願い星、ひとつ。(2/48)PDFで表示縦書き表示RDF


願い星、ひとつ。
作:梶原ちな



第1話 セカイのなりはて



 

 目がさめた。
 正確にいえば、目を開いた。


 目を向けた窓の外。
 赤くただれるような空。

 その色であたしは今が夕方なのだということを知った。
 時計もないこの部屋では、それ以外に時間を知る方法がないからだ。

 身体をベッドから起こせば、伸びた髪がやけにうざったく感じた。
 汗ばんだ頬に張り付く髪をかきあげる。
 夏は、もうそこまで来ているのだろう。
 きっと。

「あつい……」

 あれからいくつもの季節を越えた。
 窓の外だけに訪れる四角い四季。

 空の色。
 葉の緑。
 時間と季節を知るには、それだけで充分だった。


「食事だ」

 耳に入ったのは、声よりも先に鍵を開ける音だった。
 
 この一瞬だけセカイは四角ではなくなるものの、わずかなスキマからすべり込んだのは食器だけ。
 あとは無情な施錠の音。
 いくつもの季節が過ぎても、その冷たさには変わりがなかった。

 匂い立つ食事に目をふせた。
 お腹がすくということは、幸せなことだ。
 ここにくるまで、あたしはそんなことすら知らなかった。

 母が用意してくれた食事の味を、あたしはもう思い出せない。
 父が手招きしていたあの食卓に、もうつくことはできない。

 いまは、たったひとりだ。



 あの日から。

 セカイが四角いものになった日から、あたしは何度も脱走をはかった。
 だけど、そのたびに得るのは痛みだけだった。

 涙はとっくに枯れ果ててしまった。
 記憶は薄れていくばかりで、ただ呼吸を繰り返す毎日が続いた。

 十八歳になったら、あたしはここを出ることができる。
 それだけがこの胸に残った唯一のものだった。

 四角いセカイは今日の終わりを告げようと色を変える。
 
 果てのない闇が。
 夜が来る。



















ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう