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新やまと到着

順平はセキュリティ面で安全な新やまとに移ります。

同じ年の友達ができました。

 狭山の家族である母順子、娘のなつめ、息子の章一は2段ベッドが2つある4人部屋に3人が入っている。

 部屋の50インチのスクリーンで地球が遠ざかっていくのを皆で無言で見た後、超光速飛行に入るまでの間、スクリーンで地球遠ざかっている様子を見ながらしばし歓談する。


「結構狭いね。でも1家族でまとまれているからありがたいよ」章一が言う。


「うん、お隣は2家族で2人ずつだからね。でも11日間のみだからね。私は、独身の頃に船のエコノミークラスに乗って2晩過ごしたけど、全くの雑魚寝で今と比べ物にならないわ。その時の部屋と比べると、今の部屋だとたぶん料金が3倍の1等船室くらいね」と順子。


「ところで、吉田のおばあちゃんが泣いたのはちょっとじんと来たね」となつめ。順子の母の吉田みつが、最期の週末に訪れた別れの際にこらえきれず泣き出したのだ。


「お母さんはもともと涙もろい方だったから、でも私の弟の家族が近くに住んでいるし、妹の幸子もちょくちょく顔を出しているから大丈夫よ」と順子が娘を慰める。


「僕は、今の宇宙船はもっとスピードは上がると思うな。たぶん、今はあまり必要性がないのでそんなに速度を上げる開発に熱心ではないけど、すぐ2〜3日で地球との間を行き来できるようになるよ。僕はできるだけ吉田のおばあさんやおじいさんだけでなく、狭山のおばあさんやおじいさんにも会いに行くよ」章一は言う。

 彼の言葉はのちに実現し、地球と新やまと航路はわずか1.5日で結ばれるようになる。


「私も、出来るだけ帰るようにする」なつめも言う


「ありがとうね、章一、なつめ」順子は息子と娘のやさしさに思わず涙がでた。


 超光速飛行が始まって、定常飛行になってから外が全く見えなくなったこともあって、章一は船内を探検に出る。船内の食堂等のキャパシティに全員が一斉使うだけの分がないため、順番に使うことを考え、船内は3つの時間帯に分けられて相互に行き来できないようになっている。5つのフロワーは階段で行き来ができるようになっていて、中がそれぞれに2つに仕切られ、行き来できる範囲が案内図として示されている。

 案内図を見ながら、章一は自分たちの2階から3階上がった最上階にやってきたが、そこは階段の前に小部屋があって、すぐドアになっておりどこにも行けない。


 あきらめて、引き返そうとするとドアが開いて、章一と同じくらいの年恰好の少年が出てくる。身長は、今175cnある17歳の章一と同じくらいで、ほっそりしているがそれなりに筋肉がついている。その顔は世界で最も有名といっても差し支えない。


「吉川順平だ」思わず叫んでしまって、「ごめん、い、いや、すみません」とぺこりと頭を下げる。


 順平は、にこりと笑って言う。「いいよ、気にすることはない。君は?」


「狭山章一と言います。高校2年が終わったところで、父が向こうで仕事をしているものですから。母たちと一緒に乗っています」


「まあ、僕たちは同じ年なんだから、普段の話し方でいいよ。しかし、ここでしゃべるのもなんだから中に入ろう」一緒にドアをくぐる。そこは100m2程度のシンプルな椅子と机が並んだ空間で、数名の男女が座ってなにか話しているが、順平たちが入ってもチラリと見た程度だ。


「それで、章一は高校2年ということは、あっちで学校はどうするんだ?」


「うん、基本は通信教育で、1週間に1回講義に出るという感じかな。それで来年の試験を通れば卒業の資格をもらえるんだ。その後、真珠大学の入試を受けようと思っている」


「そうか、よく思い切って来たな。しかし、真珠大学はレベルが高いからむつかしいぞ」順平は内心で舌をぺろりと出して、真一がひるむだろうと思って言った。


「うん、その点は大丈夫だ。まあ、まず不合格ということはないよ」


「えらい自信だな。章一の成績はいいのか」


「うん。江南大学でも大丈夫とずっと言われてきたよ」


「そうか、なら着いたら真珠大学に来いよ。面白いことを一杯やっているよ。授業をちんたら受けるよりよっぽどためになるぜ。ちなみに、一緒なのは母さんと他に?」


「姉さんが、一緒だ。Y大学の3年なんだけど、農業系の先輩が江南大学の研究室と一緒に調査をするというので、父と一緒に来るということで混ぜてもらうらしい。着いたら、北の方の大森林の調査に行くそうだ」


