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ネカマではじめるMMOライフ 作者:霧原真

第1章 ネカマになるつもりじゃなかった

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5.ギルドに入ってみませんか?

 サクソニアについた俺は、まずは『エルミースの祠』を探し出してホームポイント登録を行う。

 エルミースの祠はオフゲーでいうところのセーブポイントとテレポート装置を合わせたようなものである。
 『エルミース』はこの架空世界において旅をつかさどっている神様の名前だ。
 『祠』はエルミース神のシンボルである翼を持つ蛇の姿が刻まれた小さな石碑で、どの街でも必ずどこかに置かれている。街以外の場所、たとえば道端とかに置かれていることもある。
 祠に触れて『ホームポイント』に設定しておくと、戦闘不能に陥った場合、そこから再スタートできるようになる。
 また、一度触れたことのあるエルミースの祠には、ゲーム内通過を支払えば一瞬でテレポートすることも可能だ。
 ちなみに、このゲームの通貨単位はデナリという。Dと略されることが多い。

 祠の登録を済ませた後は、アヴァロニアで受けてきたクエストを終わらせるために、『ソル神の神殿』を探す。
 ひとりだちの証として神殿の大祭司に祝福してもらう、というのがクエストのストーリーだ。まあ要するに、次の街に拠点を移すための誘導クエストである。
 このクエストを終わらせないことには、サクソニアで受けられる他のクエストが発生しないので、飛ばすわけにはいかない。

 アヴァロニアはbotばかりだったが、さすがにこの街には普通のプレイヤーらしき人々がいた。ただ、昔に比べれば人影はだいぶ少ないし、チャットもほとんど流れてこない。
 サクソニアは古くからある街なので、受けられるクエストなども低レベル者向けのものが主体となっている。最新のコンテンツをプレイしている人たちは、こっちにはもうあまり来ないのかもしれない。

 四年前にプレイしていた頃の経験があるので、サクソニアの地図はだいたい頭に入っている。
 『ソル神の神殿』は街の北のはずれ、なだらかな坂を登りきった場所に街を見下ろすように建っている。
 白っぽい壁の建物が立ち並ぶ街並を抜け、石畳の坂を登りきる。
 坂の上に立つ神殿は、現実世界のカトリックの聖堂に近いイメージの建物だ。

 神殿の中には先客がいた。
 グレイの尻尾のベスティアの男性と、茶色のセミロングのヒューマンの女性。
 名前は『ランダル』と『アデル・リデル』。
 間違いない。さっき、街の外で俺を蘇生してくれた人たちだ。
 と、ヒューマンの女性から、白くぼんやり輝くエフェクトが立ち上った。
 アデル・リデルはガッツポーズのモーションをして、力強く雄たけびを上げる。
 そんな彼女に向かって、ランダルは拍手している。

 ああ、これは。
 たぶん、転職が終わったのだ。アデル・リデルがクラスチェンジした瞬間に、俺は立ち会ったのだろう。
 ふむ、なるほど。
 かけてくれた強化魔法から考えて、ランダルはかなり高レベルのバードだ。
 たぶんアデル・リデルは駆け出しのプレイヤーで、ランダルはその転職を手伝うために一緒に行動していた。そんなところだろう。
 フレンドや同じギルドに所属している仲間の手伝けをする。昔、よく見た光景だ。

  フィーリエル:さっきはありがとうございました。

 少しためらいながら、だがほんのちょっと勇気を出して、俺はチャットで発言した。

  ランダル:ああ、先ほどの方ですね。

 ランダルが俺のほうに向き直り、お辞儀のエモートモーションをした。
 それに合わせるように、アデル・リデルも俺に向かってお辞儀する。

  フィーリエル:転職なさったんですか?
  アデル・リデル:ですです♪ プリーストになりました!
  フィーリエル:おお、おめでとうございます!

