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到着、開発の開始

新やまと到着です。


 狭山は翌日、「15:00に会議室に集まってください、現地での打ち合わせをします。資源開発監督 山田亮介」とのメールをもらい、メールに示している道順に沿って15時5分前に指定の会議室に到着した。


 コの字に並べた机に15席程度の椅子が用意されていて、真ん中に50からみの白髪が目立つ男性が座っており、さらに男性4名と女性1名が座っている。


「石油化学プラント担当の狭山です」声をかけて狭山が座る。


「おくつろぎのところを、お呼びたてして申し訳ありません。資源開発監督の山田亮介です。あと2名来られるので少しお待ちください」

 15時前にさらに男2人が入ってきて、山田が口を開く。


「ご苦労様です。今日はお集まりいただいきましてありがとうございます。それでは点呼をさせていただきます。まず、鉄鉱鉱山の開設担当米山さん」45歳程度の大柄な男性だ。


「石炭採掘所の開設担当今山さん」50歳くらいの中肉中背の白髪混じりの男性だ。


「石油採掘担当の山崎さん」狭山も知っている52歳のベテランだ。


「石油化学プラント担当の狭山さん」狭山も呼ばれる。


「石灰岩採掘所の開設担当の石川さん」比較的若く40歳くらいのがっちりした男性だ。


「砕石所開設の担当の赤井さん」若い35歳くらいのほっそりした男性である。


「ボーキサイト採掘所の開設担当の市丸さん」やせ型の50歳くらいの男性である。


「最後に、植物資源担当の吉田さん」最後に残った小柄な40歳くらいの女性である。それぞれに皆に向かって頭を下げた。


「以上で、今回先発の資源開発担当者の責任者の皆さん8人となります」と山田が言う。


「この中で、狭山さんの石油化学プラントは、実際は工業部門なのですが、採油所と一体に開発する方がいいということで加わってもらっています。

 皆さんは、それぞれ新やまと開発に欠かせない資源開発を担っていただきます。しかし、ほかにも様々な微量金属等の採掘も必要ですし、今後それらの採掘所は開設されます。しかし、これらは使用量が比較的少ないということで、当面は地球から運ぶことにして遅れて開発されます。


 皆さんにはすでに連絡とデータ送付があったと思いますが、担当される資源の鉱山等の位置はすでに特定済です。しかし、植物資源については、現状では木材のみの特定であり、ほかの有価資源はいまからの調査に近いので、近々に江南大学を中心に調査チームが派遣されます。


 また、皆さんはそれぞれ作業チームを率いてこられているわけですが、当然それぞれ汎用作業ロボットとコントロールロボットの割り当てがあり、これもすでに連絡済みのことと思います」皆が頷く。


「さらに、必要なプラントについては、準備が間に合ったチームのものは貨物機で一緒の船団で運んでいるわけです。

 現地では、まだ宿舎等の準備については、基礎工事はある程度できているようですが、上物は出来ておりません。従って、最初の1週間程度はこの旅客機または貨物機を宿舎に使っていただいて、宿舎を作るところから始めるわけですが、皆さんの採掘場は中央基地にある真珠市の400km以内の範囲ではありますが、場所が違いますので、それぞれに宿舎を用意していただくことになります。各チームは、当然お連れになった要員もその作業をやっていただきますが、建設班から援助要員の派遣および輸送機の割り当てがあります。

 これは、お手元の端末に示した通りです。これについてはご意見、要望等はございますか?」


 みな、手元の端末(スマートフォン状のタブレット)を見入っており、なかなか発言はなかったが、

「ええっと、食料はどうなっているのでしょうか」

 一人の質問に、「ああ、それはFPという表示で示されており、携帯食を人数分の100日の分量で配布されます。内容は、国防軍の食事で味は悪くないはずですよ。外国の軍隊からはうらやましがられているようですので。なお、最初皆さんは真珠市に着陸しますが、そこで、マーケットを開きますので食料を含めて嗜好品やほしいと思われる日用品がお買いになれます」との山田の回答である。


 フロアに用意された、3つのミーティングルームの一つで狭山達がミーティングをしている。

「では、ミーティングを始める。皆の端末に我々の班に配分される、建設班、ロボット、重機のリストを送ったので見てくれたと思う。建設班から、10名の建設作業に熟練したスタッフが送られてくる。かれらは、3人が重機担当、これはブルドーザ1台、バックホウ2台、コンパクタ1、コンクリート練機1m3が1台、クラッシャー1台およびダンプ5台でそれぞれオペレータ・ロボットが着く、さらに7人が一般建設作業担当でこの人たちには家屋の組み立てに従事してもらうことになるが、それぞれ作業ロボットを2台割り当てられている。

