トイレの怪
14.10.17 推敲。終盤を変更。全体を圧縮。
夜中にトイレに立った。寝ている猫を跨いで、玄関先にあるトイレのドアを開けた。我が家のトイレは少々広い。一畳半ほどの長方形型である。突き当りに洋式便座と窓がある。その窓を開けた。そして、しんと、静まり返ったトイレで用を足した。
「?」
何だろう。後ろで人の声のようなものが聞こえた気がする。
「いいじゃない。」
用を終えて、振り返る。
ドアの前あたりに、ぼんやりとした白い影のようなものが、いた。
電球の明かりに後ろのドアが透けていた。なぜか怖くはなかった。
「なにが。」心の中で呟いた。
「もういいじゃない。」
声は続く。
「だからなにが。」
影は、次第にはっきりと女のような形をとってきた。
「もう、生き続けなくていいじゃない。」
女は呟くように言った。
「まだ、だめだろ。」
影の女は、少し笑ったように思えた。
「子どものこと?まだ小さいから?」
「そうだな。」
女は、少し近づいたようだ。
「じゃあ、こうしてあげる。このドアを開けたら、あなたの小さい子どもは成人しているの。そして、あなたは成功していて、貯金も5000万円あり、生命保険もしっかり入っている。そのことを確認したら、私に命を頂戴。」
「え…」
私は、正直迷ってしまった。
女は、すっかり姿をみせていた。白い経帷子のようなものを着ている。足元だけがおぼろげだ。
「もちろん、納得してからでいいのよ。ただし、今夜じゅうに。あなたが、このドアをあければ、今夜死ぬ選択をしたことになるわ。」
そのときの私は、生きることに疲れているというより、この先の希望が見えなくなっていた。
私は、返事をした。女は信じられないよけ方で、私を避けて奥へ行った。私は、覚悟をしたつもりで、そのドアを開けた。
「……」
夜の玄関先は、変わらないように見えた。
階段の2段目と3段目には、相変わらず猫が寝ていた。廊下の隅にも、変わらず猫が寝ている。私が訝しく思った時、声だけが聞こえた。
「多すぎる……。」
振り向くと、さきほどまでの静かな白い顔ではなく、夜叉の顔が見下ろしていた。
「命が多すぎる。今夜この家の全ての命を持ち去るお役目であるのに……。」
血の底から響くような声で、鬼となった女は言った。私は、あまりの形相に足ががくがく震えた。
「ひっ……な、なにが。」
「命が100を超えている。取り切れない。」
口惜しそうに、私を睨みつけて、女は消えた。私は、少し気落ちしながらも、どこかほっとしながら、猫たちを見た。我が家には、猫が12匹いる。そういえば、猫は命を9つ持つという。数えてみると、ああそうかと、思った。あれが何か知らないが、なるほど困ってしまうわけであった。
本当に、12匹いてます。。。