導くもの
昨日は、一話後の話を投稿しましてご迷惑をおかけしました。
また、校正時誤って「順平の転校」を大部分消してしまいました。それにつけてもこういうドジをすぐ知らせて頂ける「感想」はありがたいです。
昨日誤ってストックを一つ落としましたので少し短めです。
なかは、思ったより広い。
メッセージと同じ意思伝達で、歓迎されていることがわかる。突然、声が聞こえる。日本語だ。
「ようこそ、モノレスに。ようやく言葉をしゃべるのに必要な情報が集まったのでね。君たちにはこの方がなじみやすいのだろう?」驚いて固まる森下、楽しそうな順平。
「初めまして、あなたの名前は?」順平が聞く。
「わが名は、ラリム。”すべてを知るもの”から創造された“導くもの”だ。そう、君たちの惑星の太陽への公転回数で1万5年にもなるかな。この地に居る」声が答える。
「なにか声だけというのは話しにくいな」順平が言うのに、
「ではこれでどうかね」突然、白い服を着た老人が現れる。節くれだった杖を持っている。
「ははは、僕の記憶の中からいいサンプルを見つけたね。」順平が笑う。
「ところで、”導くもの”とはどういう役目を”すべてを知るもの”から与えられたの?」順平の問いに老人は満足そうに
「うむ、実に理解が早い。ただ、これは言葉では表現が難しい。思念で送ろう」
老人というより、ラリムからイメージが流れ込んでくる。
森下も同じものを受け取っているが、アリスを通じたラーナはどうか。順平が心配するがアリスが「ちゃんと受け取っています」と小声で言う。
”すべてを知る者たち”も若いころはあり、生活をたのしみ、増え、学び、宇宙に飛び出していった。
しかし、知的生物というのものが宇宙には見当たらず、自分たちの知識を磨き、あらゆる研究をあり余る時間でするようになり、実際にその知識の深さ、神羅万象知らざることは無しという存在になってきた。しかし、一面では老いてだんだんと積極性を失って、自らを”すべてを知るもの”と呼ぶようになった。
しかしながら、それらの知識も生かす場というものがなく、むなしさが”すべてを知るもの”をむしばみ始めた。そして、ついにその存在数が減少していき、最後の存在がほろんだのは、ラリムがその命に従って、”すべてを知るもの”の遺産である知識を、若い種族に与えるため、”すべてを知るもの”の故郷を飛び立って間もなくであろう。
すなわち“導くもの”は、”すべてを知るもの”がその長い歴史の中で考案し、調査し、蓄えた知識を、若い種族に与え導く存在なのである。
その知識とは、ということで、さまざまなサンプルが走馬灯のように流れてくる。森下には大部分が理解できないが、順平はすごく食いついている。
長いような短いような時間が過ぎ、順平と森下は我に返った。
順平が言う。「“導くもの”は判ったけれどなんでこんな不便で、どこの知的生物も来ないような場所に1万5千年もいたの?役目を果たせないじゃないか」
ラリムは少しひるんだようだが、反発するように言う。「わしはには距離はあまり関係ないのじゃ。一方で、導くためには、対象の生物に一定の資格が必要なのじゃ。それは、種族に勢いがあるという意味で若いということがまず必要であるし、過度に臆病であっても困る、さらに一定のやさしさ、寛大さも必要だ。
そうした資格をすべてクリヤーして初めて、貴公らが解いた問題に挑むことが許されるのじゃ。しかし、これはある時間内に解く必要があり、これもまた難しい。結局、知性に優れるものは、やさしさ、寛大さに通常欠けており、そうしたものを持っているものは問題を短時間で解ける知性がない、むつかしいもんじゃ。
だいたい、”すべてを知るもの”の条件が厳しすぎるのがいかんのじゃ。わしは、ここにいてもさんざんいろんな種族を調べたのじゃ。しかし規定された資格を満たすものはおらんかった。お前たちが近づいてきたのは知っておった、そしてお前たちが問題に挑むことができることは判っておった。そして、与えた問題さえ解ければと期待した。
本当はお前たちの方法、人工頭脳に解かせるのはインチキじゃ。本来はそっちの小僧が自分で解かなくてはならなかったのじゃ。お前はすぐに解き方に気がついているのだから、本当は自分で解けたであろう?」ラリムは最後に詰問する。
「うん、でも面倒くさいじゃん。ああいう面倒な計算は、人工頭脳を使わなくては。でも結局、合格だったろ?」順平がしれっと言う。
「うむ、解き方がわかって、計算のみを人工頭脳というのは禁じられてはおらんからな。また、わしも今まで6種族を導いてきたが、さらに数千年を待ちたくはなかった」
「よかったじゃん。ラリムも一緒に新やまとへ行こうぜ。このモノレスは宇宙船だろう?たぶん、ジャンプ船だよね」
「う、うむ、なぜわかった」ラリムがまたひるむのに、「さっき様々な知識を披露した時、空間の壁を操作する理論があったでしょう。あれを応用すれば当然空間の壁を破るすなわちジャンプになるし、当然通信にも使えるはずだよね」と順平。
「その通りじゃ。うむ、貴公は楽しみじゃな。その新やまとへ行くとするか。わしも久々にわくわくしてきたぞ。
しかし、そのまえに、貴公たちに言っておかなくてはならんことがある。いま、このメーレン銀河で起きている由々しいことで、貴公たちの種族いや、近隣のすべての種族の存続にかかわる」ラリムが真面目な顔をして言う。
「うん、その話はここにきた僕の仲間全員にも聞いてもらおう。ちょっと待ってほしい。いや待てよ、来る必要はないのか、ラリム。僕の話をあそこに着陸している宇宙艦とこの衛星を周回している宇宙艦の全乗り組み員へつないでほしい。できるかな」順平の頼みに、
