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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.10 学年が上がって4年生になりました

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03 喫茶店葡萄の依頼

 放課後、授業が終わったイヴは、カケルを連れて喫茶店葡萄へ向かった。
 喫茶店葡萄は、カケルをリーダーとするチームメンバーの集合場所となっている。
 獣人で陸戦科のオルタナは店の手伝いのバイトをするために、イヴとリリーナは喫茶店の新作ケーキの試食するために、定期的に葡萄に通っていた。最近は陸戦科5年生のスルトがたまに遊びにくる。まとまりがなくそれぞれ好き勝手に行動するチームメンバーだが、喫茶店葡萄は居心地が良いので比較的集まりやすい。
 カケル達が通っている学校は軍人の育成機関という側面を持つ。
 軍隊に入る前準備として、学校の授業や実習でもチームを組んで行動させられるのだ。また、学校の成績やどんなメンバーで組んでいたかの記録は密かに軍に入った時の編成に利用されるらしい。

 でも、いくら団体行動推奨でも、四六時中同じメンバーだと息が詰まる。
 だから葡萄でたまに会うくらいがちょうどいいのだ。
 重厚な木の扉を開けて品の良い店内に踏み込んだイヴが真っ先に目にしたのは、白い清潔なシャツに黒のエプロンをつけて金髪をオールバックにしたオルタナの姿だった。

「あら。エプロン姿が似合うようになったじゃない、ソレル。あなた良いお嫁さんになれるんじゃない」
「黙れ」

 からかわれて憮然とするオルタナ。
 イヴの後ろから店内に入ってきたカケルがのほほんと言う。

「いやあオルト、良く似合ってるよ。可愛い! 記念に絵に描いてもらってリリーナにプレゼントしたいなあ」
「てめえもぶち殺されてえのか。しかもなんでリリーナに…」
「リリーナが給仕姿のオルトを恰好良いって言ってたよ」
「……」

 オルタナは怒りと困惑が入り混じった表情で沈黙する。
 そういえば、とイヴは今更のように、リリーナとオルタナの仲について疑問に思った。いつ頃からか、リリーナとオルタナはどこか親密そうな空気を出しているが、もしかして付き合っているのだろうか。
 噂をすると影という奴だろうか。
 後に続くように扉を開けて、リリーナが入ってくる。

「あれ、もう皆揃ってたの?」

 店内の面々を確認して小首をかしげるリリーナ。
 先ほどの話は聞かれていなかったらしい。
 オルタナは不機嫌そうに視線を逸らす。
 リリーナは店の雰囲気に不思議そうに水色の瞳をぱちぱちさせた。
 彼女は生産科4年生の、大人しい雰囲気の女子生徒だ。特徴的な緑色の髪はショートボブになっていてふんわり内巻きになっている。リリーナは格別美人という訳ではないが愛嬌のある丸みを帯びた容姿をしていた。
 ここにいる4人に、今はいない獣人の男子生徒スルトを含めた5人がカケル君チームのメンバーになる。

「やあ、よく来てくれたね」

 話声を聞きつけた喫茶店葡萄の店主が奥から出てくる。
 穏やかな雰囲気の茶色の髪の小太りの彼は店主のジョージという。ジョージは学生達の姿を確認すると、困ったように目尻をさげた。

「生憎今日はケーキを焼いていないんだ。材料を切らしていてね……」
「材料? 買って来ましょうか」

 店内を見回すとイヴ達の他に客の姿はなく、ショーウィンドウに並んでいるケーキや菓子は普段の半数以下である。どうしたのだろう。材料が足りないなら買ってこようかとイヴが申し出ると、店主はますます困った顔になった。

「菓子の材料の高級砂糖とカカオは高天原インバウンドから仕入れているんだ。最近のソルダートとのやりとりで、高天原インバウンドとも緊張してしまっている関係で、輸入が滞っているんだよ」

