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  幻想郷爆誕 作者:蒼響草
第一章01「冷静と動揺のあいだ」

「古き良き日本人の心とは?」、と問われて何を想像するかは人それぞれだろう。
例えば“和”だとか“謙虚”だとか“勤勉”だとかを答えるかもしれないし、
あるいは“武士道”という答えも悪くはない。


この“武士道”というのも、単に刀で打ちあうとかそういうことでなく作法としての意味合いが強い。
分かりやすく言えば、誰しもが一度は聞いたことがあるような「健全な精神は健全な〜〜〜」やら「心技体は〜〜〜」だとかを思い浮かべればいい。
事実、日本武道は礼儀作法に厳しく、海外に至っては武術が目当てではなく礼儀作法を学ぶために子供に武術を学ばせる事もあるそうだ。
礼儀を知れば自然と子供というのは冷静な視点で物事を捉えられるようになる、だとかなんとかどっかの学者が言ってた気がするが、
つまるところ、こうして“日本人の心”を表現する言葉は良くも悪くも“静かな”あるいは“落ち着いた”というイメージがある。


いや、“イメージがある”と断言してしまうには横暴かもしれないが、俺自身はそう考えている。
少なくともアグレッシブな要素を孕む言葉で、日本人を表現する人は少数派であるという見解は理解して欲しい。


随分と回りくどくなってしまったが、要するに俺が言いたいのは……




「ここは何処なんだ?」




……………………………
…………
……




いや、すまない。
いきなりの展開でついてこれないのは良く分かる。
良く分かるのだが、ここは一つ騙されたと思って話を聞いてくれ。
まずは俺の身に起きた事をつつみ隠さずに話そうと思う。


 
 朝、小鳥のさえずりと共に起床。


その際、ベッドで寝てたはずなのにいつの間にか布団で寝ている事に気づいたが、さして疑問に思わず布団をたたむ。



 たたんだ布団を押し入れに入れる。


その際、洋室であったはずの自室が和室に変化していた事に気づき、僅かな疑問を持ちつつも華麗にスルー。
(スル―というか、寝起きでまだ正常に頭が働いていなかっただけなのかもしれない。)



 ひとまず廊下に出る。


その際、フローリングの一軒家であるはずのうちがいつの間にか武家屋敷みたいなのに変わっていたのに気づく。
流石の俺も変だなとは思ったが、腹が減っているのでとりあえず朝飯をとることを優先した。
もしかしたら記憶が曖昧になってて実家に帰省中だったかもしれないと考える。
実家がどんな構造をしてたかは十年近く帰省してないので忘れたが、確かこんな武家屋敷だった気がしなくもない。



 家に誰も居ないので、仕方なく自分で朝飯を作る。


自分で飯を作るのは初めてだったが、まるで体に染み付いてるかのようにテキパキと朝食を作る俺にビビる俺。
その際、自分の体がどうも自分の体じゃない気がした。
いや、朝起きた時から薄々と違和感を感じてはいたのだが、まさか……な?。後で鏡で確認しとこう。



 十四〜五畳間の(一人が使うには)広い部屋で朝食をとる俺。


その際に、近くの障子を開けると明らかに見覚えのない日本庭園を目の当たりにする。
呆気にとられながらもお茶を啜る俺。



 朝食を終える。
 

その際、俺はいままで気づいたことを頭の中にまとめ、目を閉じ腕を組みながら深く考える。
そして……


「ここは何処なんだ?」





今に至る。




……………………………
…………
……



最後の方で“目を閉じ腕を組みながら深く考える”とかあったが、
その時に考えていたことが冒頭部だったりする。
全然脈絡がない上に、意外に余裕があるな俺。
……すまん、調子に乗った。


まあ、冗談はさておき。
今の俺は「日本人の心とはなんぞや?」とかで現実逃避(?)するほどパニックに陥っている。
その割にはすこぶる冷静な感じもするが、現状を理解しきれてないのは確かだ。


こういう時は素数でも数えて……とかいう展開にもっていきたいのだが、あいにくそんな気分にすらもならない。
割と本気にマジでどうしたらいいのか分からない。


俺は「これじゃ埒があかない」と呟き、とりあえず立ち上がる。
そしてグルリとあたりを見渡し、そして座る。
うん、素敵に無意味な行動をしました。はい。
これじゃただの変な人だ。


仕方なく俺は現状に追いつくために、一から順を追って整理することから始めた。
まずは俺の名前から……


「………」


おっと……
まさか一から躓くとは予想外だZE☆
想像以上に俺は現状から取り残されてるらしい。
いや、笑い事じゃねーなこれ……ホント。


(記憶喪失?)


