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魔王が転生した話  作者: 水白厂
第一章 少年期編
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第二話 魔王、大地に立つ

 …俺が目を開けると、なんか眩しかった。


「あうっ」


 眩しいと言おうとしたが、うまく舌が回らない。

 どうやら、もう転生したようだ。

 そうか、もうしばらくはアリアとは会えないのか…。

 少し、寂しくなるな。

 …よし、段々と目が慣れてきたぞ。


「――――――――!」

「―――――――――――、――――――――――――。」


 目を開けた俺が見たのは、俺を抱いて顔を覗き込む女性と男性、多分両親だろう。

 とても嬉しそうに泣いている。

 まあ、子供が生まれて喜ばない親は俺といえどそうそう見たことはないが。

 …さて、さっき気付いたのだがひとつ問題がある。

 何を言ってるのかさっぱりわからん。

 あまり違いがないって言うなら言葉も統一しといてくれよ…。

 まあアリアに言ってもどうにもならんけども。


「―――、――――――――――。―――――――――――――――――――――――――――…。」


 くう、こうなったら表情とかから読み取るしかないな…。

 ふむ、なにやら怪訝そうな様子の両親…。

 しまった、そういえば赤ん坊とは泣くものだ。

 よし、ここはひとつ泣いて見せるか、勇者が来た時のために練習していた俺の演技力を見せてやる。

 ふっ…!


「おぎゃあ!おぎゃあ!」

「―――――――――――!」

「――、――――――――!」


 ふっ、俺にかかればこんなもんよ。

 しかし、なんか疲れたな…。

 ああ眠い、いっそこのまま寝てしまおうか…。

 おやすみ…。



 **************


 生まれてから約三ヶ月、気楽な赤子ライフをエンジョイしている。

 魔力量はかなり少なく…というか普通の量になっていて、ちゃんと普通の人間だ。

 …生まれた時にちょっと声出したのは早すぎたっぽいが。

 だからしゃべるのは少しのあいだ自重していたら、どうやら勘違いだと思ってくれたようだ。

 いまはあうあう言っているけど。

 魔法を隠れて使ってみたりもしたが、アリアが言っていた通り以前習得した技術はちゃんと使えるようだ。

 まあ、体も元に戻っているから、剣術なんかは鍛え直さなきゃ使えんのだが。


「――――――――、――ご飯―時間―――。」


 未だに言葉はわからん。

 が、だんだん一部はわかってきた、ご飯とか。

 そしてそのご飯の時間が来たようだ、気楽な生活の中で数少ない辛い時間が。


「――、――――――!――、お口―――――。」

「んん…。」


 なにせ、いくら食事とはいえ嫁がいるのに女性の胸に吸い付くというのはちょっと、罪悪感というものがな…。

 あと排泄も辛い、元はちゃんとした大人だったのに人にやってもらうのはいくらなんでも恥ずかしすぎる。


「はあ、どうして――――――――――…。他―家――、―――――ない―――――…。」


 す、すみません、わがままいっちゃだめですよね、今口あけますんで。


「…――――――――――、―――――――――――飲んで――――――…。――、―――――――。」


 …はあ、いつまでこの生活が続くのやら。


 **************


 約十ヶ月経った。

 この十ヶ月にわたる言語解読により、この世界の言葉を完全に理解した。

 あーとかうーとかしかしゃべれない時は終わったのだ。

 そんな俺は、初めてしゃべる瞬間というものを常に探している。

 どうせならサプライズとして何かしたいところだ。


「マオー、ご飯よー。」


 おっと、夕食の時間だ。

 そうそう、俺の名前はまたマオになった。

 父さんの名前はエルで、母さんの名前はイアだ。

 俺の名前がそのままだったし、アリアの名前もそのままかもしれないな。

 しゃべるついでにハイハイもできるようになったので、全力で手足を動かして食卓に向かう。


「うー。」

「ほら、マオ。ご飯をたべましょうね。」


 ちなみに、父さんは商人をしているようで、あまり家にはいない。

 少し寂しい気もするが、もともと一人だったのだ、母さんがいるだけ幸せだな。

 そしてなんと、自分で食べてもいいのだ、もう恥ずかしい思いをするのは終わったのだ。

 …まあ、まだ排泄はやってもらっているのだが。


「今日からね、ご飯をちょっと違うのにしたからねー。」

「うー?」


 ほう、違うのとな。

 離乳食というのは味気がなくて、寂しい思いをしてたからなにか変化があるというのは嬉しい。

 まあ、とりあえず食べてみよう。


「あー。…ッ!」


 …こ、これはッ!

 味がある、だとぉッ!?


「う、美味い…!」

「えっ…?マオ、今しゃべって…?」


 あっやべっ。


「…マオがしゃべったーーー!」


 や、やらかしたーーー!


