乙女ゲーム本編がいよいよ佳境に入っちゃいました。当事者ですが知らぬ存ぜぬを突き通してます。
半年を経て続編が完成! お待たせいたしました!
時間が飛んでいるのでご注意ください。
「……また損害物届か」
「はい。あの少女の」
お久しぶりです。ここ数か月は忙しかったので報告すらできませんでしたが、転生して攻略対象になっちゃった系腐男子、青木ヶ原玉藻です。外見クール、内面大爆笑を貫き通しすぎて最近腹筋がやばいです。
転校してきた女の子――あれ? 名前なんだったっけ……ああ、愛華だ――は見事にゲームで言う「選択肢」を正解ばっかり選んで行って見事逆ハーレム形成……とはならず。
はじめの私への「その笑顔やめたらっ!?」には
「すみません。見ず知らずの方の顔にケチをつけるほどあなたは自分の顔に自信がおありなのですか? ああ失礼、あるからそう仰っているのでしょうね。しかし私が拝見したところあなたはこの学園内でも一・二を争うほどの顔ですねえ……おや。嬉しそうで。変わった方ですねえ。『学内醜悪顔ランキング』ぶっちぎりトップかもしれませんのに」
と返してやった――イケメンが早口で捲し立てると例え何言ってても女の子は顔を染めるんだ、と気づいた瞬間だったけど。本来の主人公の遥ちゃんは顔引きつらせてたけどね。失礼だよね。
その後も攻略対象たちに会うたびにお決まりの台詞を言うが――あいにくと、この世界のフラグは全部俺がたたき折ってんだよね。新たに形成すんのは難しいと思うけどなァ……。案の定彼女は学園中の全員に嫌われている。しかも本人はそれに気づかず、
「恥ずかしがってるのね!」
「私は大丈夫よ!」
「モブのくせに!」
なんてのたまってる。本当におめでたい奴だよ。
私が今いるのはお馴染み風紀委員会室、まああまり聞かない名前の教室ですが要は風紀委員の集い場ということですね。そして私が話しているのはこれまたお馴染み風紀委員長の銀 遼。学年は同じだけどクラスは違う、それでも生徒会役員と風紀委員長という関係のためよく顔を合わせる間柄である。王道的展開をありったけ盛っているこの世界であるので、生徒会と風紀の中は最悪、ただしオレ個人的に見ればそこまで仲は悪くはない、というところだろうか。
……ちなみにこれまた王道、遼はワイルド系の美形である。天然の銀髪の一部を黒染めしてメッシュにしており、どこぞの総長をしていたとかしていないとか……まあしてるんだけどね。原作知識って素晴らしい。ある種の未来予知だもの
「まったく、学園に多大な被害を与えておいて自分は男を追いかけてるのか? どんな痴女だよ」
「美形好き、電波系、二次元と三次元の区別がついていない典型的に終わっている残念系微美少女ですね」
美形の口から「痴女」なんて言葉が出るとは思わなかったが隠そうとしないのならば俺もあえてそれに従おう。俺のキャラ的には「腹黒毒舌眼鏡」なのだ。普段から陰のある笑顔と毒のあるセリフばかり吐き続けていたら自然と悪口が出てしまうのも当然だろうが。
「……お前もあの女をかわいいと思っているのか」
何やら鋭い目でガン垂れてきた件について。何その目、ギラギラと輝いているんですけど。それ敵を前にしたときの目ですよね、なんで俺に向けるんですか。
「私はあくまで一般論を口にしただけです。凡人よりは顔のパーツは整っていてスタイルもいい、外見だけ見れば十人中六人は『可愛い』というんじゃないですか? あいにく私の好みとはかけらも合致しませんが」
前世女だったし今世で男とか恋愛が面倒。精神的GLか肉体的BLか? よくある選択だけど選ぶなら後者、かな。……ま、結局は家で決められた婚約に従うんだろうけどさ。
「ほう? じゃあお前の好みとやらはどんな女なんだ?」
からかいたいのか、コイツは。それとも俺を下に見てるの? まあどっちでもいいんだけど。……そして何となくだけど私は気づいてる。その台詞の中に若干の苦悩が入っているのを。
……せっかくだしちょっとからかってやろうか。
「まず年上、もしくは同世代で精神的に実年齢よりも上の者。次に外見でしょうか。別に醜悪でなければ平凡でもかまいませんが、いいにこしたことはないですね。背は高いほうが好みです。あとは……一緒にいて気兼ねなく笑えたらそれでいいですから……」
「……意外と煩いんだな」
「一生を共にする方でしょうから厳選するに越したことはないでしょう? ああ、あと」
思い出したかのように振る舞い飛びっきりの笑顔で言ってやる。
「髪はきれいなほうがいいですね。染めてるだけでマイナスです」
髪フェチじゃないけど染めた髪は嫌だ。だって痛んでるし。
「っ、……そうか」
卑屈そうな顔してもダメ、そこは譲れないもの。分かってるよ?
お前が俺に好意を持ってるってこと位。
一年の後半から俺を見る目が変わったことには気づいてる。元女だったせいで他人の感情の機微には敏感だ。だからすぐわかった。遼が俺を見る目が友情じゃないものに変ったってこと位。
だけど俺はそれに応えようとは思わない。その感情がたとえ初めてのものだったとしても、俺も遼も背負うものが大きすぎる。乙女ゲームの世界だからって同性婚が許されているわけじゃないのだから、世間の風当たりは激しい。増してや「青木ヶ原家」と「銀家」の第一子同士だ。親も世間も許しはしないだろう。
「あ、もうこんな時間ですね。では書類があるので」
「……ああ」
だから俺は知らないふりをする。叩き折ったフラグがまさか俺に建てられているなんて考えもしなかった。ここ乙女ゲーの世界よ? BLなんて邪道だろ!?
だから俺は気づかなかったんだ。
「……許さない許さない許さない――」
呪詛のように言葉を繰り返している風紀委員長なんて。