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新やまと開発物語2

ランキング空想科学で日間、週間1位になりました。これは読んでいただいている皆さんのおかげです。感謝します。

この開発物語のような話は、皆さんに受けるかどうかわからないのですが、私は土木屋なものですからなじむ話ではあるんですよ。

 翌日、松村たちは、朝8時半に出発して、歩いて5分のオフィスに出勤した。

 ちなみに、新やまとの普通の勤務時間は、朝9時から夕方17時までだ。日本では通常昼休みを除き8時間または、7.5時間の会社が多いが、新やまとでは7時間ということになる。また、新やまとでは時計を地球の24時間で1日のものを持ってくると、毎日時間をずらす必要があるので、現在1日が22.5時間の新やまと用の時計が作られて売られている。

 建物内、街路、オフィスのいろんなところに見やすいように、この時計があって時間がわかるようになっている。そういう意味では、まだ新やまと用の時計を持っていない松村たちのためには便利である。


 オフィスは白っぽい3階建てのプレハブビルの2階であり、階段室は外にあり、そのフロワーは建物全体を占める400m2程度のものであり、一角は会議室として分けられている。ネームプレートに、都市計画グループとある。プレハブではあるが、それほど安っぽい感じはしない。入っていくと、座っていた中年の男性が近づいてくる。


「〇〇設計さん?私は、先発隊の山城といいます。ここに来る設計部隊の世話役ですね。あなたたちの島はここです」


 問いかけに松村たちがうなずくと、窓際にちょうど人数分の机といすが用意されている。

 1つが残り10の机を見渡す位置に置かれているので、その席が松村のもののようである。建物も、椅子も机も真新しいが、全く普通に日本で見かけるスチール製である。電話は用意されていないが、電源も普通にある。


「ええと、電源は100Vです。新やまとではこれらはすべて地球から持ち込んでいるので、変えると輸出仕様になりますからね。電話は、皆さん端末をお持ちなので、当面いらないということで引いていません。インターネットは当然あります。ただ、まだ衛星が足りないので、真珠市とその周辺、そう500km程度の範囲でしか、GPSは当てになりません。トイレは、そこのドアを出て左側です。水はあのように給水機がありますし、一応お茶やコーヒーはインスタントですがおいてありますので、自分で入れて飲んでください。また、あそこに冷蔵庫があるので、適当に使ってください。まあ、なにかあれば聞いてください。私はずっといますから」山城が説明してくれる。


 松村一行がパソコンを出して、仕事の準備をしていると、似たようなグループが来て同じように山城に案内されている。

 9時を過ぎて、総計60人くらいか、大体オフィスが埋まったころ山城が声をかける。


「大体、全チームそろったようなので、ちょっとミーティングをしたいと思います。各社の責任者の方のみこっちの会議室に集まってください」


 責任者が集まってくるが、何人かは国内で打ち合わせをしているのですでに知り合いだ。松村が、会議室に入ると、山城と並んで30歳くらいの作業服を着た、小太りの色の白い男性が立っていた。

 6人の責任者が、会議机を置いた部屋に入ったところでその人が言う。

「皆さん、遠路ご苦労様です。私は、やまと社の真珠市開発室の柳生と申します。この3階にオフィスがあります。今後長いお付き合いになると思いますのでよろしくお願い致します。まず、お座りになってください」


 皆が座ったところで、柳生が「では順次自己紹介と言うことでお願いします。ええと、街路、上下水道、廃棄物、動力供給、公共建築、都市環境の6グループですね。左からお願いします」と促す。


 最初は松村である。「○○設計会社の松村です。上下水道を担当します。現在私を含め11名のチームです。都市計画の一環ということで、すり合わせのために、すでに国内で何人かの方にはお会いしていますがよろしくお願いします」


 このように、順次紹介をし、一般的な注意事項のあと、柳生が締めくくる。

「まず、皆さんは現場をご覧になりたいと思いますが、まず皆でそろって一通りサイトと建設中の現場を見ていただきます。その後は各グループに分れて、必要な調査のための視察をなさってください。視察は、今日の午後一時、昼食後から始め明日一杯となります。よろしいですか?」


