能力を120%引き出している。パターンができたものは、発達してきた人工知能に任せればどんどん設計は進んでいく。
特にCADによる設計はあまり人の手を煩わすことはなくなっている。同時に爆弾の自動工場についても、やはり順平による基本設計は出来ているので同様に詳細設計に入っているが、これはその物騒な内容だけに基本的に防衛軍関係者のみによって進んでいる。さらに自動倉庫については、これは専門家を呼んで設計を委託しており、これも順調に進んでいる。
転送装置については、まだ順平自身空間理論の理解が十分でないこともあり、まず牧村と共にラリムから理論を完全に理解するまで思念を含めたセミナーを受け、同じ理論の延長にあるジャンプ船と超空間通信システムの応用についても豊富な実例を習った。その結果、ジャンプ船と超空間通信システムについては量が必要だということで、早く量産体制に入るためにその設計を先行した。転送装置はついては当面棚上げにしている。
まず、順平が概念設計を行ったところで、宇宙飛行関係の科学者と技術者を集めて、セミナーを繰り返して衆知を集めて絞り、量産に有利な基本設計を組み上げた。さらに、民間メーカーの技術者も集められ、各パーツの詳細設計に入っていく。人工知能の支援があるためその設計の進行は極めて早い。
シリンク帝国対策国際会議が開かれた。
前と同じくG7である日本、アメリカ、ドイツ、イギリス、フランス、イタリア、カナダにロシアを加えたメンバーだが、各国10名程度が出席しており、政治家や外交官のみでなくそれなりの実務者、軍人、産業関係者が集まっている。特にアメリカは、大量の爆弾、それも例を見ない高威力のものを大量に製造するとあって、軍需企業の技術者も多く集まってきている。
会議では、順平を中心にまとめた対策の骨子、ポリシー及び具体策、工程表が示されている。
そこには、各国の役割りが明確に述べられているが、日本の場合は情報データベース・システムの建設、自動倉庫及ぶ転送システムの建設であり、また100機の新大型戦闘艦の建造と乗り組み員の養成が入っている。なお、情報データベースシステムおよび自動倉庫を含めた転送システムの運用は地球防衛軍が行い、G7+1のメンバーは直ちに地球防衛軍に参加することになった。
アメリカは8万発以上の爆弾製造に加えて、300機の新大型戦闘艦の建造と乗り組み員の養成が役割になっている。他のメンバーに関しては、各100機の戦闘艦の建造と乗り組み員の養成が役割である。これらの戦闘艦は地球防衛軍に組み込まれるので、これで、地球防衛軍として1000機の新型戦闘艦をそろえることになる。
なお、戦闘艦の1機の建造費用は250億円程度と見込まれているが、各国とも今まで手に入れた惑星領土を債権の形にして、資金を調達することにしている。これは、日本の財務省の提案になるもので、日本の場合のその通りに実行している。
戦闘艦についての基本設計資料は、図面・仕様書を始め各国の一定の防諜面での資格を有する者のみに見せて内容を理解させ、当面船体の建造にかかることを要求し、船体については基本設計資料を各国に渡し、発注を急ぐように要求した。
しかし、防諜面からの必要として、出席した国以外の国は発注しないのように要求された。
さらに、地球防衛軍に提供する戦闘艦以外の艦を自国、あるいはその植民惑星の防衛のため建設することは出来るものとした。しかし、地球防衛軍という間違いなく今までの軍隊のレベルを超えた強力な軍ができ、かつ出席メンバーはそこに自国の軍人を送り出しているわけである。その上に多大な費用をかけてまで、戦闘艦等を建設するとは思えないというのが、すでに新やまとに帰ってきている森下新やまと自衛軍司令官の意見である。
次に話題になったのは、国連の再構築である。
現在の情勢の中でその国連が全く機能していないし、また機能するシステムをもっていないことは明らかであることは、出席した諸国が一致して認めるところである。
そこで日本国総理大臣の阿山の演説である。
