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風竜の俺と竜騎士な君 作者:空色蜻蛉

Act.09 仲間と共に挑む昇級をかけた寮対抗戦!

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11 空戦(vs.水竜ルルキス&ステファン)

 運命は残酷だ。
 必ずしも望むものを望む人に与えてくれるとは限らない。
 ハノイは獣人の一家に生まれ育ち、自分も獣人となって陸軍に入るものだと思っていたのだ。
 だからカケルは彼に同情する。
 カケルも呪術師の一族に生まれ、将来は人間の呪術師となることを嘱望されていた。だが、結局のところ適性が無く、別の道を選ばざるを得なかった。

 空戦の試合の前、校舎裏の森の中の集合場所に向かう途中。
 雨の中、カケルは傘をさしてイヴと森の小道を歩いていた。別々に傘をさすのは面倒だとイヴが言ったので、二人は一本の傘の下に入っている。俗に言う相合い傘という奴だ。
 美味しい状況なのだが、カケルはそれに気付いていなかった。カケルは小さな頃は英才教育で家に閉じ込められていたせいか、博識のようで意外に世間知らずな面がある。
 せっかく近くにいるイヴが横目でチラチラ見上げてくるのに気付いていない。
 離れた場所で戦うスルトとハノイについて、無言になって思いを巡らせていると、イヴが口を開いた。

「ねえ、昨日言ってた話だけど」
「何?」
「カケル、あなた呪術師になりたかったの?」

 随分と直接的な質問に、カケルは苦笑した。これが数ヶ月前に聞かれたなら、はぐらかして答えなかっただろう。生まれ育ちに関連する過去は、カケルの中で深い傷跡を残している。割り切ったつもりでも、その事を考えるとズキリと傷跡が痛む。
 だがしかし。
 今、カケルはその痛みが幾分かやわらぎ、遠のいていることに気付く。
 呪術師になれず、何者にもなれず、足掻いていた自分はもういない。
 現在のカケルはエファランに生きる竜として、足場を固めつつある。それは傷付いた誇りや自信を、少しずつ癒してくれていたのだ。

 最初のキャンプの事件で崖から落ちる少し前、イヴと話をしたっけ。俺は彼女が羨ましかった。何の迷いもなく呪術師になって夢を目指せる彼女が。だから劣等感があって、素直に自分のことを話せなかったんだ。
 でも今なら、答えられるよ。

「うん。俺は呪術師になりたかったんだと思う」

 淡く微笑んで答えるとイヴは少し驚いたようだった。

「どうして呪術師にならなかったの?」
「簡単に言うと、適性が無かったんだよ。呪術を構成するエントOSを受け入れられない体質だったというか」
「聞いたことないわ」
「そりゃ、滅多にないからね」

 カケルはふふっと笑った。
 そんなカケルの様子を横目で観察しながら、イヴは湿気を吸って重くなったストロベリーブロンドの髪を脇に流す。彼女は重い空気を払拭するように、何でもないように言った。

「でも竜に適性があって良かったじゃないの。魔力レベルAの竜なんてそうそういないわよ」

 確かにその通りだ。
 隣を見ると、イヴは顔を背けて髪を無意味にいじりながら続けた。

「あんたが呪術師になってたら、私は竜のあんたとは会えなかったかもしれないのね」
「イヴ……」

 なんか可愛い。カケルはじーんときた。

「ねえ、キスしていい?」
「駄目に決まってるでしょ!試合前よ!何考えてるのよっ」
「……お前ら、何やってんだ」

 傘を片手に攻防を繰り広げていると、外野から突っ込みが入る。
 どうやらもう集合場所についていたようだ。
 寮長のセファンとその竜騎士で副寮長のイリアが呆れたようにこちらを見ている。試合の審判のため、教師や空戦科の先輩が複数人そこで待っていた。試合相手の冬寮の寮長ルルキスと副寮長クリストル、ロンドとステファンの姿もある。
 カケル達は一番最後に着いたらしい。
 この中では一番下っ端の後輩なのに、遅れての登場だ。先輩や教師の目線が痛い。カケルは空笑いした。

「いやー、あはは……」
「すいません、すいません!」

 隣でイヴが平謝りしている。

「もういいからさっさと来い。始めんぞ」

 セファンは冬寮の寮長ルルキスに軽く確認を取った後、竜に姿を変えた。
 明るい炎を思わせるオレンジ色の鱗の竜だ。がっしりした四肢は力強く、鋼色の太い角はカーブして先端が尖っている。竜が吐息を吐くと炎の鱗片が散った。
 イリアは火竜セファンのパートナーで、眼鏡を掛けた三つ編みの知的な雰囲気の女子生徒だ。戦いの邪魔になるからか、彼女は眼鏡を外してポケットにしまう。冴えた美貌が明らかになり、観衆から溜め息があがった。
 彼女は三つ編みをさっと頭の上の方でまとめると、身軽に火竜に飛び乗った。
 背中にイリアが乗ったことを確認すると、彼は大きく翼を広げて離陸する。