 **************


 約一年が経ち、食事もだいぶ大人のものに近づいてきた。

 味のついた食事を初めて食べた時は、ついやらかしてしまったが…。

 最近はもう慣れて、とてもおいしく食べている。

 それに、母さんの料理の腕はとてもいい。

 美人で料理が上手いとは、父さんにはもったいないくらいだな。

 まあ、そのへんは置いといて。

 最近は歩けるようになった。

 前はハイハイで移動していたが、今ではなんと直立二足歩行できるように進化したのだ。

 そしてそんな俺がいま何をしているかというと、日課の読書をしている。

 父さんが商人なので、蔵書が結構ある。

 …が、言葉は理解しても文字が読めるわけではないので、あまり読めてはいない。

 じゃあ何をしているのかというと、文字を理解しようとしているのだ。

 母さんに読んでもらったり、読んでもらった時の内容を思い出して解析したりしている。

 おっと、噂をすればどうやら母さんが来たようだ。


「マオったら、また本を読んでいるのね。わかるの?」

「ううん、わかんない。」


 この時間だと、家事はもうひととおり片付いたくらいだろうか。

 母さんは暇なときは俺に付き合ってくれるので、とても助かっている。


「じゃあ、読んであげるからかしなさい。なになに…また魔法書?勉強熱心ねえ。」

「魔法勉強するの、楽しい。」


 というかこっちの魔法学がどこまで進んでるのか知りたい。

 もし俺の千年間の努力よりもこっちの魔法学の方が進んでいたら、俺はもしかしたら涙を流すかもしれない。

 赤ん坊の悔し泣き、さぞシュールな絵面になることだろう。

 まあ、今まで読んだ内容から見ると、そんなことはなさそうだが。


「まだこれは難しいと思うのだけど…ま、いっか。そうねえ、今度は魔力についてでもやりましょうか。」

「わーい。」


 我ながらえらい棒読みなわーいである。

 いやあ、まさかこんなところで記憶が残った弊害が出るとは。

 …さて、こちらの魔法学がいかほどのものか、聞かせてもらおう。


「魔力というのは、万物が持つ力である。私たちは自分自身の持つ魔力を使って魔法を行使するのであるが、魔法を行使するためには詠唱や魔法陣など、なんらかによる魔力への命令が必要である。特定の魔法を使い続けるとその魔法に習熟して行き、威力が高くなったり、消費魔力量が少なくなるなどの様々な恩恵がある。また、それは同系統の魔法であっても効果はある。そのため魔法師は基本的に、色々な属性の魔法を使うよりも一つの属性を使い続ける者のほうが位が高い。しかし冒険者などの様々な魔物と戦う場合は、どちらが良いとは一概には言えない。…ちなみに、魔力の姿形については今もなお激しい議論が繰り広げられているが、ここでは割愛する。ただ私の持説を語るとすれば…あ、もういいや。はぁ、長かった。」


 全部知ってたな、やはり魔法学が俺より進んでるってことはなさそうだ。

 間違っているところもあったしな。

 間違っているところというのは、習熟しているといったものが魔法の習熟度ではなく、魔力操作技術の習熟度であるということだ。

 そりゃあ、火の魔法を使い続ければ火の魔法は上手くなるだろう。

 だが、応用ができないからその他の魔法を使うのがからっきしになってしまう。

 …ちなみに、魔力には姿形なんてものはない。

 魔法も魔力の形の一つであるし、魔力の体を持つ魔物だって存在する。

 体内の魔力の、という意味ならばだったら液状というのが俺の持説である。

 まあ、感じたことはあっても見たことがないので詳しくはわからんのだが。

 さて、魔法学の進み具合もだいぶ確認できたし、文字の習得を頑張るとするかな…。


 **************


 生まれてから約三年、何事もなくすくすくと成長する俺。

 文字も完璧に読み書きできるようになった。

 さて、文字を読めるようになったからにはと、父さんの蔵書を読みあさってみた。

 そうしてわかったことなんだが、正直そこまでなかった。

 元の世界との相違点を探したが、アリアの言ったとおりそこまでの違いがなかったのだ。

 この世界も前の世界と同じように魔法があるし、エルフやドワーフなんかの亜人もいる。

 さらにさらに魔物までしっかりと存在しているし、その魔物の討伐などの依頼で生計を立てる冒険者、及びそのギルドもあるようだ。

 ただ、三つほど重要な情報があった。

 まず一つ目、この国について。

 この国の名前はバシレウス王国といい、王国という名の通り君主国だ。

 近くにはディオース帝国があり、やはり君主国である。

 昔は戦争していたらしいが双方が無益を悟って終結、今の二国間の仲は良好で様々な交流が行われている。

 あとは亜人族の村とかが国の周りにあるくらいか。

 ちなみに、どうやら奴隷制度はどちらの国にもないようだ。

 差別意識もなさそうで、まだ見たことはないが街では亜人たちが普通に歩いているらしい。

 俺は亜人たちも好きだから、差別なんてあったらどうしようかと思っていたんが…その心配は杞憂に終わったようだ。

 次は、そうだな…この国の王家と貴族についての話にしようか。

 今代の王のレックス・バシレウスはまだかなり若く、確か今年で二十九歳だったはずだ。

 王子も一人居り、今年で三歳になる。

 つまり、同い年ということだ。

 もしかしたら学校で会うこともあるかもしれないな。

 次に、王都学院の話だ、さっき言った学校だな。

 なんでも王都には魔法学校や騎士学校などがあるらしく、その学校の頂点に君臨する学校らしい。

 そんなに良いところなら魔法にしろ剣術にしろ、猛者がたくさんいるだろう。

 それに何より、アリアもそこにはいる可能性が高い。

 卒業すれば色々便利だろうし、何より目立って見つけやすくなるだろう。

 十五歳から入れるようになるらしいから、それまでにある程度まとまった金を用意しておかなければならん。

 その辺は父さんと相談だな。

 最後に、邪神の話。

 ありふれた神話なのだが、邪神と呼ばれる悪神とその他の神々の戦いを書いたものがあった。

 最終的に邪神は封印されるのだが、その邪神から漏れ出した魔力が動物などに憑き、魔物になったと書かれている。

 まあ何が気になるのかというと、邪神の封印はちゃんと機能しているのだろうかということだ。

 そもそも神話の話であるし、架空のものだと考えるのが自然ではあるが。

 …まあ、気にしていても仕方がない。

 もしも復活したその時はぶっとばすなりもう一度封印するなりすればいい話だしな。

 まあ、学園にしろ邪神にしろ、力をつけねばならんが。

 ただし以前ほどブッ飛んだのはいらん。

 …邪神が人でも倒せるような相手だといいんだが。

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