新やまと防衛軍設立
週間も1位を頂きました。読者の皆さんありがとうございます。
ちょっと防衛軍設立に届いていませんが。
新やまとの開発については、略称やまと社が実施しており、やまと社は日本政府が出資者に入っているとは言っても民間企業である。
一方で、新やまとの所有は日本政府が宣言して、正当に日本政府のものとなっているが国連の事務総長と韓国等数か国が、国連で認めらなければならないと異議を申したててはいる。
しかし、日本政府は国連の許可をもらう必要がある問題でないと一蹴しており、アメリカ以下の有力国も認めている。まあ、国連のいうことを認めれば、アメリカのニューアメリカも同じことであるし、他のロシア以下の領土の分配を受けた国も同様なので認めるわけはないが。
日本は国連の分担金をまだ払っていない。内々には総長のワタリヤが在任の間は払わないと宣言している。したがって、その運営は苦しく、相当職員を処分したがこれも不公平な人事で相当恨みを買って、あちこちでスキャンダルが吹き出している。そんなことで、国連の影響力はどんどん落ちて有力国は相手にしなくなってきた。ワタリヤの任期は、まだ2年あるがどうも彼女が国連をつぶした最後の事務総長ということになりかねない情勢である。
真珠市等の市街の建設は、すべてやまと社が費用を出している。それは、宇宙港を含んで、整地に始まり、街路・公園、雨水排水、動力供給、上下水道、固形廃棄物処理、公共建築物や商業ビル、アパートまでも計画設計から建設すべてを含む。
この莫大な費用はどこから出ているかというと、社の資本金を使っているのであるが、そんなもので足りるわけはなく、市中銀行から巨額の融資をうけていて、市中銀行はその利子で潤うわけである。市中銀行はなぜやまと社に喜んで巨額の金を貸すかというと、その主体の一つである江南大学技術開発公社は、現在年間世界中から年間3兆円超のパテント使用料が入ってきており、年々増えている。これは、現状で大きいのはFR機の建設と発電電力のkWh当たりもので、次いでS型バッテリーとモーターである。さらに、産業系、医療系、民業系と所有した重要かつ商品価値の高いパテントが目白押しで、毎月のように大型の特許使用の契約が結ばれている。
牧原宇宙港は江南大学技術開発公社のほぼ全額出資であり、1兆円近いその費用はすでに全額返済している。
新やまとの開発のうち、商業ビル、アパートは民間に分譲する対象になり、動力供給、上下水道は利用者負担が原則なので建設費も利用者が結局負担することになり、街路・公園、雨水排水、固形廃棄物処理については、通常は地方自治体が税金から建設して税金の中で運用する。これらについては、建設主体のやまと社から自治体にかなり低い価格で譲渡する予定である。
やまと社の目的は早い開発なのである。
このように新やまとの国土は日本国のものであるが、現在新やまとにいる人々は、殆どがやまと社と契約して建設工事にはいっている人員であり、さらにやまと社はこれらの係累の人で新やまとに送り込まれている人へのサービス業を始めるように、資金を融通したりして促している。これは、マーケットであり理髪店、クリーニングや赤ちょうちん等で建設従事の人々がいるところには配置するようにしている。
狭山と松村が行った、川渕町の赤ちょうちんもこのようなやまと社の建設従業員のためを思った準備のおかげである。
こうした新やまとの、今現在の住民は日本国民であるから、政府はその住民サービスを行う義務がある。そこで、西脇知事が任命されたのであるし、真珠市の市役所長も同じく任命された公務員であり、公務員としてのその数は現状で120名である。しかし、行政サービスにそれで足りるわけはなく、雇用されて日本から来たものが250名、これらの人々も移住民候補者としてそれなりに選別されてはいる。
現在、市役所、警察署、消防署、税務署、防衛軍それに加えて各省の駐在員が行政サービスおよび監視?のため新やまとにスタッフを置いている。
今日は、知事の西脇を中心に、「新やまと自衛軍設立準備会」の第1回会合が開かれている。
西脇は選挙で選ばれたわけではなく日本政府に任命されたので、知事と言っても日本国内の他の知事とはその役割や立場は相当異なる。日本政府に任命されたわけではあるが、江南大学技術開発公社の意向が相当にはいっていて、政府のイエスマンではない。
現在新やまとの防衛を担当している日本国防衛軍には当然新やまと自衛軍設立には大きな役割を担ってもらう必要があるが、今日は日本国防衛軍から自衛軍司令官に転籍する森下元おおぞら艦長が出席している。彼は、一旦防衛軍に辞表を出したが、新やまとの防衛を担うためという理由であったことから、同じく日本に帰っていた西脇の根回しもあって、一旦もともと辞令が出て本人が固辞していた一佐に昇進の上、日本国自衛軍の新やまと駐在司令官として、新やまとに家族帯同の上やってきたものである。
