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魔王が転生した話  作者: 水白厂
第一章 少年期編
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第一話 魔王、死す

初投稿です。よろしくお願いします。

「死ね、魔王。全ての元凶、我ら人間の不倶戴天(ふぐたいてん)の敵。」

「ガハッ…。ふはは、人の身でよくここまで練り上げたものだ。」


 今、俺の胸に勇者の剣が突き刺さっている、おそらく聖剣だろう。

 その炎の聖剣は、俺の体内を焼き尽くし、殺し尽くす。

 俺を、不死身の魔王を殺すために神が人に送った剣。

 超痛い。


「勇者よ、なぜ魔王を憎む?別に俺が、魔王がお前たち人間に手を出したことなどないだろう。なのになぜ、俺を殺そうとするのだ?」


 …魔王と呼ばれるようになったのはいつごろからだろうか。

 というか、魔王ってなんだよ、初めて聞いたときは誰それって感じだったぞ。

 まともな生物の舌が三枚に割れてたり、首が七つもあるわけないだろ。

 多分魔王の噂を聞いて一番びっくりしたのって俺じゃないかな。


「お前の力は強大すぎるのだ、魔王よ。お前が、我らを襲うことなどないのだろう。きっと、放っておいても問題ないのだろう。だが、許せぬ。…お前はまるで神のようだ、人の営みを観察し干渉することはない。しかし、神は見えぬがお前は見える。だから、人は恐れるのだ。…そしてなにより、お前は神のようではあるが所詮人、中途半端なのだお前は。神ならばどうしようもなかった、諦めた。しかし、人ならば殺せる。」

「ならば…ならばそんな俺を殺したお前も、恐怖の対象ではないのか?」

「そうだろうな。だが俺はじき死ぬ、俺は脆く弱い人間だから。それでいい、それでいいんだ。人には過ぎた力などなくていい。」


 こいつ自分が弱いとか本気で言ってんのか?

 俺の極大魔法受けてもピンピンしてるわ、これ以上ないほど切れ味のいい俺の魔剣でも傷一つつかないわ…人間かどうかすら怪しいレベル。


「…まあ、お前のことだ、俺が口を挟むようなことでもないな。」

「そうだな、お前は安心して逝くがいい。あとは全て俺に任せてゆけ。」


 これまで長かったな…。千年以上もの間独りで…。

 あれ、俺もしかして生涯独身?

 魔王なのに?

 …願わくば、来世では生涯の伴侶に出会うことができますように。割と切実に。


「…さらば魔王。良い旅を。」


 ****************


「マオさんマオさん、起きてください。」


 誰かが俺の体を揺らしている。

 それも、すごい優しい感じに。


「うぅん…。誰だ…?」


 目を開けると、知らない女性が俺の顔を覗き込んでいた。

 その顔立ちは整っていて、神秘さすら感じられる。

 長い金髪が俺の顔にかかって、少しばかりくすぐったい。 


「あ、やっと起きましたねマオさん。」

「…どちらさま?」


 というか、なぜ俺の名前を?

 俺ですら、今言われて思い出したくらいに使わなかった名前なのに。


「なぜ俺の名前を知ってるんだ…?というか、ここはどこだ?」

「ここは死んだ者の魂がたどり着く場所、転生の下準備をする場所ですね。あなたのことはこの千年間ずっと見ていましたので、名前を知っているのは当然のことです。」


 どうだと言わんばかりに胸を張る女性。

 いや、さっぱりわからんのだが。

 というか千年ずっと見てたとか、ストーカーかよ。


「そんな人たちと一緒にしないでください!」


 心を読まれた…だと…?


「ふふ、そうですよ。私は女神をやっている、アリアという者です。」


 神とか本当にいたのか…。

 そういや勇者はまるで神を知っているような口ぶりだったな。

 もしかして、勇者の力とは神からもらった力だったりするんだろうか。


「そうですね、彼は私と会ったことがありますよ。彼に力を与えたのも私です。」

「…まあいいや。ところで、お前の目的はなんだ?勇者に力を与えたりだとか、俺を千年間ずっと監視したりだとか。」


 まあ女神だというのが真実だと仮定して…だけどな、多分本当のことだと思ってるけれど。

 いや、決して美人だからとか、そんなんじゃないが。

 こう魔王の直感がね、嘘を見抜いてしまうのだよ。

 …まあ、人と会うのが勇者を除いて実に千年ぶりだから、嘘とかの対人系のものはまるで信用ならんが。


「そんな、美人だなんて。」

「いいから、早く説明してくれ…。」

「あ、はい。…その、目的、ですよね。」


 なんだ、急に言いよどみだして。

 …何か聞いてはいけないことだっただろうか。


「…マオさん、あなたを救いたかったのです。」


 …どういうことだ?


