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異世界混浴物語  作者: 日々花長春
お風呂場の勇者
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フロローグ

 カポーンと言う風呂場のシーンなどでよく見掛ける効果音は一体誰が考えたのだろうか。

 そんな益体もない事を考えながら、俺は人工大理石製の浴槽に浸かって浴室の天井を見上げていた。

 美女・美少女、或いは美少年の入浴シーンでなくて申し訳ない。

 俺の名前は北條冬夜(ほうじょうとうや)。とある公立高校に通うごく普通の高校二年生――だった。


 皆は「異世界召喚物」と言う言葉をご存じだろうか。

 フィクション作品におけるジャンルの一つで、現代地球の人間が異世界に召喚されて始まる物語の事だ。

 俺も作品としては好きだったが、あくまでフィクション。現実には有り得ない話だと思っていた。一週間ほど前までは。

 学校帰りに電車に乗っていたはずなのに、ふと気が付くと白亜の殿堂の一室にある魔法陣の上で、突然座っていた座席が無くなり尻餅をついたのが一週間前。

 その白亜の殿堂は光の女神を祀る神殿で、神官長だと言う老人とこの国の王女だと名乗る少女から、この世界は魔王の脅威にさらされて――と言うお約束な話を聞かされてしまった。

 話自体は長かったが、要約すると光の女神の神託によりかつて勇者によって封印された魔王が復活する事が分かったそうだ。

 そこで復活の阻止、或いは再封印か完全に倒してしまうために、異世界から勇者を召喚する事になったらしい。

 何故この世界の人間ではなく異世界から召喚するのかと言うと、光の女神の招きに応じると祝福を授かって「ギフト」と言う奇跡の能力が手に入るそうだ。

 つまり彼等は魔王と戦うために、その「ギフト」の力を頼ったのである。

 女神の招きに応じたどころか、有無を言わせずに召喚されてしまった事については下手に触れない方が利口であろう。


 そんな剣と魔法のファンタジー世界に召喚されたのは俺を含めて五人。内訳は男が三人に女が二人。全員面識が無い者同士だった。

 ゲームの様に最低限の準備でいきなり放り出される可能性も考えていたが、勇者召喚は王国の威信を賭けたものらしく、向こうもしっかり考えていてくれていた。

 ギフトに目覚めるための時間と、旅の準備と合わせて一ヶ月の準備期間が与えられた。

 神殿にはそのためのノウハウがあるので遅くとも一週間もあればギフトを目覚めさせられるそうだ。

 ちなみにこの世界の暦は俺達の世界と同じで、曜日の名前こそ違ったものの、七日で一週間であり十二ヶ月、三百六十五日で一年である。

 実はこれってすごい偶然なのではないだろうか。俺はそう考えて驚いた。

 しかし神官長曰く、そう言う大きな時間の流れの重なりを利用して異世界召喚の儀式は行われたらしく、暦が一緒なのは偶然ではなく必然であるとの事だ。


 俺達は神殿に預けられ、瞑想やら祈りやら意味があるのかどうか分からない修行をさせられる毎日。

 まず三日目に男の一人がギフトに目覚めた。

 その男の名は西沢秋桜(にしざわあきお)。年は俺より一歳上の高校三年生だそうだ。

 勇者として召喚されたと聞いた時一番ノリノリだった男で、本人のやる気も関係しているのかギフトに目覚めたのも一番最初だった。

 男のギフトは『無限弾丸アンリミテッドブリット』。

 弾丸が尽きない二丁拳銃を召喚すると言う、思わずファンタジーに謝れと言いたくなる様な代物だった。

 この世界には石の礫を作って飛ばす魔法があるらしく、彼の能力はそれに近い魔法の武器を生み出していると思われているようだ。

 その後彼は王城に招かれ、そのまま神殿には戻ってこなかった。

 神官長曰く、王城の客人として旅立ちの準備を進めているとの事だ。


 その翌日の四日目にギフトに目覚めたのは中花律(なかはなりつ)と言う女性だった。OLだったらしい。

 染めているであろう明るいブラウンのショートカット。なかなかの美人だ。

 年齢は教えてくれなかったが、見た目から判断するならば上の方だと仮定してもせいぜい二十代半ばと言ったところだろうか。

 俺は気にするほどの年齢ではなさそうだと思ったが、本人的には気になるのかも知れない。

 

 更に翌日にはもう一人の男、神南夏輝(かんなみなつき)がギフトに目覚めた。

 こちらは二十歳の大学生だそうだ。秋桜がスマートなタイプなら、こちらはがっしりした体格の肉体派である。

 どちらも整った顔立ちをしているが、秋桜の方がお喋りでナルシストの気がありそうなタイプだったのに対し、夏輝は寡黙で真面目そうなタイプ。何とも好対照だ。

 顔立ちも平々凡々な俺としては、どちらにしても羨ましい話である。


 この二人は、自分のギフトの内容については明かさず王城に招かれて行った。

 神官長曰く、秋桜の時は止める間も無かったが、ギフトの内容と言うものはあまり大っぴらにするものではないそうだ。


 そして二日空いて七日目にギフトに目覚めたのが俺だった。

 人工大理石の浴槽の中で体育座りをして、鼻まで湯に浸かってぶくぶくと泡を立ててみる。

 足を伸ばしてゆったりするには少々サイズが足りないが、シャワーなどもしっかり完備している寛ぎの空間である。

 この世界は魔法があるとは言え全体の文明レベルで言えば中世、せいぜい後期程度だろう。

 当然、こんなユニットバスがこの中世レベルの世界にある訳がない。

「なんで、こんなギフトに目覚めちゃったかなぁ……」

 再び天井を見上げて思わずぼやいてしまった。

 そう俺が目覚めたギフト、それはいつでもどこでも風呂に入れる能力。その名も『無限(アンリミテッド)バスルーム』。


「って、こんなんで魔王と戦えるかーっ!!」


 思わず浴槽から立ち上がって絶叫してしまう俺。

 本当に、こんな能力でどうやって魔王やその配下の凶悪なモンスター達と戦えと言うのだろうか……。

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