加速する新やまとの開発
沢山の人に読んでもらえて、張り切って書けています。
文がつまり過ぎて読みにくいというご指摘があり、前半7話くらいは訂正しました。
また、その趣旨で新しいものは今から訂正します。
日間、週間に加え、月間1位にならせて頂きました。
ありがとうございました。
2026年8月10日新やまと自衛軍の発足式が行われた。
戦闘宇宙艦10機、貨物機5機、旅客船1機の構成であり、宇宙軍は整備部隊を入れて、1200名、陸戦隊800名で合計2千名の構成である。司令官は森下一佐あらため、森下「宙将」にしようとしたのである(順平の陰謀)が、あまりに響きが悪いとの本人の強い拒否によって、新やまと自衛軍少将になった。現在はまだ、本部ビルは部分竣工で使っている。
その横に、やはり作りかけのビルがあり、新やまと自衛軍中央研究所の看板が立っている。所員はいまのところ、吉川順平と狹川章一であるが、新やまと自衛軍の設立頭初からの約束なので、やむを得ないのと、そのビルの工費は順平が出している。ちなみに、順平は幼いころに読んだ本に地球防衛軍の中央研究所の所長と言う主人公が出てきて、その肩書が憧れであったそうだ。
それもあって、今順平はやまと社を通じて地球防衛軍に中央研究所建設をもちかけていて、所長(兼務)の肩書をねだっているようだ。まあ、地球防衛軍も順平が関心を向けてくれるのであれば、全然損はないので乗り気ではある。いまは、新やまとから地球はわずか1日強の飛行なので行き来も楽になっているのだ。
2026年の8月20日、アーマル人の残り96人が新やまとにやってきた。
ラーナ1202号も当然一緒であるし、月に収められていた、アーマル人の遺産のすべてが持ち込まれている。
宇宙港で、アクラ、ミズメ、リナンとキアミの新やまとで約90日を過ごした4人のアーマル人は、下りてきた一行の中に駆け込んでいってもみくちゃになっている。
かれらには、早々にすでに真珠大学の隣に用意された宿舎に引き上げてもらった。アーマル人の家は、基本的には10階建てまでの地球人から見てのあまり変哲のないアパート形式のもので、その代わりビルの周辺には緑をたっぷりとるような建物であるのが一般であった。そこで、用意したものは5階建てのすべて個室で、4部屋ごとに広めの居間がある作りで、建物の周辺には水系を巡らせた芝生もたっぷりある庭を巡らしている。
また、アーマル星まではるばる片道45日の旅をしてくれた、おおぞらの副長以下旅客船新やまと102号の乗員には知事、森下少将他が出迎え、その労をねぎらった。
順平はアーマル人の遺産に好奇心満々であった。内容は、ラーナから大体のことは聞いているが、絵画、彫刻および地球にはない立体モジュール等であるらしい。それに、むろん歌もあるが、これはすでにアクラたちが録音媒体を持ってきていて、ちょくちょく聞かせてもらっているが、素晴らしいとしか言いようがないほどすごくいいものである。
だから、ほかのものも大いに期待できる。この期待は、順平のみでなく大学の芸術系の教員・学生すべてであり、これをどう展示するかで喧々諤々の議論が起きている。その移動および展示の総監督は美術学部の学部長である、横山鉄幹教授・学部長が無理矢理その役について、なかなか他の人は口が出せない状態になっている。
美術品の搬出と大学への移動に2日を要したが、大学の真新しい大ホール(目的は会議場なのだが)当面持ってきたものを見られるようにするということで、さまざまな作品を並べている。もってきたものは、ラーナからの指示でアリスおよびその同型2体が、配置を指示したり据え付けを実施したりしている。
横山教授は、もう総監督と言う自分の立場は忘れて、作品の周りをぐるぐる回って、すでにそのこころは作品の世界に浸っている。芸術には素養がないと自任する狭山章一も、並べられた作品には心を奪われずにいられない。とりわけ絵画、そしてよくわからない立体の動くモジュール。それを見ていると、なにかすがすがしいとか、さわやか、あるいは暖かいとかの感情がわいてきて、目が離せなくなるのだ。
さすがに順平は冷静で、学長の山村に言う。「先生、これはやばいですよ。たぶん地球における最高の傑作のレベルを超えています。これは、もし売るということになれば大変なことになります」
一目見た、山村も同意せざるを得ない。「しかし、これは是非人々に見てほしいな。これは、まさにアーマルと言う種族のエッセンスだ。ぜひ、公開してもらえるようにアーマル人の人々に頼もう」
この件でアクラたちと話し合った。横山教授は今の調子では、しばらくはその心は地上に降りてこれそうもないので、話し合いからオミットしている。
「アクラ君、あの作品群は君たちにとってはどういうものなのか」山村が聞く。
「あれは、私たちの国宝?そういうものです。たぶんもう二度と作れないもので、私たちにとっても誇りであり、私たち民族の宝です」アクラが答える。
「うん、そうだろう。私たち地球人の作ったものにも素晴らしいものはあり、人はそれに感動するが、あれらもそういうものだと感じる。
