シリンク帝国への挑戦1
強大なシリンク帝国へ、挑戦の口火を切ったのは意外にも……
なにか、コンピュータに向かう前はどういう風に書くか迷うのですが、あまりかんがえなくても進んでいくのですよ。
作者が思わぬ方向に進む場合もありますが。昨日みたいに。
すみません。単位を間違えました。
メガの次はギガですね。
訂正しました。
順平は、章一を伴って自分の家に帰った。
途中あちこちに端末で連絡を取っている。彼の家は、マンション形式の1区画であり、5LDKで広いが、両親としばしば子供たちが来てお祖母ちゃんである洋子と泊まるのでそう余裕があるわけではない。
ドアを開けると、母の洋子が出てきて、「あら、順平!どうしたの、今遠くの調査に行っているはずでしょう?」と尋ねる。
「うん、ちょっといろいろあってね。父さんは?」
「いるわよ。珍しく早く帰ってきて。あら章一さんも。まあ上がって」
と、畳の応接室に招く。これは父正人の趣味だ。
「母さん、いま、牧村先生と(長女と次男の母親の朝比奈)さより、(長男と3女の母親の西田)すみれ、(次女の母親の西脇)みのり、と子供だけど(長女の)麗奈と(長男の)やまとを呼んでいる。少し話したいことがあるので母さん、父さんにも聞いてほしい」座る前に順平が母に言う。
「まあ、まあ、どうしたの?」といううちに、「こんばんは」と次々に人が入ってくる。
4歳の長女の麗奈が「お父さん。こんばんは」かわいく挨拶をするが、眼を見ればその現れている知性は幼児のものではない。
「お父さん、こんばんは」同じ4歳の長男のやまとも挨拶するがこちらはそれなりに無邪気だ。
父正人も入ってきて、「おお、どうした。順平お前は、そのリネン星だったか、そこに行かなかったのか?」というが、
「今から説明するよ」という言葉に父は座卓につく。
とするうち、「こんばんは」と牧村の声がして、洋子が「あらあら、先生、夜分お呼びだてしてすみませんね」と案内してくる。
全員は座卓に面しては座れないが、総勢10人で和室でなければ入れないところだ。
順平が皆を向いて話を始める。
「この時間になって急に呼び出して申し訳ありません。大変重大なことがわかったのでとりあえずこのメンバーには聞いてもらいたいと思って来て頂きました」
さらに麗奈とやまとを見て言う。「お前たちもわかると思ったのできてもらった。たぶん、大きな部分は将来長く尾を引くので、結局お前たちが背負うことになるから」
あらためて、皆を見る。
「僕が、リネン人の星系に調査に行ったのはご存知だと思います。その結果いろんなことがわかりました。その一環で、リネン人の恒星系の第6惑星の11番目の衛星から、12時間前に出発して1時間前に新やまとに帰ってきました」
「ええ、そんな!」と皆が言うなかで牧村は「そうか、空間制御の技術を持つものと出会ったか」と一人いう。
そこで、順平はリネン人とコンタクトしたこと、アーマル星を滅ぼしたガキゾミ帝国のことがわかったこと、さらにリネン人の示唆で第6惑星の11番目の衛星に行ったこと、そこで塔モノレスに導かれ13進法の暗号を解いてモノレスに入ったこと、さらに“導くもの”ラリムに出会い、かれが地球人類(日本人?)を導くことを承知したことを語った。
「ここまでは、ハッピーなことで良かった良かったなのですが、問題は銀河系のこのセクターで今起きている危機なんだ」
順平は続けて、シリンク帝国のことを、その巨大な規模、多くの種族を隷属させていること、極めて残虐な統治であること、進んだテクノロジー、巨大な軍備から推定されるあまりに巨大な国力を説明した。
そのあと、銀河中央には知性体3万が参加する連合があることも付け加えた。