 そのほかに、我々自身に作業ロボットが一人1台割り当てられている。これは、我々が持ってきている、樹脂製造の8万トンプラントを、一刻も早く組み立てて運用を開始するために優先的な割り当てを与えられたものだ」見渡した9人のメンバーが頷く。


「まず、今回の仕事では問題は、コンクリートプラントがないことだ。セメントはある程度確保しているが、砂の確保、砂利の確保の問題もあり、べた基礎を作るほどの量はない。そこで、すぐ近くに砕石できる山はあるということなので、川砂利などが見つからなければクラッシャーで砂利を作って道路等については砂利敷として鋼管杭基礎とする。鋼管は十分な量を用意しているからね。

 また、油田の位置は知らせてもらっているが、正確な油井の位置はまだ決定されていない。


 周辺の航空写真は、皆の端末にある通りで、現地にいる石油資源担当の篠原さんのおかげで、我々が出発の寸前の便で、航空測量の結果も送られてきている。これも、端末に入っている。幸い、当該地は草原で、樹木があまりないので、測量の結果は殆ど信用できる。いずれにせよ、油井班と調整のうえでサイト位置を決定する必要があるが、これが到着後の最初の仕事だ。しかし、今から10日の間に、概略の配置案は決めておきたい。位置が決まったら、真っ先に取り組むのは、宿舎の建設と並行して荷下ろしだ。貨物機は出来るだけ早く開ける必要があるからね。これは、位置選定と合わせて、5日以内に終えたい」


 さらに、会議は2時間かけて詳細な討議の上終了し、各メンバーはそれぞれ配置案の検討、工程計画の見直し、資材リストの再チェック等を行い、着陸前には現地を見ないデスクワークとしてできる範囲までそれぞれの作業を進めた。


 11日目が来て、アナウンスがあり、近づく新やまとが各部屋に備えられている50インチのスクリーンに映る。

 まさに青い世界だ。上に見える白い極冠が北とすると、東側が昼間であり、ちょうど東側が太陽とほぼ緑に覆われた大陸がみえる。青い海洋と白い雲が輝いている。南側から正面に見えるのは最大の大陸であるきぼう大陸であろう。目的地であるのぞみ大陸は今から明けてくる中央付近に見える。これらの大陸は、雪を頂いた高山および北端の地域があり、砂漠であろう砂の色がみえる地域もあるが、緑に覆われた地域が多い。


 徐々に明けてくるのぞみ大陸は、何度も見た映像の通りである。2千2百万平方kmの面積で、1万km近い長さの陸地の中央に温帯が通っており、全体として過ごしやすい気候であるはずだ。真珠湖がうっすらと見えてきた。31万平方kmの広大な湖である、その北岸に真珠市が建設される。

 狭山はわくわくしてきた。あれはまさにフロンティアだ。いま、あの大陸にはわずか300人しかいないのだ。手つかずの自然が美しいこと!

 この景色を妻の順子に見せてあげたい。今回、ここに来れて本当に良かった思う狭山だった。その景色を背景に、60歳くらいの男性がスクリーンに現れた。


「皆さん、ようこそ新やまとへ、また真珠市へ。

 私は調査部隊の隊長の澤山義彦と申します。皆さんが来るまでに、極力必要な調査を終え、最低限の準備をしようと頑張ったのですが、中途半端なままです。その点はお詫びします。

 しかし、皆さん、新やまとは、とりわけのぞみ大陸はいいところですよ。

 ご覧ください、あの美しい山並みを、また真珠湖の美しさ。

 まもなく皆さんは、着陸されますが、まず外に出て、新やまとの空気を味わってください。そして、周りの景色を見てください。貧しいものですが、私どもが準備した食事もありますので、ともに楽しんでいただければ幸いです。なお、着陸するところはある程度切り開いて、整地はしていますが当然不十分なので足元には気を付けてください。それでは、着陸をお待ちします」


