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女魔法使いカナデ

勇者パーティーの女魔法使いは左遷されました

作者:橘千秋
 ――――とある地球ではない世界。
 半年前、この世界で『魔王』と呼ばれる悪逆非道の限りを尽くす異端の最強魔族が宣戦布告した。


 魔族と人間は不干渉を貫いており、人間の住む大陸と魔族の住む大陸は、ほとんど交流はなく、そのため差別意識も特になかった。人間同士の国の小競り合いはあったが、世界は割かし平和だった。しかし強い力を持つ魔族が、魔族の住む大陸を最強の力で支配し、世界は一変する。


 強い力を持つ魔族は魔王と自らを名乗り、人間の住む大陸を同士とも言える血気盛んな若い魔族たちと攻め始めたのだ。それは緻密に練られた侵攻で、僅か2か月で20あった人間の国が5か国を残すのみとなった。
 魔王は獅子魔族と呼ばれる戦闘特化型の魔族で、種族特性が……脳筋で有名だった。魔王宣言からの巧みな人間を熟知した精巧な作戦。これは何かがおかしい、そう感じた残った人間の国の首脳部は必死に情報を集めた。そして魔王の参謀がかつて帝国と呼ばれた最大の人間の国で宰相を務め、汚職と国家反逆罪で島流しされた人間の男だということが判った。


 最強魔王と(人として)最低参謀のタッグにより世界は滅びの危機を迎えようとしている。そのため人間と魔族という壁を取り払い、背に腹は代えられないとばかりに、2つの種族は協力することとなった。

 魔王に従わない魔族たちは主に情報収集に努め、人間たちは各国最強の(つわもの)達を招集し、パーティーを結成させた。


 空の国からは最強の剣士と名高い第五王子を、大地の国からは騎士団団長で最強の槍の騎士を、風の国からは百発百中の弓の名手である公爵子息を、雪の国からは魔獣使いの第二王女を、光の国からは300年生きる癒しの聖女を召集した。そして、伝説の聖剣を抜いた光の国出身の少年勇者(農家の三男)と五か国すべての王たちの推薦により選出された空の国出身の魔法使いの少女(宮廷魔術師の下っ端)がさらにパーティーに加えられた。


 この7人のパーティーは魔王討伐の旅に出てから凄まじい勢いで魔王軍を駆逐していった。そして3か月余りで魔王を打ち倒し、各英雄たちは1人も欠けることなく己の国へと凱旋した。それは空の国出身の第五王子と女魔法使いも例外ではなく、国を挙げて2人の英雄の帰国を祝ったのだった。





 そして現在。
 空の国王城内では、2人の英雄たちが王に謁見していた。謁見の間には、この国の重鎮たちが控えており物々しい雰囲気だ。玉座に座る王様の前には2人の英雄が跪いている。

 「面を上げよ。マティアス、カナデ」

 「「はっ」」

 マティアスと呼ばれた第五王子は緊張した面持ちだった。魔王を打倒した英雄で王子という肩書きを持つと言っても彼はまだ17歳。色々な意味(・・・・・)で緊張していた。しかし表情も淡い金髪と中性的な端正な顔立ちからか、他者はその美しさに息を呑んでいた。隣にいる黒髪の少女――女魔法使いは、マティアスの姿には何の反応も見せなかった。


 「此度の魔王討伐の任務、よくぞ勤め上げた。(われ)からは感謝をこめて二人に褒美をやろう。まずはマティアス、其方(そなた)には領地と褒賞金を授ける。そしてひとつ何でも願いを叶えよう」


 国王は何でも願いを叶えると言っているが、何でも叶えられる訳ではない。それこそ第五王子が王位を望むなどと願えば幾ら英雄とて、始末されるだろうとマティアスは判っていた。それにマティアスは父王も他の兄弟たちも自分を愛してくれていると知っているため、そのような愚かなことは願わなかった。だからマティアスは家族には迷惑をかけないが、己の確かな願いを言った。