「皆さん、今日の話の中で聞かれた通り、宇宙、銀河には生命が満ちており、生存に適する星も多く、かつ非常に数多くの知的生物が生活をしております。
それらの知的生物は残念ながら、私たち人類が理想としている、他の人権を守り、他に優しく、困っている人がいれば助けるというものではありません。それどころか、いきなり他の知的生物が住んでいる星を爆撃し、皆殺しにするという暴挙を平気でするものがいます。さらには、また600もの他種族を支配しながら、極めて残虐な支配を行い、これは場合によっては相手を文字通り餌にして食い、さらにはロボトミーにより生体コンピュータにするということまでやっている種族もいます。
一方で、アーマル人のように素晴らしい芸術的感性をもつものもいます。
ここで、私たちは地球人としてのアイデンティティーを持つ必要があると思うのです。いまわれわれは必要に応じて、地球上の比較的豊かで力を持つ国のみでシリンク帝国対策を計画して実行しようとしています。本来これは、国という枠を取り払って地球人全体として実行する必要があります。そうでないと、いま銀河の中央にある銀河連合に伍していくことは出来ないでしょうし、他の知的生物に対して地球人としてのまとまりとして、彼らのなかで伍してくことはできません。
そういう意味では、国際連合の役割りは本来非常に重要で、地球を代表すべき存在であるべきです。しかし、現在は残念ながらそうではない、従って早急にそのように変えていかなくてはならないのです。
そこで、改革案の試案を用意しました。お手元にも配りましたが、以下の通りであります。
まず、最終的には人類の大統領を選び、地球人類圏政府を作るべきです。これは、人類圏ですから植民政府も当然含まれます。しかし、今は残念ながら時期早々ですので、暫定的に国連の代表を選び、それなりの権限を持たせます。
これは、ここにいる各国からと、さらに選んだその半分の数の国すなわち4か国を加えた12か国が、国連政府要員を出し国連政府としての運営をします。現在の職員については審査をして適任のものは残します。今は非常時かつ過渡期ということで、この8か国の強権で押し切りましょう。
最終的には選挙で選ばれた国連、さらに将来的には政府にするべきです。地球防衛軍はすでに結成されていますが、これは、国連が動かすのが本来でありますので、その指揮下に置きましょう。なお、今後植民惑星の開発は急ピッチで進めますので、地球全体のGDPは上向いてくるものと思いますが、なんとか少数の富むものにさらに富が集まるという傾向は歯止めしたいものです。
それにつけても、今後地球が銀河宇宙にデビューするとき需要なのは人材です。すなわち教育が極めて重要になります。
日本では最近、頭脳の発達を促す処方が開発されており、幼児からその処方を開始しています。この方法を開示しますので、皆さんの国への適用はもちろんのこと、途上国へのこの方法の普及を国連の手で進めてほしいとおもっています。
しかし、まず国連改革で行うべきは現執行部の解任です。それからその総長という名はやめてほしいのですが、代表は途上国出身という制限をなくして適任者を選んでほしいと考えています」
基本的には日本の案は受け入れられた。空席になった中国を除いた国連の常任理事国がすべてそろっての賛成であるので、それをベースにアメリカが実際のアクションを実施することになった。何しろ国連本部はアメリカのニューヨークにあるのだから。
なおこの会議は、マスコミは完全にシャットアウトしている。ガキゾミ帝国、シリンク帝国等の情報は、人々の反応を見つつだんだんに開示してくことになっている。
順平は、食事のあと会場の中を麗奈と一緒に歩いている。
突然金髪の女性が立ちふさがり、「あなたね。順平というのは。2000億もの知的生物を皆殺しにしようとしている。すぐやめなさい」と掴みかかってくる。
順平はとっさに、合気道の技で手首の関節を極めた。「いたい、いたい、この野蛮人」と女は叫ぶが、
そこに、なにやら叫びながら、老年にかかった女性が「やめて、私の娘なの」と順平に哀願する。
フランス大使だ。
