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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.10 学年が上がって4年生になりました

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01 新しい日々の始まり

 学校の図書室は静かで、溜め息とページをめくる音だけが響いていた。
 研究科の男子生徒ウィルはレポートを書くために図書室で資料を探していた。棚に並んだ書物の背表紙に目を走らせた彼は、ふと気になって一冊の資料を手に取る。
 それは呪術学に関連するいくつかの論文を集めた冊子だった。
 冊子を開いたウィルはある項目に目をとめる。

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・構成転換の術式における危険性について

 竜、もしくは獣人への変身、すなわち構成転換の術式の危険性においてここに記載する。
 そもそも、呪術と、竜や獣人の変身は別の仕組みで成り立っているが、突き詰めていけば両者とも同じ術式によるものである。
 呪術の基礎となるエントOSは、宇宙からもたらされた技術で、竜や獣人の変身はこの世界に元からある魔法である。しかし、我々の祖先である竜や獣人は一時期、変身の機能を失ってしまっていた。変身の機能を回復するにあたって、宇宙からもたらされた技術を取り入れたため、現在の変身は2つの文明のハイブリッドの機能となっている。
 次に構成転換の流れについて説明する。
 変身するにあたり、その人間の肉体情報、記憶等を一時的にダイアルネットワーク上に保存する。保存した情報は、人間の姿に戻るために使用する。
 ここで注意したいのは、一時的とはいえ自己の複製を作成する、ということである。
 世界に全く同じ存在は二重に存在できない。
 変身するために「人間の自分」の情報を保存すると、場合によっては同じ人間が二重に存在しうる危険があるのだ。また、「竜の自分」と「人間の自分」が分裂してしまう可能性もある。
 構成転換の術式は自己同一の危険を避けるため、様々な回避策を用意している。
 回避策の一番重要なものは、姿が変わっても変わらない「核」を体内に持ち、そこに人の魂に関わる一番重要な情報を保管することである。
 「核」に保存される情報は……

-----------------------------

 ウィルは冊子から顔を上げた。
 見覚えのある女子が彼の前を通りかかる。
 憂鬱そうな顔をした彼女は同じ寮に所属している生産科のアリエルだった。アリエルは生産科では染物に取り組んでいる。彼女は趣味と実益を兼ねて、たまに髪の色を染め変えていた。今日は明るい狐色の長い髪を、後ろ頭の高い位置でくくってポニーテールにしている。
 浮かない表情のアリエルは、ウィルに気付くと声を掛けてきた。

「ウィル、ちょうどいいところにいた。あなた資料探すの、得意でしょ。資料を探すの手伝ってよ。私はこういうの、あまり得意じゃなくて……」
「生産科でもレポートを書く必要があるのかい?」
「ほとんど無いんだけど、学年が上がって5年生になったから、そういう授業もでてきて」
「大変だね」

 つい先日、彼等は1つ学年が上がった。
 学年が上がって授業の内容が高度になり、苦戦する生徒もいるようだ。
 ウィルは同じ寮のアリエルに手を貸すことにして、立ち上がった。
 手にもった冊子を閉じる前に、先ほど読んでいた論文の著者を確認する。興味深い論文だったので、次の機会に同じ著者の別の論文を読んでみてもいいかもしれない。
 論文の著者名には「ユエル・ライブラ」と書かれていた。






 この春、カケル達は学年が1つ上がって4年生になった。
 4年生からは専門科目に分かれて授業を受ける。
 専門科目によって制服のデザインが変わる。3年生までは、何も選ばない総合科目を表す灰色の制服だったが、専門科目を選ぶと科目の色が付いた制服を着ることになる。学年が上がるにあたって、学校から科目に応じた制服が支給されていた。
 カケルに支給された制服の色は、空戦科を表す紺色である。

「とうとう空戦科になっちゃった……とほほ」

 半年前まで、カケルは生産科に行く気満々だった。快眠グッズを開発してのんびり過ごすつもりであったのに、半年で色々あってすっかり予定が狂ってしまっている。竜になるということは空戦科の可能性もあると認識はしていたが、空戦科に進むと軍に入ることになるので、できれば避けたかった。
 壁に掛かった制服を眺めて遠い目をしているカケルの後頭部を、同じ部屋のチームメイトがどつく。

「おい、たそがれてないで、さっさと準備しろ」

 振り返ると同級生の獣人オルタナが呆れた顔をしている。
 彼は派手な短い金髪を申し訳程度に撫でつけ、ルビーのような紅い瞳を面倒そうに眇めている。陸戦科を表すダークグリーンの上着を着ているが、上着の下の白いシャツはボタンを上まで止めていないので、野生的な浅黒い肌が露わになっていた。
 普通の生徒より荒々しい雰囲気のオルタナだが、意外に情に厚く、几帳面なところがある。
 彼に急かされたカケルは渋々上着の袖に腕を通し、寮の自室を出た。

 校舎まで同級生と一緒に登校したが、玄関で彼と別れる。
 3年生までと違って、専門科目ごとの教室で授業を受けるからだ。今まではリリーナと同じクラスだったが、これからは同じ空戦科に所属するイヴと同じクラスになる。竜と竜騎士は基礎講義と実戦講義は一緒に授業を受けるからだ。
 空戦科の教室に着くとイヴが待っていた。

「遅い!」
「俺にしては結構はやい部類に入るんだけど。おはよー」

 イヴの叱責をいつものように、ふわふわ聞き流す。
 彼女は勝気な空色の明るい瞳でカケルをじっと見て、桜色の唇を尖らせる。
 可愛いなと密かに思いながらカケルは彼女と一緒に席についた。パートナーを組んでいる竜騎士の少女、イヴは引き締まったバランスの良い身体に、整った凛とした容姿をしている。光の加減で赤みがかって見えるストロベリーブロンドの長い髪が風にさらさらとなびいた。
 彼女が着ている空戦科の制服は、勿論カケルと同じ紺色だが、形状がカケルのものと違い裾が長い外套のようになっている。また襟元に翼を象ったバッジがあった。長い上着とバッジは竜騎士の証である。空の上は寒い。竜に乗って空を飛ぶ竜騎士は寒さを防ぐため、また攻撃の呪術を防ぐため、特別性の上着が支給されている。
 イヴは席につきながらカケルに話しかける。

「ねえ、一応聞いておくけど、私の竜としてあんたを登録しておいていいんだよね?」
「いいよ」

 確認されたカケルはあっさり頷いた。
 空戦科の授業で、実際に空を飛ぶ講義を受けるとき、パートナーを決めている竜と竜騎士のペアが優先的に組むことになっている。まだパートナーを決めていない場合は、決めていない者同士でランダムに組まされるのだ。
 そのため、誰とパートナーを組んでいるか、学校側に登録申請することになっている。
 半年前まではイヴとパートナーを組むとは考えてもみなかったが、この半年で彼女以外を背中に乗せて飛ぶのは苦痛だと気付いてしまった。

 彼女と契約するとすれば、乗り越えなければいけない壁はいくつもある。
 以前のカケルは壁を前に諦めていた。
 この先の自分に希望を見出せなかった。
 しかし、彼女が未来を望むなら、自分には応える義務がある。
 無理だったと言うのは壁に挑戦してからでも良い。そう思うようになった。
 もう、独りではない。
 これから先は彼女と一緒に空を飛ぶのだから。

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