 「ありがたき幸せ。陛下、私は願うのはただ一つ、婚姻の自由でございます。政略結婚ではなく自分で伴侶を見つけたいと思います」

 「許可しよう」


 ザワザワと謁見の間は騒がしくなった。国の重鎮は貴族が多い。あわよくば英雄の王子の伴侶に我が娘をと思う者たちがいた。それに王家が英雄の王子という有用な政治的カードをあっさり手放したのにも驚いたのだろう。


 王は心なしか満足そうに己の息子であるマティアスを見た後、緊張した面持ちでカナデに目をやった。カナデはこの国では少し珍しい黒髪に黒の瞳、そして異国情緒漂う顔立ちだが決して美人ではない平凡な顔立ちの少女だった。
 15歳という若さで宮廷魔術師の末席に名を連ねているとは言え、平民出身の少女。謁見の間にいる一部の貴族が王が緊張しているのが心底不思議に思っていた。そして一部貴族は思った、英雄になったことに調子に乗り、浅ましい願望でも口のするのではないかと。王妃にして欲しいなどと言うのではないかと怪訝な顔で王と女魔法使いを見る。


 「カナデ、其方には女侯爵の爵位と報奨金、10日の休みを与えよう……そして、何か願いがあれば言うがよい」


 それは魔王討伐を果たしたとはいえ、破格の褒賞だと貴族達は思った。しかし国王はカッと目を開き、一世一代の決戦に赴くかのような圧倒的オーラを放っていた。国王を見守っていた貴族たちはその存在感に恐れ慄いている。当のカナデは薄らと笑顔を浮かべていた。


 「恐れながら陛下、私の浅ましい願いを聞いて下さい」

 「よかろう、遠慮なく申すがいい」


 謁見の間の緊張感はピークに達していた。尋常ではない様子の国王――もはや覇王オーラを纏っている言ってもよいだろう――とそれを受けて平然としている女魔法使いの相対にすべての者が固唾を呑んで見守っていた。『はやく終わらせてくれ、胃が持たん!』と皆の心の声は重なっていた。


 「ありがとうございます。では私の願いを申し上げましょう、爵位と報奨金に休みは陛下にお返しします。その代わり――――」


 ゴクリと王を含めた全員が唾を呑んだ。何を要求するつもりなんだと――――


 「本日を持って宮廷魔術師を辞職させて下さい♪ あ、もちろん退職金はいただきます」


 先程までの薄ら笑いとは打って変わり、女魔法使いは晴れ晴れとした笑顔で国王に嘆願した。












 輪廻転生って知ってる?車輪がぐるぐると回転し続けるように、人が何度も生死を繰り返すことらしいんだけど。どうやらこれは本当のことらしいんだよね。尤も私の場合は本当に転生なのか微妙なところなんだけどね。


 私は前世では地球と呼ばれる惑星の日本と言う国に生まれた。平成と呼ばれる時代で、割と平和な時代だったと思う。私が生まれ育った家庭は上流階級の生まれとかではなく、その他大勢に分類される一般庶民、顔立ちも普通な女の子だった。私は普通の家庭に生まれて、普通に両親に愛されて、普通に姉弟でケンカして、普通の公立学校に通い、普通の県立高校に入学した。別に私は特別な存在になりたいだなんて思春期特有の病気には罹らなかった。


 むしろ将来は市役所勤めの公務員と結婚して安定した普通の家庭を持つことを夢に見ていた……つまりは庶民であることに何のコンプレックスも持たない、庶民ライフを楽しむ一般人だったのだ。しかしそんな私にも普通ではない出来事に巻き込まれた。銀行に行った時に銀行強盗の立て籠もり事件に巻き込まれたのだ。手数料ケチらないでコンビニのATM使えば良かったとこの時ばかりは自分の庶民感覚を恨んだよ。自分のアイデンティティーを恨んだのが悪かったのか、私は運悪く人質になり、警察の突入に驚いた犯人に殺されてしまった。享年17歳である、無念。

