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果ての世界で  作者: yuki
第一部
2/56

そして世界は始まる

 みなさまおはようございます。

 目が覚めてからというもの大変混乱しています。

 ここがどこかは分かります。そして"私"が誰なのかもわかります。

 別に記憶喪失というわけではありません。寧ろ鮮明です。というよりも、覚えている記憶の長さが短いので。

 いや、長いというべきなのかもしれませんが。

 ぶつぶつと誰にともなく独り言を呟く。夢は覚めなかった。いや、もしかしたら今ようやく覚めたのかも知れない。

 今の自分こそが本当で今までは長い長い夢を見ていただけなのかもしれない。別の世界18年分の夢を。

 ……そんな訳はないが。


 私の名前はセシリア・ノーティス。ここグロリアス皇国の辺境のそのまた辺境であるフィーリル地方を統治している領主の第一子で長女でもある。

 最近3歳の誕生日を迎えたばかりでようやく一番手のかかる頃を抜けた時だろうか。

 いや、自由気ままに歩き回り言葉も覚え疑問を何でも聞いてみたり我儘を言ったりで逆に手をかけているかもしれない。

 目の前の色々な物に興味を持つせいで落ちたら危ない置物やら、倒れたら死ぬかもしれない甲冑やらに触ろうとして慌てて止められた回数は数知れず。

 この屋敷で働いている侍女にも散々な迷惑を振りまいている最中である。

 こんな語りをする3歳が居てたまるか? ごもっとも。目の前にいたら驚きすぎて顎が外れるかもしれない。

 でも聞いてほしい。それと同時に存在するもう一つの記憶を。


 僕の名前は淡谷優(あわや ゆう)。今年から大学生活を始める事が決まって残り僅かな高校生を満喫している。

 思い出そうと思えば幼少の頃だって勿論思い出せる。10歳の時に貰ったパズルブックを見たときの興奮だってついこの間のように覚えている。

 流石に幼稚園の頃の記憶があるかといわれると鮮明ではないが。

 だが、確かに僕は淡谷優なのだ。

 そして同時に、セシリアでもあると一遍の疑いもなく言える。


「どういうことなの……」

 もう一度鏡を見る。明るい月明かりによって写りこんだ面影には優だった頃の特徴がどこにも見当たらない。


その姿はまるで御伽噺に出てくる妖精の様でさえあった。

 これはもしやファンタジーにありがちなエルフにでもなったのだろうかと思ったほどだ。

 良いのか悪いのか耳の長さは普通だったし、記憶にあるセシリアの両親の耳も同じだ。そもそも2人とも人間だ。


 状況を整理しよう。謎解きで一番大事なのは情報を纏めて客観的に見つめることだ。

 まず今の自分にはセシリアとしての記憶も優としての記憶も同時に存在している。

 そして自分がそのどちらでもあるという事を自覚している。

 この世界はセシリアの過ごしている世界で間違いない。ただセシリアとしての記憶はとても少ない。

 まだ3歳なのだから当然といえば当然だが、この国の名前と土地の名前くらいしか分からなかった。

 それだってお父様の話していた会話がたまたま聞こえた時の記憶が運よく残っていたからだ。

 単純な会話もできるけれどこちらの世界の単語の語彙がまだまだ少ない。

 使っている言語体系が別なのだから日本語で話しても恐らく娘がよく分からない事を言ったとしか思われないだろう。

 それが別の世界の言葉だとさえ思わないはずだ。


 現状を整理して分かった事はただ一つだ。情報が圧倒的に足りない。

 ならばどうすればいいのか。この世界にだって本や辞書くらいはあるはずだ。Wikipedia先生があるとは思えないが、そこは仕方ない。まずはこの世界がどんなところなのか調べる。

 知識がなければ動くことなどできないのだから。

「セシリア、起きてますか?」

 方針を決め心の中で気合を入れていると唐突に背後から扉の軋む音と優しげな声が聞こえた。

 慌てて振り向くとお母様が笑顔で立っていた。

「はい。起きてました」

「あら、偉いわね。今日の朝ごはんは良く煮込んで作った野菜スープよ。着替えて一緒に行きましょう」

「すぐ着替えます」

 そういって洋服を脱ごうとするのだが中々上手くいかない。あれ、そもそもこれってどういう構造になってるんだろうか。

 セシリアの知識の中には着ている洋服の構造については思い出せない。かといって幾ら知らない事を調べるのが好きだった優としての知識の中にも幼女が着るようなワンピースは流石に含まれていない。

 もし含まれていたら自己嫌悪に陥るところだ。

 ボタン式なのかと思って見渡してもそれらしいものは見つからない。もしは後ろにあるのかと手を伸ばしてみても思うように届かず、それどころかバランスを崩して転んでしまった。

「あらあら……こっちにおいで。脱がしてあげるから」

「えぇっ」

 思わず素っ頓狂な声が出た。別におかしなことを言ってるわけじゃない。だけど今の自分はどちらかといえば優としての自意識の方が圧倒的に強いのだ。

 18の男子に母親と分かっていても綺麗な女性に脱がしてあげるとか言われて変な声が出たのは不可力抗、そう、不可抗力だ。

 お母様はそれを3歳児によくあるこだわりの一種と思ったのか、困ったように笑いながらこっちを見ている。

 今更だけど見られながら着替えるのだって脱がされるのと同じくらい恥ずかしい。どんな羞恥プレイだ。

 すぐ傍で優しいまなざしを向けられていると意識してしまえば集中なんてとてもできずに何度も転んでは立ち上がるを繰り返す。

「ちょっと手伝ってください……」

 結局なるべく何も考えないようにしてから着替えを手伝ってもらい淡い水色のワンピースに着替えさせられるのだった。

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