ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
パリのメロンパン
 アントワネットは、もうがまんの限界だった。花の都パリからきた一七歳のコパリジェンヌにはそんなことは無理だったのだ。こんなに無神経で野蛮なバレエなんて……。
 アントワネットは、コケティッシュなくちびるを惜しげもなくひらいて抗議のさけび声をあげた。
「いんちきバレエは厭っ!」
「アァァァァンーッー!! ドゥゥゥゥッー!! トゥゥゥゥロォォォォワァァァァーッ!!」
 しかし、アントワネットの繊細なさけび声は、もはやフランス語とは思えない面妖なかけ声にかき消されてしまう。
 アントワネットはもう一度ふくよかなくちびるに魂をこめてさけんだ。
「いんちきバレエは厭ぁーーーっ!」
 たまたまそばを通りかかったたため、たまたまこの声を聞いたエグゼクティブ団長の洋一ドロンがこれに反応した。
「やはり大陸人には無理だったか」
 洋一ドロンは、十年前にど根性バレエを創始し、世界をあっともおっともいわせたともいわせなかったともいわれている平成の快男児である。アラン・ドロンの親族のような名前だが、筋金入りの日本人だ。
 ど根性バレエとは何か。それは、島国諸国ではぐくまれた精神である島国根性を物事の根本にして踊る特殊バレエのひとつだ。周知のように、現在、史上空前の静かなブームをまきおこしている。人類史上こんなに静かなブームはなかったと誰しもがあいさつ代わりにいいあったほどだ。
 洋一ドロンは語気を荒げてつづけた。
「ど根性バレエには島国根性が必要不可欠。フランス出身のワイドなきみには、バーが高すぎたようだな」
 アントワネットは、ここぞとばかりに、はらわたとワイドなバストを煮えくりかえらせた。
「ルイ一四世がベルサイユ宮殿で踊ったというバレエをなめないで!」
 洋一ドロンも負けてはいない。なにくそとばかりに首に巻いたスカーフがうなる。
「愚か者め! きみも知ってのとおり、世界じゅうからほれ、このようにど根性バレエを学びに来ているのだ!」
 洋一ドロンは、二人を軽く無視して練習を続けているバレリーナたちを指さした。
「イギリスから来たエリザベス! インドネシア出身のデヴィ!」
「ふん、島国ばかりね」
「アンはプリンスエドワードから!」
「プリンスエドワードは島国じゃなくて、カナダのただの島よ!」
アントワネットは地理にくわしいのだ。
「そしてマダガスカル出身のこいつや、アイスランド出身のあいつ!」
「よく知らないのならいわないで!」
「大陸出身者でがんばっている者もいるぞ。インドから来たガンジー! それにスウェーデン出身のニーナ!」
「インド半島とスカンジナビア半島だから、島国の気持ちが多少はわかるんでしょうよ」
 アントワネットは地理に異様にくわしいのだ。洋一ドロンは業を煮やしていいかえさざるをえない。
「ビバ島国!」
「……」
 外からひぐらしの鳴く声が聞こえた。
 アントワネットは、もうお手上げという表情で窓の外を見た。
 島国なんて大きらい。帰りたいわ。帰りたいの。
 アントワネットは青空のむこうにふるさとを思い出す。ふるさとのユーラシア大陸を。――
「ああ、子供のころママンがよく歌ってくれたユーラシア大陸地方の子守唄がなつかしいわ。
 世界の屋根ヒマラヤの神々しさ、
 ヨーデルで歌われるアルプスの牧歌的なおおらかさ、
 タイガやツンドラがひろがるシベリアのうら寂しさ、
 西アジアの油田で燃えさかる石油的情熱、
 ヨーロッパを吹きつつむ偏西風の母親のようなぬくもり。――」
 アントワネットはいちばん好きなフレーズを口ずさんだ。

 乳がゆれれば心もゆれる