いや俺自身のプロフィールはちゃんと覚えてる。
学生である自分の記憶は確かに残ってるのは間違いない。
ただ、その記憶に登場する人物の名前(家族や自分を含む)だけが思い出せないのだ。
不味い……このままでは俺は“名無しのごんべい”で押し通すしかなくなる……!?
いや、そうじゃない落ち着け俺。
名前なんざ後で思い出すかもしれないし、別に“名無しのごんべい”という名前である必要性もn……


「いや、それもちげーよ」


問題なのは名前じゃなくて、今俺の身にとてつもない事が起きているということだ。
明らかに俺の身には何かが起きている。


中途半端に抜けている俺の記憶。
自分のとは思えないこの身体。
見覚えのないこの武家屋敷。


「最早なにがなにやら分からない……」


口では泣き言を言ってはいるが、頭では驚くほど冷静な自分がいる。
俺は窮地に対して、こうも落ち着いて対処出来る人間だっただろうか?
いや、そもそもこんな窮地に陥ること自体が初めてなので分かりはしないのだが。
ともかく、今俺がすべきことは……


「名前……考えるか」




……………………………
…………
……


“名前”


このご時世、日本人なら生まれてすぐ、いや母親の胎内にいる時点ですでに授けられるもの。
ある時は著名な人物の名前にあやかったり。
ある時は生まれた季節に合わせた名前にしたり。
また、ある時は父親か母親の名前になぞらえたものをつけられたり。
中には画数や漢字の意味に気を遣ってつけられた名前もあるだろう。


当然、俺も日本人なのだから生まれてすぐに授かった名前があったはず。
しかしながら今はその名前を失って(あるいは忘れて)しまっている。
俺としても多少の抵抗感はあるが、名前がないことには具合が悪いので仕方なしに新たな名前を自分につけることにした。


「とはいえ、自分に名前をつけるっていうのも難しいな」


俺の場合、まずは名字から考えなければならない。
どうせ自分でつけられるんだから、ありきたりな姓名をつけるよりはちょっとばかし格好がつく名前にしたい。
そして出来ることなら難しい漢字とかも使いたい。


くだらないかもしれないが、俺は見かけないような漢字が入った名前に憧れをもってたりする。
なんというか、名前ってものは親が決めるものだから、自分ではどうしようもない分そう感じるのかもしれない。
(……そんなことを感じるということは、忘れた俺の名前は結構簡単な漢字で構成されてたのかもしれん)


ついでに言うなら、“名”のほうは漢字一文字で表せるものがいい。
“翼”だとか“葵”だとかがいい例だ。


「ん〜〜……」


真剣に考えてはみたものの、案外パっとは出てこないものだ。
まあ、自分の名前を適当に決めるのも癪だから真剣ぶってるだけなのだが。
本当に「これだ!!」と思えるようなものがない。


「あ……(そういえば)」


俺はふと自分の身体を見る。
さっきから忘れていたが、この“身体”についてを考慮してなかった。
この身体、今は着物(道着?)みたいなので包まれているが……


(どう見ての俺の身体じゃないよな……)


俺自身の持つ記憶では、ここまで筋肉質、それでいて引き締まった身体ではなかったはず。
というか、この身体つきは最早ゲームとかで出る武芸者を思わせる(の割には傷跡とかはなかったが)。
あとは鏡とかで自分の顔とかを見れば確定だ。
丁度庭園に獅子脅しがあるので、その水面を覗き見ることにしよう。



俺は柄にもなくドキドキしながら水面を覗く。


そして急速に凹んだ。


(畜……生、「ウホッ良い漢!!」とか思っちまったZE。もう駄目だ俺……orz)


俺の心境はともかく、とりあえず自分の顔ではないと断言出来た。
少なくとも水面に映ったこの身体の顔は、胸を張って「自分の顔ですね」とか言えそうにない。
まあ顔の良し悪しはこの際どうでもいい。
こうして自分の顔ではないと確認が出来たということは、


(俺自身の名前は分からないが、この身体の持ち主の名前は存在するはずだ……!!)


ちょっと自分が冴えてるとか思った。
思いついたら行動に移すべし、俺は名前を知るために家宅捜索を実行した。




……………………………
…………
……



結論から言う。




分かりませんでした!!





結構、本気に家宅捜索したのに自分の名前らしきものが何一つ見当たらない。
表札すらもねーし。
さっきまで「俺、冴えてるZE☆」とか思ってたのがただのバカ発言に成り下がってしまった。


「これじゃあこの身体の持ち主の知り合いとかから訊くとかしかねーjy……ってその手があったか」


すぐに光明を見出した俺。
名誉挽回のためにも、是が非でも名前を知らなければ。
もうここまできたら意地だ。絶対暴いてやる。


俺はすぐに身支度(羽織ものを肩に乗せただけ)をすると、外の世界へと踏み出すのだった……。







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