それでね、あれを人々に見せてやってほしいんだ。特別な美術館、これは作品が劣化しないのように最高の設備をそなえるよ。これを作るのでそこで展示して人々に公開してほしい。むろん、これは料金を取るべきだ。たぶんこのお金はそう小さいものではないと思うよ。
あと、現在新やまとにはわずか30万人程度の人しかいないけど、地球の人々に見せられればいいと思っている。どうだろうか」
山村がアクラ以下にたずねる。
アクラたちは、お互いに手を上げた了解のしぐさをする。「ええ、かまいませんよ。私たちも一緒に暮らす人々に私たちアーマル人の誇りを見てほしいという気持ちはあります」
この話を受けて、新やまとに美術館を作ることになり、早速設計に入ったが、完成はどう見ても1年後になる。その間、地球に送って見せることになった。
そのため、すべての作品を写真およびビデオともにカタログ化して、やまと社に託し世界の美術界に公開した。これは、すさまじい効果を現した。これらの映像は、世界中のあらゆるメディアに、毎日のように露出し感動を呼び、さらにその本物が見られるというので世界の美術館に公開の権利の争奪戦が起きた。結局、作品を3ブロックに分け、1年間に各美術館で1カ月づつ公開することになり、世界の36の美術館が公開の権利を得た。これらの美術館は公開の期間中すべて満員になった。
また、美術品の公開に合わせて、アーマル人の男女3人ずつが公開する美術館を担当し、それぞれの美術館のある都市での友好の集いに参加し、滅びた美しい世界、このように素晴らしい美術品をを生み出した世界、これを復活させようと努力する若者の姿は人々の大きな共感を得た。
これらの美術品は、現在新やまとに建設されているアーマル美術館に、最終的に収められることになっている。その完成までの1年間を地球上において巡回で公開しようとするものである。
新やまと開発は加速しつつあった。
地球、新やまとの往復に片道1.5日しか必要としなくなったことは、まだその旅客船および貨物船共に速度アップの改修がおわっていない段階においても、非常に大きい効果を現している。すなわち、運用できる旅客船および貨物船の数が同じであっても、現行のスピードアップ前に荷物の積み下ろし期間を入れて、往復に約28日を要していたものが、8日に短縮できるということは、3.5倍の輸送能力を持つことになる。したがって、当然計画も見直す必要があるのだ。
やまと社では、現在宇宙船のスピードアップを前提とした、開発計画の見直しを行っている。これには、予想をはるかに上回る新やまとへの移住希望者が殺到していることも理由になっている。
このことは、多くが個人として移住するわけでなく、会社として支社をあるいは別会社を設けたいという企業の志向から、当然その社員も移住ということになるものが多い。しかし、結局は各々の会社にとっては新やまとの将来性への期待もあるが、社員の移住志望の高さに動かされている場合が多い。
それに対してのボトルネックは、何といっても輸送能力の限界であり、また現地での住宅の確保である。住宅については、プレハブ工法による建物が極めて洗練されたものになり、さらに基礎工事を入れても、1カ月程度で100室の2DLKのアパート(日本であれば普通マンションと呼ばれるレベルのもの)ができるほどになっており、輸送能力の問題が解決すれば解消する。
旅客船と貨物船は、既存のものは9月15日にはスピードアップの改修が終了する。これが、旅客船が105機であり、貨物船は超大型が30機、通常型が165機となっており、さらに同時期に試運転を終了してかつ当然スピードアップした、旅客船が25機、通常型55機がさらに加わる。
また、これとは別に10月には10万kL積みの油槽船が5機完成して、新やまとから原油を運ぶことになっている。これで年間2千万kL以上の原油が運べるので、日本は地球上の外国から原油を買う必要がなくなったわけだ。
ちなみに、きぼう産油基地はさらなる調査の結果、現在の油井で埋蔵量が9千万トンであり、さらに直近に新しい油層が見つかって、こちらはその数倍の埋蔵量があるとされている。従って、新やまとの現在見つかっている原油埋蔵量のみで、日本と新やまとの化学材料としての用途に対しては、数十年は十分賄えるということになる。
さらに今、資源輸入が準備されつつあるのは、鉱物資源として鉄鉱石、アルミニウム、ニッケル、マンガン、クロム等について、いずれも露天掘りに近い形で採掘できるため、鉱山開発はほぼ終了して、荷揚施設が準備中である。これらすべてについて、今開発されている鉱山のみで日本の需要は十分賄える。
また、農業開発について穀物について、当面コメについては生産の予定はなく、日本が輸入している小麦、トウモロコシを集中的に生産するとしている。
こうした農業生産には降雨量が重要であるが、新やまとの真珠湖周辺は通年の降雨量データはないが、地形および気象について現状までの10カ月程度のデータから、気象予測ソフトで解析した結果は、大体真珠湖周辺で年間1300mm~1500mmであろうと予測されている。しかし、渇水のことも考えて、必要に応じて灌漑も可能な河川沿いの土地を、現状では急ピッチで開発している。
