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ネカマではじめるMMOライフ 作者:霧原真

第1章 ネカマになるつもりじゃなかった

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3.早く人間に会いたい

 そんなわけで。
 俺、一ノ瀬大樹は新規キャラクターを作り、『アルビオン・クロニクル・オンライン』を一からプレイし直してみることにした。

 四年のブランクは思った以上に大きい。
 少しキャラを動かしてみてわかったのだが、今の俺は、基本操作もままならないような状態だった。新規アップデートで加わった部分の知識を補えばOK、なんていう生易しいレベルではなくて、もう一度一から覚えなおしたほうがいいんじゃないかという体たらくである。
 まあ、そんな状態でも、以前の知り合いが今でもゲームに残っていて一緒に遊んでくれるならば、昔のキャラでプレイしたほうが楽しいだろう。だけど、どうもそれは望み薄のようだ。
 それに、もとのキャラにはちょっと不満もある。
 時間を割いてプレイするつもりなら、別の種族、別の職業を試してみたほうがかえっていいんじゃないか。そう思ったのだ。

 俺が四年前に使っていたキャラクターは、種族はヒューマン、戦闘職(クラス)はナイト、キャラクター名は『ダイ』。
 ……若気の至りというべきか、リアルの自分にけっこう近くて、それでいて憧れを詰め込んだようなキャラクターだ。

 『アルビオン・クロニクル・オンライン』では、プレイヤーが選べる種族は五つ、クラスは八種類用意されている。

 五つの種族はヒューマン、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人族(ベスティア)
 それぞれ、一般的なファンタジー作品で見られるイメージをそのまま持ってきたようなデザインになっている。
 ちょっと尖っているのは、ドワーフの女性には髭が生えており、ドワーフ男性との見分けが非常につきにくいという点だろうか。たしかにドワーフらしいといえばドワーフらしいが、ユーザー受けはかなり悪く、女ドワーフはレアキャラ扱いだ。
 ベスティアのみはこのゲーム独自の種族だが、獣の耳と尾を持つ、いわゆる獣人だと思ってくれればいい。ただ、どういうわけだか、ベスティアの男性は細身で筋肉質の若者なのに、女性は低身長で幼児体型の、いわゆるロリキャラだったりする。
 ベスティアは男女ともにユーザー受けが非常にいい。しかしこの種族の繁殖事情を真面目に考えると、なんだか変態くさいような気がして仕方ない。

 クラスには戦士(ファイター)系と魔術師(メイジ)系の二つの系列がある。ゲーム開始時には基本職であるファイターかメイジのどちらかを選び、Lv15になった時点で上位の職に転職する。
 上位職は四種類ずつ用意されており、それぞれ職能に特化した能力を持っている。他のプレイヤーとパーティを組んでプレイしようと思ったら、上位職についていることが必須であると言っても過言ではない。
 ファイター系列は、ナイト、ウォーリア、アーチャー、ローグ。
 メイジ系列は、プリースト、バード、ウィザード、サモナー。
 ナイトは盾役(タンク)、プリーストは癒し手(ヒーラー)、バードは支援者(バッファー)、そして他の職は攻撃の担い手(アタッカー)に分類される。

 種族の違いは各パラメータに多少影響するが、決定的に能力を左右するほどのものではない。
 ちょっとしたミスすら許されないようなぎりぎりのプレイをしている連中だとクラスと種族の組み合わせを気にかけたりもするようだが、大半のプレイヤーはさほど問題にしていない。容姿や雰囲気なんかで種族を決めることのほうが多いだろう。

 で、昔のキャラの何が問題かというと。
 高校生当時の願望がそのまま投影されてしまっていることへの面映さもあるが、ナイトというクラスでプレイすることが、今となってはちょっと厳しくて、しんどいのである。