 やっぱりだった。アデル・リデルは転職のためにこの神殿に来ていたのだ。

  ランダル:えっと、フィーリエルさんは初心者クエですか?
  フィーリエル:そうなんです。だからさっきは本当に助かりました。
   あそこで死に戻るとアヴァロニアなので。
  ランダル:ああ、そうですね。

 そこでチャットが途切れた。
 話すことも特にないし、もう自分の用事に戻ろう。ちょうど目の前に、今受けているクエストの対象NPCがいることだし。
 そう思っていた時、白い文字が再びチャット欄に現れた。

  ランダル:フィーリエルさん
   もしよかったら、うちのギルドに入ってみませんか?

 思いがけない誘いだった。

 ギルドか……
 ギルドというのは、プレイヤー同士のグループだ。ギルドメンバー専用のチャットが用意されていたり、共用の倉庫が使用できようになるなど、ギルドに所属するといろいろな特典が受けられる。
 と同時に、グループの一員となるわけなので、ひとりでプレイをしている時とは違う、ある種の束縛も発生するようになる。
 加えて、名の知れたギルドの場合は、よくも悪くも『あのギルドの人間』という目で見られることになる。

  フィーリエル:あ、えっと。
   私、まだこのゲームを続けるかどうかも決めてなくて。
   なのでギルドはあんまり考えてないんです。

 まあ、本音と言えば本音だ。
 俺がプレイしているのは、今が無料期間だからだ。無料でプレイできる二週間が過ぎれば、もうINしない可能性のほうが高い。
 それに、評判もよくわからないギルドにいきなり入るのは、ちょっと怖い。
 フィールドで辻リザをしたりしているし、この人はたぶんいわゆるいい人なのだろう。
 ただ、ギルドには苦い思い出がある。
 四年前、本当に初心者だった頃に所属していたギルドは……ある日あっさり消滅してしまった。
 いまだにあまり思い出したくない出来事だ。
 ……以来、ギルドというものは、俺にとってちょっとしたトラウマになっている。

  ランダル:そうですか。
   このゲーム、最近では新しく始める人があんまり多くないらしく、
   今から始める新規さんは何かと大変なようなんです。
   なのでお手伝いできればと思ったのですが。

 ふむ。
 この人、本当に善人っぽいな。
 それとも、これが女キャラならではの効果ってものだろうか。
 男ってやつは、どうにもかわいらしい女の姿をしたものに弱い。
 昔、ヒューマン男ナイトでプレイしていた頃は、こんなふうには親切にされなかったような気がする。
 パーティに誘われることなら多かったが、あれは単にナイトが常に不足しているという、需要と供給の問題に過ぎないだろうし。

  フィーリエル:ありがとうございます。
   またお会いすることがあれば、そのときまた考えてみますね。

 さしさわりのなさそうな言葉で適当に答える。まあ、またお会いすることなんてそうそうないような気もするが。

  ランダル:そうですね。気が向いたら声をかけていただければ。
   あ、ちなみに、うちのギルド、『ホワイトハウンド』といいます。
  フィーリエル:あ、はい。覚えておきますね。

 本当は覚える気なんてあまりない。けどまあ、後で簡単に情報を調べてみてもいいかもしれない。

 そんな感じで会話を終えると、ふたりは神殿を出ていった。
 俺はクエスト対象であるNPC『大祭司エウセビウス』に話しかけて、受けていたクエストを終わらせる。


 さて、と。
 今日はこれくらいにしておこう。もうかれこれ五時間近くプレイしている。
 サクソニアにはけっこうたくさんクエがあるはずだが、それは明日に回そう。
 クエストを順に片づけていって――Lv15になればいよいよ転職(クラスチェンジ)だ。
 ゴールデンウィークはまだはじまったばかり。あせらずゆっくり楽しめばいい。
 とりあえず、まずは風呂に入るか。

 ……なんて思っていたのだ。風呂に入る前は。
 風呂から出たあと、ネットで『アルビオン・クロニクル・オンライン』の攻略情報を流し読みしているうちに、だんだんゲームのことが気になりはじめ、ついついもう一度INしてしまって。
 結局、寝たのは午前三時をまわった頃だった。

 フィーリエルはLv14になっていた。

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