「おお、あの調査か。あれも面白そうなんだけどちょっと行かしてはくれないな」順平は少し憂鬱そうに言う。


「ところで章一はなにか運動はしているか?」


「うん、父方のおじいちゃんが柔道をやっていて、子供のころから教えられたので学校でもやってはいたし、毎日鍛錬はしている」


「おお、それはいいな。僕も護衛に着いてくれている人から、柔道と合気道を習っている。すこし、やろうぜ。ところで段は持っているのか?」


「うん、2段だ。順平は?」


「僕は昇段試験を受けていない。でも護衛の木山さんの見立てでは2段くらいはもらえるだろうということだ」


「しかし、場所がないだろう」


「あるよ」そう言って順平は部屋の隅のドアをあける。


「無理を言って、畳を引いてもらった。20畳でちょっと狭いけどね」


「いや、十分だよ。じゃ柔道着を取ってくる」


「じゃ、30分後にな。僕の端末の番号はこの通りだ」と端末の番号を入力する。


 部屋に帰って、荷物をごそごそ探って柔道着を取り出すと、机について書き物をしながら見ていたなつめが、「どうしたのよ柔道着なんか」と尋ねる。


「聞いて驚くなよ。いまから吉川順平と決闘だ」


「ええ!何を言っているのよ」なつめが驚いて言い、順子も驚いてみている。


「決闘はうそだけど、順平に会っていまから柔道の練習を一緒にやるのは本当だ。」


「ええ! 吉川順平がこの船に?」


「うん、偶然会ってね。じゃ行ってくる」


「あと3時間で夕食よ。それまでには帰ってきてね」順子の声が追ってくる。


 準備体操を念入りにして、その後打ち込み稽古を行ってから乱取りに入る。

「強い!」章一は思った。章一とて高校2年で2段を取るものはめったにおらず、クラブでも3年を含めても勝てないのは、3年の主将のみであった。しかし、順平は動きが早く、鋭い技を繰り出して来る。その上、時々よくわからない技が出てひやっとさせる。たぶん、合気道の技だ。しかし、『楽しい』。

 夢中になってお互いに技の応酬をしているうちにたちまち2時間を過ぎた。


「そろそろやめようか。疲れた」順平が言う。


「うん。そうだな、疲れた」お互い例をして別れる。


 流れる汗をぬぐい、道着を脱ぎ着かえる。

「明日、また会おうよ。章一はBブロック時間だよね。僕はAブロック時間だから、Bブロック時間の14時でどうかな」


「うんいいよ」


 船内の時間は新やまとに合わせて22.5時間となっており、A、B、C時間それぞれ4時間ずれている。章一が14時の場合、順平は10時になる。

 こうして、章一は順平とその仲間と親しくなっていったが、なつめも連れて行けとうるさく言うので、おそるおそる順平に聞くと、


「いいよ、江南大学と一緒に活動するのなら仲間じゃん」となつめも一緒に順平たちのフラットに来るようになった。


 フラットは最上階の半分を占めており、順平と両親、その子供たちと母親およびベビーシッター、江南大学関係者がおり、総勢100人になるが、通常300人のスペースを占めているので相当広い。章一は結局恐れていた退屈にとらわれることなく、結構張り合いをもって旅を過ごすことができた。また姉のなつめも、一緒に調査に行くチームメンバーと知り合いになり、有意義な時間を過ごすことができた。