 そんな普通ではない最後を迎えた私は転生したのだと気付いたのは、新たな肉体に生を受け3か月ほど経った時だ。最初は自由に動かない身体と、不明瞭な視界に驚いたが、時間が経つにつれて自分が赤子で前世の記憶を所持したまま転生したことを理解した。前世の記憶がある私はスーパー赤ちゃんとなり、夜泣きを殆どせず、1歳を前にして喋りだし、ハイハイから掴まり立ち、そして歩行までを順序良く最短で行った。これって天才だと思われちゃう?気味悪くて捨てられちゃう?なーんて考えたけど、私の世話をしてくれた御爺ちゃんは「子どもは元気なのが一番じゃ~」と言ってくれて心底安心した。


 この御爺ちゃんは私との血の繋がりはない。私は生まれて間もない頃に森に捨てられていた孤児で、森の魔法使いであるお爺ちゃんに拾われたそうなのだ。この話を聞いたのは若干2歳の時、私は前世で普通に家族がいたし、今は御爺ちゃんもいたから別に気にならなかった。

 前途に魔法使いとある通り、私が転生した世界は地球ではなく、剣と魔法の異世界だった。右手に闇が宿る設定の中二病を患っていた、前世で幼馴染のカズくんなら泣いて喜びそうな世界だ。

 どうやら御爺ちゃんは、この世界の魔法使いと呼ばれる者たちの中でもチートという存在であることは、私が3歳の時に魔法訓練を始めて知ることになった。失われた魔法と呼ばれる、神属性の魔法(主に転移魔法)をバンバン使って交通費を最大限にケチった貧乏旅行に行ったり、光属性の最上級魔法を使って姿を隠して人を驚かすドッキリをしかけたり、私が教えたサーフィンをしてみたいがために海で500メートル越えの大波を水魔法で作ったりと突き抜けた天才でだった。もう、前世の記憶持ちチートなんてお笑いレベルだ。

 私は御爺ちゃんの孫兼弟子として忙しい毎日を送った。しかしそんな他愛もない日は、私が7歳の時に終わりを告げた。御爺ちゃんが死んだ。病気や怪我ではなく老衰、幾ら御爺ちゃんでも老化には勝てなかったらしい――尤も高魔力の人間は老化が遅いらしく享年184歳だったが。

 御爺ちゃんが死んだのは悲しかったけれど、寿命が近いっていうのは聞かされていたし、苦しまず穏やかに逝ったことから、すぐに御爺ちゃんの死は乗り越えられた。私も今世はこんな最後がいいなぁ。


 保護者がいなくなった私は、空の国の魔法学校に特待生枠で最年少入学をした。試験は受けたけど、理事長が御爺ちゃんの知り合いだから所謂コネ!裏口入学だよねってことでなるべく目立たないように学園生活を送った。それでも最年少入学だから完全に空気になることは無理で、第五王子に目を付けられて嫌がらせをされた。私が入学しなければ2つ年上の第五王子が最年少入学になるはずだったから、私の事が気に入らなかったみたい。権力には逆らえないし、処刑とかされるのが嫌だから何度か他国へ逃げようかと思ったけど優しい先生たちと先輩に助けてもらった。人の温かさが身に染みるでぇ。


 魔法学校を卒業した私は王宮の宮廷魔術師になった。王宮と言えば前世の政府みたいなところ、つまりはそこで働くのは公務員みたいなもんじゃん!と思ってダメ元で試験を受けたら合格して、そのまま就職したのだ。ただ予想外だったのが、御爺ちゃんの知り合いがいたらしく、もろもろの下積み過程をすっ飛ばし、末席ではあるがいきなりエリートである宮廷魔術師になってしまった。何てこったい!ここでもコネ発動か!と御爺ちゃんの偉大さに驚きました。やはりコネで入廷したのが気に入らないのか、イジメが起きた。さすがの私も「真面目な人から見たらコネなんて最低だよね」と思って、潔く辞職して他国でのんびり隠居しようかなぁと思ったら、イジメてきた人達が私に謝ってくれて、ピタリとイジメはなくなった。なんてデキた人達なんだろうと思った私はコネとは言え、せめて仕事は責任を持って行おうと決意したのだ。