 この世界におけるナイトは、いわゆるタンク役だ。
 戦闘において敵を自分に引きつけ、パーティメンバーの盾となる役割を担う。ダンジョン攻略なんかでは、先頭を行き、皆を導くリーダー的なポジションを引き受けることを期待されたりもする。
 これが、ちょっと、きつい。
 四年間、ずっとプレイしていなかったのだ。新規に実装された部分の知識がすっぽりと抜け落ちていることもあって、キャラの性能や適切な立ち回りがさっぱりわからない。ダンジョンの先導なんかは、できれば遠慮したいところだ。
 だったらいっそ、新しいキャラを作って一から学びなおしたほうが気楽なんじゃないだろうか。

 そう思ったから、俺は『フィーリエル』を作ってみた。
 種族はベスティア、性別は女性、職はメイジ。昔のキャラとは正反対に近い存在だ。

 女性キャラにしたのは、そのほうがプレイしていて自分のテンションがあがるからだ。
 男の姿を見続けるより、自分好みのかわいい女の子を見ているほうがずっと楽しい。それに、女性用の装備のほうがデザイン的に優遇されていることが多かったりする。
 おしゃれな装備を集めるのもゲームをする上での大きな楽しみであるわけだが、男性キャラだと、どうもそのあたりが微妙なのだ。
 それに、現実の自分自身とは距離の遠いキャラの方が、割り切ってゲームそのものを楽しみやすいような気がする。

 とまあ、そんなこんなで新規キャラ『フィーリエル』を作成し、いざアルビオンの大地に降り立ったわけなのだが。

 ――ああ、早く人間に会いたい。

 初心者ゾーン『アヴァロニア』でチュートリアルクエストを黙々とこなしながら、俺は切にそう願うようになっていた。

 作成されたばかりのキャラクターは『アヴァロニア』と呼ばれる土地から冒険を開始する。
 アヴァロニアは“湖に浮かぶ霧に閉ざされた神秘の島”として設定されており、外界から隔絶された場所となっている。
 ここでは対人戦闘(PvP)を行うことができない。
 ゲームに不慣れな初心者が、高レベルのプレイヤーから一方的なPvPを仕掛けられたり、PKに巻き込まれたりしないように配慮されているのだ。
 ここにはベテランのプレイヤーはまず来ない。来るような用事が特にないからだ。
 初心者ゾーンとはよく言ったものだ。ゲームを始めたばかりのプレイヤーしかここにはいないと思ったほうがいい。そして、年季の入ったゲームに新規で参入しようとするプレイヤーは、――そう多くはない。
 つまり、初心者ゾーンにいる間は、なかなか他のプレイヤーに出会うことができないのである。

 ログインしてそろそろ三時間になるだろうか。
 いまだに俺は“中身入り”のキャラクターを見かけていないような気がする。
 メッセージ欄を埋めるのはクエストや戦闘関連のログとNPCの垂れ流すセリフ。プレイヤー同士のチャットなんてぜんぜん流れてきやしない。

 ――オレンジ色の文字で表示される叫び(シャウト)は広範囲に届くメッセージ。
 白文字の通常チャット――いわゆる白チャはごく狭い範囲にしか届かない。
 他にも、パーティ用チャットや、個人に直接話しかける一対一のささやき(ウィスパー)などがあり、プレイヤーは状況や用途によってそれぞれを使い分ける。

 ……そんな知識が虚しくなるくらい、アヴァロニアは静かだった。

 このゲーム、予想以上に過疎が進行しているんじゃなかろうか。
 オープンベータ当時の賑わいを知る身としては悲しい限りである。

 あの頃、アヴァロニアはプレイヤーであふれかえっていた。
 クエスト対象のmobを狩ろうにも、mobのリポップが追いつかない。そんな中で、mobを取り合って争ったり、逆に協力し合ったりして、プレイヤー同士の交流がそこここで発生していたものだった。
 メッセージ欄にはプレイヤーの発言がひっきりなしに流れてきた。
 その内容もさまざまだった。
 パーティの募集やクエストのアドバイスといった実際的なものから、たわいもない日常会話。どうにも痛々しい煽り合いなんかも頻繁に見かけた。
 四年前のオープンベータ当時、俺は十六歳、高校二年生だった。今から思えばたいがいガキだったわけだが、そんな俺でもシャウトでの煽り合いは見苦しいと思ったものだ。
 だが、今となってはそれすらも懐かしい。