また、真珠市警察署長の西村慎吾警視、真珠市役所長両川誠二、消防署長広田慎太郎に加えて、真珠大学学長村山、副学長牧村にさらに順平も出席している。順平の出席には議論があったのであるが、本人の「地球防衛軍ではないけど、新やまと自衛軍には僕は全面的にかむからね。絶対、自衛軍中央研究所の所長は譲らない」などと訳の分からないことを言って、珍しくむきになるのに誰も抵抗できない。
西脇知事が始める。「今日はお忙しい中ご苦労様です。今日は私が司会を勤めさせていただきます。議事録はここにいる私の有能な秘書であり妻の百合子が取らせていただきます」と隣の女性を紹介する。新やまとでは、働ける人はすべて働くという風で、西脇は奥さんを秘書にしているようだ。ここでは、知事が司会をするなど当たり前で誰も驚かない。
「今日は、新やまと防衛軍設立準備会の第1回会合ということで、まず、その設立の趣旨とあるべき姿などを自衛軍の森下一佐からお願いします」
「自衛軍の森下です。私の家族、妻と子供2人も新やまとに連れてきました。私もここに骨を埋める所存です。さて、新やまと自衛軍の目的ははっきりしています。『民を守り、その国土と財産を守る』です。
それにあたっては、与えられた与条件というか脅威があります。この場合は自然災害についてはのぞかせて頂きます。
まず、一つ目はアーマル星を滅ぼした宇宙船団です。これは、技術的には判っている限りにおいては我々が持っているものに劣ります。しかし、その迷いがない襲撃は恐ろしい。
二つ目は我が国は地球の諸国に重力エンジンと超光速飛行の技術を与えました。したがって、これらの国からあるいは海賊化した集団からの襲撃は可能性として考えておく必要があります。
さらに三つ目として、アーマル人を滅ぼした知的生物種族が一ついる以上、それ以外に居ないという保証はないのです。従って我々は自ら持つ武器をさらに磨く必要があります。
一つ目の相手に備えるには、量が必要です。現在、新やまとには”おおぞら”を始め同型艦が全部で3隻います。この3隻で新やまとを守るには相手が10隻である場合が限度でしょう。アーマル星と同様100隻の艦隊が押し寄せたら、たぶん相手は半分の破壊できますが、核爆弾の全部は防げません。
あの数に対抗するには、予備を含めて15機とその乗員最低150名がほしいですね。
二つ目は、今言った数で十分対抗できます。
三つ目は、いかにも情報が足りませんので、判断のしようがありません。これについては別途提案がありますが、現在の知事の問いかけには直接関係ないので後にします」
森下の具体的かつ、説得力のある説明に皆満足したが、
「しかし、足りない12基のおおぞら型機とその乗員はどうしたら調達できるのでしょうか。それと、いつまでに」と山村学長が聞くのに対し山脇知事が答える。
「すでに地球では、新やまと開発計画の山科総監督を通して、手配に入っています。
もともと、宇宙探検を進めて行くと、未知の凶暴な種族にあうことの想定はしていました。これは、政府からも危機管理として、申し入れられたことでもあるのです。従って、おおぞらの発展型の艦、30基が建設にかかっており、すでに艦体はできており、15機は艤装にかかって最終段階にあります。
加えて、例のアーマル星の最後の映像が出回ったのもあって、世界中からおおぞら型の輸出要求がすさまじく、わが国以外に製造ノウハウを持っていないこともあって、50機が一斉に建造にかかっています」
西脇知事が答える。
それに続けて森下が、「一方で運用中のおおぞら型機は20機であり、こちらに3機、探査飛行中のものが5機あります。従って、地球上と言うか日本には12機運用可能なものがあるわけです。さっき言った艤装中のものは1カ月で引き渡しができるので、新やまとには7機が引き渡されます。なお、乗組員の多くは海上防衛軍から配置転換で、十分な数がそろう予定です。それで当面10機が運用できるので、予備機はありませんが当面の手当には十分かと思います。それにつけても、通信が送れないため効率がはなはだ悪いですね」
森下の言葉に、学長の村山が安心したように言う。
「当面の手当は、それでは約40日後だね。アーマル星から残りのアーマル人が着くのがあと大体50日だから、そのまえには10機が揃うわけだ」
「ところで、森下一佐さっき言った提案と言うのは?」西脇知事が尋ねる。
