第31話 願い乞う小さな夜
かすれるような低音。
胸に響く、歌声。
あたしは、この声を知っている。
もう思い出すことはできないけれど。
小さなため息とともに、歌は終わってしまった。
少しの静寂のあと、あたしは両手をたたいた。
「愛しているといったのは、嘘じゃない」
叔父の口からこぼれた言葉に、あたしは拍手の手を止めた。
ベッドサイドで窓の外を見ていたはずの叔父の目があたしに向けられた。
なんで、怖いと思っていたんだろう。
あたしは、このひとの何を見ていたんだろう。
本気で、このひとはあたしを求めている。
「暴力をふるったのは、どうしていいかわからなかったんだ。お前は俺に怯えるばかりで昔のように笑ってくれないから」
手をのばされた。
頬を髪を首筋を撫でていく。
熱を持った、手で。
「愛しているよ。だれよりもお前だけを。そのために俺は許されないことをしてきた。それでも、お前が欲しい」
強く、引き寄せられて抱きしめられた。
拒むことなんて、できなかった。
その頬には、涙が伝っていたから。
首筋を濡らす涙。
あたしを求める声。
憎んでいた。
許すことはできないと、思っていた。
「そばに、いてくれ」
あたしは目をとじて、叔父の背に手を回した。
大きな背中はあたしの手を感じるなり、びくりと震えたが、そのあと力が抜けていくのがわかった。
ぽんぽんとその背をなでて、叔父の胸に体重をあずけた。
開けておいてくれと、手紙にあった窓の外。
小さくひかる、いちばん星。
叔父を抱きしめながら、こーたのことが離れない。
「りな」
小さくふるえる大きな身体。
こんなにもあたしを求めている叔父。
星に願うように、耳元で何度もそばにいてくれとささやかれた。
こんなにかわいそうなひとを、どうしても突き放せないと思った。
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