豊子の食べながらダイエット
豊子には最近、真剣な悩み事がある。
「……ぽっちゃり、か……」
今日も彼女の中でその一言が巡り巡る。それは豊子と仲のいい友人達に言われた言葉だ。
友人達に悪意はない。花も恥じらう乙女同士の他愛ない会話の一部である。仲のいい友達だからこそ言える冗談まじりの言葉だった。
もちろんそれは豊子にも理解できている。豊子の友人達は皆優しく、信頼でき、人を陥れるような人間ではない。
それでも、毎日のように“ぽっちゃり豊子ちゃん”と呼ばれれば段々と傷ついてくる。最初は彼女も笑顔で「もぉー」とか言っていたが、日を追うごとにそれが頭から離れなくなっていった。
「やっぱりぽっちゃりかなぁ……」
無論健康な女子高生なのだから、余分な場所の肉付きも良くなる。
その上、豊子は食べるのが好きで、大食いとまではいかずとも他の女子と比べるとよく食べる。そんな豊子が体型を気にする他の女子よりぽっちゃりしているのは仕方のないことだろう。
勿論これまでにもさまざまなダイエットを行ってきた。しかし、迫りくる食欲には勝てず、どれも途中で投げ出してしまった。
「痩せたいなぁ……」
といいつつ、片手には流行りのお菓子が。
「私もみんなみたいにスリムになりたいなぁ……」
といいつつ、片手のお菓子は口の中へ。
「でも食事制限はしたくないなぁ……」
といいつつ、次のお菓子に手が伸びる。
「食べながらでも痩せる方法……あっ!!」
豊子は思いつく。これまでの集大成ともいえるダイエットを。食べながらにして痩せられる最高のダイエットを。
数日後、ついに豊子はその方法を実践した。誰にも見られずに、覚悟を決めて。
響きわたる大きな悲鳴も、幸い誰にも聞かれなかった。
次の日、豊子は晴れやかな気持ちで学校に登校した。
しかし、友人の裕子は豊子に「大丈夫? 無理しないでね」と心配そうに話しかけるだけだった。
「やっぱりこれだけじゃ変わらないよね」
その日、自宅に帰った豊子はそう呟き、また同じことを繰り返した。
今度こそ、とその次の日も豊子は学校で祐子に話しかける。しかし祐子は昨日の彼女のように豊子のことを心配してきた。
「まだまだ足りないよね」
彼女はまた悲鳴を響かせる。
しかし、次の日も佑子に心配された。
それからはもう豊子は必死だった。少しだけでいいと思っていたのに、どれだけやっても、「痩せたね」、とは言われず寧ろ心配される。
だが豊子がやったことは取り返しがつかず、それを繰り返すしかなかった。
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豊子が高校を卒業する頃になると彼女はぽっちゃりとは言われなくなった。
彼女もようやくキツいダイエットから開放され、心の底から安堵した。
同級生は豊子より太った3人だけになっていたが。