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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.10 学年が上がって4年生になりました

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02 抜き打ちテスト

 休憩時間に、イヴは竜と竜騎士のペア登録申請の書類を準備していた。
 渡された用紙の一番上にはカケルの名前が記載されていた。登録申請は竜ごとに管理されているからだ。用紙にはメインのペアの名前を書く欄と、その下に予備のペアを書く欄が3つ並んでいた。予備のペアの一段目は既に埋まっている。そこにはロンド・イーニークの名前があった。
 予備のペアの欄があるのは何故かというと、何かの事情でパートナーを組んでいる竜と竜騎士が一緒に行動できないのに、どうしても出撃や訓練に出なければならない時は、ここに記載した予備のペアで組むことになるからだ。つまり、イヴとカケルが一緒に戦えないときは、ロンドがカケルと組むということである。
 おそらく、年明けの演習に参加するために、ロンドはカケルの予備のペアとして登録しておいたのだろう。

 あの二人はブラコンの気があるなとイヴは顔をしかめて用紙を睨んだ。
 先日の空戦の後にべたべたしていたカケルとロンドの姿を思い出す。
 既にペア登録をされていた事実は、彼女に複雑な気持ちを抱かせた。彼女はちょっとした怒りを覚えつつ、ゆっくり丁寧に、カケルのメインのペアの欄に自分の名前を書いた。
 ペア登録を行うのは竜騎士の仕事だ。
 空戦科の騎竜と竜騎士の関係は、一般の竜と人間の関係とは少し異なる。エファランの一般社会では、竜と言っても同じ人間なので、竜と人間は対等な関係だ。しかし騎竜と竜騎士は主従関係を結ぶ。
 ここでは騎竜は竜騎士の命令に従うよう訓練されるし、竜騎士は自分の竜を管理するように教わる。

 登録申請を教師に提出して戻ってきたイヴは、席に突っ伏して寝ているカケルを発見した。
 竜騎士として自分の竜を管理……できる気がしない。

「カケル! もう次の授業が始まるわよ。起きなさいって」

 肩を揺さぶったが、紺色の髪の青年は「むにゃむにゃ、もう食べられなーい」と寝言を言ったきり、目を覚まさない。
 教師が入ってきたので、彼女はカケルを起こすことは諦めた。
 爆睡している隣のカケルを極力気にしないようにしながら、授業を受ける。
 壇上の教師は寝ている生徒をちらっと見たが何も言わず授業を進めた。
 3年生までは授業をきちんと聞くよう指導されたりしたものだが、4年生からは学ぶ意欲のあるもの以外は無視されるようだ。シビアでクールな空気に、イヴは気を引き締める。カケルは寝ている。
 教師は20分ほど講義をすると用紙の束を片手に宣言した。

「……それでは、君たちの基礎学力を測るためテストを実施する。点数次第では個別に面談をするから、そのつもりで」

 抜き打ちテストの知らせに、4年生になったばかりの空戦科の生徒達は「ええー」と悲鳴を上げた。
 カケルは相変わらず気持ちよさそうに寝ている。
 これはさすがにマズイ。
 テストの点数はともかく、テスト自体を受けないというのは論外だ。

「カケル、起きて!」
「へにゃ?」

 頭を叩くとカケルは猫のような鳴き声をあげて目覚めた。
 目をこする彼の前にテスト用紙を置く。
 いきなり現れたテスト用紙に、カケルはぼーっとそれを眺めていたが、ぼちぼち筆記用具を持ち出して記入を始めた。その様子に安心したイヴは自分もテスト用紙に取り組む。

 静まり返った教室にペンを走らせる音だけが響いた。

 イヴは回答欄をすべて埋めて二度見直した。すべて終わっても制限時間までまだ10分以上時間がある。壇上の教師は休憩に出ているらしく、教室の中にいなかった。
 隣を見ると、カケルは肘をついてこっくりこっくり居眠りをしていた。
 回答用紙を見ると、名前の欄以外は空欄だ。

