弐弾目:平和からの追放
全てが始まる少し前、彼がこの時代の平和を、授業中の昼寝という形で表現しているところだった。
「仁……仁!」
授業が終わり、昼寝をする仁に、容赦なく言葉をぶつける青年。
「ん、健也か。どうした」
寝起きの仁の目の前には、不安げな顔をする健也がいた。その顔には、いつもの好奇心旺盛な、子供の様な表情は全くなかった。
「あれ、本当にどうした?」
心配して仁が再び問い掛けた。
「まずはこれを見て」
健也は、手に持っていた新聞を仁に手渡した。そしてマーカーの引かれた部分をゆっくりと音読し始める。
「包帯男連続通り魔事件、げっ、市内の事件か!」
健也が深く頷いた。新聞によると顔に包帯をした男が、刃渡り十数センチの刃物で、無差別に切り付ける事件が多発しているらしい。犯人は今だ捕まらず……。さらにはその現場が市内となると、さらに話は変わってくる。仁の表情もだんだんと引きつってきた。
「なるほどな。こんな奴が動きまわってるんじゃ恐くも――」
「それだけじゃないんだ」
仁が言い終える前に健也が言った。そして、大きなため息を吐いてから、少しづつ語り始めた。
「まず、包帯男が市内にいるのはわかってるね?」
健也の問い掛けに、仁は縦に首を降った。
「じゃあ、率直に言うよ。この学校の目の前で人が刺された」
その瞬間、大騒ぎだったこのクラスが静かになったように思えた。冷や汗がゆっくりと、額から垂れていく。なんでそんなすぐ近くで事件が、なんでだ……なんでなんだよ!
「おーぃ、仁!」
「え?」
放心していた仁に、健也が声をかけた。仁はようやく我にかえった。
「そろそろ授業始まるみたい」
「あぁ、そうか」
仁は、動揺しながら返事をした。
この後、授業は中断され、下校となった。警察もパトロールしているから安心できるだろう。仁は自分に無理矢理そう思い込ませた。
しかし、最悪の事態は起こってしまう。
雨が降ってる。帰り道だった。人気のない道に仁が入った時。後ろから鋭い気配がするのを、仁は感じた。
まさか……。仁は肩の震えを押さえながら、そっと後ろを振り向いた。
傘が水溜まりに落ちた。全ての時が止まったような気がする。そんな気がしてしまっているのは、彼の目の前に……
まぎれもなく、包帯男が立っていたからだ。
この事件さえなければ、彼の人生は狂わなかったのかもしれない……
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