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加速する日本の変革1

日本の変革は加速していきます。

 8月29日、柏崎のFR機建設現場、午前10時の試運転開始に備えて、最後の点検が行われている。現場所長の御代田エンジニアリングの狭山は、点検結果の報告を聞いている、最後の点検が終わって予定時間の10分まえ、副所長が報告する。

「狭山所長、機器、計器点検の結果すべて異常ありません」


「よし、ありがとう。じゃ、試運転開始まで待ってくれ」


 マイクを入れる、「お集まりの皆さん、機器点検の結果すべて異常ありません。予定通り10時に試運転を開始しますので、今しばらくお待ちください」


 午前10時、「それではただいまから試運転を開始いたします。スイッチオン、今」

 かすかな重低音が響く、「励起状態開始、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、励起フル連鎖反応状態に達しました。

 電力抽出開始、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100万kW電力出力確認、試運転成功です」


 力強い拍手が巻き起こる。

 結局、柏崎B号機も今日の午後試運転の予定だ。現状のところ、試運転を済ましたのは大飯のみであるが、9月半ばには最初に着工する8基すべての試運転が完了する予定である。さらに、1カ月遅れてスタートした、次の8基、さらに1カ月遅れたものなど、現状で建設中の計40基は今年中に完成する。

 狭山のチームは、次もここ柏崎で建設することがすでに決まって、御代田エンジニアリングとして3基の発注も受けており、これらはすでに機材の発注も半ば終わっており、来年4月には完成の見込みである。

『当分は、柏崎だな』ひとりごちて、順調に動いているFR機を見る。



 9月10日午前10時、江南大学で記者会見が行われている。

 マスコミに呼びかけたのは、理学部地球科学部科吉田健一教授だ。会見には理学部長として山戸教授も立ち会っている。

呼びかけは、「新たに開発した地震予知の手法により、精度の高い予知が可能になった。これにより、近く発生する地震について災害予防の見地から発表したい」という内容だ。

 近頃、さまざまな技術開発で注目を集めている江南大学の発表ということで、100人以上のマスコミの記者が詰めかけている。


「本日はお集まりいただきまして、ありがとうございます。それでは会見を開きます」山戸教授が口火を切る。


「吉田教授は、当理学部の地球科学科に所属され、近年は地震予知、および防止の研究に集中されています。

 地殻に電磁波を打ち込むことで起きる変動を新開発の分析システムで解析することにより、地殻への応力集中と変化を計算して、地殻の急激な変動すなわち地震を予知するという、新しい予知方法を吉田教授が開発しました。

 本日は、この結果を用いて、関東以西の解析を行った結果、極めて危険な兆候を見つけたので、被害予防のため今日の会見を開きました。それから、お断りをしておきますが、我々はこの解析結果には自信はもっていますが、自然界の現象の100%の予知は不可能です。しかし、吉田教授は、予測が外れて非難・嘲笑される危険性より、この発表により救われる命を選んだのです。その点は、ご承知おきください。

 では、吉田先生お願いします」


「山戸先生ありがとうございます。

 予知方法については、お手元の資料にある程度詳しく書いていますので、ご覧ください。すぐには理解できないと思いますので、後日説明の機会を設けます。重要なのは、3ページ目に示している図です。その図-1は、9月1日からのもので、ご覧のように9月3日に小さいピークが出ています。

 ご存知のように、長野地方で9月3日にM4.5の地震が起きています。その地点は図-2の通りで、震源地は全く一致しています。図-1をさらに見てください。9月18日に大きなピークが出ています。

 図-2では震源地は、岐阜県の恵那地方であることを示しています。今までの研究でこのピークからすると、M7に近い揺れが発生します。


予測結果を申し上げます。

 9月18日午前5時ごろ、恵那地方の地下10kmを震源とするM7弱の内陸型地震が起きます。お配りした図-3をご覧ください。各地の震度予想を示しています。震源地の直上では震度7の揺れに見舞われます、恵那市で震度6強、中津川市で震度6弱の揺れが発生する見込みです。この予想は、100%ではありませんが、私は精度に自信をもっています。どうか、予想された地域の自治体及び住民の方々は、この予知が当たると考えて準備をお願いします」