新やまとは、地軸の傾きが地球より小さく15度なので気候変化は小さいが、地球での10月の今は、新やまとでは冬至を1月1日として、月35日から36日(1日は22.5時間である)としての4月に当たる。従って、開発の進んでいる北半球の温帯である真珠市周辺ではいまは春であるので、優先的に農家を受け入れて、種まきを始めている。
ちなみに、小麦は日本だと1haの収量は3-4トンで世界的な標準5トン以上比べ効率が悪いが、ここでは5トン/ha程度は期待できると農業専門家のお墨付きである。今年の作付面積は200km2、すなわち2万haであるので、収量の予定10万トンであり、コメは日本から輸入するので、小麦の消費量を一人100kg/年とすると100万人に対して供給できる。しかし、来年は小麦の耕作面積は1万km2、トウモロコシも同様1万km2を予定しており、収穫後は日本に輸出することになる。
これらの耕作地は、極めて規模が大きく無論機械化もして、地球におけるアメリカやオーストラリアにその効率は勝る。また、日本への輸送費用についてはアメリカやオーストラリアが飛行貨物機の運用で費用が下がっているため、若干高めであるが、現在これらの農業国は戦略的に農業生産物の価格を引き上げようとしており、その影響をまともに受ける日本としては、新やまとからの輸入は非常に価値がある。
さらには、日本の畜産では小規模すぎて、あまりに効率が低いとして畜産農家の誘致の準備が進んでいる。真珠湖周辺では、それほど寒冷にならないため、年間を通じて牧草の栽培が可能で人工飼料の必要がない。加えて、大規模化が容易であるし、戦略的に集荷場、屠畜場などを配置して効率を追求すれば、極めて高効率な畜産業の展開が可能である。
地球上において、畜産もこれもまた、穀物のひっ迫や、水資源の枯渇の中で継続的にその価格が上がっており、これまた新やまとでの高効率な生産が望まれるゆえんである。
また、忘れてはならないのが木材資源であり、のぞみ大陸はその面積の40%の森林があり、手近な真珠湖北岸には手つかずの20万km2を超える広大な大森林があり、調査の結果、木質がヒノキに似ていて十分木材として活用できることが確かめられている。
これについても、環境的に資源が枯渇せず、環境に著しく悪影響を与えない範囲で伐採計画が立てられ、日本に輸出し、かつ新やまとで使用する範囲の木材の採取は問題ないことが確かめられて、すでに伐採が始まっている。これらの木材は、いまのところは乾燥させて3か月後から日本に輸出する予定になっている。
なお、木材も地球では資源の減少に伴い、その伐採は環境に悪影響をあたえることから、年々価格は上昇しているものの一つである。日本の需要量はかって年間7千万m3程度であったが、近年では石油によって生産されるプラスチックに代替が起きており、5千万m3/年程度になっている。この程度の供給は新やまとから容易にできると計算されており、来年にも外国からの輸入が必要なくなるであろう。
加えて、漁業資源であるが、すでに北方・南方で調査がされ、食用に適する魚類について非常に豊かな漁業資源があることがわかっている。貝等の底生の水産物の調査は十分ではないが、現在日本が輸入している年間500万トン程度の漁獲には全く問題はないだろうとされて、すでに北海市(予定地)、南海市(予定地)漁業基地の建設が行われ、試験操業も行われて、真珠市に新鮮な魚が持ち込まれている。
現在、すでに漁業従業員の移住が始まっており、希望して待機している漁民が1万人を超えている。
このように、日本にとって新やまとで採取される非常に豊かな石油、鉱物など地下資源、さらには農林水産資源に加え、最規模かつ効率よく展開できる農畜産業などは、長年の日本人の悩みを吹き飛ばすものであった。この悩みとは、人ばかりいて資源がない。また住む、耕作する土地が狭いなどが結果的に労働時間の割に収入が少ない原因になっていたことである。またこれが、人はいいがこせこせしているとか、スケールが小さいとか言われる原因にもなっていた。
結局、日本がアメリカをはじめとする持てる国々から戦争に追い込まれ、敗戦を経験し、お仕着せの憲法を押し付けられ、みじめな思いをしてものを売ってもらい、買ってもらってやってきたのは、その資源がない、国土が狭いというということがためであった。
しかし、これほどの土地と資源が与えられれば、どれだけ日本人がその能力を発揮して、豊かに暮らせるか、それが、多くの日本人が新やまとを目指す原因であろう。また、その恩恵は新やまとに移った人々より、必要なものがより安く容易に安定的に入手できるようになった、日本に住む人々がより大きいのかもしれない。
しかし、多くの人々は新やまとに行って、新たな大地でチャレンジすることを選ぼうとしている。
やまと社は見直した開発計画を発表したが、それは2026年中に新やまとの計画人口を当初計画の50万人から100万人に増やすというもので、あらゆる生産計画が前倒しになっている。そのための資金需要は、2026年のみで7兆5千億円に達している。
次回から種族Xの探索です。