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新やまと開発物語1

空想科学ランキングの1位が続いています。ありがとうございます。

福島の放射能の問題を書き忘れていたのを気にかけてはいたのですが、ご指摘の方がおられましたので

「建設の開始」および「軌道にのって建設・改革」の2章に書き足しました。

 松村茂樹は今年62歳のエンジニアである。妻と男女2人の子供があるが、子どもはすでに独立し、結婚もして、松村たちの家とは別の都市に住んでいる。

 彼の専門は上下水道施設の設計であり、最近10年間は海外の施設の計画・設計をやってきた。例のエネルギー革命以来、上下水道の分野も設備設計の考え方が様変わりしてきて戸惑うことも多い。

 例えば、目立つところでは省エネへの考え方である。従来は、種々の設備の施設・設備の考え方において省エネを考えるのは最も基本であり、当然のことであった。それは、電気代・燃料代が施設の償却まで含めたコストに占める割合として大体30%は占めていたからであり、省エネ性に優れた設備を設計するは良きエンジニアの資格であった。

 しかし、今や電気代は家庭用でも3円/kW時の時代であり、そのコストは劇的に下がってしまったため、ポンプや様々な機器をガンガン使ってコンパクトで性能がいいもの、すなわち上水道・下水道ともに、浄化した水の質が高いものを目指すようになっている。


 上水道の浄化のかなめになるのはろ過設備であるが、これは初期に開発されたもので細かい砂の層を通してろ過することで、その層の表面に生物が繁殖して色とか臭いとかも高度に除去する緩速ろ過と言うものがある。今でも一部の浄水場では使われているが、欠点は面積が大きく、時々必要な砂のかきとりを人力で行う必要がある点である。

 次に薬品沈殿と、急速濾過の組み合わせであり、凝集剤という薬品で、水に交じっている細かい泥の粒を等を大きくして、まず粗方は沈殿させてその後粗い砂の層でろ過するもので、ろ過層の砂が汚れたら水を逆に噴かして洗う。この場合のろ過池そのものの面積は緩速ろ過の1/10以下である。

 最近までは殆どの浄水場はこの方式を使っていた。

 現在の主流は膜ろ過である。これは、面積当たりのろ過速度は急速濾過よりずっと低いが、円筒型にするなどコンパクト化が容易なので占用面積は小さい。ちょっと前までは省エネということで圧力をかけないで使っていたが、今ではポンプで簡単に安く圧力をかけられるため、ろ過速度も上がっている。

 さらに、石油化学分野が燃料という用途を失ったため、すごい速度で新製品の開発、既存の製品の改善を進めた結果、高分子膜(プラスチックの膜)がどんどん安く、よくなっていった。

 こうした膜にはMFマイクロフィルター膜、UFウルトラフィルター膜、RO(逆浸透)膜等があるが、UF膜は分子量の比較的大きいものやビールスも取れるし、RO膜は海水を淡水にすることができる。UF膜まで使えば、処理した水は極めてきれいになり、病原菌、ビールスの汚染の恐れはない。

 この処理は、通常は凝集剤などの薬品もほとんど使わないし、浄化の結果出てくる泥もすくない。今は大きな面積を占めて、コンリートの槽で処理する方式が主流であるが、近いうちにすべて、建屋の中でこれらの膜を使ったパッケージで処理する方法にすべて変わるだろう。


 一方、下水については、トイレや台所から出てきた汚水を集めて、終末処理場という所で処理している。まず、スクリーンなどで大きなものを取り、汚水は水の中に出てくる微生物を使って処理している。これは、反応槽というコンクリートの槽に、微生物がたくさんいる泥を入れた状態で、空気を吹き込み酸素を与えながら汚水を流すと、微生物が汚物を分解して(食べて)その体を増殖させる。こうして、微生物と処理された水の混合水を沈殿池で分離して、上澄水は処理水となってさらに高度な処理をするかそのまま放流し、分離された汚泥は脱水して、さらに燃やして灰を捨てる。

 近年では、この沈殿池の代わりに膜を使って処理することで、生物の入った汚泥の濃度を高めることができるので、反応槽の効率が良くなり容量を小さくすることができる。

 さらには、膜を使っているので、出てくる水の質が良くなり、沈殿池では時々沈殿がうまく行かなくて、泥水がでることもあるが、そういうことも全くない。


 上下水道の分野に技術は大変進化が遅く、システムがほとんど変わらないが、今のとりわけ膜の多用と主としてポンプの多用は大きな変化である。

 上水は、水を取ってきて処理して配る。下水は、配られた水が汚されて出てくるものを集めて処理して捨てる。そういう役割であるが、上水でのパイプで水を送るという点は変わらない。しかし、従来であれば送る管を小さくすると流速が早くなって、管の抵抗が増えポンプの動力消費が大きくなることから、太めの管を使っていたが、いまでは動力消費は気にしなくていいので、細めの管を使うようになっている。

 下水は原則として、自然流下で集めるので、従来とあまり変わりはない。


 松村は2025年11月、勤めている上下水道設計会社で、今度会社が新やまとの首都真珠市の上下水道施設の計画設計のプロポーザルを出すので、その主任としてまとめるように命じられた。

