順平の旅立ち
順平が地球を離れます
“ふそう”が発見した新惑星の分配会議(正式名称は開発準備会であるが、みながこう呼んでいる)は、日本で開かれた。
なにしろ、発見された地球型惑星は3つで大体地球よりわずかに小さいもの一つ、やや大きいもの2つであり、一つは少し寒冷で、一つは少し暑いがいずれも人間の生息は可能である。名はまだないので、各惑星の分配を受けたものが合議でつけるのである。
全体での極端に寒冷な地域、砂漠、熱帯雨林等を除いた生息可能な陸地の面積は地球の4倍ということで参加国の期待は大きい。
それよりも期待が大きいのは、重力エンジンによる超光速飛行の技術供与である。まあ正確には超高速船の売却であるが。少なくとも、日本との買収、ローン、援助などにより少なくとも各国とも、1機の宇宙機が持てるのだ。まあ、そうでないと他の太陽系の惑星の大陸などをもらってもしょうがないのであるが。
ロシアはいまのところは日本の主要な友好国ということで、最大の惑星(あとで”ヤール”という名になった)の最大の大陸をもらったが、面積はのぞみ大陸の2倍くらいある。比較的温暖な気候で、資源も豊かである。ロシア代表はにこにこしている。
世界有数の人口密度で、最も貧しい国である、バングラディッシュは日本の忠実な同盟国(とはいえ、いつも日本は援助する側であるが)であるせいか、ロシアと同じ惑星の緑豊かな面積500万km2の亜大陸をもらった。1.6億人の人口をかかえても余裕で収まる。
インドも感心に韓国の誘いに乗らなかったが、13億の人口をかかえるため、2番目に大きな惑星(”アーラ”という名になった)の最大の大陸2千5百万km2をもらった。
というように、だいぶ日本の心証が入っているが、10日間の会議で分配は終わった。
概ねのところは皆満足している模様である。
なお、今回分配を受けなかった国、地域にも日本はひそかに特使を送り、今回の件を反省するなら次に適当な惑星が見つかったときは分配すると告げているので、深刻な争いは起きていない。無論韓国には特使を送っていない。しかし、阿山首相は韓国のみを、のけ者にするわけにはいかないとは思っている。その時は、できるだけ新やまとから遠く、西洋の韓国人と言われるアルメリアの隣の領地にしようと考えている。
突然、北朝鮮が崩壊した。
暴れ放題だった、金正恩がおとなしくなり、日本にミサイルを撃っても無駄ということが判ってそれなりに内政にも力を入れていたが、何せ暴飲暴食の不摂生は体にも悪く、35歳にもならず死んだ。すでに、北朝鮮の国民はピョンヤンに住んでいる貴族を除きほとんどが飢えており、忠誠心などかけらもない。正恩が死んだということが伝わると一斉に韓国国境に向けて押し寄せた。北朝鮮側の兵士も同様に逃げ出し、一方で韓国側の国境警備隊の徴兵された兵士に押し寄せる人々を撃つ度胸はなかった。
数百万の人々はソウルに押し寄せた。その中で北朝鮮側の人で殺されるものもいたが、韓国側にもいる。この地獄の光景はテレビ電波に乗って世界中に広まった。阿山首相はこの光景をテレビで見て「これは、食料が足りなくなるでしょう」と官房長官にたずねる。
「うーん、まず無理ですね。餓死者が莫大に出るでしょう」
「これはほっとけないと思いますが、しかし、我が国には北の2千万人以上を養う食料はない」
首相が言う。
そこに、首相の携帯がなる。「農林の安田ですが」農林水産大臣の安田和彦大臣である。
「はい、阿山です。」
「今の韓国の状態は少なくとも食糧危機は救ってやる必要があるでしょう」安田が言う。
「そうです。何か案がありますか」
「実は、わが省で食力危機に備えてということで、順平君の助けでセルロースのでんぷんへの転換プラントを作ったのです。これは、草とか野菜の茎、木とか葉っぱですとかセルロースならなんでもでんぷんにしてくれるものです。今あるプラントは日産100トンで乾燥重量にして30トンです。しかし、味は付いていないから食べさせるには何らかの工夫が要りますね。」
「ということは、年間の人の主食のコメの場合は250kg/年、乾燥重量だと200Kgですね。プラントの生産量が年間約乾燥重量として9千トンで大体1台で4.5万人分賄えるわけだ。1千万人だったら220台だね。」と数字に強い官房長官が言う。
「その通り、220台あれば1千万人分賄えます。草がそれだけあるかどうかですが」安田大臣が言う。
「動力は?」と官房長官。
「これは動力を馬鹿食いするんですよ。1千kW食いますんで、100台につき10万kW機が1台ですね。」安田大臣に対して、
「よし2台や3台はどうにでもなる。安田さん、220台作るのにどのくらいかかる?」と官房長官。
「ロボットを使えば10日間、1台2億円くらいですね」安田大臣。
「わかった、じゃ安田さん、我が国からでんぷん合成装置を送ると、それは草等のセルロースを材料として1日乾燥重量で30トン加工できる。その電源装置と1千万人分の合成装置を送ることが可能であると。受け入れるか否か。回答を求める。と発表してください。予算は、財務大臣に言って予備費から出してもらいましょう」