 旅客船は、新やまとに近づき、狭山一家はスクリーンでその美しさに感動する。

 地面に近づくと、最近3カ月余りの先発隊及び建設部隊の奮闘のあとが見えてくる。宇宙港は、すでに3km四方程度の整地が済み、そのうち1km四方にはコンクリートスラブが打設されている。さらに、管制塔は形が出来上がり、幅80m長さ200mの巨大な格納庫も1棟が出来上がっている。約5km離れた街に向かって、幅が広い道路があり、街区は1km×2km程度の範囲に街路が巡らされ、建物群が姿を現している。


 さらに、街から10km以上離れて、工場群であろう大きな建物群がみえる。町並みから、10kmほど離れて見下ろす巨大な真珠湖は青く美しい。これら開発されている区域の外周は大きな灌木が散在する草原であり、その緑が美しく映えている。


 船が着陸して、皆地上に降り立つ。端末の指示に従って、手荷物を持ってバスに乗り込む。

 バスは、日本で2年前くらいに切り替わったタイプで、従来のものと形は変わらないが、タイヤが貧弱に見えるタイプであり、走行中はタイヤが地上20cm程度で浮いていて、乗客が乗降するときのみタイヤが着く高さまで車体が地上に降りる。

 これは、反重力を使って浮上・走行しており、実際は空高く舞い上がることもできるが、3次元で航行するには一定のスキルが必要であるし、交通の秩序が守れないので結局もともとの車両と同じように道路を作ってそこを交通することを強制しているし、一定以上上昇できないようにロックがかかっている。

 無論道路を離れて交通できる機種もあるが、操縦には一定の資格を要求している。


 バスは、わずか5kmの道を走って市内に入り、5階建ての宿舎棟に到着する。これは、ビジネスホテル並みのツインの部屋であるため、母の順子となつめが一部屋、章一は一部屋を割り当てられた。宿に、狭山健二の端末のアドレスが届けられており、皆で集まって早速インプットする。


「もしもし」、なつかしい健二の声だ。


「もしもし、健二さん。私、順子よ。子供たちも一緒に無事につきました」と順子。


「よかった。全員一緒に来れるとはよかったね。こっちはいいところだよ。便利とは言えないけど、会社の皆と楽しくやっているよ」


「元気そうでよかった。ちょっと子供たちに替わるわね」順子がなつめに端末を渡す。


「おとうさん、私も来れたわ。でも、真珠市に当面住んで、真珠大学と一緒に調査をする予定になっているのよ。とりあえず、こっちに残るけど近いうちにそちらに行くわ。次は章一に替わるわね」となつめ。


「もしもし、お父さん、もう小型プラントは出来たらしいね。仕事が順調でよかったね。僕は船で吉川順平君に会ってね。友達になった」


「ええ、順平君と!」


「うん、それで、真珠大学に来るようにと誘いがあって、僕も真珠市に残ることにした。詳しくはお母さんに聞いてね、では替わるね」と章一。


 端末が順子に帰ってきてしゃべり始める。「順子よ。明日そちらに行く便があるそうなのでそれで行くわ。私だけだけど。待っていてね。ところで、こっちにはスーパーがあるけど何か買ってほしいものがあるかな」


「うん、たいていのものはあるけど、男ばかりで買いそろえたものだから、気が付いたものがあったら買って来てくれ。1週に2回くらいは真珠市に行く便はあるけどね」と健二。


 その夜、辺りが暗くなる中で、1階の食堂で食事をとりながらの会話である。

「そうすると、なつめは、すぐに先輩と一緒に真珠大学に行くのね」と順子。


「ええ、さっき先輩にも会えたし、出発の時間も打ち合わせました。江南大学の先生たち、同じグループの人たちともう会っていろいろ話を聞いたと言ったら、羨ましがっていたわ」


「章一も真珠大学に行くということでいいのね」


「うん、大学の事務の人にも会って、寮の一室を貸してもらえることになったよ。どのみち、通信教育はどこにいてもいいとして、週1回の講義には真珠市に来なくてはならなかったからね。来週末にでも川渕町だったな、お父さんとお母さんに会いに行くよ」と章一。


