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響く叫声

作者:れつ
 鮮血が舞い、銃口がきらめく。H&K USP拳銃二丁を腰についたケースにしまい、敵の居た位置へと進む。死体はすぐにデータの屑となって消えていく。四角いエフェクトになって分散していく様子を塁はただ見ているだけ、それだけしかできなかった。もちろん無残に殺したのは塁自身だ。
 ふいに、背に銃を突きつけられる。しかし、それを手のひねりを使いながら上手く投げ飛ばした塁は、相手の心臓へ引き金を引く。またも鮮血が飛び、倒れていく。気がつけば、複数の敵に囲まれていた。数は五、六人。何とかなる人数だろう。見たところは狙撃手も居ない。塁は右側に居る奴に右手の銃を発砲し、左側に居る奴に左手の銃を発砲する。二人が倒れ、後三人。二丁拳銃という、珍しい使い手に多少びびりながらも、相手達は連携で銃を撃ってきた。避けられてもいいように、対角線に味方はいない、といった風に。順に襲ってくる銃弾に意識を使いつつ、まず一人に確実に近づく。蹴りを入れ、ひるました所に塁の発砲。崩れた連携の隙を狙って、もう一人に近づく。今度は間髪入れず発砲。そして、最後の一人だ。見たところ、ステータスも高い。厄介そうだ、と塁は判断する。しかし、塁のステータスからして、勝てない相手ではない。今までに幾人もの人を葬ってきた。相手の撃ってきた銃弾を驚くほどの反応スピードで避け、そのまま塁は銃弾を放つ。一瞬で心臓を突き抜け、血が撒かれる。この光景だけは慣れないもんだ。呟きながら塁はデータ化されていく敵を見つめている。
そのとき、激しい地震のようなものが、塁を、あたりを襲った。この感じに覚えがある。
「大量破壊兵器……雑魚敵め、まだ残っていやがったか」
 呟き、再び拳銃を構える。さすがの塁もスタミナの限界だ。だが、相手が兵器となれば、楽に終わる。初期段階では無敵とされていたが、攻略法が見つかったのだ。ネジの分解。誰がやったかは知らないが、大量破壊兵器、つまり戦車にはシステム上、それぞれの部位がある。その中枢部、背後を取ればいいというわけだ。定石どおり、塁はそうやって今回も戦車を壊滅させた。
ゲーム世界が出力されたのはもう半年も前だ。突然あたりの景色は変化し、自分の服装も変わった。塁は黒いジャケットに黒いシャツ、そして黒のズボンと全身黒の格好に変換されてしまった。もちろん個々で服は違う。容姿がそれぞれ異なるように。
ゲームマスター、すなわちゲームの管理人からの指示はこうだった。
「最強を決めろ」
 つまり、全世界の人間が戦い、最強を決めるわけだ。なんと酷い話なんだろうか。
塁の視界、右上には数字が書いてある。これはどうやら残りの人数らしい。今まではほとんど気にも留めていなかったが。数字を確認する。
「ひゃ……百……」
 しっかりと右上には100という三つの数字が並んでいる。つまり、この世界の残り人数は百人。と、今まさに数字が変わった。五十。集団戦でもしたのだろう。しかし、一気に半分まで減ってしまった。この世界には後五十人。この世界には後五十人。塁の脳内にはその言葉がグルグル回っていた。てっきりまだ一億ほどいるのかと思っていたし、そんなに減るもんでもないと思っていた。
また、数字が変わる。その数字は塁に衝撃を与えるものだった。残り……二人。いったい何があったのだろうか。さっきは五十人居たのに。一気に、二人。つまり、塁と他の誰かしか残っていないのだ。
「やあ、もう待ちきれなくなって殺しちゃったよ」
 誰かが、突然話しかけてきた。背後から。いや、誰かではない。この声にははっきりと聞き覚えがある。白衣を着た女性。
「……あんたが最後の一人だったとはね。と、言うことはゲームマスターもあんたかい?」
