第33話 眠り姫の傍らで眠る騎士の
伸びすぎた髪で、首筋に咲く赤い花を隠した。
真っ暗な部屋で、あたしだけが赤く熱を持っている気がした。
ため息をついた。
もう、何度目かはわからないけれど。
目を閉じた。
けれど、いつまでたっても落ちることはなくて、目を開けた。
明日は、こーたが来る。
握り締めた手の中には、彼がくれた手紙。
小さな白い紙切れに書かれた文字は夜に消えて読むことはできなくなってしまったけれど、 それでも目を凝らして、指でなぞった。
指は手紙をなぞったあと、首筋をたどって花に触れる。
刻まれたシルシにもう痛みはなかったけれど、いつまでも熱に浮かされている気がしてならなかった。
手紙を握りしめる。
紙が音を立てて、部屋に響く。
こーたに、会いたかった。
もうどうしていいのかわからなくなって、とにかく彼の顔が見たかった。
離れていた分、自分の気持ちが揺れていることに気がつかされた。
あたしは、叔父から逃げたかったはずなのに。
こーたが来てくれるのに。
どうして、素直に喜べないんだろう。
胸を濡らした涙が染みわたって、ゆらゆらと。
そばにいてくれと、すべてを壊したあのひと。
あのひとがつくったセカイを壊して、飛び込んできた彼。
あたしは、どうしたらいいんだろう。
夜は色を増して、深く深くたゆたうように流れていく。
怖かった闇の色は、あのひとに重なって、すこしだけ涙のにおいがした。
「……ん」
はめ込まれた、開くことのない窓からさした陽が目をさした。
そのまぶしさに、いつのまにか伏せたままになっていた目をこじあけると、視界に影がうつった。
ベッドの足元、伏せられた顔。
握られた手だけが、熱かった。
いつもと変わらないグレーのスーツ。
セットしたのであろう髪が、乱れていてちょっと笑ってしまった。
「……り、な?」
「いつのまに入ってきてたの? 全然気がつかなかった」
身体を半分起こして、足元の叔父を見る。
叔父は布団に顔をうずめたままこちらを向いた。
知らなかった。
朝が苦手らしい。
まだぼんやりとしたその目が、あたしをとらえて細くなった。
子どもみたいに笑った叔父は、しあわせだと、そうつぶやいた。
「目がさめて、お前がいて、しあわせだ。どうしていままでこうしなかったのだろうな」
握られたままのあたしの手に頬を寄せて、叔父は笑っていた。
寝ぼけているのかなんなのか、そのやわらかい笑顔が今までとは別のひとみたいに見えた。
「……おはよう、叔父さん」
「おはよう、りな。今日は良い朝だな」
「どうして」
小首をかしげたあたしに、叔父はこういった。
お前が、俺にあいさつをしてくれたから、と。
そんな小さなことで、子どもみたいに喜ぶひと。
胸が、痛かった。
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