「私もね。調査の出発は1カ月後くらいらしいから」なつめも言う。


「じゃあ、私は明日お父さんのところへ行くわ。朝8時の便があるそうよ。荷物も一緒らしいわ」順子が子供たちに言う。


「まだ時間は早いから、今から買い物に行くけど皆来る?」


「うん、行く!おねだりするのも今のうちだからね」これは2人がハモる。


 朝、見送りに来たなつめと章一とともに宿の玄関で川渕町へ行く便を待つ。先に宇宙港の貨物機によって、荷物をピックアップしてくるらしい。


 玄関から、「狭山さん、おられますか?」若い細身の男性が玄関から入ってくる。


「はい、狭山です。よろしくお願いいたします。乗るのは私だけですので」順子が頭を下げる。


「こちらこそよろしく。では行きましょうか」章一が大きな荷物を持ってついていく。


 外には、中型のボックスカーくらいの大きさの空中機が待っている。中には、女性が2人座っている。章一が荷物を後部の荷物入れに入れるが、すでにそこは殆どいっぱいなので少し苦労する。


「あら、柴田さん!今日だったの?ひと便遅れると聞いていたのだけど」それは、狭山の直属の部下の柴田の妻である。まだ、結婚して2年余りで子はいない。


 しかし、話の間空中機を待たせるわけにはいかない。

「じゃあ、母さん」「お母さんそれでは」章一となつめが手を振る。


 順子も手を振り、「じゅあ、お父さんと一緒に待っているわ」


 空中機は浮き上がり、走り出す。やや走って、離陸スペースに入ると垂直浮上に入る。


 操縦士が言う。「では出発します。大体時速400kmですので1時間で川渕町につきます」


 順子たちは、話に戻る。「ええ、欠員が出て一便早めることができるというのでお願いしたんです」柴田初美が言う。


「それと、こちらは、油井チームの山崎さんの奥さんです。さっき乗るときお会いして」40歳くらいの中年の地味な感じの女性である。


「始めまして、狭山順子と申します。まだ小さい町だそうですから。いずれにせよしょっちゅうお会いすることになるでしょうけど。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。山崎良子と申します。」


「ところで、お子さんたちは来られないんですか。」と柴田初美が順子に尋ねる。


「ええ、長女のなつめはY大学の3年なんですが、今度江南大学のチームと一緒に調査に行くらしく、いま準備している真珠大学に滞在することになりまして。

 長男は、なにか吉川順平君と知り合いになって、やはり真珠大学に誘われたそうで」順子が答える。


「ええ!吉川順平君!」


「ええ、一緒の船だったんです。同じ年のせいでしょうか、友達なったとか言って」


「はあ、でも同じ年なら、まだ高校生でしょう?」


「ええ。最後の3年生の授業は通信教育ということなんですが、それだったら真珠大学とに来てもいいということで。」


「はあ。運がいいですね。私も娘がいるのですが、高校2年で私の母にお願いして日本に置いてきました」と山崎良子。


 おしゃべりしてまた地上の景色に見とれているうちに、機は高度を下げ、操縦士が言う。


「皆さん、先の方を見てください。銀色の塔などプラントがみえるでしょう。あれが、油井と化学プラントです。川渕町はもうちょっと山側に町並みがみえるでしょう?」


 たしかに、銀色の塔や機械の塊からかなり離れた山裾に建物が数十棟と周囲の道路がみえる。


「町の手前で案内の人を乗せて、各家に直接お届けします」操縦士が言う。

 街の手前の広場に、車が止まっていて、人が脇に立っている。


 その人は乗り込んできて、「じゃ、まず柴田さんの家から行きます」

 とそれぞれの家に人を下し、荷物もおろしていく。


 順子が2番目の家であり、こじんまりした一戸建ての家に着くと、玄関先に夫の健二が待っていた。うれしそうだ。順子もうれしいのに涙が出る。『子供たちがいなくてよかった』ひそかに思う。


次は、ファーストコンタクトです。

タイトルとあらすじを変えたらいきなり読者が増えてうれしいです。

修正しました。

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