挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
好奇心は吸血鬼をも殺す 作者:はちゃち

第二章 神話の領域

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

15/33

第13話 2月10日0時36分

 飛来する雷撃に対し、リッチェは即座に行動した。
 魔法防壁によって至誠を守ろうと。


 しかし、より素早く行使されたテサロの魔法によって未遂に終わった。

 ――なっ!?

 そんな感嘆符が脳裏を過ぎる頃には、リッチェの体は高く宙に浮いていた。


 至誠はすでに嘔吐物が胃液のみになり、わずかだが落ち着きを取り戻しつつあった。

 そんな最中、急に体が重力を感じなくなった。

 急な出来事に驚くものの、その結果わずかに思考力が戻ってくる。


 自分の体が地面から遠のき、空中に体があることを理解する。

 ――浮いてる……!?

 しかしその理解が及んだときには、重力に従い落下し地面が目の前に迫っていた。


 至誠はリネーシャの肩に担がれている事に気がついた。

 と同時に、雪原に地吹雪を巻き上げ着地する。


 積雪は少なくとも一メートル以上はある。

 しかし、雪がクッションになったでは言って説明できないほど、着地の衝撃はなかった。

 その後方でヴァルルーツを担いだエルミリディナと、テサロに首根を捕まれたリッチェも同様に着地する。

 リッチェは着地と共にテサロの手を離れるが、至誠とヴァルルーツは担がれたままだ。


 一行は雪原を駆ける。


 いや、駆けると評するのは適切ではない。


 リネーシャもエルミリディナもテサロもリッチェも、雪上をわずかに浮遊した状態で高速で移動している。それも、自動車に乗っているかのような――いや、それ以上の速度をもって。



 至誠は理解が追いつかない。


 まだ吐き気も治まっておらず、思考力が完全ではない。

 それを差し引いたとしても、状況の変化が急すぎだ。


 そんな中で真っ先に疑問に思ったのは、一面雪景色の中を生身で自動車以上の速度を出して移動しているにもかかわらず、寒さどころか冷気をまるで感じないことだ。

 それどころか、風圧すらまるで感じない。

 しかし至誠は、再び襲ってきたむかつきの波によって、思考する余裕が奪われる。




 直後の事だった。

 後方より、闇夜を払拭せんと言わんばかりの光彩が輝きはじめる。


 その光は、先ほどまでいた建物からだ。


 ヴァルルーツには、それが大魔法の収束であると理解できた。

 通常の魔法攻撃よりも高度かつ大規模な術式によって発せられるのが大魔法だ。

 その運用は非常に難度が高い。
 しかし攻撃用途の大魔法は非常に戦術的価値が高い。


 五年前のレギリシス軍との戦闘でも、ヴァルシウル王国が発動させた大魔法が出鼻を挫き、かつ決定打となった。

 しかし、大魔法はあまりに膨大なマナの消費量と、構築および処理に必要な術式が多い。
 そのためヴァルシウル王国では、発動に数個大隊、術式内容によっては一個師団の人員を必要としている。


 だが後方で収束する大魔法は、明らかに数人で運用され、かつその構築があまりに短時間で進んでいる。


 ――なんて奴らだ……ッ!!


襲撃者の実力の高さに、ヴァルルーツは度肝を抜かされる。




 肥大化しつつあった光は、一瞬にして収束したかと思えば、目が潰れるほどの光量が深雪を飲み込みつつ一気に迫る。

 一行はまるで後方に目が付いていると言わんばかりに即時転進しそれを回避する。

 魔女の攻撃に飲まれた地面は、雪もろとも抉られ消滅しており、自分が巻き込まれれば跡形も残らない事はヴァルルーツの想像に難くなかった。


 ――これが何度も襲来するようではたまったものではない。


 だがヴァルルーツの懸念に反し、その攻撃は一度の射撃だけに終わった。
 第二射が飛来する気配は感じられない。


 それは攻撃よりも、目隠しが目的だからだ。

 その闇夜に抜ける強大な光源は常人あらば目が眩み、攻撃を回避したとしても夜目が利かなくなる。
 実際、リッチェはわずかに、ヴァルルーツと至誠はその影響をもろに受け、視界の明度が落ちる。