 どよめきが起きた。記者は一斉にしゃべろうとする。

「どうか、順番に所属を明らかにして質問をお願いします」


「A新聞の、安田と申します。大変具体的な予知ですが。私の知る限り、地震予知は現在の技術では無理だと言われています。該当する地点を具体的に指摘されていますが。当該地には大変なショックだと思います。外れたらどう責任を取られるつもりですか」


 吉田教授は質問者をにらんだ。「私はこの発表に学者生命をかけています。できれば、このようなリスクを冒す発表はしたくはありません。しかし、もしこの発表をせず予知が当たったら、予知された地震の規模からして、必ず数10人以上の犠牲者がでます。この場合、私は一生涯後悔します」


 山戸教授も同様に言う「先ほども申しましたが、100%の予知ということはあり得ません。しかし、吉田教授はあえて発表し、人々が備えることを選んだわけです。その点はご理解ください」

 安田記者は、周りからにらまれて居心地悪そうにしている。


「Y新聞の浅川です。この予知が当たるということは、今後は、地震はすべて予知できるということですか」


「はい、地殻に打ち込む電磁銃と、解析装置が必要ですが、日本全体で10か所くらいの観測点を設ければ日本全土の解析できます。岐阜県のケースは、有名な活断層が岐阜に多いため岐阜大学に頼んで観測装置を置かせてもらったものが功を奏した結果になりました。

 今回の予知が的中すれば、技術は世界に公開するつもりです。しかし、電磁銃について当大学の他の学科から供与を受けたもので、かなり特殊な技術がつかわれていますので、その製法を含めた公開は出来ないと思います。しかし間もなく量産体制に入りますので、購入してもらうことは出来ます」


「Uテレビの進藤です。先ほど、吉田先生の最近のご研究は地震予知と防止とおっしゃられましたが、災害防止ということでしょうか」


「今、予知についてはだいたい目途がつきましたので、地震防止に取り組んでいます。地震予知の研究の段階で、地震のメカニズム把握に自信ができましたので、その延長で防止も地殻に適当な刺戟を与えることで可能と考えています。むろんそのことで、地震を引き起こすようでは困りますが、確実な予知ができれば、その対象地に防止措置をとれるわけです」


「ええ!」衝撃が走った。

 結局、その記者会見はその後1時間続いた。


 その日の昼のニュースで早速、記者会見の様子が報じられた。新聞の夕刊にはトップニュースで「岐阜県恵那地区で、今月18日に発生する震度7級の地震が予知される!江南大学が発表!」


 夕方のニュースはその話題一色であった。しかし、予知に関して否定的な意見も多く、とりわけA新聞およびその系統のテレビ局で、内外の学者の否定的意見を集めて宣伝する。

 そのなかで、岐阜県は知事が翌日江南大学の吉田教授を訪問した。


「吉田先生、今回の発表は大変ありがたく聞かせていただきました。私は先生の発表を信じます。いずれにせよ、先生の発表を100%信じて対策に当たらせます。人に関しては絶対被害者は出しませんし、物的被害も極力抑えます。

 わが県は、活断層が多く、地震に対しては不安を抱えていたのですが、予知できるとなれば大安心ですし、まして防止方法も研究されているとか。是非お願いします。当面この職員川村君を江南市に残しますので、何か、変化等があれば教えてください」と、20代終わりごろの男性職員を紹介する。


 その後、知事は、関連市町村関係者を集めるとともに、準備、緊急応急補強(これは震源地がわかれば、振動の方向がわかるのでつっかえ棒等の対策で倒壊防止なども期待できる)措置の実施、前日・当日の避難計画、等を徹底して準備させた。


 9月18日午前5時、県職員および関係市町村職員、対象地区の住民は、みな起きてかたずをのんで待っている。

 5時12分、弱い振動が走る。初期微動だ。2分後、震源地に近い、恵那市早良の農家の前で、御嵩洋二は地面が突き上げるような動きをするのを感じた。揺れは大きく、ゆっさ、ゆっさという感じでゆっくり上下左右運動が起きる。まだ暗い中、懐中電灯で照らされて、自分の家も揺れている。応急で、県の指導に従って取り付けた、斜材がぎしぎしと鳴っている。有効に機能しているようだ。窓ガラスは1枚2枚とはずれる。しかし、ゆれは収まってきて、やがてギシギシ、ズンズンといった音も止んだ。

 家は!

