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ヒューリウ辺境領主代理のイヌ
作:天原ちづる



第1話


ヒューリウは<帝国>の東部に位置する中都市である。
大陸の東に位置する<帝国>の中でも更に東にあるこの都市は、はっきり言って田舎であった。
だが西国との戦にも、<帝都>での権力争いにも、北の<フェリタン>とのいさかいとも無縁のこの地は、あるもので有名だった。
奴隷市である。
<帝国>で唯一公然と人が売買される土地、ヒューリウ。
そう聞くとやはりいかがわしいという印象があるが、一部の西国の奴隷制度とはやや異なる。
まずこの地では奴隷というものは、それほど低い身分ではない。
基本的には普通の使用人と同じ扱いだ。
給金は支払われないが、衣食住に困ることはないし、主人によっては小遣いを与えられる場合も多い。
それで金を貯めて自分を買いなおすことも可能だ。
自由人に戻るには買われた値段の五分の一を主人に支払えば良いのである。
そして奴隷を非人道的に扱うのは法で禁止されている。
所有物だから何をしても良いというわけではない。
それでも奴隷を虐待する主人は現れるが、奴隷を所有するには届出が必要であり、抜き打ちで奴隷の待遇を調査することで未然に防ぐよう定まっている。
もし届出なく奴隷を所有していた場合は、買ったほうも売ったほうも極刑と決まっている。
これは<帝国>全土に適用される法であり、例えヒューリウで買った奴隷を遠く離れた土地に連れて帰ったとしても、届出を出せば所有を許可されるし、出さなければ極刑だ。
ただし、ヒューリウ近辺以外では<帝国>での奴隷の地位を誤解している人が多いため、奴隷を所有していると言うと、白い目で見られることが多い。
そのためヒューリウは貴族や大金持ちの別荘や別宅が多い土地なのである。
ヒューリウに来た時だけ奴隷市を楽しみ、買った奴隷は別宅などで働かせるのだ。
田舎にして活気のある都市。
それがヒューリウだった。

マティーダ=クオレッドはヒューリウで最も大きな奴隷市に来ていた。
と言っても奴隷を買いに来たわけではない。仕事である。
ヒューリウの奴隷市は大小様々あるが、必ず役人が立ち会うことが義務づけられている。
艶やかな赤銅色の髪を一つに束ねて颯爽と歩く彼女の姿は、機敏であり優雅だ。
珍しい翠色の瞳は手元にある書類と奴隷が登場する台を交互に見、申告に偽りがないかをしっかりと照合していた。
周りの部下たちはそんなことは我々がやりますと言うが、マティーダは彼らを見回りにやった。
自分が客席にいた方が効果的であるし、ただ座っているだけだとつまらない。
今、本日最後の商品が登場してきた。
黒髪の青年である。
最後に出てきただけのことはあり、整った顔立ちをしている。
短く刈り込んだ髪とよく日に焼けた肌が印象的だ。
背は高いが肩幅が成長に追いついていない所を見ると、十七、八といったところだろう。
マティーダよりもやや年下くらいだ。
手元の書類には「年齢不詳」の文字の横に、推定十七歳と書かれていた。
「さぁさ、皆様! 最後の商品となりました! なんとあの伝説のキウラの一族です! 身体能力が高く力持ち! しかも主人には犬のように忠実! 皆様、ふるってご参加ください!」
司会が叫ぶと、あちこちから入札の札と共に値段の声があがる。
奴隷市ではもっとも高い値段をつけた客に奴隷を売る仕組みとなっている。
でっぷりと太った商人風の男と貴族風の老人が競い合い、値段はどんどんと釣り上がっていく。
マティーダはその様子を淡々と眺め、書類に経過を記録している。
しかしふと壇上の青年を見ると、その黒い目は怒りに燃え、体は小刻みに震えていた。
次の瞬間、青年は後ろでに縛られた縄を引きちぎり、猿轡さるぐつわをむしり取った。
「誰が犬だー!」
そう叫ぶと青年は司会者に殴りかかり、奴隷市は騒然となった。
「ぎゃー! 誰か助けてくれー!」
司会者の悲鳴は青く澄んだ空に吸い込まれていった。












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