 その言葉を聞き、先日の事件を思い出してイヴ達は何とも言えない面持ちになった。
 カケルとイヴが参加した年明けの実習のさなか、辺境の前線基地が敵国ソルダートに占領される事件が起きた。今までエファランとソルダートは仲が悪いと言っても小競り合い程度をする関係だったのだが、最近のソルダートの動向は不穏だ。彼等は明確にエファランに侵略しようとしてきている。
 エファランはソルダートに抗議声明を出した。
 平和主義のエファランは侵略されたからと言ってすぐに侵略しかえすことはしない。しかしその日和見な姿勢をソルダートに付け込まれている節はある。基地を占領した際にソルダートはエファランの竜を何体かさらっていった。
 ソルダートは謝罪する姿勢は勿論、さらった竜を返す気配も見せていない。

「……高天原インバウンドはソルダート寄りなんだっけか」

 オルタナが呟く。
 高天原インバウンドとは、エファランとソルダートを除く7つの国の総称である。
 この世界には虫と呼ばれるモンスターが生息しているため、虫の脅威から身を守るため人類は結界を作って壁の内側で暮らしてきた。壁の内側にある7国を高天原インバウンドと呼び、壁の外側にあるエファランとソルダートは葦原国アウトバウンドと呼ぶ。
 ソルダートは高天原インバウンドの国々が、外の資源を手に入れるために作った国だ。
 対してエファランは、壁の中で生きにくいと感じた者達や、もともと壁の外で生きていた竜や獣人達が集まって作った国。歴史的な経緯もあって、高天原インバウンドから孤立しがちである。

「エファランは自給自足できるけれど、菓子の原料や嗜好品の類は、高天原インバウンドから輸入しているんだ。この状況が続くと私たちの商売は上がったりだよ」

 店主は嘆いて頭を振った。

高天原インバウンドか。遠いわね。確か海路で船にのせて物資を運んでるんだっけ」
「輸送船に乗って二週間以上、速度優先の客船に乗ったら一週間くらいかな」

 イヴが口にした疑問に隣のカケルが答える。
 その彼をちらりと見て、イヴは言った。

「竜なら?」
「……」

 その問にカケルは沈黙する。
 代わりに店主はパッと顔を輝かせた。

「そうだ! 竜ならすぐだった。うちの店で使う砂糖やカカオなんて大した量じゃないから、竜でも輸送可能だ。フレイの知り合いから直接仕入れられれば……カケル君、最近一般騎竜の資格を取ったんだよね?」
「えーと、取りましたが」
「ちょっと行って材料を運んできてもらえないかい?」
「う、うーん」

 なぜか煮え切らない返事をするカケル。
 彼はちらっと目線を走らせてリリーナを見る。リリーナも困った表情で首を振った。二人の間では無言の会話が成立しているようだ。
 何なのこの雰囲気。

「カケル、一緒に高天原インバウンドに材料を取りに行きましょうよ。さっきから視線が泳いでるけど、行きにくい理由があるの?」

 疑問を口にすると、リリーナがちょんちょんとイヴの服の裾を引いた。

「イヴ、カケルの実家について聞いた?」
「聞いたけど。アオイデでしょう。フレイに行くだけなら通らないわよ」

 地図上、フレイに真っ直ぐいく場合はアオイデを通らない。高天原インバウンド の北国アオイデは、南国フレイと対極の位置にある。

「確かにそうなんだけど……」

 言いにくそうに口ごもるリリーナ。
 イヴは苛々してきた。
 行かないなら、行かないってはっきり断言しなさいよ。ついでに理由も教えて頂戴。中途半端に隠されるのはいい加減うんざりよ。
 そう思っていると、後ろの店の扉がいきなりバタンと開いた。

「……君たちの悩みはすべて、この私が解決しよう!」
「へ?」

 後光を背負って爽やかに入ってくる背の高い男性。
 銀に近い金髪に謎めいた灰青色の瞳。スレンダーな身体は空軍所属を表す青い軍服に包まれている。どこかミステリアスな雰囲気を持つ年齢不詳の美男だ。

「アロールさん?!」
「やあ、久しぶりだね、カケル君、アラクサラ君」

 代々空軍の要職につく名家マクセランの長男、アロール・マクセランは、呆気にとられるカケル達と店主を見回して、無駄に華やかな笑みを浮かべた。


 
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