 家は少なくとも倒れなかった。

「みな、無事か!」 「怖かった!」5歳の早苗が泣き出す。

 洋二は、もし予知が無くて家で地震が起きたら、どんなことになっているだろうと思う。家そのものも倒壊していた可能性は高い。また、家のなかの家具は全部倒れるだろうし、その下敷きで8人の家族の誰かが大けがをしていただろう。地震が予知できるということは、こんなに大きな効果があるのだ、としみじみ思うのだった。


 吉田教授も無論起きていて、5時14分本震発生を知った。まず感じたのは、安心感であった。重くのしかかっていた重しがとれた感じで、思わずふわっと気が抜けた。

電話が鳴った。いつも使うものは切っていたが、国から重要事項伝達用として渡されたものである。


「はい、吉田です」


「突然お電話して申し訳ありません。首相の阿山です」


「はい!」さすがに驚く。


「今回は本当にありがとうございます。先生の勇気のおかげで、たぶん数10人の命と大きな物的損害が救われました。

 今後、我が国の安全性は飛躍的に高まりました。地震防止ご研究もされていることのこと、国として協力できることは何でも致しますので今後ともよろしくお願いします。実際に、我が国の安全に関して、迫りくる海洋型大地震と関東震災が国際的に脆弱性としてして指摘されております。地震防止ができるなら、これにこしたことはないわけですので、ぜひお願いします」


「はい、精一杯努力します」


「お願いします。それでは」


 昼頃、全体像が明らかになった結果の概要は以下の通りであった。

 死者、重傷者はなく、ゆれで転んで軽傷を負ったものが5名で、人的損害は極めて少なかった。全壊家屋は120件、半壊530件で思ったより仮補強は有効に働いたようで、それらの補強なしだと、全半壊は3倍以上になったと推定されている。こうした、全半壊した家屋も中の家具等は殆ど運び出されており、建物のみの損害であった。公共インフラも、水道管、電線、道路の損傷等があったが、あらかじめ万全の準備を整えた修理チームが準備していたのでその日のうちにほとんどが片付いた。

 吉田教授は英雄になってしまった。

 一方で、ネガティブなことを言い立てていた学者や、特にマスコミとして予知に懐疑的な意見を垂れ流していた、A新聞、系統のテレビはあっという間に意見を翻して、『成功を信じていたが、あえて厳しい意見を言わしてもらった』などと言い立てて、失笑を買っている。


 牧村が順平に聞く。「吉田先生はいい成果を出したね。どの程度協力したの?」


「吉田先生は、方向としてはすでにつかんでおられたので。ちょっと必要な機器は提供しました。地震防止は、調査用の電磁銃の出力を高めてやれば、成功しますよ。まあ、その場合使うのは電磁砲ですね。レールガンと一緒ですよ。弾を打たないだけで」


「うん、聞くと、やはり東海地震より関東地震が早いらしい。これは、そのまま来ると被害がしゃれにならないからね」


「ええ、あと2年くらいで危ないようだから、2年あれば大丈夫ですよ」


 その後、吉田教授の観測、診断システムは、慎重に選ばれた10カ所に年内には設置されて、日本中が観測網の中に入った。海外からも多くの引きあいが来ており、来年に100セットほどの観測・診断システムが輸出される見込みであり、吉田教授の研究室に海外から専門家が研修にやってきはじめている。



沢山の人に読んでもらえるとうれしいのですが。

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