 心がゆれれば乳もゆれる
 わたしの乳がゆれているのは
 偏西風のせいばかりじゃないのよ

 アントワネットは、ママンのおっぱいを思いだして、涙をうっすらとうかべた。そこへ洋一ドロンの怒声がとんできた。
「ふん! 間抜けめ! そんな規模のでかいものに執着しているかぎり、ど根性バレエは踊れんぞ!」
 アントワネットも土性骨を発揮していいかえす。
「うるさいわね。鳥取砂丘がゴビ砂漠に勝てると思っているの? リアス式海岸がフィヨルドに勝てると思っているの?」
 アントワネットは鬼気迫るくちびるで逆捩じをくらわせた。規模の大きなものがきらいな洋一ドロンも島国の決定的な急所をつかれてかえす言葉もない。
「そんなにいうなら、きみのふるさととやらのユーラシア大陸に帰りたまえよ! ゴビ砂漠で目に砂がはいり、フィヨルドの角で頭をぶつけてしまうがいい!」
 洋一ドロンはついに絶対にいってはいけないことをいってしまったのである。
「わかりました。あたし、もうこれ以上このバレエ団にいることはできません。実家のユーラシア大陸地方に帰らしていただきます」
 アントワネットは荷物をまとめて、ユーラシア大陸地方へと帰った。

 アントワネットは、ユーラシア大陸でも最大級中の最大級の繁華街であるシャンゼリゼー通りをとぼとぼと歩いていた。ど根性バレエ団をとびだしてせいせいしたはずなのに、飛行機のなかでくよくよとど根性バレエのことを考えてしまい、一睡もできなかったアントワネットであった。しかし、ふるさとのユーラシア大陸に降り立つと、安堵感が心を満たし、強烈な睡魔が襲ってきた。アントワネットは、意識が朦朧として、ふらふらと人通りの少ない小道にはいってしまった。
「ああ、ねむい。すこしこのユーラシア大地の上でねむらせてもらおう。そよ偏西風が頬にあたって気もちいいわ」
 アントワネットは、ゆったりとユーラシア大地にからだをあずけた。
 そこへ、おりからのレイプ魔だ。レイプ魔はアントワネットに襲いかかった。だが、睡魔も負けてはいない。睡魔とレイプ魔の一進一退の攻防。――
 レイプ魔はアントワネットのスカートをまくりあげた。
「キャー、誰か、助けてー!」
 防御のうごきをとりかけたアントワネットを睡魔がさえぎる。
「グーグーグーグー」
 そのすきをついてレイプ魔がアントワネットのパンツに手をかけた。
「いやー、誰か来てー!」
 大声を出そうとするアントワネットの意識を睡魔はぼんやりとさせる。
「むにゃむにゃむにゃ」
 目を血走らせてパンツをずりおろすレイプ魔。
「あー、ママン」
 アントワネットのまぶたをずりおろす睡魔。
「グースカグースカ」
 みずからの一物をそそり立たせるレイプ魔。
「パパ〜ン」
 α波を送りこみ、アントワネットをリラックスさせる睡魔。
「すやすやすや」
 アントワネットは睡魔に屈した。アントワネットの寝息はぐいぐいとふかくなってゆく。
 アントワネットのデリケートかつ大胆な部分に、こってりとしたインサートがなされたかなされないかくらいのときであった。
「アァァァァンーッー!! ドゥゥゥゥッー!! トゥゥゥゥロォォォォワァァァァーッ!!
アァァァァンーッー!! ドゥゥゥゥッー!! トゥゥゥゥロォォォォワァァァァーッ!!」
 どこからともなく非フランス的なフランス語で、ど根性バレエ団特有のかけごえが聞こえてくるではないか。日本から洋一ドロン率いるど根性バレエ団の面々が、アントワネットを連れ戻すため、やってきたのだ。
 すでにノンレム睡眠に入ったアントワネットにこのかけごえは届かなかった。しかし、何ということであろう。アントワネットは深い眠りのまますっくと立ち上がり、ど根性バレエを踊りはじめたのだ!