 着陸は、真珠市の都市計画では、宇宙港の予定地である平坦な土地で、真珠湖からは遠い部分になる。大体、1km四方位が荒っぽく切り開かれている。

 まず旅客船が降り、そのあと順次20機の貨物船が降りてくる。

 降りるのは、船の最下層階から45度の階段が5m下の地面までかけられ、最初は下層階の乗員、他は順次船内のエレベーターと階段を使って順序良く降りる。降りたところには、250人ほどの男女が待っている。男が70%程度だ。

 そのあたりに、青いシートが50箇所位ひいてあって、中心には食事らしきものが用意されている。1時間ほどして、3,000人が降り終わったころ、各人が持つ端末から声が聞こえる。


「ようこそ、新やまとへ、十分な量はありませんが、食事と一応アルコールも少しですが準備しました。どうぞシートに座って、お召し上がりください。それぞれのシートに5人ずつ私どもの仲間がおりますので、なんでもお聞きになってください」


 狭山と部下たちが座ったシートには、2人の女性と3人の男性が待っていた。


 狭山は驚いた。おいてある食事はそれほど量もなく、内容も豪華なものではない。しかし、わずか300人で、各々の専門分野において、この世界を調べて調査結果をまとめなくてはならない。これは、並大抵の忙しさではないはずだ。その中でこれだけの準備をするのは、やはり、本当に歓迎するという心が無くては出来ないことだ。


 狭山も仲間もありがたくその貧しい食事と、用意された焼酎を飲んで、和気あいあいと5人の元から滞在している調査メンバーと語らった。また、途中で貨物機の乗員たち200人が来て加わった。その宴の中で、篠原は彼を探して来てくれた、石油資源担当の篠原氏と、とりあえずは仕事以外の様々な話をして、楽しんだ。彼とは、明日、石油採掘担当の山崎氏も交えて打ち合わせが予定されている。

 その日の宴は、2時間ほどで終わり、夕方となったので、ひとまず旅客船に引き上げて休んた。


 翌日、起床時間の7時より早く6時に起きた狭山は外に出て、冷たい空気を思い切り吸った。真珠市の位置は北緯35度であるので、ほぼ日本の地球における緯度と同等であり、温帯に位置するが、今の季節は春の半ばということで2カ月ほどすればだいぶ熱くなるという。

 新やまとでの自転周期は、22.5時間、公転周期は425日であるが、今のところ1日は割り切って22.5時間、1年はその425日として、1カ月は基本的に35日で、1,3,5,7,9月を36日としている。周囲の1km四方は切り開かれて、旅客機が1機、貨物機が20機着陸している。


 夜の間にも、ロボットが貨物を下したのだろう、貨物の大きな山がいくつもできている。また、200mほど離れたところに、店のような仮設の建物ができていて、沢山の段ボールが積み上げられている。

 切り開かれた周辺は、草原に灌木がまばらに生えているという感じであり、緑に包まれて美しい。地形はなだらかであるが、遠くにあまり高くないが山地がみえる。高千穂山地は400kmも離れているので、違う山だろう。広大な真珠湖に対しては今いる所は大分高台になっているので、広大で美しい湖がはっきり見える。

 そうして、ゆっくりあたりを歩いていると、柴田ほかの部下も出てきた。


「狭山さん、外でしたか。今日は、10時から店が開かれるそうですよ。今のうちに買うものを買っておかないと、携帯食一色になってしまいますから、できるだけ買うようにしないと」長身の柴田が言う。


「そうだな。一応端末にどういう商品があるかは、出ていたけど、食品、日用品については会社の経費で買ってもいいので、出来るだけ必要そうなものは買っておいてくれ。ただ、あまり買い占めてほかの人にわたらないようでは困るのでその点は気を付けてほしい。私は、調査をやっていた篠原さん、油井開発の山崎さんと10時から打ち合わせだ。柴田君も一緒に立ちあってくれ。

 そういうことで、買い物は頼むよ」狭山が頼む。


「わかりました。まかしてください。ちなみに、我々の現場への移動は、プラントを積んだ貨物機でという点は変わらないのですね」若手の広田が言う。


「うん、そうだ。ただ、石油掘削機も一緒になっており、貨物庫はほぼいっぱいだぞ」狭山の言葉に、


「はは、わずか400kmの飛行ですから、少々は無理矢理に詰め込めますよ」と広田は言う。


 その日は、篠原、山崎氏との協議の後、協力してくれる建設班の班長とも協議を行い、さらに貨物のチェック、購入品の積み込みなどで一日が済み、翌日午前8時に貨物機で油田位置に向けて出発した。狭山一行10人と、油井開発担当の山崎一行6人および篠原氏も同行している。作業ロボット、および重機は同じ貨物機に載っている。建設班は、別の貨物機でそれぞれの離れた位置の開発班に人員及びロボット、機器類を配送するために遅れて到着する。