 月日は経ち、私は15歳――この国の成人年齢になった。最近は煩わしいことが多くて参いる。使えないボンクラ糞爺共は人に仕事を大量に押し付けてくるし、国王は私に爵位をあげようだなんて金持ちの享楽をしてくるし、貴族共はそれに便乗して私に息子を押し付けてくるし……最悪。罰ゲームの告白みたいなもので、私がその気になったら平凡顔(前世とそっくり)を嘲笑うに違いない。実に趣味の悪い遊びですこと……ケェッ上流階級の考える事は判りませんなぁ。このところの激務と心労で私はやさぐれていた。

 数か月が経つと世界的な大事件が起こった。魔王による宣戦布告である。しかし私にはあまり関係がなかった。溜まった仕事を片づけ、魔王に恐れて逃げた糞爺共の尻拭いをして……と寮に帰れずに仕事場に泊まり込む日々が2か月も続いた。この時に私は気づいた……ああ、ここはブラック企業だ。私は所謂社畜なのだと。王宮に努めて早4年。私は自分が就活をしくじったことに後悔していた。

 しかし転機が訪れる。何故か私に魔王討伐の任務が与えられたのだ。5か国の国王の推薦なんて言われているが、どうせ第五王子の同級生で切り捨てても平気な平民である私の箔付けなのだろうと思った。だがしかし!魔王討伐だろうが何だろうがこの職場を離れられるなら今より楽になれる!と意気揚々と任務へ向かった。



 すぐにそれが間違いだったと判った。
 第五王子と猛獣使いの王女はお互いプライドのせいでケンカばかりだし……どっちが上かなんてマジどうでもいいじゃん。槍の騎士は一人体育系で暑苦しいし……空気読め。勇者と聖女(300歳)は、肉食系だった聖女に迫られた勇者が脅えて私に助けを求めて何故か三角関係に……私を巻き込むなよ。弓の名手は自由人過ぎてよく迷子になるし……お前は小さな子供か。とばかりに人間関係に大いに問題のあるパーティーだった。

 そりゃ私も耐えていたさ、平民だしね。だけどウザいお国自慢を永遠聞かされ、空気の読めない男をフォローして、謂れのない嫉妬を向けられて罵られて、ヘタレ男のデモデモダッテに対して殴らないように我慢して、挙句自分より年上の大人の御守り……そりゃ、ブチギレてもしょうがないよね?
 でもさ、感情まかせに怒鳴り散らすなんてしないよ?帰ったら絶対に転職するってことを心の支えに魔王軍に物理的に怒りをぶつけてストレスを発散したよ。日本人は我慢強いけど一度キレたらやばいんだぞ?

 そんなこんなで神属性の最上級魔法の椀飯振舞をして魔王を瀕死状態にして、トドメは勇者にやらせて面倒くさい功績を押しつけて、魔王討伐は終わった。何故か勇者と聖女には脅えられ、弓の名手と槍の騎士には恍惚とした表情で跪かれ、王女(年上)にはお姉様と呼ばれるようになった……どうしてこうなった。第五王子?奴は相変らず顔を真っ赤にして私に嫌味を言ってくるよ、飽きないものだ。



 ゆっくりと眠りたい気持ちを抑え込み、日本の皇族スマイルを真似して凱旋パレードに参加。その後すぐに国王と謁見って言うんだから嫌になっちゃうよ。やっぱりこの国は労働者の気持ちなんて考えないんだなって再確認、はやく仕事辞めたい。

 謁見の間にはお偉いさんが勢ぞろいしていた。一般人の私を遠慮なく見てくる。これがいやらしい目だったら、セクハラ!訴えてやるわって女性の特権行使できるんだけど、如何せん私の平凡フェイスにツルペタボディでは失笑されるのがオチだ。どうせ珍獣だとでも思っているのだろうけどね。そして隣の第五王子は顔だけはいいので、私とは別の意味で目立っていた。ああ、隣に並びたくない~。

 儀礼的に跪き、王からの言葉を待つ。


 「面を上げよ。マティアス、カナデ」

 「「はっ」」


 顔を上げると、お偉いさんたちの目は第五王子に釘付けなのに気付いた。お前たち男だろ。ちなみに私は第五王子の顔を見ても何も思わない。学生時代に虐められたことで第五王子があまり好きではない……と言うか、どうでもいい。王族の権力怖い。私が気に入らないのか、学園を卒業してからも職場にわざわざ来て嫌味を言って来た。そんな時は前世でバイトしていた時のクレーマーのオバサンを思い出し、申し訳ありませんとすみませんを使い分けて乗り切った。