「カケル!」

 小声でささやいて肘をつつくとガタッと姿勢を崩し、彼はやっと目が覚めた顔をした。
 カケルは机の上の回答用紙を見ると面倒そうな顔をして溜息を吐き、ペンをとってさらさらと回答欄を埋め始めた。気になって覗き込んでいたイヴは息を呑む。
 彼女の知る限り正解に近い答えを、計算の数式も書かずに、さらさらと淀みなくカケルは回答用紙に記入していっていた。考え込んでいる様子もなく、ただ作業をこなすように。ものの数分ですべての欄を埋めると、首をかしげて、いくつかの欄の答えを消し始める。

 そのままだと全問正解になるから、わざと回答を消しているのだ。

 そう理解したイヴは形容しがたい感情を覚えた。
 カケルの頭の良さについては薄々感づいてはいた。去年のクリスマス前に一般騎竜の試験で全問正解して受験者の1位になっていた。それを前提にすれば、学校の試験も高得点を取れる頭脳の持ち主だと簡単に推測できる。
 また、彼が七司書家セブン・ライブラリアン出身だということも、頭の良さを裏付ける要因となっている。七司書家出身者に学者や優秀な呪術師が多いことは、呪術師の間では良く知られていることなのだ。

 パートナーの竜が頭が良いのは歓迎すべきことだ。知性も魔力も持った自分の騎竜を誇らしく思う気持ちもある。しかし学年主席だった自分より頭が良いかもしれないと考えると、ちょっと嫉妬を覚えざるえない。その実力を隠していることにも腹が立つが、全問正解すれば目立つという事情も分からなくはない。
 昼寝大好き竜の癖に、私より上位の成績を取るなんて、100年早いのよ。

「……5項目の2番、普通の人なら間違えてるわよ」

 イヴは小声でぼそっと呟いた。
 それを聞いたカケルは一瞬目をぱちぱちさせて、次に楽しそうに、回答用紙の5項目の2番の欄の回答を消して、空白にする。
 そんなカケルの様子を見たイヴはなんだか色々馬鹿馬鹿しくなって嘆息した。
 別に私だって試験の点数だけにこだわってる訳じゃないのよ。

 結局、カケルが鼻歌混じりに自分の点数を80点程度に調整する姿を、イヴは溜息と共に見守った。





 テストは授業中に答え合わせが行われ、結果が公表された。
 いつも寝てばかりのカケルの点数が良いことに、同級生の竜のクリスは驚きを隠せない。他の生徒達もびっくりした様子だ。

「カケル! お前いったいどうしちゃったんだ」
「えへ」
「笑ってごまかすな! 分かった、さてはアラクサラさんに秘密で勉強を教えてもらったんだな。この不届き者め、羨ましい!」

 クリスは、カケルの点数の良さについて本人の能力によるものとは考えもしない。無理もない。カケルは今までお昼寝上等で有名な変人だったのだ。
 カケルが変わったのは、イヴと行動を共にし始めてからだ。
 そのため周囲の多くの生徒達は、カケルの成績が上がったのはイヴの影響によるものと考えていた。まあ、概ね間違ってはいない。

「いやあ、イヴが激しくってさあー」
「ごっ、誤解を招く表現しないでよっ」
「スパルタって意味だよ。イヴ、今何考えた?」

 ふふふとカケルはちょっと黒い笑みを浮かべた。
 どうやらからかわれたらしい。
 イヴにも最近分かってきたのだが、カケルはふわふわした表向きの顔の下で案外腹黒い。
 彼女は仕返しにペンの頭でぐりぐりカケルの手の甲を攻撃する。

「いてて……」
「そうよ。回答を間違ったらこうやって身体に教えてあげてたのよ」
「わあ、スパルタだなぁ」

 痛そうだ。
 脇で見ていたクリスは引いた。

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