 アントワネットは表面上はど根性バレエを蛇蝎の如く嫌っていたが、自分でも気づかない心の底では深く共感し、おどろくほどその真髄をマスターしていたのである。そうでなければ、アントワネットがこのノンレム睡眠の最中にあって、ど根性バレエの荒々しいかけごえにからだが無意識に反応し、踊り出すなどということがありえたであろうか。
 アントワネットの豊満なバストがゆれる。乳がゆれれば心もゆれる。心がゆれれば乳もゆれる。――
 下半身をさらけ出したまま、思わぬ不気味さにおびえるレイプ魔である。かけ声にあわせてアントワネットのからだがうなった。
「アァァァァンーッー!!」
 アントワネットは右手を真っ直ぐに突き出した。恐るべき速さでレイプ魔の鼻に激突。格闘技の動きを取り入れたど根性パンチだ。
「ドゥゥゥゥッー!!」
 お次は左手がくりだすど根性チョップ! レイプ魔の右乳首がぱっくりと裂けた。
「トゥゥゥゥロォォォォワァァァァーッ!!」
 とどめはど根性キック! アントワネットの白魚のような右足が宙を舞う。鼻血で真っ赤に染まったレイプ魔の股間にヒットだ。レイプ魔は悶絶し、精液の代わりに、口から泡を吹いた。
「アントワネット、素ばらしいど根性バレエだ!」
 ほおづえをついて見ていた洋一ドロンは歓喜の声をあげた。他の面々もまばらではあるが拍手をおくる。しかし、睡魔はふかくアントワネットをとらえたままだ。アントワネットはねむりつづける。――
 とりあえず、ど根性バレエ団の面々は、レイプ魔を最寄りのシャンゼリゼー交番に連れて行き、今後二度とこのようなことが起こらないようにお願いした。おまわりさんは絶対にこんなことが起こらないように注意すると誓った。一行は心の底から安心し、シャンゼリゼー通りに戻った。
「スーピースーピー」
 洋一ドロンの腕のなかで、アントワネットはかわいい寝息である。そのとき、交番前のカフェから偏西風にのって焼きたてのパンの香りがただよってきた。眠りながらも鼻をぴくぴくと動かすアントワネット。そして、しずかに目をあけた。
「アントワネット、だいじょうぶか」
 やさしく声をかける洋一ドロンであった。
「んん〜」
 といって、目を覚ましたアントワネットは、焼きたてのパンの香りを胸いっぱいにすいこんだ。
「あ〜、小腹がすいたわ」
 アントワネットはふらふらと洋一ドロンの腕からはなれ、自分の足で立った。
「死ぬほど小腹がすいてきたわ」
 レイプ魔に襲われたため小腹がひどくすいているのだ。しかし、大嫌いな洋一ドロンの顔が目の前にあるのに気づくとアントワネットは思わず口から毒をとばさんばかりにさけんだ。
「レイプ魔はあなただったのね!」
 眠っていたためにこの間の事情をまったく覚えていないアントワネットには無理もないセリフである。しかし洋一ドロンはさほど気にすることなく、さきほどレイプ魔を撃退したアントワネットのど根性バレエを思いだし、エキサイトしてこういった。
「見事だったぞ、アントワネット。やっとおまえの才能が開花したのだ」
「見事ってあたしのからだのこと?」
 洋一ドロンにレイプされたと思い込んでいるアントワネットが怒りにからだをふるわせた。これはまずいと思ったど根性バレエ団の団員が事情を説明する。
「かくかくしかじかよ」
「なるほどそうだったの」
 アントワネットは、しばらく考えこんで口をひらいた。
「あたしがど根性バレエの動きでレイプ魔を退治したのは事実かもしれないけど、それがなんだっていうの。あたしはまだど根性バレエを認めてはいないわ。二度と島国へは戻らないから!」
 唾をとばすアントワネットの気分を落ち着かせるために、洋一ドロンはなごやかに話しかけた。
「アントワネット、さっき小腹がすいたといわなかったか?」
「ええ、いったわよ。あたしは今、山ほどすいた小腹が立ってるのよ!」
「ならば、アントワネット、目の前のおしゃれなカフェからただよってくる焼きたてのパンの香りに誘われてみようではないか」
「いわれなくてもそうするつもりよ!」
 アントワネットの怒りは容易におさまりそうもない。ど根性バレエ団の団員も心配顔である。一行はおしゃれなカフェにむかった。
 カフェで焼きたてのパンは、ユーラシア大陸で知らない人は、一人か二人くらいの大名物メロンパン・ド・パリである。メロンパン・ド・パリとは、フランスパンをもとにつくられたメロンパンで、ルイ一四世がバレエを踊る前後によく食べていたとされる創作料理だ。アントワネットも大好物である。
「メロンパン・ド・パリを九個くれたまえ」
 洋一ドロンが人数分をオーダーした。カフェのマスターは困ったような顔つきだ。
「エクスキュゼムワ〜、ムッシュ〜。あなたがたがさっき店の前でごちゃごちゃとやっている間に、あっというまに売れちゃって、もう一個しかないのよ」
 アントワネットは洋一ドロンを殺意をこめて、ねめつけた。眼球を絶妙にすべらしてその視線をかわした洋一ドロンは、最後のメロンパン・ド・パリを経費で購入した。洋一ドロンは、レイプ魔におそわれたので小腹がすいているアントワネットにそれを渡そうとした。
 その瞬間のことである。――
 一陣の突風の偏西風が巻きおこった。いわゆる突偏西風である。突偏西風に無慈悲にとばされる最後のメロンパン・ド・パリ。――
 これを失えば小腹が満たされないという切迫した危機感に背中をおされて、アントワネットのからだが無意識にうごいた。メロンパン・ド・パリをうばった偏西風の流れに乗り、ど根性バレエの勇ましいうごきを利用して、メロンパン・ド・パリをきらびやかにキャッチ!