 「此度の魔王討伐の任務、よくぞ勤め上げた。(われ)からは感謝をこめて二人に褒美をやろう。まずはマティアス、其方(そなた)には領地と褒賞金を授ける。そしてひとつ何でも願いを叶えよう」


 そう国王は言うが簡単な話ではないだろう。ヘタに欲を出せば第五王子は文字通り消される。正直に言って、英雄の第五王子なんて微妙な立場だもんねー。これが王太子だったら、また違ったんだろうけど……そもそも王太子を魔王討伐に送る訳がないんだけどさ。王族って怖いわー。私は権力とは距離置きたいお年頃。


 「ありがたき幸せ。陛下、私は願うのはただ一つ、婚姻の自由でございます。政略結婚ではなく自分で伴侶を見つけたいと思います」

 「許可しよう」


 マジか!すげぇお伽噺みたいだ、さすが腐っても王子。ロマンは忘れねぇ。婚姻の自由ってことは結婚したい相手がいるってことだよね?第五王子17歳だよね?この世界の結婚って早いよねぇ。ちなみにこの世界の結婚適齢期は15~20代前半だ。早すぎるよね、私は確実に売れ残るよ。

 内心でリア充たちに呪詛をかけていると、国王が私を見る。ああ、次は私の番か。てかお偉いさんたちの視線が痛い。あれか、庶民の私がここに居るのが気に入らないのか。私だってこんな面倒くさい謁見したくなかったわ!フカフカのベッドで思う存分惰眠を貪りたいわ!


 「カナデ、其方には女侯爵の爵位と報奨金、10日の休みを与えよう……そして、何か願いがあれば言うがよい」


 爵位とかちょーいらねー!!嫌だよ、貴族とか絶対面倒くさいじゃん。下賤の身の上で貴族なんて烏滸がましいとか、この雌豚が!とか絶対に言われるんだよ?リアル昼ドラ、仁義なき女のキャットファイトが始まるんだよ?これ以上私のストレスを増やしてたまるか!私は身軽な身の上でいたいんだよぉ。


 「恐れながら陛下、私の浅ましい願いを聞いて下さい」

 「よかろう、遠慮なく申すがいい」


 慎重に丁寧に。私の真意は悟られないようにしなければ。言い切る前に止められたら元も子もない。大丈夫よ、カナデ。あなたはやればできる子!


 「ありがとうございます。では私の願いを申し上げましょう、爵位と報奨金に休みは陛下にお返しします。その代わり――――」


 一呼吸置いて、私は確固たる意志を持ち国王に進言する。


 「本日を持って宮廷魔術師を辞職させて下さい♪ あ、もちろん退職金はいただきます」


 言ってやったどー!!顔がニヤけるぅ。脱社畜じゃぁぁあああ。退職金をもらうのはアレだよ。貰わなかったら、私の後に辞めようと思った人が迷惑するかもしれないし。労働基準法が制定されてない世界で変な前例を作るのはよくない。


 「あ……カナデ、宮廷魔術師の筆頭にしてやろう。だから辞職は止めなさい」

 「いえ、宮廷魔術師の筆頭とか嫌です。それとも私への罰なのですか……」


 国王は私を過労死させるつもりか。嫌じゃボケェ!何の為に魔王を倒したと思っているんだ、仕事を辞めるためだよ。後、さっきからお偉いさんたちが煩い……。


 「カナデ、辞職以外に望みはないのか?」

 「ええっ、何でも叶えてくれるんじゃないんですか!?辞職するためだけに四天王を殲滅して魔王を瀕死状態にしたのに……」


 私の言葉に謁見の間の空気が凍った。すると、そんな空気をぶち壊すように第五王子が叫ぶ。


 「何でお前爵位を受け取らないんだ!これじゃ、俺の計画が……」

 「何よ計画って!」

 「それは……いや……」


 ハッキリ言わないってことはやましいことがあるってことだ。もしや……私が英雄の女侯爵になって天狗になった所を突き落として没落させようとでも思っているんじゃ。こいつならやりかねん。