「あなたは、人には過ぎた力を持っていますね。そのせいで以前人々からは疎まれ、それ以来あなたは一人ぼっちでした。」


 やめろよ、ぼっちとか言うの…悲しくなってくるだろ…。


「私が、人には過ぎた力を与えたばかりに…。」

「ん…?あれ、俺の力っていうのはもともと、お前からもらったものだったのか?」


 俺の力…というか魔力は、人どころか竜種のそれすら凌駕していたから正直出処が気にはなっていたんだが…。

 まさか、神からの贈り物だったとはな。


「私は、人々の想いによって生まれました。人々の救いを求める声が、私を生み出したのです。そうして、生まれたばかり私は人の子の病気を治してあげたり、飢えている子に食料を与えたりなどしていました。…しばらくの間そんなことをして過ごしているうちに、あなたを見つけたのです。その時のあなたは確か、十八歳くらいでしたね。娘の治療に竜の肝が必要だという貴族の依頼を受け、あなたは山奥に住む竜を討伐しに行きました。その険しい山を簡単に登りきったあなたは竜と戦い、そして…」

「いとも簡単に返り討ちにあったな。」


 戦いとすら呼べないレベルで瞬殺だった。

 諦めが入る前にやられたね、あの時は本当に死んだと思った。


「そしてあなたは願いました。しかしさすがに生まれたばかりとはいえ、私も安請け合いをした自業自得の人を助けるのは良くないことであるという認識はありましたので、あなたの命は諦めようと思いました。…あなたの願いを聞くまでは。」

「そんな大層なことを願った記憶はないけどな。」


 死にたくないという至極単純なものである。


「そうですね、確かに死にたくないと願いました。ですがそれは依頼人の娘を死なせたくなかったからでしょう?会った事もない病気の娘のために、竜の肝を持って帰るためでしょう?普通、死ぬ間際になってまで見ず知らずの他人のことを想う人なんていませんよ。…そんな願いを聞いてしまったら、私の中で放っておくなんて選択肢はありえませんでした。」

「なるほどな。そして俺は復活し、竜をも凌ぐ魔力を持って見事竜を討ち、竜の肝を依頼人へ届けめでたしめでたしというわけだ。」


 まるで御伽話(おとぎばなし)のごとき完璧なハッピーエンドだな。


「…なにがハッピーエンドですか。」


 おいおい、どこの誰が聞いてもハッピーエンドだろう。

これでその貴族の娘と結ばれでもしていたら、まさしく勇者譚って感じじゃないか。


「本当に竜を倒してきたあなたを、明らかに貴族は恐れていたじゃないですか!娘とは結ばれるどころか、会うことすらありませんでしたし!…もっといえば、竜を倒したという噂が広まって知人ですらあなたを恐怖していたじゃないですか…。」

「さらにさらに、豪華特典として竜によって抑えられていた魔物たちが山の向こうからやってきたな。」

「…そしてその全てがあなたの責任になり、国中の人々があなたを糾弾しました。」


 いやまあ、実際俺の責任ではあると思うが。

 安請け合いをしたのは俺だし、あとのことを予想できなかったわけだしな。


「ですが、そんな力を与えてしまったのは私です。全ては私の責任なんです…。」

「いや、そんなことはないと思うが…。」


 それだったら依頼してきた貴族にも責任はあるだろう。

 だけど彼は娘の病気でかなり神経をすり減らしていたし、娘を見殺しにしろというわけにもいかんから何とも言えん。

 女神にしたって人を救うのは義務みたいなものなんだから、責めるわけにもいかん。

 つまり義理も義務もないのに首を突っ込んだ俺が全部悪い。

 はいQED(証明終了)