 このように、会議は終わった。

 その後、松村とスタッフは関係の深い、街路と、動力供給の島に挨拶に行き、すぐ実質的なすり合わせの作業に入った。


 午後、約60人の設計部隊は反重力エンジン式のバスに乗って、まず宇宙港に出かける。

 全体計画では、宇宙港は4つの高さに分かれて100km2つまり10km×10kmを占める。現状は真珠市から最も近いA区のみが開発されており、整地までは70%程度まで進み、すでに0.5km2程度の範囲でコンクリートスラブが打設されて、さらに打設範囲を広げる準備が始まっている。いま着陸している、旅客船21隻はコンクリートスラブ上に着陸しているが、標準貨物機20機と超大型機2機は整地後砂利を引いた上に着床している。


 さらに、軍用の“おおぞら”型飛翔型護衛艦(最近で戦闘宇宙艦と呼ばれている)も2隻見えるが、これは機体が小さいものあって作りかけの管制塔の近くに着床している。

 現在、コンクリートスラブ、管制塔の他、巨大格納庫が工事中で、さらに、あちこち掘り返してパイプ類が埋められている。その中に、松村たちが日本で設計した上下水道管も入っている。


 予定地の地図を見せられながら、説明を受けるが、全体計画まで含めたその規模には圧倒される。

また、宇宙港は、真珠湖からみれば100mの高台にあって、そこの展望台からは湖を見下ろせるが、240km先の対岸まではかすんで見えないし、まして320kmあるきぼう産油基地のある西岸、580kmある最も遠い東岸まではとても見えない。真珠湖には、遊覧船であろう、2隻の船が桟橋に舫われている。

 重力エンジンが開発される前であれば、荷物の運搬のために多くの船が運用されるところであるが、今や重力エンジン駆動の貨物機が、時間のみならずコスト的にも圧倒的に有利になっている。


 次に一行は、宇宙港のターミナル地区から5km離れた、真珠市へ視察の足を延ばす。しかし、そこは市の宇宙港に近い端であり、そこから南は真珠港までの10kmであり、東および西へはそれぞれさらに10km市域が伸ばされる予定である。しかし、基本的には彼らが今居る位置が市の実質的な中心地、行政、商業地区になる予定であり、かれらの宿およびオフィスもその地区にある。

 現状では、街路の整地が概ね5km×5kmの範囲で済み、1km×2kmの範囲で街路の舗装がほぼ終了し、さらに100棟近くのビルが同時に施工されている。そこに見える人は基本的に監督をしており、実際の作業は沢山の重機と工事用汎用ロボットが行っている。

 ロボットは、昼夜問わず作業が出来るので、非常に工事の進捗早い。様々な工事のうち最も急がれたのは、真珠大学の建物であり、現状で9割近くの進捗であるそうだ。


 工事の進んでいる地区を離れて、真珠湖方面の街区に向かう。現状では主要街路予定の路線に沿って整地されているのみであるが、バスは浮いた状態で進むので全く支障はない。あたりは草原に100mから200mごとに、高さ15m程度で径30m以上に広がった大きな樹がみえる。あの樹木は極力切らないで、町並みに取り込むべく、都市のレイアウトは計画されているとのことを、都市環境の専門家が力説している。

 それにしても、平坦な土地が、湖に向かって10km余りも広がっている光景は日本の狭苦しい世界に住んでいた身としては圧倒される。


 湖岸について、岸辺に形成されている幅50m位の砂浜に踏み込む。細かく粒のそろったきれいな砂で、歩きにくい。

 真珠湖の水は本当にきれいだ。透明度は20mを上回るらしいが、反面で貧栄養湖なので、エサが十分でなく魚は少ないらしい。魚は今、大陸の北に北海市、南に南海市で(どちらも市どころか、いまはただの船着き場だけど、すぐ一大漁業基地にすると張り切っている漁師の人たちがいずれも沢山いるので、近いうちにそうなるであろう。日本人にとって魚は大事だ。)海の魚を取るべく準備がされているので、真珠湖で無理に取らなくてもいいということになっている。大体、魚は海のものに限る(と言う人もいる)。