順平は腕を離したところ女性なおも言いつのる。「野蛮人、虐殺者、これだから日本人はーーー」さらに、言おうとしたところ、麗奈が何やらまくしたてる。
後で本人の話によると、こう言ったらしい。
「ノータリン!何もできずちやほやされて甘やかされて育った甘ちゃんが。お前らの先祖が植民地で何をしたのか知らないのか。人のことをがたがた偉そうに言えた筋合いか。国に帰って泣いていろ。そこのおばちゃん、外交官だったらバカ娘の抑えくらいはちゃんとしろ」
4歳の子から自国語でまくしたてられて、2人がぽかんとしている。そこにあわてて、数人のフランス人と思しき男性がやってくる。
「どうした。これは」一人はフランスの外務大臣だ。
大使がしどろもどろで説明するが、「説明がおかしいわよ。一方的にそこのバカ娘が突っかかってきたのよ。フランスはシリンク帝国とは融和してやっていくわけね」麗奈がなおもいう。
「大体、何を考えているのよ。順平が進んで今回の作戦をやろうとしていると思うの?何もできないものが、えらそうに何を考えているのよ」
大使の娘はがたがた震え始めた。
順平が英語で大使に言う。「あなたはこの作戦に反対なわけですね。けがわらしいと考えている。それを娘さんに言って、娘さんが正義を行うために僕に迫ったということですね。それはフランス国家としての意図ですか?」
「いや、決してそうではない。そんなことはない。我々は君の作戦しかありえないことは理解している。それがフランスとしての国の方針だ。ソファイア!君は直ちに帰国したまえ。後任は送る。当然かならず娘もだ。大体どういう資格で娘を連れてきた?」外務大臣が言う。
「え、ええ、私の随員としてーーーー」
「まあ、いい!とりあえず大使館に引き上げて、私を待ちなさい」
外務大臣が順平を向いて、「お詫びする。すこし、彼女は不安定なところがあってこのようになったが、今後はこのようなことのないようにする」
「まあ、いいですよ。しかし、おかげで普通の人の反応というものがわかりましたよ。とりわけ過去有色人種を人扱いにせず扱ってきた割にそのことを忘れて、人権、人権とさも神聖なことのごとくいう白人のね。
はっきり言いますが、僕は先ほどの件は大変不愉快です。何もしない人に限って偉そうに評論する。私も今回の計画は出来れば実施したくはありません。しかし、地球の未来のためには必要だと思うからやっています。それからーーー」
そこに財務大臣の蓑田が割って入る、「まあ、順平君そのくらいで。外務大臣、順平君の彼の言う通り、彼はやりたくてやっているわけではないのです。本来であれば、我々大人がちゃんとやるべきであるところを、彼しかいないのです。私は、大変申し訳なく思っています。なお、念を押しておきますが、あの母娘は危ないですよ。マスコミなどに現時点であの娘の調子でアナウンスされたら、おわかりですね大臣?」
「は、はい。その辺は押さえます。ちょっと失礼して。ムッシュ順平大変失礼した」
とそそくさと去っていった。
会議はその日で終了したが、実務部隊は特に戦闘艦の建造の具体的な準備方法を掌握するためさらに3日残って様々な会合を行った。
国連の事務局が、事務総長以下解体されたのはその2週間後であった。ワタリヤ前事務総長はそれでも醜く椅子にしがみつこうとし、マスコミを抱き込もうとしたが、すでに無能ぶりが知れ渡っており、さらに金銭面のスキャンダルも飛び出して、解任は当然ということになった。
その後、常任理事国に日本、ドイツ、カナダ、イタリアを加えた有力国が職員を送り込み、新組織を立ち上げた。新代表は、アメリカから元国務長官のジョン・リザートが就任した。
地球防衛軍は新国連の指揮下に入ったが、作戦行動は自主性をもっている。また不文律として、中央研究所の吉川順平所長にはその指揮は及ばず、基本的には防衛軍および新国連は彼の意見を尊重しなけれなならない。なぜなら、星界にまたがる様々な事象を把握して、それをもとに判断できる人間は彼しかいないからである。
前回の会議でG7のうちイタリアを忘れましたので、さかのぼって訂正します