「現状において、たぶんシリンク帝国のGDPは地球の3桁上をいくんじゃないかな。しかもその経済力のかなりの部分を軍事力に割いている。こうした場合、軍事力はGDPにおおむね比例するから、どこからどうやってもまともにぶつかれば負けるね。
しかも問題は、すでに彼らの版図は新やまとから230光年まで迫っているうえ、かれらはかなり系統的に調査隊を送り出しているらしい。幸い、その主力は恒星の密度の高い銀河中心部に向かっているようだけどね。また、いま地球の存在が見つかっても、かれらの版図から外れすぎているので遠征してくるかどうかは疑問ではあるがね。しかし、近くに間違いなく地球が束にかかってもかなわない敵がいて、さらにそれが会えば敵になること間違いないという相手であるというのは最悪だ」
しばらく、話のあまりのスケールに沈黙が下りるが、牧村が科学者らしく論理的に話始める。
「一つ言えることは、テクノロジー等の条件が一緒なら、GDPが人口に比例するとして、仮に相手の人口に変化がない、地球に人口の増加率が2%としてとしてもGDPが追いつくまで、150年間を要するね。
まあ、その間に相手も増えるから、追いつくのは不可能だろうし、たぶんシリンク族というのは人口増加率が極めて高いのだろうね」
『うむ、人口増加率は大体年5%になる』とラリムが順平に教える。
「ラリムの情報だと増加率5%だというのですよ、これは放置したらだめだよ。それこそ銀河を征服するぞ」順平が言う。
「シリンクの住んでいる惑星を破壊することはできるよ。だけど、戦闘艦隊の主力艦3万が問題ね」麗奈が言う。みな、びっくりして彼女をみる。
それを見返して、「なによ。当然じゃない。空間を制御できるなら、例えば加速するまでもなく、固有速度の違う惑星なり、衛星なりを相手の惑星にぶつける場所に出現させればいいのよ。それに、そこまでするまでもなく、核融合爆弾100ギガトン程度のものでも十分でしょう。相手はたった、300位の数の惑星なんだから」クール麗奈のデビューの瞬間であった。
「でも宇宙艦はそうはいかないよ。動けるし、大体数が多すぎるよ。それに残したら面倒だし」麗奈がさらにいう。
「うん、麗奈の言う通りだ。麗奈も賢くなったな。しかし、そこまでやるのはな」順平がたじたじと言う。
「お父さん、まだ若いのにひよったね。論理的に見て最善の道すなわち、味方の損失が最小でもっとも資源を使わない方法と言えばこれしかないでしょう。おなじ戦闘艦をそろえて艦隊決戦なんて冗談じゃないわ」
「それに」みなをにらむように見て言う。「お父さんのいう通りよ。このシリンクはほっておいてはだめよ。銀河全体がかれらに食いつくされるわ。その前に、いま手に負えるうちに滅ぼすしかない。そう思わない?そして、方法はあるよ。“導くもの”のおかげで」
皆が黙り込む。
「そうだ。麗奈のいう通りだ。僕は逃げていた。一つの種族を滅ぼすという決断から、2000億の知的生物を殲滅するという、それしかない結論から」順平が静かに言う。
「腹は決まった。明日から準備だ。今日は、お茶の日でなにか食べようよ。あ、お父さんと牧村先生はお酒だね」
順平が明るく言った。大人はビール、子供はお茶かジュースで、夕食に用意していた食事をとるもの、お菓子などを食べるものがいて、やはり話題は順平の今度の旅のことで、詳しい話を皆からせがまれた。
翌朝、順平と章一それに母の朝比奈さよりに連れられた麗奈が牧村の部屋である真珠大学の副学長室に集まっている。
「とりあえず、今後の方針を話し合っておきたいので、全体の話を知っている皆にここに集まってもらいました」順平が口火を切る。
「まず、この場合、ラリムに来てもらいましょう。ラリム?」
ラリムがいつもの老人の姿で現れて隅に座る。
「まず、整理をすると、最優先のことは対シリンク帝国の方策、これは結局彼らを滅ぼす計画を策定して実行するということだよね」順平が始める。
