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ぶりきば短編集

異世界転生で今度こそ全力で人生を謳歌します!

作者:鰤/牙
 俺の名はウェリアー・ディグリーザー。正確にはもう一個名前があるんだが、そっちはもうほとんど忘れかけてしまっている。特に取り柄もない中年フリーターだった俺は、トラックに轢かれてこの世界に転生した。
 俺がディグリーザー家長男ウェリアーとして生を受けたのは、大陸の片隅にある小さな田舎町だ。周囲には自然がいっぱい。あの空気の腐ったような都会とは打って変わって、ロハスな雰囲気に溢れている。ディグリーザー家はこの付近一帯の貧乏領主で、俺はささやかなが楽しい人生を謳歌していた。

 そう、人生を謳歌していた!

 俺は生まれ変わったのだ。こうして過去の記憶を引き継いで異世界に転生できたというのは、僥倖というより他はない。鏡を見れば紅顔の美少年。周囲には緑あふれる自然。そして、決してものには不自由しない家庭環境。美人のメイドさん達!
 まごうことなき好条件だ。なんと恵まれた環境だろう。俺はこの恵まれた環境を最大限に活かし、今度こそ全力で人生を謳歌する。あの、都会のゴミ溜めのような街で薄給に喘いでいたフリーター生活とは、もうオサラバだ!

 俺は父親から剣を、母親から魔法を学び、その理解力の高さから神童と称された。5歳くらいの時には両親も第二子を設け、俺には可愛い妹が生まれた。7歳くらいの時には、俺の魔法の先生は母親からメイドさんに変わった。9歳になると、王都の魔法学院への入学が決まった。貧乏領主の息子が入れるようなところではないのだが、おまえの才能を伸ばすにはここが一番だと思ったと、父親が笑って言った。俺は泣いて感謝した。
 可愛い幼馴染との涙の別れ。魔法学院への入学。気にくわない貴族のおぼっちゃまとの決闘。被差別種族である獣人少女とのロマンス。様々なイベントが俺を待っていた。俺は人間的にひと回りもふた回りも成長し、再び田舎に帰ってきた。

 幼馴染のリディアと獣人少女のフィリーは最初は険悪だったが、すぐに仲良くなった。この世界では重婚が認められているらしいので、俺はすぐに、2人との挙式の準備を整えた。
 やはり異世界は最高だ! 俺は今度こそ、全力で人生を謳歌する!

 そんな決意を固めたある日、世界は核の炎に包まれた。




 王国魔法院の連中がやらかしやがったのだ。俺が学院にいた間、あれほど注意してやったにも関わらず、魔導核融合炉“グラウンド・ゼロ”は暴走した。王都防衛のために設置されていた対外魔法兵装のことごとくに引火し、世界各地に大規模攻撃魔法“ニュークリア・フレア”が降り注いだ。
 当然、俺の故郷も核の炎に焼かれた。あの美しい緑の丘は見る影もなく、放射能に汚染された。父親は俺たち家族と領民を守るため、核の炎に消えた。地下シェルターは立錐の余地もなかったのだ。母親はそのショックから立ち直ることができず、体調を崩して間もなく死んだ。

 こんなことでくじけて溜まるか。俺は全力で人生を謳歌するんだ。

 俺は、両親の墓前で強く心に誓った。ふたりの妻と妹、そして領民たちを幸せにし、必ずやこの荒廃した異世界でも、全力で人生を謳歌することを。
 俺は元の世界の知識と魔法知識を組み合わせて魔導トラックや魔導戦車や魔導バイクを作り出し、領民たちに与えた。わずかな水や魔導石、そして食料などを狙って各地からならずものがやってきたが、俺は鍛えた剣技と魔法でそいつらを叩きのめした。

 リディアとフィリーも俺の力になってくれた。この荒廃異世界は過酷であり、リディアは片腕を失ったが、俺は高度な魔導義手を作ってやった。2人からはいつからか、野に咲く花を思わせるような可憐さが消えていたが、いっそう強くたくましくなっていた。そして、どちらかというと昔よりイキイキしているように見えた。

 俺は、かつて魔法学院で競い合った貴族のウィルフラッドから、王都に来て欲しいという連絡を受けた。なんでも王都では、かつて王国騎士団の団長だったサー・ジェネリオン将軍が、民を虐げ独裁を敷いているという。
 悪は許せぬ。俺は燃えた。この荒廃した異世界で必要なのは、強さと優しさだ。そのどちらも欠けてはいけない。弱者を虐げ、踏みにじるようなド外道に、この荒廃異世界の明日を生きる資格はない。

 俺は領民を集め、ジェネリオン将軍の悪事をぶちまけた。領民たちも怒りに燃え、俺とともに王都へ向かってくれると言った。俺は感動にむせび泣いた。
 その頃、領民の間ではモヒカンとトゲ付き肩パッドが流行っていた。老人も子供も、余すところなくパンクファッションで固めた領民を率い、俺は魔導バイクに跨って王都を目指した。道中、こちらの食料を狙って襲いかかるチンピラどもは、すべて力でねじ伏せた。俺にはもはや、剣は必要なかった。父から教わった帝国式北辰流の腕前は、もはや武器を必要としない程に磨き上げられ、魔術と組み合わせることで新たなる魔導暗殺拳にまで昇華されていたのだ。俺はそれをリディアとフィリー、そして妹のカルチェに伝授した。

 王都にたどり着くと、クーデターを起こしたウィルフラッドがジェネリオン将軍に捕らえられ、処刑されるところだった。俺と領民たちは一丸となって処刑場に雪崩れ込み、暴れ回った。ウィルフラッドは間一髪で処刑を免れ、ジェネリオン将軍は死んだ。悪は潰えたのだ。

 ウィルフラッドは言った。秩序を失ってしまったこの世界には、この王都のような惨状を残した街がまだたくさんある。自分は貴族として、それらの街を救いたいと。
 俺は、友の熱い意思に感動し、握手を交わした。領民たちも涙を流しながら賛同してくれた。王都の民たちは、俺たちにここへ留まって導いて欲しいと懇願してきたが、俺たちは首を横に振った。これからは、この街はあなた達が守っていくんだ。

 俺とウィルフラッド、そして領民たちは、この荒廃異世界にはびこる悪を壊滅させるべく、世直しの旅に出た。長く苦しい旅になるだろう。だが、俺には恐れるものは何もない。俺には愛する妻と熱い友、可愛い妹、そして信頼すべき領民たちがいる。

 俺は決めたのだ。この世界で、全力で人生を謳歌すると。

 俺は魔導バイクのエンジンを入れ、夕日の沈む地平線に向けて走り出した。
マッドマックス見たい。

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