 その間に、魔女が急速接近する。

 目立って追ってくるのは後方に三人。


 いや、それを人型と呼ぶべきかは疑わしい。

 何れも頭部は無く、体はひどく損傷しており、すでに流れ出る血液すら残っていないほどの様相のそれは、先ほどリネーシャに殺されたはずの魔女だ。


 異形の魔女は二度の死を経て、人とはかけ離れた挙動で近づいてくる。

 まるで操られた人形のように。


「あ、あいつらは一体!」


 そんな状況を目にしたヴァルルーツはそう悲痛とも似た動揺を口にする。



「後どれほどで戻ってこれるかしら?」

「五十一秒」

「分かったわぁ。狙いがどっちか分からないけど、あいつらとは(・・)私が遊んでくから」


 だがリネーシャとエルミリディナは、ヴァルルーツに応えず、二人だけで何かを確認している。


「スワヴェルの方は?」

「今のところ敵襲は無し。例の物品を確保し潜伏中ねぇ」

「アーティファクトの保護を優先するが、好機があれば必要に応じて動けと伝えておけ」

「了解よ」


 少しの間を経てリネーシャは言葉を続ける。


「あとは好きにしろ。だが優先順位を間違えるな」

「もちろんよぉ。でもそっちに行っちゃった場合はそっちでなんとかしなさいよ。私はあいつらが特異鉱石の反作用を利用して、何をしでかすのか気になるわぁ」

「喰われても助けてやらんぞ?」

「もちろん構わないわぁ」


 その最中、リッチェはそう彼女達に具申を挟む。


「後方の三体は私が射撃して応戦しましょうか?」


 あの動く死体は異質ではあるが、動き自体は直線的だ。

 遠距離攻撃も見受けられない。
 ならば遠距離から一方的に魔法攻撃する事で容易に倒せるとリッチェは考えた。


 だがリネーシャは叱責を内包する淡泊な口調で返す。


「何度も言わせるな。至誠に危害が加わらないようにだけ集中しろ」

「――っ。はい」


 リッチェが視線を落とすと、テサロが端的に告げる。


「リッチェ。失態を取り戻そうと失態を重ねる事は忌むべきです」

「……申し訳ありません」


 リッチェはそう謝罪を口にし、再び視線を前へ戻した。



 リッチェの行動――先ほどの、飛来する雷撃から至誠を守ろうとした行為は、結果から言えば悪手だった。

 左右から飛来する攻撃は当たれば至誠が死んでしまうほどの強大な魔法攻撃なのは間違いない。
 だがそれを防ぐと上空からの攻撃が飛来しただろう。
 そしてそれすらも囮であり、魔女の本命は足下からの攻撃だった。

