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Chapter:04 慟哭、そして哀悼
Episode:27
(どっちも、地獄か……)
 ロアはそっと、手を離す。
「……ごめん」
 その言葉に、少女は咳き込みながら首を振った。
 さらにしばらく咳き込んで、やっとかすかに声を出す。

「あたしが……いけないんです……。血に染まった手で……夢を叶えたいなんて……」
 ロアが回復魔法をかけてやると、彼女はようやく咳き込むのを止め、涙に濡れた顔を上げた。
「ルーフェイア……」

 彼女が、そして自分がその手に握り締めるものは、希望ではなく絶望。

「あたしみたいな人間、戦場の外に、出たらいけなかったんです。
 生き延びるんじゃなかった。死んじゃえばよかった……」
 その同じ言葉を、自分も何度繰り返しただろう?
 だから、言えた。

「――そんなこと、ないよ」

 殺す側と殺される側、結局どちらも違わなかったのだ。
 理不尽な状況に放り込まれ、振り回され、ただひたすら生き延びるのに精一杯だった。
 選びたくても、選ぶ余地さえなかった。

「あたしも辛かったけど、ルーフェイアも辛かったね……」
 泣きじゃくる少女の頭をなでてやる。少なくともこの子は、悪くない。

 どのくらいそうしていただろう?
 ようやくルーフェイアが泣くのをやめた。
 その彼女に、しばらくためらってから尋ねる。

「あのさ……キミはこれで、いいの? 学院にいたら、また……」
 戦わなくてはならない、その言葉は言えなかった。だが察したのだろう、ルーフェイアがあまりにも悲しい微笑みを見せる。

 瞬間、ロアは悟った。
 この子は――つかの間の夢を見に、ここへ逃げてきたのだと。
 シュマーという家が、少女に何かを強いている。けれどこの子はそれから逃れたくて、なのに逃れることは出来なくて、今だけでもとここへ来たのだ。
 なぜこの子を学院長がルールを無視し、直接ここへ入学させたのか。その疑問も氷解する。

「ばか」
 ロアはルーフェイアを抱きしめた。
 ならばせめて、ここに居る間だけでも、その手に握るのは希望にしてやりたい。笑顔でいさせてやりたい。

「ひとりで抱え込んだら、ダメなんだよ」
 ロアの言葉に、再びルーフェイアの瞳から涙がこぼれた。
 もし妹が生きていれば、こんなふうに腕の中で泣いただろうか?
 いずれにせよ、傷ついた心でまだ立とうとする彼女が、いとおしかった。

 どれほど辛かっただろう? どれほど苦しかっただろう?

 同じ苦しみを味わった、自分と少女。
 腕の中で泣く彼女のぬくもりを感じながら、ロアは心に決める。
 たった二年で命を終えてしまった妹への、哀悼の意味も込めて。

――ボクが、姉さんだよ。



◇あとがき◇
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。前作・前々作とともに、感想等いただけたらうれしいです。
なお、明日より第4作「葛藤」の連載となります。

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