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Phase-51「再びの悪夢」その3
 シン=アスカとルナマリア=ホークはエターナルに回収されていた。
「シン……」
 メサイヤ崩壊後から一言も発しないシンに、ルナマリアが声をかける。だが、シンは沈んだ顔のままただじっと床を見つめていた。
 デュランダルの護衛部隊としてレイと共にメサイヤに配備されたシンだったが、その結果は惨憺たるものだった。アスランたちの話によるとデュランダルはメサイヤ内で死亡。レイもまたその後を追ったという。そして、シン自身はアスランの乗るインフィニットジャスティスとの戦いで乗機デスティニーを失い、苦杯をなめた。
「俺は……俺は……」
 膝の間で堅く握り締めたシンの拳に涙が落ちる。その横顔を覗き込んだルナマリアはかける言葉を失った。
 涙に濡れたシンはまるで子供のような表情だった。すがるものをすべて失い、何もなくなったことで今まで彼を包んでいた険が消え、シンはただ泣いていた。
「少しは落ち着いたか?」
 ドアが開き、アスランが入ってきた。シンはあわてて涙をぬぐいアスランから顔を背ける。
「まだのようだな」
「何のようですか」
 シンの口調は硬く冷たい。その言葉にアスランは少しだけ困った顔を見せた。
「これから俺たちは地球に向う」
「?」
「ザフトの艦隊が地球へ移動を開始した」
 アスランの言葉にシンはルナマリアのほうを振り向く。だが、ルナマリアは首を左右に振った。
「何も聞かされていないようだな」
「ええ、私たちが受けた命令は反射コロニーの防衛とアークエンジェルの撃沈でしたから」
 本来なら敵であるはずのアスランに、ルナマリアは作戦内容を話し出す。顔を見たことで今までの記憶が蘇り、つい口から言葉が出て行ったのだ。
「イザークやディアッカも同じだった。彼らの意図がまったくわからん」
「で、アンタたちはどうするんですか」
 シンが挑戦的な視線でアスランをにらみ付ける。その視線を受け止めつつ、アスランは言葉を続ける。
「アルザッヘルのマスドライバーで彼らを追う。間に合うか間に合わないかはわからんがやってみるしかない」
「マスドライバーで? 艦が保つわけないですよ!」
「わかってる。でも俺たちがやるしかないんでね」
 アスランが寂しげに笑った。ルナマリアはその笑顔を見て、彼の心の底からの笑顔を見たことがないことに気づいた。
「大丈夫さ。すでにオーブ本国からも部隊が衛星軌道上にあがっている。俺たちが負けてもまだカガリがある」
「……なんで、なんでなんだよ!」
 爆発するようにシンが叫びだす。その勢いにおされルナマリアは半歩後退した。アスランは自分に詰め寄るシンを正面から見据える。
「あんたたちが正しいのかよ! そんなのわからないだろ! なんで戦うんだよ!」
「確かにお前の言うとおりだ。俺たちが本当に正しいのかどうかなんてわからない。もしかしたら議長が正しかったのかもしれない」
「じゃあ、なんで!」
 シンがアスランの胸倉をつかむ。あわてて間に入ろうとするルナマリアだが、アスランの手が彼女を押し留める。
「俺たちは……自分の手で自分の未来を決めたいんだ」
「!」
「誰に押し付けられる未来でもない。自分が選んだ未来。自分が選んだ運命。それを俺は信じたい」
 シンの力がふっと緩む。アスランはその手をそっと払いのけ、シンの両肩をつかんだ。
「お前も議長が決めた未来じゃなく、自分の選んだ未来を信じろ。お前の人生はお前しか作れないんだ」
「……そんなこと。そんなこと言われたって!」
 再びシンの瞳から涙があふれだす。アスランはシンの肩から手を離し踵を返す。
「エターナルはまもなく戦場へ向う。生きて戻れる保証は無い。今のうちに艦を降りろ」
「……いやだ」
 シンが低く静かに言った。アスランが肩越しにシンを見つめる。
「あんたがどこに行くのか。俺は最後まで見届けてやる! 絶対にだ!」
「シン!」
 ルナマリアの叱責を無視し、シンはアスランに詰め寄った。
「俺にMSをくれ! すぐ側であんたたちの背中を見ていてやる! あんたが自分の言葉を穢した時、俺はあんたを……殺す!」
「……好きにしろ」
 アスランは軽く笑みを浮かべた。無気力だったシンの瞳に力がやどったことがアスランにはうれしかった。
「ハンガーにお前のMSを用意する。聞いて驚くなよ。機種はデスティニーだ」
「?」
 デスティニーはインフィニットジャスティスに撃墜され大破したはずである。修理するとしても数時間で直せるようなレベルではない。
「補給のためにメサイヤとミネルバの残骸からもいろいろ盗ませてもらってな。その中にデスティニーの予備機があった。塗装されてないが機体自体は完成品だ。お前の戦闘データをそっちに移せば十分使えるはずだ。本当はほかのパイロットが使うはずだったが、お前が使いたいなら譲ってやってもいい」
 アスランの申し出にシンはしばらくポカンと口をあけたままだった。その表情を見てアスランはクスリと笑いを漏らす。
「好きにするんだな。お前の未来だ」
 そういってアスランは部屋を出て行く。シンはうつむいたまましばらく考え込んでいたが、意を決したように顔を上げ、アスランの後を追っていった。


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