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使い捨ての筆 〜擬人化小説の罠〜
作:カエオルーン


「あ、あのね」
 ふうちゃんが、もじもじと顔を赤く染めながら切り出した。
「いつもみたいに、なでなでしてほしいの」
 そういって俯いて頭をこちらにさしだす風ちゃん。
 も、もちろんいいとも!
「えへへ〜」
 俺が頭をなでてやると、風ちゃんは照れたようにはにかんだ。
 風ちゃんの天然の茶髪のサラサラした感触が心地よくて、俺もいつまでもなでて居たくなってしまう………………


 俺は画面を見続けて疲れた目をこすり、体いっぱいに伸びをした。
 最後だったが、今日も風ちゃんのエロくて萌える小説を書くことができて、満足だ。
 きっと世の男どもは、風ちゃんにメロメロになることだろう。
 四苦八苦してキーボードを打ち続けてできた小説をざっと見直して、その出来に微笑んだ。
 あとは小説をサイトに上げて、あとがきを書いて、と。
 すべて終わってから時計を見れば、すでに午後十一時をまわり、明日と今晩はするかどうかといったところ。
 熱中していて気がつかなかったが、やはり疲労はたまっていて、パソコンの電源を切ると同時に眠気が襲ってきた。
 だが、ここで寝るわけにはいかない。
 風ちゃんに挨拶に行かなければならないんだ。
 自室を出てリビングに向かうと、まだ眠くないのか、風ちゃんが牢獄の中でじたばた暴れていた。
「風ちゃん、まだ遊びたいのか? 今出してやるからちょっと待っててくれ」
 俺は風ちゃんの入っている牢獄の鍵を外して扉を開けた。
 すると、風ちゃんはすばやく外に出てきて、そのつぶらな瞳で俺を見上げてきた。
 その光景に思わず胸を打たれながら、俺は風ちゃんをかき抱いた。
 ――風ちゃんは人間ではない、うちで飼っているフェレットだ。
 いや、正確には姉が飼っているんだが、リビングで飼っているのでうちで飼っているようなものだ。
 そのつぶらな瞳と愛くるしい容姿で、風ちゃんは我が家のアイドルも同然。
 普段寡黙で強面の親父も、動物は何かと金がかかるとぼやいてたケチなお袋も、学校ではアイドル扱いされてる姉も、そしてもちろん俺も、風ちゃんの前では無力なんだ。
「風ちゃ〜ん」
 腕に抱きしめた風ちゃんに愛しさをこめて頬ずりするが、残念ながら嫌がってもがかれるだけだ。
 妄想小説のようにはもちろんいかない。
 だが、そこは風ちゃんの声を都合の良いように脳内再生して補完するのだ。
『や、やめてよ〜。そんなことされたら、ダメだよ〜』
「ふふふ。何がダメなんだい、言ってごらん」
『は、はう〜。ダメなものはダメなの〜』
 都合のいい妄想に浸っていると、風ちゃんに頬を噛みつかれた。
 痛い……が、そこも都合よく脳内変換。
『もう〜、ダメって言ってるのに。お仕置きなんだからねっ!』
 ああ、すばらしき世界。
 このすばらしき擬人化小説の世界を誰が止められるだろうか?
 ――いや、止められない! 
 そう思おうとしたが、風ちゃんを題材にした擬人化小説は、先ほど完結させてしまった。
 もちろん最後は風ちゃんとムフフで筆おろしな展開になったのだが……このままでいいのだろうか?
 やはり、夫婦となった二人のムフフなその後も書いていくべきだろうか?
「あんた何やってんの?」
 俺がそうやって風ちゃんを胸に抱きしめながら考えてきたとき、姉のあきれたような声が聞こえてきた。
 視線を上げれば、風呂上りでバスタオル一枚体に巻いただけの姉。
 強く自己主張している柔らかそうな胸に、はっきりと分かるくびれ。
 すらりと伸びた手足に、肉感のよさそうな太もも。
 さらに、顔のパーツはそれぞれ寸分の狂いもなく整っていて、これに湯上りの匂い立つような色気も加えれば、我が姉ながら学校でアイドル扱いされるのも無理はない、と思わずにいられなかった。
「二人とも、あんまり凝視しないでくれる? 女日照りなのは分かるけど」
 いかんいかん。
 女日照りなのは悲しい事実だが、姉に欲情してどうする。
 そう思って自分の筆を落ち着かせようと視線を落とすと、姉を凝視する風ちゃんが視界に映る。
 あれ? そういえば二人ともって、どういうことなのかね? 
 それに風ちゃんは女の子なんだから、女日照りじゃなくて男日照りじゃあ……。
「えっ? 知らなかったの? 風ちゃんは男の子だけど」
 さすがは姉、視線だけで俺の質問を汲み取れるとは……なんだと!?
「馬鹿な!? 風ちゃんなんだろ!? それに男だったら必要なものがついてないじゃないか!」
 風ちゃんのそこを指差して言う。
「馬鹿はあんたね。風ちゃんって風太ちゃんの略よ、知らなかった?
それにものがついてないのは去勢手術受けたからに決まってんじゃない」 
 Oh my God!
 それじゃあ、それじゃあ俺の擬人化小説の筆おろしシーンは正しくは…………
「『風太君。ここはどうかね? 感じるかい?』
『ああっ、僕、そ、そこはダメなんですっ……あっ、お、おしりは、おしりは、そんなの入らな(以下自粛』
 そんなイヤーンな展開だったというのかぁぁあっ!?」
「アホね」
 脳内妄想だだ漏れでした。
 俺は風ちゃん改め風太を、軽蔑した視線を送ってくる姉に預け、ふらふらと立ち上がった。
 ……そうだ、俺にはやるべき最後の使命が残っているんだ……。
 自室に戻って、パソコンを立ち上げる。
 さっき発表したばかりの小説には、ありがたいやら、ありがたくないことにすでに評価までついてしまっているが、俺には事実を伝える義務がある。
 俺は筆おろしシーンを『お、おしりはダメなのにぃっ……入ってく(以下自粛』というイヤーンな展開に変えて、上げ直した。

 結局、最後の展開に不満だらけの批評が集まって、その筆おろしシーンを書いて以降、俺が小説を書く――筆を持つことはなくなったのだった。

















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