 シャンゼリゼー通りにどよめきが走った。
「はっ。今のはなんなの」
 自分のうごきに驚がくするアントワネット。
「はっはっはっ」
 洋一ドロンはいきなり高笑いを始め、自慢顔だ。
「アントワネット、おまえのからだにはど根性バレエが染みついているようだな」
「くっ……」
 大好きなメロンパン・ド・パリを握りしめ、いいかえすことのできないアントワネットであった。アントワネットの表情は、最初、屈辱に満ちたものだったが、だんだんとおだやかなものへと切なげに変わっていった。
「どうやら、あたしの負けのようね。右手に握っているこのメロンパン・ド・パリがその証拠よ。大切なものを守るためにあたしはど根性バレエを活用した。ということはつまり、あたしにとってど根性バレエも大切なものなのだわ」
「わかってくれたか、アントワネット。俺はうれしいぞ。さぁ、メロンパン・ド・パリを小腹いっぱい食べなさい。もっとも、それっぽっちじゃ、食いしんぼのきみには足りないかもしれないがな」
「まあ、エグゼクティブ団長ったら」
 洋一ドロンとアントワネットは、見つめあって心から笑った。つられて、ど根性バレエ団の他の団員も笑う。シャンゼリゼー通りに笑い声がこだました。エッフェル塔もあたたかく見まもっている。
 アントワネットはメロンパン・ド・パリを食べようとして、一口大の大きさにちぎり、口までもっていったが、突如うごきを止め、そのひとかけらを洋一ドロンに渡した。洋一ドロンは優しくほほえみながら受けとったが、すぐに考え直し、こういった。
「いいよ、アントワネット。全部きみが食べなさい。われわれは日本からジャムパンを持ってきているからだいじょうぶなのだ」
 そうして、ひとかけらのメロンパン・ド・パリをアントワネットに返却しようとしたそのときである。
 洋一ドロンの眼球がするどく光った。
「そうか、そうだったのか!」
 洋一ドロンの甲高いシャウトにたまげる一同。
「よく見るんだ、アントワネット」
 といって、洋一ドロンは、さっきアントワネットから受けとったメロンパン・ド・パリのひとかけらをもとのメロンパン・ド・パリに合体させた。そしてまた、離した。
「わかるかい」
 アントワネットは洋一ドロンをバカを見るようにふしぎそうに見つめた。洋一ドロンは、何度も何度もメロンパン・ド・パリのひとかけらをくっつけたり離したりしている。
 シャンゼリゼー通りを夕陽が照らす。真っ赤に染まるメロンパン・ド・パリ。――
 しばらくすると、バカを見ていたようなアントワネットの表情におどろきの色がうかんだ。その色にだんだんと尊敬の色がまじりはじめ、顔じゅうがおどろきと尊敬でいっぱいになったその瞬間、アントワネットはぬれたくちびるをなまめかしくひらいた。
「大陸は大きな島、島は小さな大陸……」
 アントワネットは感動の涙をうかべている。ど根性バレエに対して持っていたわだかまりが消えていくようであった。
「そのとおりだ、アントワネット。きみはやっぱりバカではないな」
 洋一ドロンがほめるともなくほめた。まったく事情を飲みこめないど根性バレエ団の他の団員はただただぼうぜんとするばかりだ。洋一ドロンは説明した。
「きみたちは大陸移動説ということばを聞いたことがあるだろう。なんたらかんたらという偉い学者がだいぶん前にとなえたかっこいい説だ。彼は、地球上にもともと存在した陸地はひとつのかたまりであったと勇ましく主張したのだ」
 アントワネットのからだにうっとりとした表情がうかんでいる。
「つまり、あたしのふるさとであるユーラシア大陸はおろか、島国の日本やイギリス、インドネシア、マダガスカル、アイスランドのみならず、インド半島やスカンジナビア半島、そしてプリンスエドワード島でさえも同じひとつの陸地だったのよ」
 洋一ドロンはそれを受けて説明をつづける。