 油田の位置には、わずか1時間で到着した。

 地形はなだらかで、植生は真珠市の到着位置と同様に灌木が散在する草原であるため、鉛直に着陸できる貨物機の着陸には問題ない。


 まず、現地の状況を把握するため上空から視察することにして、小型トラック程度の大きさの小型空中機を引っ張り出して、貨物機の乗員の手で操縦する。まず1000m上空から、篠原、山崎氏と、自分の班のスタッフである安道および柴田も一緒に地形を観察する。


 篠原氏が指さしながら説明する。

「油井はあそこの少しくぼんだ位置で掘れば、間違いなく出ます。

 油田の埋蔵量は、5千万トン以上はありますので、石油化学材料のみの消費であれば、数十年は十分使えるでしょう。僭越ながら、化学プラントの用地は500m程度離れますが、東側の平地は広く広がっているところがいいと思いますよ」


 狭山がうなずく。「ええ、私どもも送っていただいた測量図からあの一帯と考えていました。油井の位置も篠原さんが言われた位置でいいなら、当初考えていた位置より近いので助かります。山崎さん、油井の位置は、篠原さんの言われた位置でよろしいのでしょうか」


 山崎は、うなずいて言う。「ええ、私もあの位置だと思っていました」


「ありがとうございます。それから、この一帯には石油化学プラントの他、プラスチック工場その2次製品工場等ができて、最終的にはそれなりの町になるようですが、街の位置としては、工場の位置から西側の丘にかけての位置として、進めてよろしいでしょうか」篠原、山崎を見て狭山が言う。


「ええ。いいんじゃないでしょうか。広さも十分ありそうですし。また、あの丘を越えたところに川が流れていますので余計いいとおもいますよ」篠原が言い、山崎も同意する。


「ありがとうございます。従いまして、当面の宿舎は将来の街の現場に近い位置、あの木があるところあたりにしましょう。そこで、荷下ろしは、まず宿舎の資材をあの位置におろし、次に、油井建設のためのボーリング機と鋼管等をあそこに着陸して下し、その後私どもの用地の位置にプラントの機材を下します。それでよろしいですか?」


 篠原と山崎が同意する。「じゃ、貨物機の近くに降りましょう。柴田君は、安道さんと貨物機に乗り込んで、パイロットに位置を案内してください」


 機が着陸して、柴田、安道が降りた後、狭山はさらに「篠原さん、出来ればこの一帯の様子をもう少し見ておきたいのです。とりわけ、砂利や砂を見つけたいのです。」と篠原に話しかけたところ、山崎も「私どもも探したいですね」と言う。


「うん、河原にあるかもしれませんね。行ってみましょう」


 空中機は再度離陸する。すぐ幅10mほどの川を見つけたが、砂利、砂は見当たらない。


「じゃ、下流に向かいましょう」


 1kmほど下ったところで、地形の勾配が緩くなって、砂や砂利が両岸100m以上に堆積して、500mほど続いている。さきには真珠湖の湖面がみえる。


「これはいい。これだけあれば、当面は大丈夫だ」狭山と、山崎が期せずして言う。


 貨物機20機および旅客機1機は1週間後にはすべて引き上げていった。

 狭山達の現場は、予定されていた建設班も入り順調に建設が進んでいる。2日後には、建設班も含めた宿舎は出来上がり、現在は街が作られる予定地の一部の整地が進んでいる。川の近くに浅井戸が掘られ十分な量の良質な水が得られている。

 排水については、環境を汚染しないことが厳しく要求されていることから、持ってきた小型の膜を使った汚水処理システムが稼働されたので、浄化後の水は少し色がついているが一見飲めそうなほど透明度が高い。1カ月後には、この新都市、とりあえず川渕町と名付けたが、に当面住むスタッフおよび家族、2千家族が住める宿舎、いや住宅と呼びべきであろう、および商店等が完成した。その段階で建設班の応援部隊は真珠市にひきあげた。


 狭山達10人は、どんどん持ってきたプラントの組み立てを進めてきたが、2週間を過ぎるころ、皆で集まって飲む焼酎を眺めて、柴田が「ああ、もう少しで酒も切れるなあ。おれはそれほどでもないが、のんべの広田君は困るだろう」という。