韓国の日本大使館は、ソウルのものは廃止したままであり、プサンのみは運用しているが、こちらの正門前に慰安婦像が据えられていて、毎週数十人が集まって日本に対していやがらせをする。日本とほとんど交流もなく、観光客も相当変わり者でないと来ないため大使館もあまり仕事はなく、この本国からの指令に驚いたが、韓国の外務省に連絡する。
一方で、農林大臣は並行して、東京の韓国大使館にも伝達したし、記者会見でも発表したので韓国側が見逃すはずはない。
記者会見の席で農林大臣が発表する。
「まず、韓国が今まで敵であった北朝鮮の人々を受け入れたことに敬意を表します。
現在、食料不足が著しいとのこと、日本から今後の北の併合へのお祝いとして、食料合成装置をお送りします。
これは、一台で一日乾燥重量当たり30トンのでんぷんを主成分とする主食を製造出来るものです。原料は、セルロースであれば何でも良く、草でも稲などの茎でも木材でも結構です。ある程度タンパク質等も含まれ、栄養分としてはほぼコメに等しいと考えていただければ結構です。
北朝鮮の人口が2千3百万人と言われれていますが、いくら何でも半分程度の供給は出来るでしょうから、乾燥重量で一人年間250kgとして計算して、1千万人分の装置を無償供与します。従って、供与する装置は220台になりますが、1台1000kWの電力を消費しますので、電力供給装置として、3機の10万kWのFR機も一緒に供与します」
質疑の中で、「額としてどのくらいのものになるのでしょうか」という質問にと安田大臣が答える。
「でんぷん製造装置が1台20億円(本当は売り値3億位)で4,400億円さらに電源装置が1台が30億円(標準の海外売り値)で合計、大体4500億円程度のものになります。これはあくまで飢えた人々を救うための人道支援ですので、とりあえず政府の予備費から支出しますが、後に予算の承認が必要になります。」
それに対して韓国の記者から、「日本は、北朝鮮の補償金を払っていないので、こんなものでは足りない。少なくとも数兆円の補償が必要だ」という。
それに対しては、立ち会っていた外務省の専門官が「日韓基本条約を読み直してほしいのですが、日本は韓国の強い要望で、北朝鮮を含めた独立の祝い金を支払っています」と突き放す。
韓国大統領キム・ぺギンは正直日本の援助の話を聞いたときは嬉しかった。
正確な量はつかんでいないが間違いなく食料は不足する。草を原料に、年間1千万人分の食料生産ができるのは非常に助かる。北の人民に食料を持たせて自分の家に帰すことができるからである。しかし、北を吸収した時のシナリオはいくつもできているが、いずれも日本から莫大な補償金をむしり取ることが前提になっている。こんな装置の供与でチャラにされてはたまらない。
「それで、日本側はこちらの受け入れの可否を聞いてきるのだな。これで、拒否して餓死者を大量に出したら、わが政府が無能と笑われる。しかし、北の大量の人民の流入による今回の騒ぎの被害は莫大なものだ。日本から補償金を取れる手段はないのか」外務大臣の朴に聞く。
「日本は、一方的な通達として、『装置の供与を受け入れる場合は2週間後に日本の博多港に取りに来るように』というのみで、一切の話し合いに応じようとしていません。日本の我が大使館からの会見要請にも応じません。最近の、国連の決議以来の対韓感情の悪化からすれば無理のない状態と言えないことはないですが」
「ひとごとみたいに言うな!君の読み違いから始まった話だ!」朴の答えに、キムが怒るが、国連決議の件はもともとは彼が言い出したことだ。
「いずれにせよ。受け入れ拒否というシナリオは、今の状況からはあり得ませんが」農林大臣が恐る恐る言う。
「1千万人分で十分ななのか?」キムが聞く。
「ええ、北も必要量の70%程度は確保していますから、十分ですね」
「では、いまの援助では足りないと言え。そんな数では餓死者が出ると。それでもらったものをアフリカにでも売りつけよう」とさらにキム。
「それは、無理かと、日本から正確な北の食料生産高と装置の数の決定根拠が来ています。これ以上の数が欲しいのなら、有償だと」との農林大臣に、
「ええい!そのまま受け入れるしか手がないのか!」と叫ぶ。
2週間後、韓国農林省は貨物船と操作の指導を受ける20人にスタッフを博多港に送り2日後に装備を積み込んで出航した。
おのおの食料をもって、今後の供給の確約をもらって北の人々が自分の家に帰ったのはその1カ月後であった。その後、韓国が世界最貧の北を吸収したことによる経済の落ち込みは20年たっても克服できなかった。なにしろ、北の人々は栄養状態の悪さから身体的に小さく、教育についても長年の洗脳から思考が硬直しており、工場の労働者としても不向きということであるのであるから。