 敵の魔女の誘いにまんまと引っかかりそうになったリッチェは、なんとか挽回したいという意識からの進言だったが、結果は散々だ。

 そんなリッチェの心情など一つ一つ配慮する余裕などなく、事態は進み続ける。


「二十秒」


 リネーシャの指定する秒数が更新されるとエルミリディナは急減速し、直前まで迫っていた異形の魔女の脇をすり抜け背後を取る。

 ヴァルルーツを担いだまま。
 同時に異形な魔女の足下に陣が浮かび上がる。間髪入れず、周囲の雪は大きく陥没する。

 落ちると言うよりは、上からたたき付けられたかのようなそれは、クレーターのように雪と地面を、そして魔女を巻き込み逃げる時間などなく圧縮する。

 頭部の無い魔女の一人が再び動かなくなった。

 残り二人の異形の魔女は、エルミリディナと担がれたヴァルルーツへ同時に飛びかかる。


 その体には、歪な紋様が光を零しながら散見している。

 異形の魔女の体は黒くむしばまれ、同時に黒ずんでいない皮膚が青白く発光している。それが歪な紋様のように浮き出ていた。

 それは器が限界に達し、特異点に達する兆候であることを、ヴァルルーツは知らなかった。



 今度はエルミリディナの足下に魔法陣が生成されると、飛びかかってきた魔女に攻撃を仕掛ける。

 しかしエルミリディナの行動を封じるかのように、後方より接近した異形でない魔女の攻撃が飛来する。

 エルミリディナにとって、受け流す事も受けきる事も簡単だった。しかし担いだヴァルルーツは耐えられないかもしれない――そう判断したエルミリディナは魔法陣を放棄しその場を離脱する。


 リネーシャの後を追うように再び駆けるエルミリディナだったが、すでにその距離はかなり開いてしまっている。


「王子」


 エルミリディナは戦闘が始まって初めてヴァルルーツに声をかける。


「は、はい!」

「今から貴方を投げ捨てるわぁ」

「えっ……はっ!?」

「私から言うことは、『自力で着地すること』『着地後はこちらに戻らず一目散にリネーシャの元に行くこと』。いいかしらぁ?」


 動揺と疑問符が脳裏に過ぎった。

 だがヴァルルーツは確信していた。
 それが出来なかったら命は保証できない――そう彼女は言っているのだと。


「わ、分かりまし――」


 そう返答する、その途中で体は大きく宙へ放られる。
 これで彼女に投げられるのは二度目だ。


「――ッ」


 世界が回転しながら白銀の雪原が接近してくる。

 なんとか魔法を展開すると、回転を抑制し、着地に対応させる。

 戻るなと言われていたが、駆け出す前にエルミリディナの方を一瞥(いちべつ)する。
 その背中は華奢な女の子のそれだったが、足下で展開される魔法と鬼道の混合術式は明らかに子供――いや人類の範疇を超えた出力を誇っている。


 すぐに踵を返し、高速移動の魔法術式を発動させリネーシャの後を追った。







 エルミリディナはヴァルルーツを放り投げると、即座に術式を展開する。

 異形の魔女はそのまま突撃するが、他の魔女達はその異様な出力を感じ取ると、即座に散開し防御と回避に専念する。

 足を開き腰を低く、前屈みに腕を引き、力を両拳に集中させる。

 即座に収束を終えると、全身を使い両腕を勢いよく前へ突き出す。合わせて発動する攻撃は、今まさに飛びかからんとする異形の魔女達に向かって放たれる。


 業火(ごうか)が異形の魔女を灰燼(かいじん)へと変える。

 その火焔(かえん)は可燃性の気体に引火を繰り返すように、それでいて溶岩のように粘りけを持つ持ち、一瞬にして広範囲へと爆轟(ばくごう)が拡散する。


 異形の魔女は即座に蒸発した。
 体内に埋め込まれた特異鉱石を除いて。


 前方へ扇状に広がるエルミリディナの攻撃は、発動中に身動きが取れなくなる弱点を抱えていた。その隙を魔女は見逃さない。


 一人の魔女が攻撃の縁をかいくぐり、奇襲に近いカウンター攻撃を仕掛ける。

 魔女の視線はエルミリディナを捉えた。

 だが、彼女の形相ははしっかりと魔女の方を見下し、愉悦に零す満悦な笑みは、これが誘い出すための罠であることを魔女に悟らせた。


 火焔は急速に術者の腕すら破壊しはじめる。


 エルミリディナの発動させた霊術は、既存の魔法や鬼道よりとは違う異質な火焔を生み出す攻撃術式だ。


 しかし、高い攻撃力と引き換えに発動中は移動がままならず、そのうえ最終的に術者を燃やし尽くすまで止まらないといういわく付きだ。



 火焔はエルミリディナもろとも奇襲を仕掛けた一人の魔女を巻き込み、盛大に爆裂した。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