「ふふふ、ははは!私にそこに抜かりはあるものですか。あれほどの資材をもってきて、しかもドンガラばかりのものが多いのにその空間を生かさないなど、ありえない。見よ!」


 安田が、黒い紙パックのケースを取り出す。「あ!焼酎黒霧島。どうしたそれは」柴田が叫ぶ。


「これは、俺が持ち込んだ、1000パックの一つだ。160万円、貯金を全部はたいたもんね。みな、飲むときはちゃんと金を払ってね」


「えらい!安田!お前は偉い。でもその知恵を仕事に生かせればな。焼酎の新やまとでの生産はわりに早いと聞いている。たぶん、2年後にはできるだろう。

 今、1.8kl、で一日2升として900日、年間425日だから1日2升で2本だ。10人で割れば一日一人2合、いいところだ。安田でかした」


 ベテランの芝崎がほめる。

 狭山は内心は、『安田でかした』と思ったが、そうも言えず苦笑した。


「しかし、みな承知してほしいのは、さっきの計算は10人としての話だ。人数が増えるとあっと言う間になくなることは判るな。我々がこれを持っているのは、絶対の秘密だぞ。わかったな」柴崎が気合を入れる。


 しかし、2日後端末をみていると、「酒類は真珠市購買部で買えます。十分量は用意していますので、どうぞお買いください」との案内がある。


 値段は黒霧島が1500円で、広田が買ったより安い。どうも反重力推進の場合は重量はあまり問題にしないことから、運搬物に空間が多いことは気が付いた人がいて、有効活用したわけだ。


「ええ!そんな。俺がどれほど買った焼酎を苦労して機器の間に忍び込ませたか」安田が、頭を抱えて嘆く。


「まあ、当面買わなくてもここにあるから心強いよ。皆でお前のこころは無駄にしないよ」

 柴田が慰めた。


 そんなことがありながら、現場の仕事は進んでいって、1.5か月後には油井施設が完成し、試運転が始まった。石油層は被圧されているので当然石油は自噴する。当然山崎以下の油井開発班は集まっており、篠原も来ている。また、すでに油井施設の運転班も、狭山達が建設している化学プラントの運転班も石化化学会社から派遣されて来ており、ともに立ち会っている。


「まず、圧力は1.2barですからバルブを全開すると10m以上吹き上がります。最初に、少し開けて質の調査をします」


 茶色の原油がビーカーに溜まる。「簡易試験をします。うーん。軽質油で硫化物も少なく質は最高ですね。今作っている化学プラントで問題なく生産に使えます。ひところ前なら、大財産だったのですがね」篠原が言う。


「今でも石油化学の原料としての値打ちは変わりまんよ」狭山が言う。


 その1週間後、狭山達が作っていたプラントが完成した。すでに、油井からの配管は完成していたので直ちに試運転に入る。現在隣接地には、出来たポリエチレンや塩ビから様々な2次製品を作る工場が建設中で、来月には一部稼働の予定だ。これは貨物機で運んできた工場の資材が、極力プレハブ化されたものであったため、1カ月強で稼働状態に入れるというすぐれものだ。この工場の能力は現状は狭山達が組み立てた、年間8万トンのプラントに合わせたものだが、今後建設される年間100万トンの樹脂に合わせて大拡張される予定になっている。

 今後、新やまとの建設は、樹脂製品をできるだけ多用して、木材資源をあまり消耗させないように考えられている。


 樹脂工場は稼働を始め、2次製品の工場開始までに作りためをしておく。

 狭山達は、本施設の設計の最終段階であり、それに並行して用地の造成に入っている。この工場は、基本的には大プラントを1つ作るのではなく、年産20万トンの施設を5系列作ることにした。FR機建設において巨大機を少数作るのではなく、最大で100万kWの規格化されたものを多数つくることで、稼働機を早く使いたいという考えと一緒である。


 3月末、あと半月後には、妻の順子と娘のなつめおよび息子の章一も来る。詳しいことはまだ聞いていないが、妻から送られてきたメモリーの映像にそう述べられていた。

 また、社員の家族も同じタイミングで来ることになっている。すでに、それぞれの家も用意できており、みな張り切っている。


まだなんとか連日の更新を続けています。

次の話は先発隊出発後の地球での話です。


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