 松村たち上下水道グループにとって、真珠湖は極めて重要である。これは表面積315千m2もあり、面積370千km2の日本列島の面積の85%にもおよぶ淡水湖であり、そのままで飲める水質である。平均水深は215mにもなるため、容量は68兆m3にもなり、地球には比較するものもない。

 真珠市は、現状のところ20万都市として計画されているが、最終的な計画人口は100万人である。そもそも、それ以上の人口を集める必然性もないという考え方から来るものであり、大きい人口は文化的には有利であるが、反面他都市を犠牲にしてでの話である。


 そこで、真珠市は100万人がゆったり暮らせる街というのがコンセプトであって、街区ごとにはっきりした開発計画と規模が決まっている。

 従って、上下水道施設も管網からなる面的な整備はその都市開発計画に乗せればいいし、真珠湖からの取水計画や上水道・下水道の処理場計画も段階ごとに増設していくという計画になっている。

 実際のところ、真珠湖の今の水質はそのまま十分に飲用に適するものであるが、過去の水質データがないため、その水質が保証の限りではないということから、上水は念のためMFマイクロフィルター膜を通し、塩素滅菌することで、給水することになった。


 また真珠湖の今の水質を劣化させてはならないという強い要求から、下水の処理に関しては極めて高度な処理をすることになっている。

 これは、活性汚泥膜分離法を用い、生物的な処理によって、有機物と、水の中で汚染の原因になる窒素を高度に処理し、かつ凝集剤と言う薬品を使って、窒素と同様に水の汚染の原因になるリンの除去も高度にできるものとして、最後に膜ろ過により高度な処理水にしている。さらに、どうしても下水の処理水に残る色を除去するためにオゾンを使った処理も行うことにしている。

 これは、現在の日本における水処理のレベルを超えたもので、下水の処理水でありながら見かけは真珠湖の水とほとんど差がない状態にまで処理される。

 その日の見学会は真珠湖で終了し、翌朝は、全体計画の都市計画予定地をくまなく回り、さらに見学バスの運転手が、飛行資格を持ったものと交代して、空から改めて視察地を回っていった。これは、松村たちのみならずすべての参加者にきわめて意義深いものとなった。


 その後、松村たちのグループは、現地調査をもとに真珠市の基本設計を終了し、初年度工事分の詳細設計に入ったが、一部は基本設計をベースにすでに施工に入っており、逆に後追いになっているため、当面メンバーうち2名が施工管理に回っている。


 到着以来1カ月過ぎた段階で、前から話のあった、資源開発都市の上下水道施設の計画設計の話が具体化した。これは、石油生産井を中心として、石油化学工場、さらにプラスチック工場が集積している仮称川渕町の設備の現状を見て、将来の整合を計るというものであった。

 川渕町の施設については、日本にいるときに緊急に人が住むようになるために必要ということで、頼まれて松村が2日で施設計画をたて、パッケージタイプの設計と設備リストを作ったものである。

 今回は、実際の建設されたもののチェックと、今後の川渕町 - 将来は市になるだろうが - 現状での人口計画、都市計画等の将来計画を聞いたうえで、その上下水道の基本計画を策定して、直近10年くらいまでの詳細設計までを行うという業務である。

 松村は、渚をつれて空中機(飛行型コミュータがこう呼ばれている)に乗り込み、川渕町に向かった。空中機は、離陸ゾーンから垂直に上昇していくが、宇宙港のコンクリートスラブの工事がだいぶ進んだのがみえる。もう1km四方の打設が済んでいるようだ。