 …ちょっとアリアは優しすぎるんじゃないか、ちょっと加害妄想入ってる気もするが。

 まあ、むしろこれくらいじゃないと女神なんてできないか。


「依頼っていうのは、受けた時点でもう全てが自己責任なんだよ。金を払えば、それからはもう受けた奴が死のうがどうなろうが全部。」

「それは…そうですけど…。」

「まあ依頼人の話は置いといてだな。おま…あー、えっと…アリアの話に入るぞ。」

「私の話…ですか…。」


 自分の話と聞いたとたんさらに元気がなくなってしまった。

 …そんな顔をされると俺まで悲しくなってくるよ。


「いや、別に責める気はない。むしろ、感謝してるくらいだ。」

「え…。」

「アリアが力をくれなかったら、俺はその時に死んでいた。そして病気の娘も死に、貴族もきっと精神を病んだろうな。…それに一人ではあったけれど、この千年間は楽しかった。ほとんど修行してただけだったけど。でも楽しかったのは本当だ、それは見てたんだからわかるだろ?…まあ、何が言いたいかというとだな、ありがとうってことだ。」


 剣術とか魔法とかアホみたいに鍛えてたな…。

 千年をここまで無駄に使う馬鹿が他にいるだろうか、いやいないだろう。


「…うぅ。」

「まあ、だからだな、あまり気に止む必要は…」

「うぅ、ひっぐ、えっぐ…。」


 え、なに泣いてる!?なんで!?俺なんか変な事したっけか!?


「すみません…ひぐっ、その、まさかお礼を言われるとは思っていなかったので…えぐっ。」


 ぐっ…やばい、女性への免疫がなさすぎてどうすればいいのかわからんぞこれ…!

 あれか?こう、抱きしめてあげちゃったり…いやだめだ、それはマズイ!

 俺的には無問題だけど初対面の相手にそれやられたらキモイだけだろ多分!

 …よし!


「えっと、まあ、落ち着け。せっかくの美人さんが台無しだ。」


 そう言って涙を拭いてやる。

 …いややっぱ抱きしめるのはいかんよ。

 手を握るっていうのも考えたけど無理!そんなことして嫌な顔されたらむしろ俺が泣いてしまうわ!

 …今言ったセリフも充分キモいかもしれんな。


「ありがとうございます、ひぐっ。…あの、手を、握っててくれませんか。」

「えっ!?あっ、いやそのそれは…、そう!嫁入り前の娘っこの体に男が気安く触るわけにはいけないだろう!」


 いやなんかよくわからんけどそんなの!


「……たれ。」


 え、なんだって?


「…そろそろ落ち着いてきました。」

「そ、そうか、それはよかった。」


 これでできもしない女性への対応をしなくてよくなる。

 いや、俺に女性への対応は無理だ。

 何が駄目って、経験値が足りなすぎる。


「そろそろ、本題に入りましょうか。」

「今までのは本題じゃなかったのか…。」


 なんで無駄話にこんなに時間かけてんだ?


「…さっきも言ったように、ここは転生の下準備をする場所です。なので一度、転生についての話をします。」


 転生か…確かに、千年間人を見つづけてる内に、見たことあるような奴を見ることはちょくちょくあったが、それのことか。


「そうですね。転生すると肉体や魔力は変わりますが、魂の方が変わっていないのでどうしてもそういうことはあります。で、本来なら普通の転生をするのですが…。」

「なんだ、俺は普通じゃないってのか。」


 いやどっからどう見ても普通ではないけれども。


「はい。なのであなたには少し特殊な転生をしてみようと思います。」

「と、いうと?」

「簡単に言うと、異世界へ行ってもらいます。」

「…は?」

「異世界といっても、こちらの世界とさほど変わりありません。ただ異世界では私の力が使えないので、あなたが普通の人として生まれることができるのです。」


 ああ、こっちだと力をそのまま持って生まれて来るのか。


「ただ、魂をいじる作業はこちらでしか行えないうえ、こちらではまだ私の力の影響下にあるために魂をいじれません。そのため記憶や技術などはそのままに転生することになります。」

「それを普通と言っていいのか…?」

「化物と言われるよりは百倍マシでしょう。」


 そりゃまあそうだが。


「さて、転生についてはとりあえず終わりましたが、何か質問はありますか?」

「…いや、ないな。もう話はおしまいか?」

「いえ、最後にひとつだけ、言いたい事があります。」


 …ふむ。なんだか大事な話のようだな。顔つきが何かを決意したときのそれだ。


「私をお嫁にもらってください。」

「……はっ?いや、なんで、えっ!?」


 いやマジでなんでだよ!?


