第30話 星に願いを
あたしにとって、こーたは星だった。
ガラス窓を蹴破って、セカイを壊してくれた願い星。
叔父にとって、あたしは星なのかもしれない。
闇をはらう、ちいさな流れ星。
「……余計なことを聞いたんだろう」
臆することなく、見据えたあたしの目を見てそう決まり悪そうに叔父はつぶやいた。
どことなく、恥ずかしそうに見えたのは気のせいだろうか。
あたしにとって、このひとは闇。
怖い人。
けれど、もうその恐怖心はどこかに消えてしまっていた。
「どうして、ウソをついていたの。遺産とか十八歳になったら出すとか」
「全部が嘘じゃない。確かに金は欲しかった、それに十八歳になったらお前の意思で分配できるのも事実だよ」
今まで一度もゆるめたことのないネクタイを目の前で叔父は外した。
ジャケット脱いで、ボタンを三つ目まで外す。
オールバックの頭を無造作にかきむしると、前髪がくずれた。
扉は開いたまま。
叔父は中に足を踏み入れた。
「俺がついた嘘は、お前を十八歳になったら自由にするということだけだ」
これが、きっと本来の叔父。
髪を下ろしたせいで、なんだか幼く見える。
口調も、あの形式ばったイイ叔父さんのものではなくて、すっかりモトに戻ってしまったかのようだった。
「ホストみたいだよ」
「やっていたころもあるよ。お前が欲しくて」
上着からタバコとライターを取り出すと上着を投げられた。
思わず受け取ると、叔父のにおいがした。
「お前に会った頃の俺は、本当に駄目な人間だったからな。金と地位と権力を手にするために、しばらく時間がかかった。そのうちにお前は十五になっていた」
手でライターをおおって、タバコに火をつける。
あたしは叔父がタバコを吸っているところすら見たことがなかった。
キツイ煙。
紫煙は叔父を包んで、流れた。
「驚いた。あんなに小さかったりなが、あまりにも大きくなっていたから。けど」
近づいてきた叔父は、いまだ乾かないあたしの頬に手を伸ばし、目じりを撫でた。
「泣き虫は変わらないな。最後の最後まで、お前は泣いていたよ」
あたたかかった。
指先は、こんなにも。
叔父がこんな風に笑ったのを初めて見た。
あたしを本当に大事に思っているんだ。
そのとき、ようやく確信した。
「昔から、好きだった歌がひとつだけあるの。いっしょに歌っていたのはずっとお父さんだと思ってた」
空の青。
白いシーツ。
重なる声。
溶ける歌。
遠い、遠いあの日。
もう形すら思い出せない。
「きっと歌えるんでしょう。うたって」
「……俺が歌えるのは、一曲しかないんだぞ」
ベッドサイド。
くゆる煙の向こう。
遠い、あの歌。
低音が小さく響いて、空気を揺らした。
その歌は風にのって、空に溶けて、あたしの胸に静かに響いた。
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