拾弐弾目:恐怖の有無
辺りが少しづつ暗くなり、月が本来の明るさを出し始めたころ、仁と尾形は、ジッとにらみ合っていた。
「坊主、これ以上逃げたって無駄だ。観念して出てこい」
尾形が仁に向かって叫ぶ。しかし、この言葉自体には、何の期待もしていなかった。サットの進入のためだけの、時間稼ぎに過ぎないのだ。
「ここで応じてたまるかよ」
仁は自分に言い聞かせるように、小声で言った。よもや自分でも、これ以上何をしたって変わらないことはわかっているのだ。
「これ以上やったって、何も変わらないんだ。無駄じゃないのか?」
尾形は仁の思っている事を、のうのうと指摘していく。本当に無駄なのではないか。仁がそう思いにふける。
「自首って事にしないか?今ならそうしてやってもかまわない」
あれ、尾形って奴、本当はいい奴なのかもしれない。仁の思考の中でそんな考えが出てきた。
悪い話じゃない、このまま自首して、罪を受ければ全てが終わる。そのチャンスをあの男はくれたのだ。仁の思いは確信に変わっていた。
「自首しよう」
仁が窓から身を乗り出して、口を開けた――その時だ。尾形はこちらを見て、不敵な笑みを浮かべた。
「動くな!」
仁の背後から声がした。色々な装備で身を固めた警備隊が数人、こちらに銃を向けて立っている。しかし、仁に恐怖が襲ってくる事はなかった。そして今、仁の心にある思いは一つ、尾形への――怒り?
あいつは俺を裏切った。改心しようとした俺を騙した。憎い、汚らわしい、死んでしまえ!
仁はふところに手を入れた。それを見たサットの一人が叫ぶ。
「おい、動くな。撃たれたいの――」
その男が言い終える前に、仁は銃のトリガーを引いていた。辺りに空音が鳴り響く。
サットの中では、チャンスと思ったのか、突撃用意をする者もいたが、慎重派な奴がリーダーなのか、行動に出るものがいなかった。
しかし、これが彼等の障害において、一番大きなミスだった。
「怖い、怖い……怖い!」
仁に撃たれた男が、突然叫び出したのだ。そして自分の持っていた銃を、自分の頭に向ける。
「おい、何してんだ、やめろ!」
するとその男は、他のサットの呼びかけに答えた。頭から銃を下ろす。サットは安心、仁は愕然としていた。まさか……『弾切れ』なのか?仁がそう思った、その時だ。
「皆も一緒なら、怖くないだろ?」
撃たれた男がそう言うと、持っていたリボルバーを乱射し始めた。鳴り響く銃声、その銃弾は、確実に他の人間を蝕んでいった。男の仲間が一人、また一人と倒れていく。その場の全員が動かなくなると、その男は再び自分の頭に銃を向け、この世を去った。
人気のない、赤い部屋、一人の少年だけが、立っている。
辺りが静かになった。もう仁の荒い呼吸の音しか聞こえない。しかし、それを遮るかのように、遠くから足音が聞こえてきた。
魔王をここまで追い詰めた、狩人のものだろう。
俺が確保されたとでも思ってるだろう。仁はそう読んでいた。足音がだんだんと大きくなる。仁は入り口のすぐ横に立つ。そして、何もしらない尾形が、部屋に入って来た。
「 」
仁は、尾形が何も口にする前に、トリガーを引いた。尾形は何も言わずに、その場で立ち尽くしている。仁はそれを見ると、一目散にその部屋から抜け出し、暗闇の中に消えた。
しばらくすると廃墟の中で、とても小さな爆音が鳴り響いた。
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