陸弾目:魔王の遊具
授業が終わった後、仁は健也を置いて、学校を出た。しかし、そのまま帰るわけではなかった。
仁は、帰り道とは違う道を走っていく。そして、人気のない道に、隠れるように入った。
「さぁ、いつでもいいぜ」
仁は壁にもたれかかって、ふところに手を突っ込んでいる。誰かを待ち伏せしているのだ。
「目の前の道を、通り過ぎる瞬間に撃つ。シンプルでいて完璧だ」
そうして数分待つと、奴が現れた。
……木田だ。のこのこと一人で現れた。
「さぁ、死んでしまえ」
仁はふところから銃を取り、木田に銃口をむけた。
この時仁は、復讐心よりも、殺人によるスリルの方が、心を満たしている事に、まったく気付く事はなかった。
そのせいだったのか。仁の別の人格が、何かささやいた。
親友を傷つけた相手だぜ?この程度で許されるのか?
しばらく仁は沈黙した。
「くく……これは面白そうだ」
動き出した仁は、木田のもとへ近付いていく。
「よぉ、木田」
「あ?仁か、どうした」
満面の笑みで仁が言った。
「実は面白い事があるんだ」
その日の夜、仁は家を出て、公園に向かっていた。暗い曇り空の中を、堂々と歩いて行く。その姿は、
未熟ながら堂々とした面持ちの、若き魔王のようだった……
公園に着くと、仁以外に二つの人影があった。
「遅いじゃねえか、仁」
木田の声だ。よく見ると、木田の隣りにいる奴は、いつも木田に絡んでるやからの一人だった。
「木田、俺は一人で来いって言わなかったか?」
仁はつまらなそうな顔をした。
「堅いこと言うなよ。寂しいじゃねえか」
「まぁ、ちょうどいい」
仁は一言言うと、ふところから銃を取り出し、木田の友人に銃先を向けた。
「おい、仁、何する気だよ!」
木田が叫んだ。友人は何が何だかわからずに、動揺している。しかし、仁は構いもしない。
「木田、よく見とけ」
仁はそう言うと、引き金を抜いた。空音が夜空に鳴り響いた。
友人はポケットからナイフを取り出した。
「おい、何やってんだよ!」
木田は友人の行動を、必死に食い止めようとするが、友人は無視して、行動を続ける。
「仁、こいつに何をした!」
木田が震えた声で言う。すると仁は、冷めた態度で返答した。
「殺したわけじゃない。死へ導いたんだ」
平然と答える仁に、木田は恐怖を隠せなかった。
「い、命だけは許してくれ!金が欲しいならいくらでもやるから!」
訳が分からなくなった木田が、叫び散らした。木田の怖がる姿を見るつもりで来ていた仁にとっては、それはもはや快感でしかなかった。
「頼む、何だってするから、許して下さい」
すると、快感を満喫するのに飽きた仁が、口を開いた。
「何でもするんだな?」
「何でもする。だから見逃してくれ!」
仁は少し考えた後、不敵な笑みを浮かべて言った。
「三日以内に三百万持って来い」
「な、三百万?」
「出来ないんなら別にいいんだけどね」
木田の顔は、極限まで青くなっている。そして、重い口を開いた。
「わかった、用意する」
「じゃあ、見逃してやる」
木田の顔から、青味が消えかかった時、仁が口を開いた。
「この事を誰かにばらしても、すぐにわかるからな」
仁が言い終わって数秒後、木田はその場にへたれこんでしまった。
そして仁は、闇に消えて行った。
雲と雲の合間から、赤い月がちらつく。
――――――――――
仕事が終わり、犬養は尾形と居酒屋で晩酌をしていた。
「嫌になっちまうな」
尾形がビールを飲み干し、ため息混じりに言った。そんな彼に犬養が問い掛ける。
「張り込みがか?」
「それもそうだが、事件を調べど調べど、犯人への手掛かりはほぼ無いに等しいってのがな」
「確かに調べるほど、なんで尾形に少年の張り込みを頼んだのか、分からない事もないな」
「それに俺以外にも、張り込みする奴は結構いるみたいだしな」
「あぁ、さて、そろそろ出ようか。尾形は明日から張り込みだしな」
「俺はまだ平気だが、お前に支障が出ちゃしょうがねえからな、今日はこのくらいにしてくか」
二人は椅子から立ち上がり、店を後にした。
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