「ええ、例の人工頭脳ラーマが言っていたことに、アーマル人は他の恒星種族と接触があったというのですよ。詳しく聞くと、どうも20年ほどまえに宇宙船が飛来して、星系の巨大衛星に降りて調査していたみたいなのです。アーマル人も宇宙船でその宇宙船の近くまでは行ったらしいのです。しかし、相手は知的生物ではあるのですが、巨大惑星に住み、濃密なアンモニアの大気に住む生物で、何とか例のコミュニケーションの技術で最低限の情報は得たのみらしいのです。位置的には、アーマル星から5光年ほどの位置の星系の巨大惑星を故郷とする種族らしいです。
わたしは、その種族がアーマル星を襲った種族と何か関係があるのではないかと疑っています。したがって、私は今度地球から戦闘宇宙機の補充受けたら、その種族を探して接触しいろいろ聞いてみるべきだと思います」
森下の言葉に、順平が言う。「僕もそれに大賛成。僕もラーナ(人工知能)からその話を聞いてのだけど、その種族ではないにしても、巨大惑星に住む種族がなにか怪しい。それで、今後いま話題になっている巨大惑星の星系に行くには大体58光年ですよね。今、アーマル星に迎えに行っている船が往復で90日で、ちょっとこの距離になると、今の速度ではかったるいんですよ。宇宙船の速度については章一(狭山の息子、真珠大学にいる)に言われて考えていたんですが、ちょっと時間操作に係る操作因子をいじればもっと速度は出せそうです。明日から、少しやってみます。
それからさっき森下さんが言っていた、通信の件は大分むつかしいですね。何光年もの空間を超えて何からのエネルギーを届けなければならないわけですからね。やはり、空間をいじることが必要になるとは思いますが、その理論そのものはラーナが持っていたデータにあるのですが、その可能性があるという程度のものです。
しかし、それができれば、空間の操作ができるわけですから、いわゆるジャンプ飛行なんていうものも可能です。いま、僕がやろうとしている速度の上昇がうまく行ってもたぶん今の10倍程度が限度ですが、このジャンプ飛行の場合は一瞬ですからね」
と、あまり防衛軍とは関係ない話になったが、いずれにせよもし順平のいう速度の上昇が可能であれば、森下の提案する調査は短い時間で済むわけであるので、調査の実施はその結果次第ということになった。また、いずれにせよ現状で3機しかいない戦闘宇宙機を、長期引き抜くわけにはいかないので、出発は新しい戦闘宇宙機が着いてのことになる。
また、その日の会議で、新やまと防衛軍の発足式は、新しい機が着き次第宇宙港で行うことになった。さらに、発足式には間に合わないだろうが、防衛軍の管理棟が、宇宙港の管制塔の近くに作られることになり、現状で宇宙港建設班の事務所の隣のプレハブの事務所を使っていた隊員を喜ばせることになった。
翌日、順平は真珠大学で副学長の牧村、物理学教室の斎藤助教授、機械・電気の大学院生、さらに防衛軍から森下一佐と技術将校を集めて、プロジェクターで超光速システムの説明と改良点は説明している。狭山章一も立ち会っているが、内容はよくわからない。
「だから、いまはこのように、この励起銃によって電磁力と磁力で旋回流をつくることで、いわば場を作って船体範囲の時間を遅らせて超光速を実現しているのだけど、この励起銃のこの要素を強化すれば旋回流の速度が上がって、時間の遅れも大きくなる。つまり速度が上がるわけだ」
順平が言うのに、斎藤が「その場合、励起銃の負荷が上がりますが、出力は大丈夫でしょうかね」と疑問を呈する。
「うん、ちょっと計算してみたけど」エクセルでやった計算式と結果が出てくる。「まあ、安全率1.2でO.K、前が1.5だったから大丈夫だね」と順平。
「そういうことで、この電磁銃のコントロールパネルのこの部品U2331〜U2335をそれぞれ、L433〜L621に交換して、新たにこの基盤を設置して、プログラムを書き換えることになる。部品はあるけど、基盤はこの図の通りに作ってもらわなくてはいけないけど、どのくらいかかりますか」
電子工学部の院生に聞く。
「ええ、この程度でしたら明日のこの時間にはできます」院生が答えるのに、
「じゃあ、明日この時間にここから宇宙港に向けて出発して、“はくうん”ですよね?改修するのは。森下一佐」と順平。
「そうです」と森下一佐が答えるのに、
「現場で組み付けて、試運転までやります。ちなみにプログラミングは僕がやりますから、ええと斎藤さんチェックお願いします」
「ええ、何時ごろできます?」斎藤が問い返す。
「そう15時ですね」と順平。
「まあ、そう複雑なものではないから。でも回路的に正しいかしか、チェックは出来ませんよ」と言う斎藤に対して順平は頷く。
「ええ、もちろん」
「じゃあ、明日は現場で待っています」と森下一佐は目が回ったとばかりに、技術将校の広山3尉を目で促して敬礼して出ていく。
