プレゼント【5】
クリスマスに浮かれる人々のせいで、飲食店はどこもかしこも満員。
仕事人間だった大和にとって、クリスマスというものがこんなにも賑やかだったという現実を初めて知ったかのような気分だった。
「予約?」
「はい。ご予約いただいてないお客様には、大変申し訳ございませんが。本日は…」
そんな世間に、大和はまた深いため息をつくのだった……
「あ。高倉さんっ」
「…?」
大和の肩を叩く陽菜が、指をさした方向に目を向けると…
「コンビニがあります」
「あるね」
コンビニエンスストアがある。
「私、なんか買ってきます。おにぎりか何かでいいですよね?」
そう言って、走りだそうとした陽菜の進行は…
「ちょっと、待て」
大和によって阻まれた。
「お腹すいてるんですよね? 大丈夫です」
「……なにが?」
「万引きなんか、しませんよ。いくら貧乏でもそこまで堕ちて…」
その言葉の途中で、何故だか陽菜の身体はタクシーの中へと押し込まれた。
「新宿」
大和の声で走り出したタクシーの中…。
「あの……コンビニが…」
「コンビニは、いいから」
遠ざかるコンビニを車の中から目で追う陽菜に、呆れ顔を見せた大和。
「おにぎり。嫌いでしたか?」
「そーいうことじゃ、なくて。ね。…ちょっと落ち着こう」
(いや。一番落ち着いてねえのは……俺)
大和は一つ、空咳を吐き。
「とりあえず。メシは食おう」
「…はい」
「それで、だ。その後は…」
(本来の目的は……)
「あっ!」
車中でも……か?
「サンタさんっ!」
その声に、運転手が噴出す様を聞いた。
正体はピザ屋の配達人だ。
「……陽菜。さん?」
「はい」
深呼吸しておこう。
大和は、暫しの間を置き……問いかけた。
「君、本当に高校生?」
「……疑って悪かった」
陽菜が見せてくれた生徒手帳を返しながら、そう言った。
ついでに婚姻届に記載されていた事項と、日付も確認した……
「まあ……とりあえず、腹ごしらえしよう」
手ごろな店は既にどこも予約で満員だった為、お得意さんとの接待でよく使う料亭へと陽菜を連れ立ってやってきた。
そしてテーブルに並べられた芸術的な料理の数々…
大和は酒を一口、呑んで……
「お腹すいてるだろう? 食べなさい」
うつむいたままの陽菜に声をかけた……が。
「いりません…」
と、小さく返ってきた声。
(今度は何だ……?)
ややため息まじりに大和は聞く。
「何で?」
そして返ってくる答え…
「返せないから…」
庶民からしてみれば、確かに贅沢な店であって……
大和は並べられた料理を一瞥しながら、手酌で酒を注いだ。
(律儀なのか…。それとも手法の一つなのか…)
「返す必要ないから。安心して食べな。変な下心もないし、何を望んでもないし。ただ単純に。メシを食いたいが為の…」
「だって。……だって、奥さんになれないなら。お腹を満たしても仕方ないもの」
「……」
(さて。この娘は何がいいたいと思う? なあ、俺)
一、俺を馬鹿にしてる
二、実は結婚詐欺師
三、ただ悪夢を見てるだけ…
「クリスマスプレゼントなんか貰ったことないし、サンタさんだっていないって言われた。夢を見るだけ無駄だって……ずっとそう言い聞かされて育ったし。……だけど…」
陽菜は頬にそっと笑みを浮かべ、洋服と一緒に揃えてもらった首飾りに手を触れた…
「そのお返しをしたくても出来なくて。誰かに幸せを分けてあげることも出来なくて。夢はやっぱり見るだけじゃお腹は膨れなくて……もしも…こんなご馳走で満たされてしまったら。私は夢から醒めることが出来なくなるから。……だから…」
大和に向けられる純粋な瞳。
その言葉が作られたものではないと分かっていた。はじめから…
陽菜は全て心のままに気持ちを吐き出していた。
それは…
子供の頃に持っていた真っ白な気持ち。
でも、いつからか疑うことを覚え。大人の世界に淀んでいく心を堰き止めるものはなく……
いつの間にか…
「分かった」
大和は陽菜の目を真っ直ぐ見つめ、こう言った。
「俺があげた分だけ。君から返して貰う。夢なんかじゃなく……現実として」
(ここまできたら。付き合ってやろうじゃねえか。これも……何かの縁だろうからな…)
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