北朝鮮の指導者層が、自分たちのことのみを考えて、数十年世界でも最も極端な独裁政治を行ってきたつけがどれほど大きいか。もっとも、この政治体制は日本が統合前の李氏朝鮮の体制にそっくりではあるが。そういう悲惨な体制に順応できる朝鮮民族だからこそ、この歴史にもまれにみる極端な政治体制が長く続いたのであろうとの日本での分析である。
2月、江南大学技術開発公社の理事長室。
理事長の山戸と副理事長の牧村が話している。
「とんでもない内容であったが、国連の決議に順平君の名前が出るという事態になると、もうちょっと日本というか、地球に置いておけないな。本人も、新やまと行きを望んでいるからね」山戸が口を開く。
「ええ、私もそう思います。私自身も家族から窮屈さを訴えられていますからね」
「しかし、順平君、牧村教授の2枚看板が外れると江南大学への学問的な名声への影響も大きいな」山戸が苦笑する。
「いやいや、すでに昨年、学長の伊藤さんががんの治療法で医学を、吉田理学部長が地震予知と予防で物理学でノーベル賞を取られていますから、十分でしょう。
ちなみに、こんどうちの公社がノーベル賞の向こうを張ってやまと技術賞を創設することになったわけですが、今年から選定をすることになるんですよね」牧村が聞く。
「うん、ノーベル賞は技術の分類がだいぶ古いし、これは技術に特化した賞ということだ。そのため、2千億円の基金を積み立ててあり、その運用で年間大体20億円の賞金、10億円の運営費をまかなう」
「だいぶ注目されているいるようですが、物理、科学、地球物理、宇宙、電気・電子、通信、人工知能、土木・建築、医学、生理学の10分野でしたね。賞金は2億円でしたね」
「うん、複数者受賞が多くなるので1億ではちょっとね」
「審査委員はもう選定されているのですか」
「うん。大体できたが、コンピュータの発達から、論文の評価とな実用の進展とかは統計を活用した定量的な評価値を出すつもりだ。あと、該当者なしの分野も結構あると思うけどレベルに達しないものについては、選ばない」
「ちなみに、新やまとに引っ越すということになると、すこし準備を急ぐ必要があるな。準備は進んでいるようだけど、どんな感じかな」と山戸が聞く。
「真珠市に江南大学の姉妹校としての、真珠大学ができますが、いまあちらに行く院生をピックアップしています。
真珠大学の校舎は、研究室と院生の講義棟は4月末には出来上がります。学部学生の募集は来年からですね。しかし、これは親などが新やまとに行く人でその子弟に関しては他大学からの転入を優先的に認めるということです。
現状では、優先して持っていく学部と科は、理学の、物理学、地球物理、新やまと物理ですがね、それと宇宙。さらに工学部の、機械、電気・電子、土木、建築、化学、さらに農学部の農産、畜産、林産、水産、農業化学、さらに医学部の、内科、外科、生理学科、薬学科ですね。今年中には大学院の受け入れ態勢を作ります。
学長は、工学部の山村先生にお願いしますが、私が副学長ということになりました」今度は牧村が答える。
「うーん、思ったより進んでいるね。ちなみに順平君はいつ行く予定にしているの?」と山戸。
「3月末で考えているようです。5人のこども、長女の麗奈ちゃん、長男のやまと君、次女のすみれちゃん、次男の亮介君、3女のさやかちゃんで、皆母親も一緒ですね」牧村の答えだ。
「ちなみに、僕はあまりすみれちゃんの母親の西脇みのりさんてよく知らないんだけど、医学部で助手をしていた女性だよね」さらに山戸が聞く。
「ええ、ドクターは取得しましたので、真珠大学では講師でやってもらうことになっています。彼女は、カタリシスト1級(開発発想セミナーの触媒としての能力検定)を持っています。彼女は、麗奈ちゃんと亮介君の母親の朝比奈すみれさんや、やまと君やさやかちゃんの母親の西田すみれさんたちのような、飛び級を重ねてきた天才ではありませんが、非常に優秀な女性です。伊藤先生のガン治療法の確立にも相当貢献していますよ」牧村が説明する。
「うーん、順平君の周りには優秀で、しかも美しい女性ばかり集まってうらやましい限りだ。それに、朝比奈すみれ、西田すみれの両君は日本にいや世界に10人しかいない特級のカタリシストだし、すでに博士号も取っているし、まあノーベル賞はともかく、やまと賞は将来間違いないだろうね」山戸が笑って言う。
「ちなみに、順平君のご両親はどうするのかな」と再度聞く。
「おかあさんはお孫さんから離れられないということで、いずれにしても一緒ということで、お父さんの正人さんも新やまとに江南メカトロニクスの支社をつくるということになって、その支社長で行かれるそうです。いまや、江南メカトロニクスは従業員1千5百人ですからね」と牧村が答える。
3月25日、牧村一家、順平達、それに偶然にも狭山の家族も同じ旅客船で新やまとに向けて旅立った。
怪獣などを出さないでノーマルにいくと、他の惑星での話は作りにくいのです。
修正しました。