「気の遠くなるようなはるかむかし、ひとつだった陸地が地球をおおうプレートの運動により、じょじょに分裂・移動した。このメロンパン・ド・パリのようにな!」
 洋一ドロンは、さっきと同じように、ふたつにわかれたメロンパン・ド・パリをくっつけたり離したりした。鬼の首でも取ったかのように。そしてついに、ど根性バレエ団の他の団員にも事の全ぼうがあきらかになってきた。
 アントワネットはレイプ魔に襲われるまでど根性バレエ団の落ちこぼれだった。その原因の大半は、彼女が島国ではなく、大陸出身者であるからだと思われていた。特に大陸のなかでも、最大の規模をほこるユーラシア大陸だからなおさらである。また、ガンジーやニーナのように半島出身者でもないのはあきらかに不利であった。
 しかし今や、アントワネットは、ど根性バレエ団のどの団員よりも小気味よく踊ることができる。それは島と大陸は別のものではないという真理を体得したからである。ユーラシア大陸がいわば超巨大なユーラシア島なのであれば、島国根性で踊るど根性バレエを否定する理由はない。いや、むしろ最大の島であるという利点を生かし、最大の島国根性で踊ることができるのだ。
「フランス革命より革命的だわ」
 アントワネットは大陸=島という発見に感動していった。
「フランス革命がフランス改革に思えるほどよ!」
 大胆なアントワネットである。
「そのとおりだ、アントワネット」
 洋一ドロンはやけに自信にみちた声で他国のことに口を出した。
「この革命的な新発見により、ど根性バレエは飛躍的に普及することになろう。島国根性をなかなか身につけられなかった各大陸のど根性バレエ愛好家に夢と希望をあたえることになるのだ。アントワネット、きみこそその功労者だ」
 アントワネットの乳がワイドにゆれた。洋一ドロンのことばに心がうごいた証拠だ。

 乳がゆれれば心もゆれる
 心がゆれれば乳もゆれる
 わたしの乳がゆれているのは
 偏西風のせいばかりじゃないのよ

 アントワネットのゆれる乳を見て、ユーラシア大陸の子守唄の強烈な歌詞を思いだし、涙する団員たち。洋一ドロンも滂沱の涙を禁じ得ない。
「みなさん、おまちどお!」
 突如、サンタのように大きな袋をぶら下げて、さっきのカフェのマスターが現れた。
「どうされたんですか」
 洋一ドロンが涙をぬぐいながら聞いた。
「悪いが、今の話は全部聞かしてもらったよ。わたしも大陸移動説の話に感動してね。きみたちにメロンパン・ド・パリをもっと食わせてやりたくなったのさ」
「でも、もう売り切れたのでは?」
「なあに、オーブンのクイック機能を使って何とか短時間で焼き上げたよ。さあみんな、召し上がれ!」
「ありがとう、マスター!」
 アントワネットの胸がさらに大きくゆれた。カフェのマスターは大喜びだ。
 みんなはメロンパン・ド・パリをむさぼるように食べた。日本からもってきたジャムパンは日本みやげということでカフェのマスターにプレゼント。マスターは困ったような顔をしながらも「メルシーボクー」といって受けとった。
 沈みかけた夕日がシャンゼリゼー通りを痛快に照らしている。
「アントワネット、おいしいかい」
 洋一ドロンがやさしく聞いた。
「ええ、とっても。あたし、もう小腹がいっぱい!」
 十本目を食べ尽くしたアントワネットがゲップをしながら答える。
「よし、じゃあ、小腹ごなしにみんなでど根性バレエを踊ろう!」
 団員たちは「ウイウイ」とにわか仕込みのフランス語で二つ返事で承知した。

 アァァァァンーッー!!
 ドゥゥゥゥッー!!
 トゥゥゥゥロォォォォワァァァァーッ!!
 アァァァァンーッー!!
 ドゥゥゥゥッー!!
 トゥゥゥゥロォォォォワァァァァーッ!!

 ど根性バレエ団の勇ましいかけごえにおされるように太陽は沈み、シャンゼリゼー通りは夜のまどろみのなかに消えてゆくのであった。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。