「無論じゃ。いつでもいいぞ。お前の映像も送るようにするぞ」ラリムが答える。
順平が普通にしゃべり始める。
「みなさん。順平です。いまから、ラリムという“導くもの”という御大層な自称の爺さんが重要な話をするので聞いてほしい。かれは、数万年の時を生きる、ほとんどの神羅万象に通じる優れた知性であり、僕はその話は非常に重要なことだと思う。たぶん、皆さんは歴史の証人になることになる」
「下げたり、上げたり忙しいことじゃの」ラリムが順平にのみ苦情を言いつつ、始める。
『貴公らも知っての通り、今貴公らがいる恒星系はこのメーレン銀河の輪の端にあり、恒星の密度が極めて低い部分に当たる。この銀河の恒星の数はだいたい3千億個で、多くが中央の厚みが厚い部分にあり、そこでの恒星の密度はこの辺りに比べると一桁高い。
貴公らもガキゾミ帝国のことは知っているようであるが、あれは言ってみればど田舎の村程度の存在で、その支配種族の扱いもまあひどくはない。
ちなみに銀河の直径は10万光年、厚みは中央で1万光年であるが、ここからその中央に向けて1500光年あたり、恒星密度がこの辺りの2倍程度の部分で今、急速に版図を拡大している種族がある。名を「シリンク帝国」と名乗っているが、現状で、600あまりの種族、酸素呼吸生物が400、アンモニア呼吸生物が200を支配下に置いている。
その版図は長径1500光年、短径500光年に達しており、この星から200光年まで迫っている。
問題はその支配体制だ。
シリンク人は、酸素呼吸生物で温暖な気候を好むが、爬虫類から進化した凶暴かつ狡猾な種族であって知能は高い。その人口は大体2000億人程であるが、酸素と水のある惑星約300に居住している。問題は、この人種は他の種族をまったく餌あるいは道具としてしか認識していないことで、実際に被支配種族の200余り、これは酸素呼吸生物であるが、食料として飼われている。また、アンモニア呼吸生物で頭脳の優秀なものは生体頭脳としてその頭脳を使われている。
そのほかには、基本的に被支配種族は、シリンク人に対して物資を供給することで奉仕させられており、その搾取も極めて過酷で、しばしば飢えで多数が死亡しているが、シリンク人としてはその程度の搾取をしないと反乱を起こすということでの政策だ。過去、多くの種族がシリンク人の支配に抵抗したが、すべて圧倒的な戦力で叩きつぶされてきた。また、さからったものはすべて皆殺しにされている。
シリンク族にとってはこうした殺戮は楽しみであるらしい。わしも、今までの長い生のなかで様々な種族を見てきたが、これほど他に害をなし、他に貢献を全くしない種族はいない』
順平が、皆が最も聞きたいであろうことを聞く。
「シリンク帝国はどの程度のテクノロジーの水準で、どの程度の戦力なんでしょうか」
『技術レベルは他の種族から奪った数々の技術を持っているため、また被支配種族の最高の頭脳を生体頭脳として使っているため非常に高い。
貴君らの核融合の技術はすべてものにして活用している。さらに、重力エンジン、時間フィールドによる超光速もしかりだ。さらに、熱線砲として強力な電磁式のものを実用している。君たちの機では、シールドを張ってもひとなでされると破壊されるレベルだ。
こうしたものを備えた艦隊を、かれらは1惑星に1艦体それぞれ主力級100機、補助艦として100機ずつ備えている。すなわち計300艦隊だ。
それぞれ、主力級の大きさは50万トン級で長さは500m、径50mと大型で、主力投射兵装はミサイルで、10km/秒のレールガンが意味のない速度でありひと斉射で10発撃てる。熱線砲が8門、防御用レールガン多数といったところだな。一艦隊が地球あるいは新やまとに襲来しても守り切れないな』
みなは伝えられる内容に唖然としている。
「対抗あるいは抵抗勢力はいないの?」順平が珍しく真剣に言う。
『実はいる。銀河中央部に、知的種族の連合体が形成されており、メーレン連合、まあ銀河連合と呼んでいて、これは約3万の種族が加わっている。この総力はシリンク帝国の10倍では効かないな。しかし、基本的に自分たちの版図を外れた問題については口を出さない。しかし、近年ではシリンクのやり口が知られてきて、だいぶ議論にあがっているようだ。しかし、当然この連合は一枚板ではないから、武力を行使するのはむつかしいだろうな。
だが、有力部族はシリンク帝国をはるかにしのぐ力を持っているから、これを味方につけることで、可能性はある』
「ラリム、あなたはどこからそういう情報を仕入れているの?」順平があきれて聞く。
「われは、“導くもの”で、“すべてを知るもの”を継ぐものぞ」『まあ、空間を操作できれば、情報はどうにでも取れるよ』、ラリムは後半を順平のみに答える。
「空間操作は、シリンク帝国はできないと、あと、その連合は?」順平は更に聞く。
『連合の一部の種族は技術をもっているけれど、秘密にしている。どちらにせよわしのように自由自在には使えん』
「じゃあ、おれたち“導くもの”に導かれる俺たちッてすごい有利じゃん。
どっちにせよ、明日や明後日の話じゃないから、新やまとへ帰ろう。かえってじっくり考えるだな。しかし、“導くもの”ラリムに導かれるのはすごくラッキーだ。
そういうことで、このモノレスで帰ろうよ。1日あれば着くだろう?」順平があっさり言う。
順平と真一は、他を置いたままでモノレスによって12時間で新やまとの午後17時に帰り着いた。
だんだん、話が大きくなってきました。収拾はつくのでしょうか。
どきどき、はらはらです。