1・無自覚の変化
俺たちトントロポロンは「食べ物ではない」だって……⁉
それじゃあ……俺たちは一体、何のために生きているって言うんだ……。
豆腐としてのアイデンティティが、ぷるぷると音を立てて崩壊しかけていた。
そんな俺たちをよそに、村長(仮)は更なる爆弾を投下していく。
「トントロポロンは害獣として世に知られている」
はは……食べ物どころかケモノ扱いかよ……豆腐になんて扱いしてやがる。
「トントロポロロンズと間違って食べた者によると、味が薄く非常にまずい。そして、一週間は腹痛に悩まされるとのことだ」
まずいってだけでも致命的なのに、食べたら腹痛なんて毒そのものじゃねぇか。
「常食であるトントロポロロンズと違い、トントロポロンは言わば――人類の敵」
そこまで言う⁉ 人類に良い影響与えられなさそうなのは分かるけども!
「だから……殺すしかあるまい……」
突如、声音が変わった(仮)。
――マズいッ、襲う気だ!!
「みんな逃げろーーッ!!!」
「皆の者、殺れェィ!!!」
俺と(仮)の声は同時だった。
声に反応してダッと襲いくる村人に、
[・∀・ ]≡≡З ε≡≡[ ・∀・][ ・∀・]
蜘蛛の子を散らすように逃げる豆腐戦士たち。
豆腐戦士は人間よりはるかに速いから逃げ切れる!
だが、だが……!!!
~[ :::][ :::][ :::]
負傷を受けた戦士たちがッ!
クワで穴だらけにされた仲間の動きがニブい!!
そんな仲間にトドメをさそうと村人が追いかけている。
クソッ……どうする……どうするよ俺‼
穴だらけ組のあの遅さ……逃げ切れるわけがない。
だったら、見捨てるか? 見捨てて逃げるか⁉
――いや、見捨てるのは無しだろうよ‼
俺が声をかけて連れてきた奴らなんだぞ?
なのに一瞬でも迷うなんて恥を知れ俺ッ!
せっかく生まれ変わったんだ……常に誇れる豆腐であり続けたい‼
「俺が相手だ、村人よ!!!」
瀕死の仲間にトドメをさそうとした村人Aの前に、俺は立ちふさがった。
「ブフッ! 突進しか能のないトントロポロンが何いってるんだよ」
笑ったな!!!
ああ、たしかに突進しかできないけどさ……
逆に言えば……突進ができちゃうんだぜ?
豆腐戦士を馬鹿にする愚か者には、正義の鉄槌を!
俺は素早く村人Aの足もとへスライド移動し、そのままの勢いでAの体をスイ~と駆けのぼった。
あまりの速さにAは反応できていない――チャーミングなアゴががら空きだ!
脳震盪でも起こしやがれ‼
ドグォ!!
そんな効果音が出てもおかしくないほどの会心の一撃をアゴにみまった。
ぺちんと弱弱しい音がなっていたのは気のせいだと思いたい。
俺はぶつかった反動で地面までフっとんだが……奴の方はどうだ?
「おーおー、ほんのちょびっとだけビックリしたわ」
奴は右手で自分のアゴをスリスリとさすって――すら無い!
少しも効いてない‼ ノーダメージ‼ 当たったのにMISS判定‼
でもよ、俺はへこたれません。
覚悟を決めたら一直線なんですよ、豆腐戦士ってやつはね。
「終いだ! おかしなトントロポロン!」
俺に向かってAがクワを振り下ろす。
「終いなのはテメーの方だ、アゴ野郎!」
俺はクワをかいくぐると同時に気勢を上げて、奴に再び突進した。
考えなしに突進?――違うね。
いくら一撃が弱くても、何度も同じところに当てれば……
なんて、陳腐な考えでも無い。
試してみたいことがあるのだ。
さきほどは豆腐の腹――平な部分をぶつけたから失敗した。
次にぶつけるのは……角だ。
豆腐が生来そなえもつ鋭き角……すごく攻撃力がありそうじゃないか。
俺は豆腐の可能性を信じたい。いや、信じてる。
「うおおおおお!!!!」
俺はスイ~とAの体を垂直に駆けあがった。
それはまるで、天にのぼる龍のようだった(俺評)
Aのアゴは大きいから狙わなくても当たっちまうぜ……食らいな!
そして俺は豆腐の角をアゴへとぶつける――前に、念のため願っとこ。
頼む……【豆腐の角よ強くあってくれ】!!
そして角はアゴへと衝突し――
ドグォ!!!
めちゃくちゃ重そうな打撃音。ワーオ、マジか。
「ぐ……が……ぁ……」
Aがヨロヨロとよろめいている……大の大人がよろめいてるぞ。
「クソ……か、角に当たるなんて……ツイてな――グハァ‼」
しゃべってるところにもう一撃食らわせ、バタリとAは倒れた。
……なんか勝っちゃったみたい。
角……強すぎて逆にヒいたわ豆腐の角……いや、そんなもんか?
なんかそんなもんって感じめっちゃしてきた。
うん、そうだな。豆腐の角って前世でもこんな感じだったもんな。
とにかく! 豆腐戦士たちにこれ教えたら形勢逆転できるぜ!
「みんなァーーー!! 角だ! 角でぶつかれば倒せるぞーーッ!」
あらんかぎりの大声で叫ぶと、村の外から豆腐戦士たちがスイ~と戻ってきた。
そして、みんなで村人たちに向かって突進していく……!!
ドグォ!!! ドグォ!!! ドグォ!!!
そこかしこにひびく、豆腐の角がぶつかる音。
「ぐわあああ!」
「や、やめっ――ぐふッ」
村人たちは、やられる一方だ。
そんな光景を見ていた(仮)は、
「か、『角の理』を自ら解いただと? 馬鹿な……あり得ぬッ!」
ビックリするほど三流のセリフをはいていた……。
もう俺たちの勝ちは確定のようだ。
その後、俺たち豆腐戦士は一丁も死なずに村人たちを行動不能にした。
かくして豆腐対人間の戦いは豆腐の勝利で幕をとじるのであった。
いい機会だ(仮)、まずはこの世界のことを教えてもらおうか。