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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.09 仲間と共に挑む昇級をかけた寮対抗戦!

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12 陸戦(スルトvs.ハノイ)

 雨にぬかるんだ地面に足をとられて、スルトは姿勢を崩した。
 こちらの武器を弾いて、間合いに踏み込んだハノイの凶刃が間近に迫る。

「スルトっ!」

 観衆の誰かが叫んだ。
 それが誰の声か考える余裕は無く、スルトは必死に体勢を立て直すと横に飛ぶ。
 しかし回避は間に合わず、左の瞼の上を熱い剣閃がかすめた。
 片目の視界が真っ赤に染まる。

「くっ」

 確かめるまでもない。
 左の眼の上が痛み、紅い液体が頬を伝っている。
 傷を負った側の眼は開かない。
 スルトは怪我を気にせず、鎌に似た刃が付いた長い柄の鋼牙ファングを手元に引き寄せて、接近していたハノイを追い払う。一撃を入れたハノイは拍子抜けするほどあっさり下がった。片目になった視界でよく見えない部分もあるのだが、ハノイは何故か動揺しているようだ。
 審判をしている教師が慌てて近寄ってくるのを、スルトは鋼牙ファングを大きく振りかぶって制した。
 大きな声で叫ぶ。

「まだだ、まだ勝負は付いてねえよ!」

 戦いを続けるという意思を示して武器を構える。
 教師が困ったように立ち止まってこちらの様子を伺っている。

「スルト、もう止めよう。いくら獣人でも、傷を負った場所によっては再生できないときが…」
「うるせえっ」

 ハノイは血を見て戦意を失ったらしく急に及び腰になった。
 顔に流れる血を拭おうともせず、スルトは舌打ちすると、真っ直ぐハノイに向かって踏み込んだ。
 戸惑っているハノイは直剣で鎌の刃を逸らしながら、後ろに下がる。
 それを追って連続で突きを入れながらスルトは叫ぶ。

「結局なんなんだよ! 俺にどうして欲しいんだ、お前は!」
「……!」
「獣人になれなくて残念だったな、そう憐れんで欲しいのか? 違うだろ!?」

 片目になった視界に、動揺するハノイの姿が映りこむ。
 面倒くさい奴だとずっと思っていた。今もその印象は変わらない。一年前まで、鬱陶しいとは思いつつも積極的に追い払わずにいたのは、スルト自身も寂しかったからか。誰にも内面に踏み込んで欲しくなくて、でも誰かとつながっていたい。そんな自分に都合の良い関係を望んでいた。
 だからハノイの抱えた鬱屈を薄々気付きながらも、見ない振りをしていた。
 この傷はそのツケが回ってきたのだろう。
 もうそろそろ素直に認めてやろう。
 自分とハノイは、友人だったのだと。

「お前も陸戦科なら、最後まで戦えよ! 俺を負かしてみろ!」

 そう挑発して大きく踏み込む。
 今度の一撃は避けられない。
 ハノイの手にした直剣が跳ねあがり、胴ががら空きになる。
 身体の中心を突くように鋼牙ファングを叩きこんだ。

「っつ!!」

 攻撃を叩きこむ寸前で目前に光が生まれる。
 目が眩んだスルトは咄嗟に攻撃を途中で切り上げて後ろに下がった。
 光の爆発は一瞬のことだった。
 後には茫然とするハノイが直剣を手に棒立ちになっている。

「お前……」

 人間は手順を踏めば、呪術を使えるようになる。
 呪術を使えるようになるとナビゲータと呼ばれる、呪術のサポートをしてくれる小型の動物の姿をした妖精が現れる。ナビゲータは呪術師本人にしか見えず、自分の意思で様々な呪術の支援を行ってくれる。
 ナビゲータは術者本人がピンチになると自動で呪術の実行をしてくれる。