みながうなずくが、“さより”は躊躇いがちである。
「まず、このメンバーのみでは何も決められないことは明らかですよね。
したがって、いまからどういう道筋で話を通していくか暫定的に決めておきたい。まずは軍事関係、森下司令官は1週間後に帰ってくるので、本格的にはその後だね。この場合は、残念ながら工業生産力ほぼゼロの新やまとには新装備などの製造は無理だから、地球が中心になる。
だから、早急に地球にいってやまと社に状況を説明して、すぐにも生産体制を整えておく必要があります。これは、森下さんが帰るのを待ってはおられないでしょう。つくるものの設計とその位置づけについては今日・明日中に大体のことは僕とラリムでやっておきます。牧村先生?」さらに順平の言葉だ。
「うん、新やまとで説明しておかなくてはならないのは西脇知事と山村学長だね。僕が説明しておくよ。また、地球には私も一緒に行って、山戸理事長にまずあった方がいいと思う。たぶん、首相辺りまで話をする必要があると思う」牧村が引き取る。
「そうです、その通りです。それはお願いします。
それから、僕の考えている大まかな対シリンク帝国の枠をお話しておきます。まず、最も需要なのは情報です。すべてのシリンク族の居住惑星の位置、人口、経済力、軍事力等の他、もっている艦隊などなどは、ラリムの協力でラーナにデータベースを作らせましょう。
麗奈が言った艦艇も追跡できれば破壊はたやすい。中に爆弾を出現させてやればいい」順平が続ける。
「うむ、わかった」ラリムが頷きさらに付け加える。「しかし、ラーナはちょっと能力が足らんの、わしが少し能力を上げておこう」
さらに順平が続ける。「加えて、被征服種族で反抗する余地のある者はいないか、侵攻が迫っている種族はいないかも同様にデータベースとコンタクトが必要です。このコンタクトは環境のこともあるので、ロボットを極力使って、場合によってはアンモニア呼吸生物への折衝はリネン人にお願いしましょう。
さらに、銀河連合の情報、有力種族とその特徴、力、位置等のデータベースが必要です。いずれにせよ、最終的には連合に加わる方向で動いた方がいいと思いますが、現状の地球のありさまでは土俵に乗らないでしょうから、地球連合的なものの結成と全体の国力というかGDPの大幅な底上げは必要ですね。
その意味では、各国家の力のかさ上げが必要なので資源の面から考えても惑星の植民化にもっと協力が必要でしょうし、技術協力への更なる注力が必要ですね。
現状では、日本、アメリカ、ロシアの強者連合があるので供与した技術を軍事に転用してでの軍事的な挑戦者は出そうもありませんから、地球内部での争いの可能性は低いでしょう。
軍事的な枠組みとしては、数多くの軍隊はいりません。しかし、シリンク族居住惑星は破壊しますが、被征服民の惑星にいるシリンク人の残敵掃討は必要でしょうね。また、そのためにも被征服種族のデータベースとコンタクトが重要です。基本的な兵器は、地球に設置した自動倉庫と転送装置ですね。
100ギガトン爆弾、1ギガトン〜100メガトン爆弾の自動倉庫と送り出しの空間制御装置です。100ギガトン爆弾は惑星の破壊に使い、1ギガトン以下の爆弾は宇宙艦の破壊に使います」
さよりが「なによ。そのギガトン爆弾とは」いうのに牧村が説明する。
「常温核融合で静かな連鎖反応を起こすより爆発という形の激しい反応を起こす方が簡単なんだよ。100ギガトンだと励起装置を小型化して2トン位か?」というのに、
順平が「そうです。そんなものですね」と答える。
「それで、どのくらいの準備期間を考えている?」牧村の質問に、
「2年です。2年あれば、シリンク帝国を滅ぼすシステムが完成します」順平が答え、麗奈がにっこり笑う。
手法は示されますが、実施は次回以降ですね。