 向かい合う位置で冬寮のルルキスも姿を変える。
 銀色の滑らかな鱗の竜が姿を現す。水竜の特徴で、胴体から尻尾は火竜より長細い。短い四肢の先の爪の間にはうっすら水掻きの膜が張っている。頭部の角は透明で水晶で作ったティアラのようだ。
 彼女の竜騎士クリストルは服装にこだわりがあるらしく、学生服の上から黒い裾の長い上着を羽織っている。彼はマントのようにそれを翻して颯爽と竜に乗った。

 ルルキスの斜め後ろに控えていた、空戦科4年生のステファンも続けて竜に変身する。
 彼が変身した姿は藍色の鱗の水竜となる。伝説上の一角馬ユニコーンを思わせる一本角を振ると水滴が滴った。その動作は雨を喜んでいるようだ。
 パートナーを組んでいる竜騎士のロンドは、真面目に1人だけ空戦科の学生服を着ていた。クリストルは自分風に改造しているし、セファンは竜になったらどうせ見えないからと私服の上に学生服の上着だけ引っ掛けて来ている。そんな個性的な面々の中なので、真面目な学生服が逆に彼の個性を表しているようだ。

 ロンドが藍色の竜に乗って、竜が離陸を開始したのを見届けると、カケルも竜の姿になる。傘を畳んで適当にその辺の地面に置くと、蒼い竜の背によじ登りながらイヴがぼやいた。

「雨で濡れて気持ち悪いわ……」
『じゃあ雨除けとくよー』

 蒼い竜の周囲に風が巻き起こって、薄いシャボン玉のように風の膜が竜の上に被さる。
 背中のイヴは雨に当たらなくなってホッとした。

「器用ね。でもこれ、戦闘中もずっと維持できるの?」
『無理かもー』

 朗らかに返ってくる返事にイヴは肩を落とした。
 そのまま蒼い竜は雨が降る空に上昇していく。
 セファンの後ろについて緩やかに旋回を始めた。

『サーフェス、その雨除け、こっちにも張れんのか』
『止まってたらともかく、さすがに動きながらは無理です』
『そうか、やべえな……』

 雨に打たれる火竜は見るからに調子が悪そうだ。
 セファンは魔力レベルAの火竜だけあって、普段から身体に火の粉をまとっているのだが、今日は雨で端から消火されている。

『セファン、悪いけど、こちらも最初から全力でいかせて貰うわよ!』

 上空で氷の女王ルルキスが宣言した。
 目に見える強力な銀色の魔力が、その流麗な身体を取り巻いている。
 元々低かった気温が下がっていく。
 空から降る雨に白いものが混じり始める。


 氷竜ルルキスの特殊同調技、銀氷霙降空スノウフィールド


 雨雲は重い雪雲と化し、触れただけで凍りつきそうな氷の粒が降り始める。
 広範囲に継続的に降るミゾレは避けることが出来ない。

『くそっ』

 火竜セファンの動きが目に見えて鈍る。
 彼は氷に当たるだけでダメージを受けているのだ。
 雲を背負って佇むルルキスの前に出て、水竜ステファンが水の弾丸を撃ち始める。その攻撃は天候の支援を受けて、普段より強力で命中率が上がっている。
 迫り来る水の弾丸を、カケルは風を操って攻撃を逸らしながら余裕で、セファンはジグザグに飛びながら何とか避ける。

「このままじゃ、セファン先輩が……」
『分かってる』
「何か手はあるの?」

 蒼い竜は速度と高度を落としつつあるセファンの前に出た。
 風を操って水の弾丸の軌道を弾きながら言う。

『イヴ、俺に命令して。あの雨雲を吹き飛ばせって』
「カケル……」

 イヴはその言葉に少し驚いたが、すぐに楽しそうに頷いた。
 やってやろうじゃないの。

「ルルキス先輩の雨なんか、あなたの風で吹き飛ばして!あなたの力を見せて頂戴、カケル!」
『そうこなくっちゃ!任せて!』

 竜と竜騎士の意志がひとつになるとき、竜の魔法が発動する。

 カケルは思う。
 竜になって良かった。
 この国に来て良かった。
 君に、出会えたから。

 もしイヴと出会っていなかったら、竜になっても独りきりのまま、誰にも自分のことを話せずに誰にも知らせずエファランを出ていたかもしれない。そうして独りきりで世界をさすらう覚悟も出来ていた。でも、彼女の温もりを知った今、過去を受け入れ、自由に空を飛翔することが出来る。
 それはとても幸運なことだ。彼女と会えなかったら自分もハノイのように過去に捕らわれて卑屈なままでいただろう。

 だから大丈夫。俺は君とならどこまでも飛べる。

 蒼い竜は高揚する気持ちのままに風を解き放つ。
 強い魔力を帯びた風が巻き起こる。

「何だと……!?」

 上空の銀の竜の背で様子を見ていたクリストルは驚愕する。
 蒼い竜から爆発的な風が辺りに拡散する。
 それは一瞬で辺りの雨を吹き飛ばし、灰色に曇っていた空を澄んだ青色に塗り替え始めた。


 支援用の特殊同調技、蒼空風領域ブルースフィア


 蒼い風が切り開いた雲の間から、明るい日の光が差し込み天使の梯子が生まれる。
 空が、晴れ始める。


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