 ちなみに、現在では、普通の会社では定年は残っているが、法律ですでに65歳定年が決められ、本人の意欲があれば70歳までは雇用するようにということになっている。さらに、いわゆる順平効果で、近年の医学の急速な発達によって、アンチエイジの薬や処方が行き渡ってきた結果、70歳程度までは普通に健康が保てるようになっている。松村は58歳から薬と処方を始めたが、その効果か、ほとんど老いを感じずに来ている。先輩等をみていても、以前にくらべ健康で過ごす人が増えて、医者にかかる人や頻度が減ってきている。


 松村とスタッフは、与えられた地形図や人口等の将来計画を元に、夜遅くまでプロポーザル作成に励んだ。その後、第1次選考で3社が選ばれ、やまと社の東京事務所での担当予定者のヒアリングの結果、松村の会社が選ばれた。松村は、当然責任者で現地に行くことになるが、条件として設計担当者の家族も極力現地にいくこと、というのがあり、妻さちの了解も得ていた。


「まあ、新やまとへ一緒になんて、素敵じゃない。今まで何度もあなたは海外へ長期で行ったけどは、一度も一緒に行ったことがなかったわね。まあ、私も途上国へは正直気が進まなかったけれど、新やまとは日本人ばかりだし、きれいなところだし、気候もいいし、行きたいわ」妻さちが言ったものだ。


「まあ、出発は2月中旬だ、それまでに先発の建設隊が使う図面と設計書を仕上げて渡す必要があるし、日本で基本計画を作ってやまと社の承認をもらう必要があるし、しばらく忙しいよ」気楽に言う妻に、苦笑していう松村だった。


 松村は自分言っていた通りに、ばたばた仕事に追いまくれられていたが、長期両親ともいなくなるということで、娘夫妻と、息子夫妻は2歳になった孫を連れて、正月を含め何度も訪れた。松村も、息子や娘はともかく、孫にしばらく会えないというのは、一緒に遊ぶうち寂しく思うのであった。

 こうして、普段はろくに妻とも話す機会もない状態が続いたが、時間は過ぎていき、明日出発という日になった。やはり、娘夫妻と、孫を連れた息子夫妻がお別れの食事をしている。さちは遅れて出発するので、幼い子供がいることから彼女の手料理で家で食事である。


「父さん、どうも新やまとに行く人は基本的に移住が原則らしいね。だから、家族帯同が原則なんだ」息子の大樹が言う。


「うん、まあ気にいればということなんだけどね。強制ではないよ」松村が答える。


「お父さんはどうなの?またお母さんは?それが第一よ」娘のみちるが言う。


「私は、なるがままよ。お父さんも結構会社を変わったし、いろんなことはあったけど、でも幸せだったと思うわ。なにより、今度の場合はお父さんと一緒に暮らせるのがいいと思うわ。お父さんが、新やまとに留まりたいのであれば、それもまた良しよ。あなたたちにあまり会えなくなるのは寂しいけれど」さちが淡々と言う。


「私は、いまはたぶん最後に手掛けることになる大プロジェクトのことで頭がいっぱいの状態だ。しかし、やはり若かりし頃はSF小説が大好きで、宇宙はあこがれだった。だから、植民星の首都の上下水道を計画して、設計し、施工も管理をやるというのは胸が躍るものがある。また、新やまとでは、新たな新開発都市の計画が目白押しだそうだ。幸い、アンチエイジ治療のおかげで、たぶんあと15年は仕事もそれなりにやれるはずだ。こっちで引退するより、体と頭が続く限り新やまとでやってみたいと正直に思う」松村は静かに言い、付け加える。


「だから、正直、さちがさっきのことを言ってくれて嬉しかった」


「うわ、お惚気ですね」息子の妻の恵がはしゃいで言う。


「実は僕の会社も新やまとに進出を考えているらしいんだ。それで、社員で行きたいものを募っているんだ。そこで、親等ですでに行くメンバーに選ばれている場合、家族は帯同するのが原則だから、ということで旅客船の席をとるプラオリティが高いらしいんだ」大樹が言うのに、さちがやんわり尋ねる。

「それで、あなたはいいけど、恵さんはどうなの?ご家族もおありだから」


「私は行くのに賛成です。息子の吉広の将来のためには絶対いいと思うんですよね。また、うちの家族はほら大家族だから、私一人くらいいなくても、問題ないですよ」恵は明るく答える。


「じゃあ、うちだけか。残るのは」みちるがすねたように言うのに対し、


 夫の総司が、「実はうちの会社も新やまとに工場を作る予定があって、人員を集めているんだよ。これは、大樹君と同じで、お義父さんが先発で現地に行かれるのであれば、やはり私もプライオリティが高くなります」