 真珠市から400km離れた、川渕町まで約1時間の飛行である。

 高度を下げていくと、川渕町は真珠湖の東端から10kmほどの内陸で、銀色の油井施設、石油化学プラント及び建設中のプラスチック工場と大変目立つ施設が多い。山際のなだらかな丘を隔てて、これら工場群から反対側に幅20mほどの緩やかに曲がっている川がみえる。あの川が川渕町の由来であろうが、松村はあの川の岸辺に伏流水の取水を狙って井戸を掘るように計画し、その地下水に塩素滅菌のみをして給水するように設計した。

 川渕町はその丘に1km四方程度に街路が刻まれて、ぼつぼつとビルと、規格化された一戸建てがみえる。

 空中機は、街の中で空中機の離着陸用に作られた空き地に、垂直に着陸して、2階建ての変哲のないビルの前に止まった。


「ご苦労様でした。では、私は予定通り明日の16時にここに迎えに来ます」操縦士が言う。


「ここまで、ありがとうございます。ご苦労様でした。では明日よろしくお願い致します」松村が礼をいう。


 松村と渚は、数人が出入りしているビルの玄関を入り、1階のオフィスらしきドアを開けて、あいさつする。「〇〇設計の、松村と申します。行政官の志村さんにお会いしたいのですが」


 中の5人ほどの人のうち、中年の女性が、「はい、伺っています。では、こちらに」と部屋の隅にあるドアを開いて言う。


「志村さん、〇〇設計さんがお見えです」松村と渚も中に入って、40からみの白髪がすでに目立つ、細身の志村に頭を下げて挨拶する。


「初めまして、○○設計の松村と、こちらは渚です。やまと社の柳生さんから言われてまいりました」


「やあ、いらっしゃい。おいで頂いて、ありがとうございます。松村さんが、今のうちの上下水道施設の設計をしていただいたのですよね」


「ええ、日本でやったものです」


「いやあ、短期間で的確にまとめていただいて助かっています。ほとんど、あの図面とスペックの通りにものを手配し施工して、問題なく動いています。まあ、座ってください」

 と会議机を指して自分も座る。


「川の伏流水は、水質が良くて助かっています。揚水試験の結果では日間2万トン程度は問題なくとれそうですね。下水も膜処理プラントで問題なく処理されています。しかし、このたび、都市計画の長・中期計画の大枠ができましたので、その一環で上下水道施設の長・中期計画を立てる必要がありますので、来て頂きました。これが、その計画です」と、50ページくらいの冊子を渡される。


 その後、志村から計画の説明を受け、大体話が終わったあとで、別室で昼食の提供を受けて食べていると、50からみの男がにこにこして入ってくる。


「松村さん、久しぶり。昨日メールを頂いて楽しみでした。3年前に東京でお会いしていらいですよね」


「おお、狭山君!久しぶりだね。元気そうでよかった。それにしても日に焼けたね」


 松村は狭山と、アブダビのプロジェクトで1年間一緒になりそのときに飲み友達になって、東京でちょくちょく会っていた。狭山が、川渕町でプラントの建設をしていたのは知っていて、行くことになったので喜んで連絡をとったものである。


「私は、もう家族が来るというので家をもらっているんですよ。十分広いのでそちらの、渚さんですか、一緒に泊まってくださいよ」狭山が言うが、


「いや、わたしどもは町から宿を予約してもらっていて。私はそっちに泊まります。松村さんは折角だからお世話になったらどうですか」渚が固辞する。


「うん、じゃ、渚はそっちに泊まってもらうかな。いずれにせよ、一杯やろうよ。そういう店はあるのか?」松村が言う。


「うん、まあ、そこそこ食べさせるところはありますよ。じゃ、5時半にこの建物の玄関でいいですか」狭山は一旦帰っていく。


 こうして、松村と、狭山は久闊を温め、何といってもたった1時間の距離にお互いに住むことになるため、今後ちょくちょくあえるのをうれしく思いながら痛飲するのであった。


しばらくは毎日更新できると思います。

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