 それにしても、である。

 実は、プレイヤーキャラクターがぜんぜんいないわけじゃない。ゲーム側で用意されているNPCとは違う、プレイヤーによって作られたキャラクターらしき人影はそれなりに見かけている。
 ただし、連中はたぶん“中身入り”ではない。
 とても規則的にNPCと会話し、とても規則的なコースを通って狩場に向かい、とても規則的な動きでmobを狩っていく。
 名前も実に怪しい。
 よくわからないアルファベットと数字の羅列で構成されたものが多いが、かなや漢字を使っているものの日本語とは思えない文字並びの名前も見かける。
 『jk69zzzr』、『azwre221』、『ておに花へ』、『み子の猫や』、etcetc.
 どう考えたって、まともなプレイをしようとしている者の名前とは思えない。
 十中八九、奴らは自動プログラム、いわゆるbotだ。おそらくは業者が営利目的で動かしているものだろう。
 連中は自動で狩りを行い、ゲーム内通貨やアイテムを集める。そうやって得られたものは、たぶんRMTにまわされている。

 RMT、すなわちリアルマネートレード。
 現実世界で流通している通貨を支払い、ゲーム内のアイテムや通貨を非正規に売買する行為である。一応、このゲームでは厳重に禁止されているはずなのだが、昔からRMTにまつわる黒いうわさは絶えない。
 まったく、運営は何をしてるんだか。
 俺はまあ、今は無料サービス適応中だし、昔の思い出の補正もあるから、ちょっとくらいプレイしてみるのも悪くないと思っている。だが、まったくの新規で入ってきたプレイヤーなら、こんな状態のゲームを続けようという気持ちにはなれないんじゃなかろうか。

 やれやれだぜ。
 思わずそんな呟きがもれそうになる。

 いつまでもこんなところでbotとmobを取り合っていても虚しいばかりだ。さっさと初心者ゾーンを卒業して、外界に出て行きたいものである。
 とは言え、四年のギャップを埋めるためには、チュートリアルクエストをすっ飛ばしたりせず、段階を追って進めていったほうがいいだろう。
 まあ、もう少しの辛抱だ。Lv12になれば次の街へ誘導するクエストが発生する。そこが四年前と変わっていないのは、事前にwikiで確認済みだ。
 まさか外の世界にもプレイヤーキャラがいないっていうこともあるまい。
 ……ないよな?
 以前、一度だけ昔のキャラクター『ダイ』でログインしているが、考えてみたら、あの時も誰にも出くわさなかったような気がする。
 まあ、ログインした地点が悪すぎるので、判断材料にならないといえばそれまでなのだが。

 基本的に、キャラがインする地点は直前にログアウトしたところと同じ場所になる。
 四年前、最後にダイがログアウトした場所は、アヴァロニアのはずれの……森の中の泉。とても辺鄙な場所だ。
 もうゲームにはインしないと決めたあの時、最後に行きたくなったのは、初心者時代の思い出が詰まった場所だった。
 感傷的すぎると笑われたっていい。初心に帰りたいというか、思い出に浸りたいというか、とにかくそういった気分にとらわれて、わざわざそんな場所でログアウトしたわけだが。
 なんだろう。にわかに不安になってきた。
 まあいい。あまり気にしないで、とりあえず今できることをやろう。

 往き過ぎるbotの群れを眺めやりながら、俺はNPCに話しかけてお使いクエストの清算と再受諾を行うと、再び狩場へと向かった。
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