「ええ!聞いてないよ。そんな話があったの?」みちるが夫を責めるように言う。


「うん、でもみちるは今の編集の仕事に打ち込んでいるだろう?」少したじろいで大樹が返す。


「そうだけど、私くらい有能だったら、どこへ行っても仕事はできるの。決めた!私たちも行こう。で、その場合いつになるの?」みちるはあっさり言う。


「かあさんが、4月で決まっているんだよね。だから、まだ席に余裕があれば、一緒が原則だね」大樹が言い、それに応じてみちるが考えながら言う。

「だったら、今もっている仕事を片付けるのに2か月か、なんとかなるかな」


 松村の歓送会がきっかけで、このように結局のところ、松村の家族は一家をあげてその配偶者ごと新やまとに移ることになってしまった。


 2月17日、松村は家族の見送りを受けて、東京を飛行機で発ち、牧原宇宙基地から新やまとに向けて飛びたった。上下水道設計チームのほかの10人と一緒である。


 11日間の旅の末、新やまとが近づいてくる。

 みな、スクリーンを食い入るように見つめている。地形図及び航空写真では見慣れた地形であるが、実際に近づいてくる生のシーンをみるのでは全く異なる。


「真珠湖は本当に水がきれいだな。水道原水としては良すぎて、なにも処理が要らないんだけどそうもいかないのが困ったものだね」チーム員の渚が言う。


「また、あそこに下水の処理水を流し込むというのは罪悪感を覚えるね。しかし、あそこしかないものね」若手の若松がさらにいう。


 少し薄暗くなるなかで、旅客船は真珠市の宇宙港に着陸し、バスタイプのコミュータが迎えに来ている。案内者が「遠路ご苦労様です。○○設計さんご一行ね。私は案内の安藤です。ええと、11人と、メンバーは間違いないですね」と言うのに、


 松村が答える。「はい間違いありません。私がリーダーの松村です」


「では、まず乗ってください」乗ったところで説明を始める。


「皆さんの宿は、食事つきのまあ、アパートですけど決まっていますので、今から案内します。明日はあなたたちのオフィスに行ってもらいますが、なにせ人の手が足りていませんので、地図を渡しますので、自分で行ってください」安藤の説明だ。


 宇宙港から市内はわずか5km程度なので、10分足らずでそのアパートに到着する。少し暗くなっても目立つ、新しくて白っぽい5階建てのまさにアパート形式だ。


「さあ、着きました。ご苦労様でした。では、アパートの管理人に引き継ぎます」待っていた、細めの女性に引き継ぐ。


「川村さん、じゃ引き継ぎますのでよろしくお願いします。では、皆さんお休みなさい」バスはドアを閉めて去っていく。


 川村さん、40歳くらいの穏やかな感じの女性は、皆を部屋に案内し、一つの部屋でバス、トイレおよび簡易な台所等の一通りの設備の使用方法を教える。各部屋は1Kで一人で暮らすには十分な広さである。


「ご家族がこられる場合は、またその構成によって別のタイプの部屋が割り当てられます。ではごゆっくりお休みください。なお、お酒が欲しいかたは、1階に自動販売機がありますし、おつまみも一緒に売っていますのでご利用ください」川村女史の案内だ。


 松村たち一行は、船内時間が少し新やまとの時間とずれていたのもあって、まだ眠気が来ないため、松村が指示を出す。


「とりあえず、シャワーを浴びようよ。それから、渚、酒とつまみの買い出しに行ってくれ。会社の経費で落とすので遠慮しなくていいぞ。とりあえずこれだけ渡すから足りなければ、立て替えておいてくれ。そこのミーティングルームでやろうよ。今から1時間後な」と、のんべの渚に1万円札を渡す。


 一時間後、皆で集まって飲みながら、主にしゃべりあうのは、降りるときに見た、スクリーンに移った真珠市周辺の美しい景色である。


「住むにはいいところですね。全くごみごみしていないし。なにより空気がきれいなせいかおいしい」


 一人が言うと、また一人は、「新しい街というのは、なにかわくわくするものがあるな。まして、この街の一部ではあるが、俺たちがその能力、配置またスペックを決め、それはずっと残って皆が使ってくれるんだ。技術屋冥利につきるよ」と叫ぶ。


「ところで、松村さん、今度来たのは皆妻帯者で、基本的に妻も子供も4月位に来ることになっていますよね。やまと社の狙いは、新やまとを気に入ってもらって住み着いてもらうということのようですが、会社としてそれにマッチした計画はあるんでしょうか」渚が聞くのに対して松村が答える。


「うん、もし私がここに残るということになれば、私の場合は年でもあるし、会社とプロジェクトベースで契約を結んで、仕事をするということになる。ただ、会社も支社を設立する準備はしているようだよ。

 また、当面真珠市の設計を進行させるのは当然だが、今周辺で開発している資源開発のための町の上下水道の計画設計も追加で入りそうだ。いまは、仮設・仮設でやっているので、将来のことを考えて全体の整合をとってほしいということだ。当分、新やまとでの仕事は切れないよ」

 その晩の宴は、酒とつまみだけのこともあって、1時間たらずでお開きになった。



週末すこし書き溜めて、平日できるだけ1日1話で、なんとか毎日更新は続けられると思います。

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