 「陛下、私はもう疲れたのです……。上司には仕事を押し付けられて尻拭いをし、慢性的な疲労と睡眠不足に苦しみました。魔王討伐に行けば個人主義のアホ共の御守り……限界です。辞職することを心の支えに戦って来たのです。私の細やかな願いが聞き届けられないのなら……筋は通そうと思いましたが、致し方ありません。私、失踪します」


 社会人の常識何てかなぐり捨てて、一流のバックラーに私はなる!!


 「待ってくれ!!職場環境は望むように改善しよう。だから、辞めないでくれ」


 国王が懇願する。40を超えたオッサンの必死な姿は、私を正直微妙な気持ちにさせる。でも絆されたりしないんだからね!


 「私みたいな凡人が一人抜けた所で支障はないと思われますが。タナカさんに誘われていますし、私は辞めたいのです」

 「タナカって誰だ!」


 チッこの第五王子煩い。陛下もしつこいし……やっぱり魔王討伐の英雄は捨てたくないってこと?もういっそ今、転移魔法で移動してしまおうか。


 「はぁ。タナカさんは素晴らしい紳士で、私のお友達のユニコーンですが何か?」

 「神獣ではないか……カナデ、其方は神獣と心を通わせられるのか?」

 「何を言っているのです?神獣と話せるなんて珍しいことではないでしょう」


 師匠も普通に話していたし。


 「そうか……相変わらず規格外な」


 ボソボソと話していて陛下の声が聞こえない。もっと大きな声でしゃべって!


 「カナデ、お願いだ。この城で働いてくれ!!」

 「嫌です! 私は夢のスローライフを送るんです」



 ――――陛下と私のお互いに譲らない攻防は深夜まで続いた。











 「これで準備完了っと」


 私はガランとした寮室を眺めた。あまりにしつこい陛下に根負けし、私は辞職ではなく左遷されることになった。もちろん今までのように馬車馬のようにこき使われる環境ではない職種だ。

 領主の相談役という、いてもいなくても変わらない役職だ。憧れの窓際族に私はなることができた。ちなみに副業OK。今こそ、転生知識を生かしてチートをするっ!料理革命とかNAISEIとかね。楽しみだなあ。

 私は転移魔法で新しい職場へと向かった。













 「何であなたがいるのよ、第五王子殿下」

 「俺が領主だからだ」


 そう言って見るからに高級な椅子に座り、ふんぞり返る第五王子。新しい上司に挨拶に来たらこれだよ。そういえば、領主について聞いたら皆はぐらかしていたな……国王め、許さん。


 「左様ですか。ところで退職届は何所に?」

 「や、辞めるなんて許さないぞ! お前は一生、俺の傍にいればいいんだ!!」


 一生奴隷のように働けと!?何と言うブラックな企業理念!!さすが国王の息子。絶対に辞めてやるからな~~。
 私はクレーマー処理で培った営業スマイルを浮かべ、内心で辞職するための計画を立てる。



 いっそ魔族大陸に旅立つのもいいかもしれない。


 
ノリで書きました。後悔はしていない。
主人公カナデは師匠がチートすぎて自身のチート具合に気づけていない無自覚平凡少女です。この世界の基準が師匠なんです。
学園に入学したのも、宮廷魔術師に就職できたのもコネではなく実力です。
また、あまりに非凡な才能を持つため、国内外の有力者にはカナデは有名な存在。
だから5か国の王に推薦され、魔王討伐に向かったわけです。
国王は貴重な人材であるカナデを国に縛りつけようと、爵位を与えようとしたりしますが失敗。貴族たちも自分の息子と結婚させようとしますが失敗。
他国の王もカナデに破格の条件をだして引き抜こうとしますが、甘い話には裏があるとばかりに自分を平凡だと思っているカナデは条件を呑まず、これも失敗に終わっています。
あっ第五王子は、テンプレの好きな子を苛めて嫌われちゃったパターンです。



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