 獣人になれなかったハノイだが、人間として呪術を使える状態にしていた。
 陸戦科に人間が所属する場合は獣人と違って肉体的なハンデが大きい。呪術はそれを埋める手段として公式に認められている。本来なら獣人専用の鋼牙ファングも、呪術師用に機能を変えてチューニングされたものが売られている。ハノイが持っている鋼牙ファングもその類だった。
 ハノイは最近呪術を使えるようになったばかりだ。
 獣人一家に生まれたハノイには、呪術は縁遠いものであった。教師に勧められて、最近やっと呪術に手を出したところだ。陸戦の試合に呪術をどう使えばいいのか、本人は全く分かっていなかった。
 しかし、生まれたばかりのハノイのナビゲータは主の危機に反応し、目くらましの光を放ったのだ。

 対戦しているスルトにはハノイの事情は分からない。
 だがハノイが咄嗟に呪術を使って攻撃を防いだことは、戦いに慣れた者の目から見れば明らかである。

「なんだ。呪術を使えるなら、使えよ。うっかり手加減しちまうところだったじゃねえか」
「スルト……でも、僕は呪術師じゃ」
「そんな甘い覚悟で陸戦科目指してんじゃねえよ。俺達は身体張って戦ってるんだ。使えるものは全部使え! 泣き言はその後で言えよ。ハノイ、人間でも陸戦科で十分やっていけるって証明してみろよ!」

 ハノイはその言葉に一瞬泣きそうな顔を見せた。
 彼は歯を食いしばって頷く。
 その瞳に闘志が宿り始める。

「僕は君が羨ましかったんだ、スルト」
「ああ」

 向き合う二人の青年の間を風が吹き抜ける。
 いつの間にか雨が上がり、雲の切れ間から青空がのぞきはじめた。
 空から明るい光が降ってくる。
 天空で蒼い竜が雨雲を吹き飛ばしたのだ。

霜蔦フロスト……」

 ハノイが小さな声で呪文コマンドを唱える。
 足元の水たまりから氷の蔦が生え、足元から這い上ってくる。
 それはスルトの足を止めるには十分だった。

 冷気に顔をしかめたスルトは、下手にそれを引きちぎろうとせず、その場に留まる選択をした。
 自身の鋼牙ファングの長い柄の、半分から三分の二程の位置を握る。
 間合いは狭まるが、これで小回りがきくようになる。

「はあっ!!」

 気合の声と共に叩きつけてくるハノイの直剣を、スルトは冷静に鋼牙ファングの柄で受け止めた。
 そのまま鍔迫り合いは均衡をつづける。
 繊細な容姿に細い腕をしているが、スルトは獣人である。
 その腕力は人間のハノイを上回るのだ。

「負けてやる気はないぜ。可愛い後輩と約束したからな」

 スルトは口角を上げて微笑した。
 真上から叩きつけられた直剣の下、受け止めた鋼牙ファングを指先でなぞる。
 組み立て式の鋼牙ファングがその瞬間、ほどけてバラバラになった。

「え?!」

 突然手ごたえがなくなって驚愕するハノイを他所に、スルトは分解した鋼牙ファングで相手の剣をからめとって、脇に投げ捨てる。そうして体勢を崩したハノイの腹に片腕で拳を叩きこんだ。

「ぐはっ……」

 ハノイは咳き込んで地面に倒れこむ。
 その場で立っているのはスルトだけになった。
 近寄った教師が10カウントを取って、ハノイが立ち上がってくるのを待った。しかし思いのほか良いところにヒットしたらしく、立ち上がろうとしたハノイは呻いて再び膝をつく。
 審判の教師は宣言した。

「……勝者、スルト・クラスタ!」

 わあっと夏寮の観衆から快哉があがった。
 スルトは足元の氷が解けたことを確認すると、膝を折って地面にしゃがみこんだままのハノイに歩み寄った。

「また陸戦科の授業で、試合しようぜ」

 そう声を掛けると、ハノイは眩しそうにこちらを見上げる。
 彼は悔しそうな顔をしながらも、嬉しそうに頷いた。



 
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