「なんでってそんなの、す、好きだからに決まってるじゃないですか。」


 す、好き?好きって、好きってことだよな?

 もしかして、千年の間ずっとか。


「そうです。この千年間、ずっとずっとあなたのことを想ってたんですよ?そしてあなたと会う今日という日を、ずーっと待っていたんですよ?…それなのにあなたは、私の気持ちになんか全然気づいてくれないし…。」

「い、いや、だってな?見ててくれてたのは聞いたけどさ。ほら、初対面だからさ、そういうのに気づけなくても…」

「だってもなにもありません、この鈍感!朴念仁!そもそも、好きでもないのに千年も見続けることなんてしませんよ!」

「うぐぅあ!…し、しかし俺は千年の間、女性どころか人にすら会わなかったんだぞ?それで相手の想いに気づけっていうのは…」

「…さっき手をつないでくださいと言ったのに、拒否されました。」

「ぐはっ!」


 た、確かにちょっと思ったけど…。

 勘違いだって思うだろ普通!


「ふん、もういいですよ。全然、ぜーんぜん気にしてませんから。」


 嘘だ…絶対に気にしてる…。


「…で、答えはどうなんですか。いいんですか、駄目なんですか。」


 …いや、答えは最初から決まっているが。


「…やっぱり、だめですよね…。」

「いや、そんなことはない!」

「え…?」

「むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ。」

「ほ、本当ですか…?」

「ああ。…俺と、その、結婚、してくれ。」


 こんなに一途で、美人で…断るような要素なんて欠片もないな。


「ゆ、夢じゃないですよね…?」

「ああ。…まさか断れると思ってたのか?」

「あ、あはは…。そっか、結婚しちゃったんだ…ふふっ。」


 なんか意識するとやばい、なにやっても可愛く思える。

 …ってやばい!考えがキモイ!

 …結婚か、まあまだ口で言っただけだし、指輪とかもいるんだよな…。

 って、あ、やばい、重大なことに気づいた。


「俺、死んだんじゃん…。」


 指輪もなにもないじゃん。

 仮に異世界で買ったとしても、渡せないぞ…。


「大丈夫です、私も一緒についていきますから。」

「え、神様はどうするんだ?」

「適当に力をあげれば大丈夫ですよ。あ、そうだ彼にやってもらいましょうか、勇者の彼に。それなら前あげた力を強化するだけでいいですし。」


 なんかすごい雑だな…。


「もともと願いなんていう雑なものから生まれたんですからいいんです。」

「…じゃ、じゃあ、これからよろしく頼む。」

「ふふふ。こちらこそ、よろしくお願いします。」


 これが結婚するということか…。

 うん、全然実感がわかん。

 まあ今はそれでもいいか、なにせ俺には来世があるんだからな。


「生まれる場所が違っても、絶対探し出してやるからな。それまで待ってるんだぞ。」

「私だって、待っているだけなんて嫌です。私が先に見つけ出してみせますから、覚悟してくださいね。」


 一度離れ離れになっても、また会えばいいだけの話だよな。

 十年かかろうが二十年かかろうが、千年よりはよっぽどマシだ。


「そろそろ時間です、行きますよ、マオさん。」

「そうか。…最後に手をつないでもいいか、その、さっきのお詫びに。」

「…どうしましょう。」

「…さ、さっきは悪かったよ、許してくれ。」

「ふふ、冗談ですよ。しばらく会えないんですし、手くらい…あ、そうだ、目をつむってくれますか?」

「ん?ああ、わかった。」


 急にどうしたんだろうか。今になって、なにか忘れ物でも…んむっ!?


「んっ…。ふふふ。キスなんて、初めてしました。…びっくりしましたか?」

「あ、ああ、びっくりしたよ。…意外と積極的なんだな。」

「いいじゃないですか、もう夫婦なんですから。それよりほら、手、繋ぎましょう?」

「…ああ。」


 …きっと異世界は広くて、特定の一人を探し出すなんてことは難しいだろう。

 でも、千年もの間待たせたんだ。

 世界の隅々まで探し回ったとしても、必ず見つけ出してみせる。

 今度は、なるべく待たせないようにしないとな。


「では、さようなら、また会いましょう。」

「ああさようなら、また会おう。」


 さようなら、最愛の(ひと)

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