プレゼント【6】
「ごちそうさまでした。あの……少ししかないんですけど。これ…」
「……」
料亭から出る手前で、差し出された(かなり軽い)陽菜の財布。
それを手に握らされた大和は、チラリと中を覗き…
「本当に。少し…だね」
どう見ても、千円札が二〜三枚しか入っておらず……
(逆に入れてやりたいくらいだよ…)
会計で、カードを出し清算を済ませた大和は、陽菜に財布を返し
「お金で返してくれなくてもいい」
と、言い。
外に出た…
陽菜は自分の財布を握り締めたまま、大和の後ろをトボトボと歩き出す。
「お腹いっぱいになった?」
「……はい」
「そう。なら、それでチャラだ」
大和は陽菜に振り返り、合わせた顔にフッと微笑んで見せた。
「陽菜さん」
「はい…」
「料理人は何の為に料理を作ってるか、分かるか?」
突然の意味不明な問いかけに、陽菜は首を傾げていた…
「むろん、生活の為。給料を貰う為……ってのは当たり前だが」
「……」
「一番の理由は。自分の作ったものを食べた人が、美味しいと思ってくれること」
陽菜は大和の顔をジッと見つめたまま、その言葉を聞いている……
「それと同じでさ。俺も、君からちゃんと返してもらったんだ。その洋服を嬉しそうに着てくれたし、君のお腹も満たせてあげられた。俺がそれに対して満足できたこと。それが一番のお返しだと思ってる。……だから…」
「……」
「笑って、みな」
その優しさに、陽菜は笑顔で答えた。
言葉では言い表すことが、出来ないくらいの感謝を込めて……笑顔を向けたのだった。
二人は人ごみの中を歩いていた。
街はクリスマスを楽しむ人々で溢れ返り、この日ならではの煌びやかな色合いが否が応にも現実を逃避させてくれる…
大和も例外ではなく、普通ならば苛立つ混雑も。陽菜の楽しげな顔を見るだけで穏やかな気持ちになっていくほどだった。
(たまにはこんなのも……悪くはねえな…)
そんな風に思う自分が今まで居ただろうか…?
仕事を一切忘れ、時間を気にすることもなく過ごす一日……
突然現れたクリスマスプレゼントに、初めは戸惑い。ワケの分からない事件に巻き込まれたけど…
今は…
どうでもいいような気さえする。
今はただ…
この穏やかな雰囲気を楽しんでいたいと思う。
「高倉さん。見てっ…」
自分の腕を引っ張る陽菜の手と…
目に映った巨大なクリスマスツリーと……
「こんな大きなツリー……初めて見た。すごい……綺麗…」
その笑顔があれば……。
「クリスマスがこんなに素敵なものだなんて初めて知りました……ありがとうございました」
今日一日。
結局何を解決したわけでもなかったが、大和の心は今とても穏やかだった。
その笑顔に。
その運命に。
感謝したいのは自分の方だった……
(結婚も。悪くはないのかもしれねえな…)
それは。
大和が真っ白な心で望んだ未来。
(この娘と、なら…)
逢ったばかりの娘なのに…
自分とは親子ほど歳が離れているってのに…
それなのに……
見つめ合う目と目が。微かに触れた指先が…
確かな未来への道を大和に教えてくれているようで…。
「結婚しようか」
そんな言葉が自然と自分の口から吐き出されたとしても……
なんら不思議なことではないような…
気がした。
NEXT
|