 答えは分かっている。イエスだ。分かっていながらも、塁は聞いた。
答えを待たずして、塁は銃を抜く。ゲームシステムによってスキル補正がかかるため、スキル「二丁拳銃」を持っている塁は通常のぶれ幅で二丁を乱射できる。
両腕にしっかり握られた銃の発射口はしっかりと相手の心臓と頭を狙っている。と、相手も銃を抜いた。こちらは一丁だ。塁はすぐ撃てるものを、ためらってしまう。仕方の無いことだ。
「さすがに撃てないね」
 そういいながら、相手は近づいてくる。もちろん銃を構えたまま。しかし、殺気はない。
目の前まで来た途端、塁は不意に抱きつかれた。その感触はとても懐かしいものだった。
「塁、世界で二人だけだよ」
 相手は銃を地面に落とす。乾いた音がして、地面に転がった。しかし、塁は、銃を放さない。そのまま、銃を相手の腹に押し当て、引き金を引く。
白衣が真紅に染まった。相手は腹を押さえてうずくまり、ゆっくりと倒れこむ。塁は呆然と立ち尽くした。
「姉ちゃん、ふざけた幻想もここまでだよ」
 姉は少し残っている意識を使い、潤んだ瞳で塁を見上げ、意識を失った。
姉は、たくさんの命を奪った。そう考えて塁は撃った。塁の家族も。恋人も。全てを奪い、ひとつを得ようとした。
昔、塁と姉は仲のいい姉弟として近所に通っていた。しかし、それは小さいころ、小学校三年生あたりまでの話だ。四年になると、頻繁に友達の家へ遊びに行くようになり、姉のことなど気にも留めていなかった。姉は、そのころから自分の部屋にこもり、テレビゲーム、主にFPSをやっていた。そんな姉は、塁が昔のように遊んでくれないことに悲しみを、塁の友達に嫉妬を覚えていたのだ。
それから数年、塁も中学三年生になり、受験を控えた秋、高校二年の姉は突然家を出て行った。誰にも何も言わず、何も持たずに出て行った。それから、家族の中は崩壊した。両親は来る日も来る日も喧嘩、時には塁に対する八つ当たりに暴力まで振るってきた。そんな家庭に飽き、受験も諦め、深夜に出歩くようになった。最初は喧嘩も弱く、金を盗られてばかりだったが、だんだんと強くなっていき、盗る側に回った。
そんな毎日を送っていたある日、塁は一人の女性に出会う。姉だ。
「久しぶり。これから、私と塁だけ」
 という意味不明な台詞を残し、そのときは去って言った。
そして、次の朝起きると、世界が変わっていた。何もかも。荒れ果てたビル。街。何もかも。何もかも。そして、そこで恋人を作り、恋人も殺された。家族はどこかに行ってしまって居なかった。あるいはすでに殺されていたのか。
そして、今ここに姉の死体がある。すでにデータの屑となりかけているが、まだ少し残っている。
「この世界に……俺一人か」
 ゆっくりと、塁は拳銃を持ち上げる。腰の位置。覚悟はできている。胸の位置。そして、頭に突きつける。自らの頭に。引き金を引いた。その瞬間だけはやけに世界は輝いて見えて、くすんでも見えた。血が吹き飛ぶ。今まで何度でも見てきた光景なのに、今は怖い。もう遅い。塁は死ぬ。この世界からデータの屑となって消えていくのだ。ゲーム世界だけではない。現実からも。全世界の人と同じ、天国とやらへいく。もしかしたら、地獄かもしれない。家族のことや、恋人のことを思い出す。今思えば、いい人たちだった。とってもいい人たちだった。喧嘩こそしていても、手こそ上げていても、父は塁を育ててくれていた。母は毎日父や塁への愚痴をこぼしたりしながら、それなりに家事をこなしていた。恋人は、このゲーム世界でであった恋人は、とても優しかった。暖かい感情を思い起こしてくれるようにやさしく接してくれた。ありがとうみんな……。塁は意識を手放した。
空想科学祭2010

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