翌日、宇宙港に着床している戦闘宇宙機“はくうん”の開いたデッキの前で、森下一佐が順平一行を待ちながら、艦長の白鳥三佐及び広山一尉としゃべっている。
「森下一佐、本当に今日、改修して試運転までやるんですか」と白鳥に対し、
「うん、改修は間違いない。もうすぐ部品を持って、順平氏一行が来るよ」と答える森下に対して、広山はとんでもないという顔で言う。
「でも、速度が10倍!一日10光年!そのなの簡単にできていいんですか?」
「私も心底そう思いますよ。私は機械屋なので昨日の話はよく分かりませんでしたが、なんですかねあの会議は。たぶん、普通は1年以上かけて、検討して、揉んで、試してようやく試運転ですよ。また、速度を10倍にするような改修が、晩飯を作るくらいの乗りでできていいような気がしません」広山一尉がしみじみ言う。
「おお、きたぞ」たしかに大型のコミュータが近づいてくる。
「おはようございます」順平が元気に飛び出して、
「やあ、今日はお願いします。こちらは艦長さん?」と白鳥に聞く。
「はい、艦長の白鳥三佐です。今日はよろしくお願いします」
と敬礼すると、順平も敬礼していう。「吉川順平以下8名乗艦許可を願います」
白鳥艦長はにやりとして「乗艦を許可します。どうぞお入りください」
うしろから、見ていた一行のうち、洗濯籠みたいな手提げのケージ(本当に洗濯籠)を持った院生が2人続く、牧村や斎藤さらに真一も続く。
電磁銃とコントロールパネルのところに来ると、“はくうん”の機器担当佐良山曹長が待っており、すでに電磁銃は表装のパネルが外されて、コントロールパネルの裏板も外す準備をしている。
「では、電磁銃の改修はお願いします。ええと」三平が院生の一人に指示して、佐良山を向いて言う。
「佐良山曹長です。パネルを外していいですか?」
「お願いします。佐良山曹長さん、それと改修の内容をよく見ておいてください」順平がさらにしゃべりながら始める。
「じゃ、こっちの改修をお願いします。それが終わったらプログラミング済のマイコンを組み込みます」
1時間ほどで後組み立てが終わり、組み立てた2人は互いの仕事をチェックする。
「完了です」2人が順平に報告する。
「ありがとうございます。じゃ、このマイコンの組み込みは佐良山さんお願いします」
「はい」佐良山が、前のマイコンを外して新しいものを組み込む。「完了です」
「では、動作試験からやります。佐良山さん、操作電源だけ生かして自動運転モードで重力エンジンを駆動および超光速飛行に入ってください」順平がいう。
「はい、メインスイッチ断確認、操作電源入り確認、重力エンジンON、リレー動作正常! 次に超光速飛行開始、電磁銃ON、旋回流見地リレーON、超光速状態開始、定常状態確認」
10分ほどかけて、疑似状態のさまざまなセンサーの指示値を入力して超光速状態の定常状態までの操作回路が正常に働くことを確認して、佐良山は満足して振り返った。
「操作回路は、正常に働いています」
「よし、じゃあ、最後にもう一度取り付け状態をチェックしてゆるみなどがないことを確認してください。これは佐良山さんも一緒にお願いします」と順平。
30分くらいかけて念入りにチェックし、カバーを丁寧に閉める。かかった時間は2時間程度だ。
「ちょうど昼ですね。では、昼飯に行きましょうよ。午後は試運転ですね。森下さん、昼飯はおごってくれますよね。そのくらい自衛軍も交際費はもっていますよね」
と順平が森下を見る。
「まあ、昼にしましょう。そこの現場の飯場しかありませんが、いいですね。むろん、そのくらいおごりますよ」森下が、300m程離れた仮設の平屋の建物を指す。
プレハブの建屋に仮設の粗末な机に組み立て椅子の食堂は7割が埋まっているが、佐良山が素早く人数分の席を確保する。
食べ物は、総菜を選んで、ごはんとみそ汁を取るものでセルフサービスであるが、順平も大学で慣れていて違和感がない。
「いやあ、うまい。これは料理のおばちゃんを大学にスカウトしなきゃ」順平が叫ぶが、
「だめですよ、そういうことを言っては、ここに来る人は料理のおばちゃんの値打ちを十分わかっていますからね。ひんしゅくを買うくらいならいいですが、気が荒いのがいますから殴られますよ」佐良山がいたずらっぽく言う。
順平が言うように試運転に反対する理由もなく、午後“はくうん”は新やまとを飛び立ち、例によって黄道面から鉛直方向に飛行し、まず問題なく従来の最高速度1.2光年/日に達し、1時間定常運転を行った後、最高速度に持っていった。結局最高速度は10.2光年/日であることがわかった。地球へは余裕をもって1日半で着くことになる。
次は地球防衛軍です。